
こんにちは。薬剤師のしぐです。
病院から退院して、いつもの薬局へ。
外来で点滴治療を受けて、薬局で吐き気止めや普段の薬を受け取る。
患者さんの治療は続いていますが、担当する薬剤師が変わると、その間に大切な情報が抜け落ちることがあります。
「この薬、入院中にどうして中止になったの?」
「病院では大丈夫と答えていたけれど、自宅では食事が取れていない」
「処方どおりに飲めていない理由は、飲み忘れではなく、錠剤の飲みにくさだった」
こうした情報を、病院と薬局の間でつなぐのが薬薬連携です。
日本薬剤師会の新役員には、信州大学医学部附属病院薬剤部長の内藤隆文氏が外部理事として名を連ねています。病院側の視点も踏まえて、薬剤師の役割や地域の連携を考える動きに注目したいところです。
今回は、薬薬連携を「連絡を取り合う」という言葉から一歩進め、何を共有し、次の行動にどう結び付けるかを整理します。
まず押さえたい3つのポイント
- 薬薬連携は、病院と薬局が患者さんの治療経過と生活上の課題を共有し、継続して薬物療法を支える取り組みです。
- 2026年度改定では、薬剤総合評価調整加算に情報連携が組み込まれ、退院後も処方調整の意図をつなぐ方向が明確になりました。
- 現場では「変更理由」「患者さんの実際の状態」「次に誰が確認するか」をそろえることが大切です。
薬薬連携とは?病院と薬局で見える情報が違う
病院薬剤師は、診断、検査値、治療計画、入院中の経過などに接しやすい立場にあります。一方、薬局薬剤師は、患者さんが自宅で薬を使う場面や、他院の薬、市販薬、残薬、家族による支援の状況などを確認できます。
両者が持つ情報を重ねることで、処方箋だけでは見えなかった課題に近づけます。
| 病院から共有したい情報 | 薬局から共有したい情報 |
| 薬の開始・中止・減量の理由 | 変更後に実際に飲めているか |
| 治療の予定、休薬や再開の方針 | 飲み間違い、自己調整、残薬 |
| 注意したい症状や検査項目 | 自宅で出ている症状と生活への影響 |
| 入院中に行った服薬支援 | その支援を自宅でも続けられるか |
| 次回受診までの確認事項 | 他院処方、市販薬、サプリの使用 |
これは役割を固定する表ではありません。病院でも生活背景を確認し、薬局でも得られる検査情報を活用します。大切なのは、どちらか一方だけでは把握しにくい部分を補うことです。

診療報酬でも情報連携が要件に|2026年度改定の具体例
薬薬連携に関係する評価には、医療機関側の診療報酬と薬局側の調剤報酬があり、それぞれ対象や要件が異なります。「病院へ連絡したら一律に加算」という仕組みではありません。
2026年度改定の具体例が、医科点数表の薬剤総合評価調整加算です。
| 項目 | 改定前 | 2026年度改定後 |
| 薬剤総合評価調整加算 | 100点 | 160点 |
| 対象患者への対応 | 処方の総合評価・変更、療養上必要な指導 | 左記に加えて情報連携 |
| 従来の退院時薬剤情報連携加算 | 退院時薬剤情報管理指導料に60点を加算する評価 | 当該加算を削除 |
薬剤総合評価調整加算は、入院前に6種類以上の内服薬が処方されていた患者など、定められた対象について、処方全体を評価し変更した場合等の評価です。すべての退院患者が対象になるわけではありません。
今回の見直しで注目したいのは、処方を調整した後の情報連携まで評価に含まれたことです。転院先・転所先・保険薬局等へ情報をつなぎ、療養の場が変わっても治療の意図が途切れないようにする方向です。
なお、これは病院側の評価です。薬局が受け取るだけで160点を算定できるという意味ではありません。実際の算定は告示・通知・疑義解釈に沿って判断します。
退院時に知りたいのは「何が変わったか」と「なぜ変わったか」

