
こんにちは、薬剤師のしぐです。
「病院では血圧が落ち着いているから、大丈夫」
そう思っていても、自宅で測ると高いことがあります。診察室では高血圧の基準に達していないのに、家庭では高い状態を「仮面高血圧」と呼びます。
2026年10月の米国心臓協会(AHA)の学会で、仮面高血圧の高齢者は、診察室でも家庭でも血圧が高い人と比べて、転倒リスクが高かったという研究が発表されました。
ただし、仮面高血圧が転倒の原因と証明されたわけではありません。降圧薬を増やせば転倒を防げる、と結論づけることもできません。
今回の話題から考えたいのは、血圧の数字と、ふらつき・転倒・薬の飲み方を一緒に確認することです。
この記事のポイント
- 仮面高血圧は、診察室で高くなくても家庭などで血圧が高い状態です。
- 今回の「転倒リスク70%増」は、持続性高血圧の人との比較です。
- 学会発表段階の観察研究で、因果関係や転倒を防ぐ治療法は確定していません。
- 家庭血圧を記録し、ふらつく時間帯や服薬状況と合わせて医療者に共有しましょう。
仮面高血圧とは?白衣高血圧との違い
血圧は、測る場所や時間、体の状態によって変わります。診察室の値だけでは、普段の生活の中で血圧がどう動いているかを十分に把握できないことがあります。
診察室と家庭の血圧を組み合わせると、大きく次の4つに整理できます。
| 血圧のパターン | 診察室 | 家庭 |
| 両方で高血圧の基準未満 | 高くない | 高くない |
| 白衣高血圧 | 高い | 高くない |
| 仮面高血圧 | 高くない | 高い |
| 持続性高血圧 | 高い | 高い |
日本での高血圧の診断基準は、診察室では上の血圧140mmHg以上、または下の血圧90mmHg以上。家庭では上135mmHg以上、または下85mmHg以上です。繰り返し測った値で判断し、1回の測定だけで決めるものではありません。
たとえば診察室では128/76mmHg、家庭での平均が145/86mmHgなら、仮面高血圧を疑うきっかけになります。これは説明用の例であり、実際の診断には測定条件や治療状況の確認が必要です。
なお「高血圧と診断する基準」と「治療で目指す血圧」は別です。基準を下回ったからといって、処方された薬を中止してよいわけではありません。
治療中にも、診察室ではコントロールされていて家庭では高い状態が起こります。この場合は、仮面非コントロール高血圧などと呼ばれます。「薬を飲んでいるから、家庭では測らなくてよい」ということでもないのです。
高齢者の転倒とどのような関係が見つかった?
米国のARIC研究に参加する高齢者を対象とした解析が、AHAのHypertension Scientific Sessions 2026で発表されました。
| 項目 | 研究の概要 |
| 対象 | 78~98歳の758人 |
| 年齢中央値 | 83歳 |
| 降圧薬の使用 | 82% |
| 血圧の評価 | 診察室測定と、連続しない8日間の朝・晩の家庭測定 |
| 転倒の把握 | 年1回の電話調査で、過去12カ月の転倒を自己申告 |
| 追跡期間中央値 | 350日 |
仮面高血圧の人は、持続性高血圧の人と比べて、転倒リスクが70%高いという関連が示されました。研究参加者全体では、追跡調査時に23.4%が過去12カ月に1回以上の転倒を報告しています。
ここは数字の読み方に注意が必要です。
「70%増」は、仮面高血圧の人の70%が転倒したという意味ではありません。また、全体の転倒割合23.4%を1.7倍して、仮面高血圧の人の転倒確率を計算することもできません。比較対象と分母が異なるからです。
この研究から、まだ言い切れないこと
今回の発表は、査読済みの論文として確定した結果ではなく、学会発表段階の予備的な知見です。
血圧の変動や調節のしにくさが関係している可能性はありますが、転倒リスクが高かった理由は分かっていません。転倒は自己申告で把握されており、思い出し方による誤差も考えられます。
対象は米国の78~98歳の高齢者です。若い世代や日本の高齢者に、同じ数字をそのまま当てはめることはできません。
さらに、この解析は薬を増やした場合と減らした場合を比較する試験ではありません。仮面高血圧の治療によって転倒が減るかどうかは、別に検証する必要があります。
今回の発表は、家庭血圧を日常生活の情報として共有する意義を考えるきっかけになります。
血圧が高くても、立ち上がるとふらつくことはある
「血圧が高いなら、血圧が下がってふらつくことはない」と思われがちですが、普段の血圧と、立ち上がったときの変化は別に評価する必要があります。
立ち上がったときに血圧が下がる起立性低血圧などは、転倒を考えるうえで大切です。家庭血圧が高いことだけで、立ちくらみや転倒の原因を説明しきることはできません。
薬局で確認したいのは、次のような場面です。
- 朝、ベッドから起き上がるときにふらつく。
- 夜中にトイレへ向かうとき、転びそうになる。
- 薬が追加・増量されてから、立ちくらみが増えた。
- 食事の後や入浴の前後に、気が遠くなる感じがある。
こうした症状があれば、いつ・どこで・何をしていたかを記録して医療者に伝えましょう。起立時の血圧評価が必要かどうかも相談できます。転倒のおそれがある方が、一人で立ったり座ったりを繰り返して測定する必要はありません。
家庭血圧はどう測る?朝・晩の記録を続けよう

