薬剤師のしぐです。
今回は、慢性心不全治療薬として新規製造販売承認申請を行っているサクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉について!
心不全療養指導士についてはコチラ
数年前から「心不全パンデミック時代」と言われるようになり、生活習慣病に続いて心不全患者の処方を受けることも多くなっています。
さらに、心不全治療に関する新薬も順次承認を受け、発売されています。
このイバブラジン〈コララン錠〉も、HCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネル遮断薬という新規作用機序の医薬品なのですが、今回のサクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉も新規作用機序になります。
気になる部分は、もちろんココですよね。成分名の一部、
サクビトリルバルサルタン
薬剤師なら誰でも聞いたことあるネーミング。
実は、サクビトリルも結構鍵を握る成分だったり。
まとめていきます!
エンレスト錠の有効成分
サクビトリルバルサルタン
サクビトリルバルサルタン。そう、このエンレスト錠は、
- サクビトリル:ネプリライシン阻害薬
- バルサルタン:ARB
この2種類の医薬品をモル比1:1で結合させた構造をしています。
ARNI(Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor)と呼ばれる新しい作用機序の医薬品になります。
アンギオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬のことですね。
ちなみに、【アーニィ】と呼びます。
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の作用機序ARNIの詳細
サクビトリル:ネプリライシン阻害薬
ネプリライシン阻害薬。
あまり聞き覚えのない作用機序。
人間の体内にある「利尿作用、血管拡張作用」を有する内因性ナトリウム利尿ペプチドというホルモン。ANPたBNPが有名な検査値ですね。
このホルモンを分解する作用を持つ酵素が「ネプリライシン」になります。
この酵素を阻害することで、結果的に内因性ナトリウム利尿ペプチドのもつ「利尿作用、血管拡張作用」を発揮できるというわけですね。
利尿作用により、体液量を減らし心臓への負担を軽減できること。
血管拡張作用による血圧低下により、心臓の前負荷・後負荷を軽減できること。
これにより、心不全の症状・進行を抑制することができるというわけです。
何よりも、心臓の負荷を軽減することが大事です。
ちなみに、内因性ナトリウム利尿ペプチドには複数種類があります。
- ANP(atrial natriuretic peptide):心房性ナトリウム利尿ペプチド
- BNP(brain natriuretic peptide):脳性ナトリウム利尿ペプチド
- CNP(C type natriuretic peptide):C型ナトリウム利尿ペプチド
この中ではBNPが比較的よく聞く検査値ですよね。
心保護作用が強く、心不全等心疾患時に高値を示す検査値です。
バルサルタン:ARB
言わずと知れた、バルサルタン〈ディオバン錠〉。
作用機序のARBも、今更説明の必要はいらないですよね。
高血圧の第一選択薬。このARBか、カルシウム拮抗薬。
一応、関連の内容がコチラ
サクビトリルとバルサルタンの組合
上記「サクビトリル」と「バルサルタン」を1剤として組み合わせている理由がしっかりあります。
まず、サクビトリルの作用が下記体内物質の分解抑制。
- 各ナトリウム利尿ペプチド
- アドレノメデュリン
- サブスタンスP
- ブラジキニン
- アンジオテンシンⅡ
そうなんです。サクビトリルの作用の1つで、アンジオテンシンⅡの分解抑制が起こります。みなさんご存知の通り、アンジオテンシンⅡの作用増強によりレニンーアンジオテンシン系(RAS系)が活性化し、血管収縮による高血圧などさまざまな不具合が出てしまいます。
それをみこして、RAS阻害作用のあるARBであるバルサルタンを組み合わせているというわけですね。
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉適応・効能効果
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の用法用量
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンナトリウムとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与します。
忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量します。
1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与です。なお、忍容性に応じて適宜減量する。
ARBは基本1日1回のお薬だけど、このサクビトリルバルサルタンは1日2回での服用なんですね〜
用法用量における注意点
- 次の患者では、患者の状態を注意深く観察し、増量の可否を慎重に判断すること。
- 腎機能障害(eGFR 90mL/min/1.73m2未満)のある患者
- 中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)のある患者
- 血圧が低い患者
- 本剤の増量は、臨床試験で用いられた血圧、血清カリウム値及び腎機能に関する下記の基準も目安に検討すること。
- 50mg錠と100mg錠又は200mg錠の生物学的同等性は示されていないため、100mg以上の用量を投与する際には50mg錠を使用しないこと。
血圧 | 症候性低血圧がみられず、収縮期血圧が95mmHg以上 |
血清カリウム値 | 5.4mEq/L以下 |
腎機能 | eGFR 30mL/min/1.73m2以上かつeGFRの低下率が35%以下 |
【臨床試験で用いられた増量時の基準】
※1回50mgから1回100mgへの増量時の基準であり、臨床試験ではいずれの項目も満たす患者が増量可能とされた。
エンレスト錠の規格変更について
薬剤師しぐの働く薬局で、結構毎回「なかなか解釈が難しい」という意見が出るので解説します。
50mg錠と100mg錠又は200mg錠の生物学的同等性は示されていないため、100mg以上の用量を投与する際には50mg錠を使用しないこと。
この文言に関して。
一応メーカーさんに確認したところ、わかりやすい例を教えていただけたので記載します。
- 1回量が100mgの場合、エンレスト錠50mgを2錠での対応は不可。
- 1回量が200mgの場合、エンレスト錠50mgを4錠での対応は不可。
- 1回量が50mgの場合、エンレスト錠100mgを半錠での対応は可。
- 1回量が200mgの場合、エンレスト錠100mgを2錠での対応は可。
といった感じです。
簡単に覚えるなら、「100mg錠は50mgとしても200mgとしても使用できるが、他は不可」と覚えておけば、大丈夫ですね!
