
こんにちは、薬剤師のしぐです。
「地域フォーミュラリ」と聞くと、後発医薬品の活用や薬剤費の適正化を思い浮かべるかもしれません。
今回、愛媛県東温市を対象に策定されたのは、睡眠薬の地域フォーミュラリです。注目したいのは、オレキシン受容体拮抗薬を中心に、眠れない症状に合わせて推奨薬を示していること。
薬の名前をそろえるだけでなく、地域で睡眠薬をどう選び、どう安全に使っていくかを共有する取り組みとして、薬局でも押さえておきたいニュースです。
まず押さえたい今回のポイント
- 東温地区の睡眠薬地域フォーミュラリは、2026年10月7日に策定。
- 入眠困難にはデエビゴ・クービビック、睡眠維持困難にはベルソムラ・デエビゴを推奨。
- 両方の症状に、エスゾピクロンをオプションとして設定。
- 推奨薬への変更を一律に求めるものではなく、患者さんごとの判断が必要。
- 薬局では、眠れない症状、翌朝の状態、併用薬、長期使用の状況まで確認したい。
東温地区で睡眠薬の地域フォーミュラリが策定
2026年10月7日に東温地区地域フォーミュラリ検討会議が開催され、同日付で睡眠薬の地域フォーミュラリが策定されました。愛媛大学医学部附属病院薬剤部は10月9日に策定を公表し、地域版を公開しています。
ここで区別しておきたいのが、「院内フォーミュラリ」と「地域フォーミュラリ」です。
院内版は、その病院での診療や医療安全の体制を踏まえたもの。地域版は、病院・診療所・薬局などが地域で薬の選び方を共有するためのものです。愛媛大学病院では両者が別に公開されており、今回のニュースは2026年10月策定の地域版を扱っています。
地域フォーミュラリとは?
地域フォーミュラリは、地域の医師・薬剤師などが協働して作る、推奨薬とその使用方針です。
薬を選ぶときは、有効性、安全性、経済性などを総合的に考えます。後発医薬品の使用促進や患者負担の軽減にもつながりますが、目的の中心にあるのは、患者さんに良質な薬物療法を提供することです。
そのため、「安い薬だけを選ぶ仕組み」と理解すると、今回の取り組みの意味を見落としてしまいます。
また、推奨薬は医師の処方を制限するものではありません。これまでの治療経過や副作用歴、併用薬などによって、推奨薬以外が適切なケースもあります。

今回の推奨薬を症状別に整理
| 不眠のタイプ | 推奨薬 | オプション |
|---|---|---|
| 入眠困難:寝つくまでに時間がかかる | デエビゴ(レンボレキサント)、クービビック(ダリドレキサント) | エスゾピクロン |
| 睡眠維持困難:中途覚醒・早朝覚醒など | ベルソムラ(スボレキサント)、デエビゴ(レンボレキサント) | エスゾピクロン |
この表は地域フォーミュラリの主な推奨内容を整理したものです。薬の優劣を一律に決める比較表ではありません。
同じ患者さんに入眠困難と睡眠維持困難が重なっていることもあります。「寝つけない」「途中で起きる」という言葉だけで機械的に薬を決めず、日中の支障や翌朝への影響も含めて考える必要があります。
入眠困難と睡眠維持困難、薬局でどう聞く?
「眠れていますか?」だけでは、治療後の変化がつかみにくいことがあります。
入眠困難なら、「薬を飲んでから、どのくらいで眠れますか」。睡眠維持困難なら、「夜中に何回くらい目が覚めますか」「目が覚めた後に眠れますか」と、一段具体的に聞くと状況が見えやすくなります。
さらに、「朝に起きられるか」「日中に眠くならないか」もセットで確認したいところです。夜の睡眠が改善しても、翌日の生活に支障が出ていれば、治療の見直しを相談する材料になります。

オレキシン受容体拮抗薬が中心になる理由
オレキシンは、覚醒を維持する働きに関わる神経伝達物質です。オレキシン受容体拮抗薬は、その働きを抑えることで睡眠への移行や睡眠の維持を助けます。
今回の推奨に挙がるデエビゴ、ベルソムラ、クービビックは、この系統に含まれます。
一方、ベンゾジアゼピン系睡眠薬やエスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABAの抑制作用を強める仕組みを持ちます。薬の構造による分類と、受容体への作用による分類が違うため、「非ベンゾジアゼピン系なら依存性を心配しなくてよい」と考えないことが大切です。
新しい系統でも、眠気やふらつきの確認は必要
オレキシン受容体拮抗薬でも、翌朝の眠気などへの注意は必要です。デエビゴやベルソムラには、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意する旨が示されています。
「新しい睡眠薬だから安全」「朝に眠気を感じないから運転できる」と説明しないこと。個々の薬の電子添文に沿った説明と、服用後の状態の確認を続けます。
デエビゴの特徴や飲み方は、コチラもあわせてどうぞ。