家庭血圧は、測定条件をそろえることが大切です。上腕で測る血圧計を使い、朝と晩に測る習慣をつくりましょう。
| 確認すること | 基本の測り方 |
| 朝 | 起床後1時間以内、排尿後、朝食前・服薬前 |
| 晩 | 就寝前 |
| 測る前 | 椅子に座り、1~2分安静にする |
| 回数 | 1機会に原則2回測り、平均を記録する |
| 続け方 | 週5日以上を目安に測り、記録を受診時に見せる |
カフの大きさや巻き方は機器の説明書で確認し、測定中は会話を控えます。腕を支え、カフが心臓の高さになるようにします。
低い値が出るまで測り直して、その値だけを残すと、普段の状態が伝わりにくくなります。高い値も低い値も記録し、気になる症状があった日は一言添えると役立ちます。
「朝、薬を飲む前」「夕食後にふらついた」「夜中のトイレでつまずいた」など、短いメモで十分です。
測定のために薬の服用を大きく遅らせたり、飲み忘れたりしないようにしましょう。生活の都合で測りにくい場合は、続けられる方法を主治医や薬剤師に相談してください。
薬局では「血圧はどうですか?」から、もう一歩

血圧を尋ねると、「病院では大丈夫でした」という返答だけで話が終わることがあります。
そこで、「おうちでも測っていますか」「朝と夜で違いはありますか」「最近、転びそうになったことはありませんか」と確認すると、診察室の数字だけでは見えなかった困りごとを拾いやすくなります。
| 確認項目 | 聞き方の例 | 次につなげたいこと |
| 家庭血圧 | 「記録や血圧計の履歴は見られますか?」 | 実測値、測定時刻、測り方を確認 |
| 転倒・転びかけ | 「転んだことや、ヒヤッとしたことは?」 | 時間帯、けが、繰り返しの有無を確認 |
| 立ちくらみ | 「立ったときに目の前が暗くなりますか?」 | 血圧評価や受診の必要性を相談 |
| 処方変更 | 「薬が変わってから、体調に変化は?」 | 開始・増量と症状の時期を整理 |
| 飲み方 | 「飲み忘れや、まとめ飲みはありませんか?」 | 残薬や服薬支援を検討 |
| 他の薬 | 「眠る薬、市販薬、サプリも使っていますか?」 | 薬剤全体で転倒につながる要因を確認 |
転倒に関わる薬の確認は、降圧薬だけに限りません。睡眠薬などによる眠気、ふらつきも含めて、お薬手帳と実際の使用状況を照らし合わせます。複数の医療機関から薬が出ている方では、全体像の確認が特に大切です。
降圧薬が供給事情で切り替わったときも、飲み間違い、重複、飲み忘れ、家庭血圧の変化を確認したいところです。