ちなみに、一応下記のパターンもご紹介。
- 1回量が100mgの場合、エンレスト錠200mgを半錠での対応は不可。
これは上記の理由とは異なり「エンレスト錠200mgには割線がなく、製剤的に半錠をおすすめしていないのでやるのであれば現場の医師、薬剤師の判断、責任でお願いします。」とのこと。
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の食事による影響
健康成人にサクビトリルバルサルタン400mgを低脂肪食又は高脂肪食の摂取後に単回経口投与したとき、sacubitrilatのCmaxは空腹時投与に比べそれぞれ19%及び28%減少したが、AUCは、食事の種類及び食事の時期に関わらず、影響は認められなかった。
Tmaxは空腹時投与では2時間、食後投与では4~6時間であり、食事の種類にかかわらずいずれも延長する傾向がみられた。サクビトリルバルサルタン400mgを低脂肪食の摂取後に単回経口投与したとき、バルサルタンのCmax及びAUCは、空腹時投与に比べそれぞれ39%及び34%低下した。
サクビトリルバルサルタン400mgを高脂肪食の摂取後に単回経口投与したとき、バルサルタンのCmax及びAUCは、空腹時投与に比べそれぞれ40%及び9%低下した。Tmaxの中央値は空腹時投与の1.75時間、食後投与では4時間であり、高脂肪食又は低脂肪食摂取後にいずれでも延長する傾向がみられた
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の特徴
- 欧米では、心不全のうち左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の治療薬として承認されている
- 日本では欧米のように適応が細分化されていないため、慢性心不全の治療薬として承認
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の禁忌
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者
- 血管浮腫の既往歴のある患者(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬又はアンジオテンシン変換酵素阻害薬による血管浮腫、遺伝性血管性浮腫、後天性血管浮腫、特発性血管浮腫等)
- アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者
- 重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
- 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の薬価決定!
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の薬価がついに決定しました!
- エンレスト錠50mg:65.7円/錠
- エンレスト錠100mg:115.2円/錠
- エンレスト錠200mg:201.9円/錠
発売が待ち遠しいですね〜
ちなみに、このエンレスト錠。10年後のピーク時には141億円の売上を予定しているようです。心不全パンデミックの時代には必ず需要がある医薬品ですからね。
サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉承認!
2020.6/29にサクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉の承認がおりました!
製造販売承認取得および日本における共同プロモーション活動のご案内
今後の発売に向け、メーカーさんの動きも活発になっていきそうですね。
欧米では、心不全のうち左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の治療薬として承認されています。
日本では、世界のように心不全の適応が細分化されておらず、既存薬は「慢性心不全」とのカテゴリーで承認されているため、サクビトリルバルサルタン〈エンレスト錠〉も「慢性心不全」の治療薬として承認申請がされているところです。
日本での適応の幅が広いってことですね。
海外では2020年2月時点で、慢性心不全に関連する効能・効果で欧米を含む100以上の国・地域で承認され、使用されているようです。
エンレスト錠の新薬投薬期間制限解除!
ついにこの時がやってきました!
エンレスト錠の14日処方日数制限が解除になります。そのお知らせがこちら。
2021年9月1日
投薬期間制限解除
処方頻度が増えそうですね!
エンレスト錠:服薬指導時のポイント
薬剤師が服薬指導時に注意する点としては、副作用の中でも発生頻度の高かった有害事象である「低血圧」「腎障害」の早期発見、悪化予防と言えます。
今回はこんな感じー
穴ぼこだらけの内容になりましたが、情報入り次第随時更新していきます!
コメント
まだ承認されてないのでは!
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