ベンゾジアゼピン系の安易な使用を抑える意味
睡眠薬は、症状が落ち着いた後も「いつもの薬」として続きやすい薬です。長く服用している患者さんほど、減らすことへの不安が大きい場合もあります。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、承認用量の範囲内でも、漫然とした長期使用で身体依存が生じることがあります。高用量や多剤併用、複数の医療機関からの重複処方にも注意が必要です。
今回の取り組みは、こうしたリスクを踏まえ、地域で睡眠薬の選択を見直すきっかけになります。
ただし、すでに服用している薬を急に中止することは避けます。急な中止や減量で、不眠、不安、振戦などの離脱症状が現れ、重い場合には痙攣発作などにつながるおそれがあります。
切り替えや減量は、服用期間、用量、過去の減薬経験、患者さんの希望を踏まえ、処方医と相談しながら個別に進めます。
エスゾピクロンはオプションでも確認を省かない
エスゾピクロンがオプションに入っていることも、今回の特徴です。
ただし、オプションという位置づけは、どの患者さんにも気軽に追加できるという意味ではありません。非ベンゾジアゼピン系でも依存性や離脱症状に注意が必要で、既存の睡眠薬との重複も確認します。
また、推奨内容を地域で共有する際には、供給状況も実務上の課題になります。特定の銘柄が入りにくい場合は、同一成分・同一規格の製品でも、調達可能性を個別に確認する必要があります。
供給面は、コチラも参考になります。供給状況は変動するため、調剤時点で確認してください。


薬局で確認したい6つのポイント
| 確認項目 | 具体的に聞くこと・見ること |
|---|---|
| 不眠の内容 | 寝つき、中途覚醒、早朝覚醒、日中の支障 |
| 服用の実態 | 実際の服用時刻、自己調節、追加服用、残薬 |
| 翌朝の状態 | 眠気、起きにくさ、ふらつき、転倒・転倒しかけた経験 |
| 併用薬 | 他院の睡眠薬・抗不安薬、相互作用のある薬、市販薬 |
| 生活との関係 | 飲酒、就寝・起床時刻、運転などの生活上の事情 |
| 継続の必要性 | 服用期間、効果、副作用、減薬への希望や不安 |
これは今回の地域版の規定をそのまま列挙したものではなく、薬局で活用するための実務上の整理です。
抗菌薬などが追加されたときも確認
たとえばベルソムラは、クラリスロマイシンなどの強いCYP3A阻害薬と併用禁忌です。睡眠薬が長く変更されていなくても、ほかの診療科から薬が追加されたタイミングで問題が生じることがあります。
同じオレキシン受容体拮抗薬でも、併用禁忌や用量調節の扱いは薬ごとに確認します。推奨薬の一覧を知っていることと、その患者さんに安全に使えることは、どちらも必要です。
関連する仕組みや注意点は、コチラで整理しています。

しぐの実務視点:推奨薬に変えた「その後」を地域で共有したい
地域フォーミュラリができると、どうしても「どの薬が推奨されたか」に目が向きます。
薬局で大切にしたいのは、変更後に患者さんの生活がどう変わったかです。
「寝つきはよくなったが、朝に起きにくい」「夜中に目が覚める回数は同じだが、翌日のつらさは減った」。こうした変化は、処方箋だけでは読み取れません。
処方医へ情報を返すときは、薬名だけでなく、服用時刻、睡眠の変化、翌朝の状態、患者さんの希望を具体的に伝えると、次の判断につながりやすくなります。
地域で薬の選び方を共有し、薬局から服用後の情報を返す。この往復があってこそ、フォーミュラリを日々の診療に生かせるのだと思います。
よくある質問
地域フォーミュラリに入っていない睡眠薬は使えなくなりますか?
使えなくなるわけではありません。地域フォーミュラリは推奨薬と使用方針を共有するもので、医師の処方を一律に制限するものではありません。
今の睡眠薬から、すぐに推奨薬へ変更したほうがよいですか?
一律の変更は勧められません。現在の効果、副作用、服用期間、併用薬などを確認し、処方医と相談して判断します。自己判断で中止・減量しないでください。
デエビゴとクービビックは寝つきだけ、ベルソムラは中途覚醒だけの薬ですか?
今回の表は地域での推奨の分け方です。それぞれの薬の承認された効能・効果を、症状別に限定するものではありません。
エスゾピクロンは非ベンゾジアゼピン系なので依存性はありませんか?
依存性への注意が必要です。非ベンゾジアゼピン系でもベンゾジアゼピン受容体に作用し、長期使用や減量・中止時には慎重な対応が求められます。
薬を変えれば睡眠の問題は解決しますか?
薬の選択だけで解決しないこともあります。眠れない背景や生活習慣、ほかの病気・薬の影響なども確認し、必要に応じて医療機関で評価します。
まとめ
東温地区の睡眠薬地域フォーミュラリは、入眠困難と睡眠維持困難に分け、オレキシン受容体拮抗薬を中心とした推奨を示しています。
薬局では、推奨薬の名前を把握するとともに、併用薬、翌朝の眠気、ふらつき、長期服用の状況まで確認したいところです。
患者さんの「眠れた」という実感と、翌日の生活のしやすさ。その両方を地域で支えていく取り組みとして、今後の運用にも注目したいですね。


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