退院時処方と入院前の処方を比べれば、薬の増減は分かります。ただ、その理由までは薬剤名だけでは読み取れません。
例えば、ある薬が中止されていても、一時的な休薬なのか、副作用が疑われたのか、治療上の必要性を見直したのかで、その後の確認事項は変わります。
薬局で役立つ引き継ぎは、次のような内容です。
- 開始・中止・変更した薬と、その理由
- 一時的な休薬か、継続中止か
- 再開を検討する条件や、判断する診療科
- 変更後に注意する症状
- 患者さんや家族に説明した内容
- 次回受診までに確認してほしい事項
ただし、薬局が独自に再開条件を決めたり、中止薬を再開したりするものではありません。方針が不明なときは、処方医や病院薬剤師へ確認します。
仮想例:退院後、以前の薬も一緒に飲んでいた
入院中に処方が整理されても、自宅に以前の薬が残っていることがあります。
患者さんが「前から飲んでいたから」と追加してしまうと、入院中に行った調整が生活の場で崩れてしまいます。
薬局では退院時処方との照合に加え、自宅の残薬、薬箱、一包化薬、家族が準備した薬まで確認する視点が必要です。病院側へは、重複の状況、患者さんの理解、薬局で行った整理と今後の確認予定を返します。
処方内容と実際の服用状況が一致しているか。その確認までつながると、退院時の情報が生きてきます。
入院前の情報提供も大切|お薬手帳だけでは埋まらない部分

連携は退院後だけの話ではありません。入院前に薬局が把握している情報が、病院での評価に役立つこともあります。
処方歴に薬が載っていても、毎日飲んでいるとは限りません。反対に、処方歴に出ない市販薬やサプリを使っていることもあります。
| 確認すること | 共有するときの工夫 |
| 実際に飲んでいる薬 | 処方内容と実際の服用を区別する |
| 残薬 | 分かる範囲で薬剤名と数量、確認日を記す |
| 自己中止・自己調整 | 理由と、いつからかを添える |
| 市販薬・サプリ | 商品名、使用頻度、最終使用時期を確認する |
| 服薬支援 | 一包化、薬箱、家族や介護職の支援を記す |
| 副作用やアレルギー歴 | 症状、時期、原因薬の確実性を区別する |
「処方されている」「本人が飲んだと話している」「家族が服用を確認した」では、情報の確かさが違います。確認元と確認日を添えると、次の担当者が判断しやすくなります。
外来がん治療では、点滴後の生活をつなぐ
薬薬連携が力を発揮する場面の一つが、外来がん治療です。

抗がん薬が注射薬でも、薬局で関わる機会はあります。吐き気止め、便秘薬、下痢への対応薬、皮膚症状に対する外用薬、普段の持病の薬などを通じて、自宅での状態を確認できます。
大切なのは、薬局で渡した薬だけに視野を限定しないことです。
「吐き気はありますか?」に加えて、食事や水分をどれくらい取れているか、頓用薬を何回使ったか、家事や仕事を続けられるかまで聞くと、症状の影響が具体的になります。
連携時には、治療名、投与日、症状が出た時期、普段との差、実施した対応と結果を、把握できる範囲でまとめます。
薬局で点滴治療の内容が分からなければ、患者さんの説明だけで推測を重ねず、治療に関する説明書や病院の連携窓口で確認する仕組みが必要です。

トレーシングレポートは「何を判断してほしいか」を明確に
トレーシングレポートは、服薬状況や生活上の課題などを医療機関へ伝える手段です。信州大学病院薬剤部でも、トレーシングレポートや疑義照会簡素化プロトコルの案内が公開されています。
書くときは、冒頭で相談の目的が伝わる形にすると読み手が把握しやすくなります。
- 何について相談・報告するか
- いつ、誰から確認した情報か
- 具体的な状況はどうか
- 薬局で何を行ったか
- 何を確認・検討してほしいか
- 次にいつフォローする予定か
例えば「残薬があります」だけでは、その後の判断に必要な情報が足りません。
「確認日時点で夕食後薬が約2週間分残っている。本人は夕食時間が不規則で飲み忘れると説明。薬箱の使用を提案し、1週間後に再確認予定。次回診察時に服用時点の見直しが可能か検討をお願いしたい」
このように、事実、患者さんの説明、薬局の評価や提案を分けます。実際には薬剤の特性や治療方針を踏まえて提案します。
緊急の相談は、返答を待つレポートにしない
当日の安全性や調剤の可否に関わる疑問は、必要な疑義照会や直接連絡で確認します。急な状態悪化も、通常のレポートを送って返答を待つ対応にはしません。
連絡手段は、内容と緊急度、施設間の取り決めに合わせて選びます。緊急連絡先と通常の情報提供先を、あらかじめ分けておくと迷いを減らせます。
情報を送った後に、次の担当を決める