医師への情報提供は、数値と症状をセットに
「家庭血圧が高いようです」だけでは、状況が伝わりにくいことがあります。いつ測った値か、どのくらい続いているか、服薬と症状の時間関係をまとめると、診療で検討しやすくなります。
たとえば「朝の服薬前に測定している家庭血圧が、直近1週間で高い状態です。夜間のトイレで転びかけたことが2回あり、薬の増量後から立ちくらみを自覚しています」といった形です。これは情報共有の例であり、症状の原因を薬と断定するものではありません。

転倒予防は、家の環境も一緒に見直す

家庭血圧の記録に加えて、転びやすい場所や時間帯も確認しましょう。夜中に暗い廊下を歩く、床にコードがある、マットの端が浮いているなど、生活環境の見直しが役立つことがあります。
立ち上がるときは急がず、支えになる場所を確かめる。夜間の動線には照明を用意する。履物や歩行補助具が合っているかも相談する。こうした対策を、本人の体力や生活に合わせて考えます。
血圧だけに注目せず、歩く力、視力、薬、住まいを含めて支えることが、日常生活を守る視点になります。

降圧薬を自己判断で増減しない
家庭血圧が高くても、追加で薬を飲むことは避けてください。反対に、ふらつくからといって自己判断で中止することも勧められません。
繰り返すふらつき、転倒、転びかけがあれば、次の定期受診を待つべきかも含めて早めに相談しましょう。失神、胸痛、息苦しさ、突然の片側の手足の動かしにくさや言葉の出にくさなどがあるときは、血圧の記録より救急対応を優先します。転倒して頭を打った場合も、医療機関への相談が必要です。
まとめ:診察室の血圧と、家での暮らしをつなぐ
仮面高血圧の高齢者で転倒リスクが高かったという報告は、家庭血圧に目を向けるきっかけになります。
大切なのは、「高いか低いか」の数字だけで終わらせないことです。家庭血圧の推移、ふらつく場面、転倒歴、薬の飲み方を一緒に確認する。その情報を主治医や介護職と共有することで、血圧管理と日々の安全を考えやすくなります。
よくある質問
Q. 病院で正常でも、家で高ければ相談した方がよいですか?
はい。家庭で高い状態が続く場合は、測定記録を持って相談しましょう。血圧計やカフの使い方も確認し、繰り返し測った値で評価します。
Q. 転倒リスク70%増とは、70%の人が転ぶという意味ですか?
違います。今回の研究では、持続性高血圧の人と比べてリスクが相対的に高かったという意味です。個人の転倒確率を示す数字ではありません。
Q. 血圧を下げれば、転倒も防げますか?
今回の研究だけでは判断できません。血圧と転倒の関連を調べた解析であり、特定の治療による転倒予防効果を検証したものではありません。
Q. 降圧薬を飲んでいても、仮面高血圧になりますか?
治療中でも、診察室ではコントロールされていて家庭では高い状態が起こります。家庭での記録が治療の評価に役立ちます。
Q. 家庭血圧が高いのに、立ちくらみもあります。
普段の血圧の高さと、立ち上がったときなどの血圧変化は別に確認する必要があります。薬を自己調整せず、症状が起こる時間や服薬状況を伝えてください。
Q. 白衣高血圧なら安心してよいですか?
今回の転倒に関する結果だけで、安全と判断することはできません。家庭血圧を継続して確認し、主治医と相談して経過をみましょう。
出典・確認先(2026年10月22日確認)
- American Heart Association:Elderly adults with masked high blood pressure had higher risk of falls(2026年10月9日、口演38)
- 日本高血圧学会:高血圧管理・治療ガイドライン2025、家庭で血圧を測定しましょう
- CDC:STEADI-Rx、Medications Linked to Falls
※研究の結果は集団での関連を示します。個別の血圧目標や薬の変更は、症状、身体機能、併存疾患などを踏まえて主治医が判断します。


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