レポートを送信しても、患者さんの困り事が解決したとは限りません。
病院が評価するのか、薬局が経過を確認するのか、次回診察で相談するのか。ここが曖昧だと、双方が相手の対応を待つ状態になりかねません。
薬局側でも、返答の有無、患者さんへの説明内容、次の確認日を記録します。担当者が不在でも、別の薬剤師が続きを確認できる状態にしておくことが大切です。
患者情報を扱う際は、同意や共有範囲、宛先、送信方法を施設の規程等に沿って確認します。目的に必要な情報を、正しい相手へ届けることも連携の基本です。
忙しい薬局で始めるなら、まず1つの場面から
薬薬連携を充実させたいと思っても、日常業務に新しい作業を増やすのは簡単ではありません。
実務上の提案として、最初は「退院後に初めて来局した患者さん」など、取り組む場面を1つ決める方法があります。
| 最初に決めること | 運用例 |
| 対象 | 退院後初回来局で、処方変更がある患者 |
| 確認項目 | 変更理由、残薬、実際の服用、困り事 |
| 通常の連絡先 | 病院が指定する薬剤部等の窓口 |
| 緊急時の連絡 | 病院の運用に沿った電話等 |
| フォロー | 対象患者ごとに時期と担当を記録 |
| 振り返り | 月1回、共有が役立った例や停滞例を検討 |
これは一律の算定基準ではなく、薬局内で運用を整えるための例です。
振り返りでは、送信件数に加えて「服薬上の問題が整理できたか」「次回確認までつながったか」「相手が判断しやすい情報だったか」も見たいところです。結果を評価する際は、連携による効果と推測できる範囲を区別し、過大に成果を示さないようにします。
研修会を、日々の連絡につなげる
薬薬連携の研修会には、治療の知識をそろえ、病院と薬局が共通の視点で患者さんを見るという役割があります。
国立がん研究センター中央病院では、全国の薬局薬剤師を対象にオンラインで学ぶTULIPプロジェクトが行われています。連携先は病院の近くにある薬局だけではありません。
研修後には「この治療で何を確認するか」「どの症状をどこへ連絡するか」「報告に必要な項目は何か」を薬局内で共有すると、受講内容を実務へ移しやすくなります。
顔の見える関係を、実際に相談できる関係へ育てていくことが大切です。
しぐの視点|処方変更の理由が分かると、患者さんへの質問が変わる
薬局では、処方が変わった理由が分からないまま患者さんと話す場面があります。
理由が分かれば、「変更後、ふらつきはどうですか」「前の薬が自宅に残っていませんか」「今回の飲み方で続けられそうですか」と、確認したいことが具体的になります。
一方、病院では問題なく見えた飲み方が、自宅では続けにくいこともあります。その小さなつまずきを病院へ返すことも、薬局の大切な役割です。
薬薬連携を充実させる入口は、大きな仕組みだけではありません。
目の前の患者さんについて、次の薬剤師が知っていたら役に立つことは何か。
そこから考えると、日々の聞き取りや情報提供の意味が、少しはっきりするのではないでしょうか。
よくある質問
薬薬連携とは何ですか?
病院と薬局などの薬剤師が、薬の使用状況、治療経過、処方変更理由、生活上の課題を共有し、継続して薬物療法を支える取り組みです。
2026年度改定で、すべての薬局に新しい連携義務ができたのですか?
本記事で取り上げたのは、病院側の薬剤総合評価調整加算などの個別の評価です。すべての薬局に、同じ加算要件が一律に適用されるという意味ではありません。
トレーシングレポートと疑義照会はどう使い分けますか?
調剤前に解消すべき疑義は疑義照会で確認します。通常の情報提供にはトレーシングレポートを活用できますが、緊急の状態変化は直接連絡などで対応し、レポートの返答を待たないようにします。
注射の抗がん薬でも薬局は関われますか?
関われます。支持療法薬や普段の薬の調剤、服薬相談などを通じ、自宅での症状や服薬状況を確認できます。治療内容を把握し、病院と確認事項や連絡方法を共有することが重要です。
病院から返答がないときはどうしますか?
内容の緊急度を再評価し、必要に応じて指定窓口へ確認します。通常の情報提供でも、患者さんへの次の確認を誰がいつ行うか、薬局内で明確にしておきます。


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