
こんにちは、薬剤師のしぐです。
「生活は変わっていないのに、HbA1cだけが急に上がった」
「自宅で測っている血糖値と、検査結果の印象が合わない」
こうした相談では、食事や服薬状況だけでなく、検査の条件にも目を向ける必要があります。
体外診断用医薬品「ビトロス スライド HbA1c」について、HbA1cの測定値が高値方向にずれる可能性を理由とする自主回収の情報が出ています。

大切なのは、今回の対象がHbA1cを測定するための検査試薬であること。糖尿病の飲み薬やインスリンそのものの回収ではありません。回収の情報だけを理由に、治療薬を自己判断で中止・減量しないでください。
今回の回収で押さえたいポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | ビトロス スライド HbA1c |
| 一般的名称 | グリコヘモグロビンA1cキット |
| 製造販売業者 | オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社 |
| 回収区分 | クラスⅡ |
| 回収対象ロット | 2038-9831 |
| 対象ロットの出荷時期 | 2026年3月25日~8月4日 |
| 回収開始日 | 2026年10月21日 |
| 回収概要の作成日 | 2026年10月22日 |
| 回収理由 | HPLC法との比較で、測定結果に正誤差(高値方向の誤差)が生じる可能性 |
| 健康被害の報告 | 公表時点で、国内外とも本事象に関連する健康被害の報告なし |
対象ロットの測定値すべてが誤っていると断定するものではありません。また、すべての医療機関のHbA1c検査に問題があるわけでもありません。
どの検査に影響するかは、検査を受けた施設が使用した試薬とロット、測定時期を照合して確認する必要があります。
使用期限が切れている「2038-9055」「2044-6600」「2044-6601」の3ロットについても、同様の測定誤差が発生していた可能性があります。
今回の回収対象として示されているのは「2038-9831」です。期限切れの3ロットは、過去の測定結果への影響を確認するうえで注意したい情報になります。
医療機関や検査施設では、現在の在庫だけでなく、必要に応じて過去の使用記録と測定結果を照合することが重要です。
「高値方向の誤差」とは?
高値方向の誤差とは、比較する測定方法の結果に対して、数値が高い側にずれることです。「正誤差」の「正」は、正確という意味ではなく、プラス方向を指します。
今回比較に用いられたHPLC法は、高速液体クロマトグラフィーという分析方法です。
ただし、「どの患者でも一律に何%高くなる」「表示された数値から一定の値を引けば正しくなる」とは判断できません。患者側や薬局側で独自の補正式をつくることは避け、検査施設による評価につなげることが必要です。

HbA1cと血糖値は、見ている時間が違う
HbA1cは、血液中のヘモグロビンに糖が結びついた割合で、過去1~2か月程度の血糖の状態を反映する指標です。
一方、採血や自己測定で得られる血糖値は、その時点の状態を示します。
| 指標 | 主にわかること | 解釈するときの注意 |
|---|---|---|
| HbA1c | 過去1~2か月程度の血糖の状態 | 直近の改善・悪化が、すぐにすべて反映されるわけではない |
| 採血時の血糖値 | 採血した時点の血糖 | 食事からの時間や体調などで変わる |
| 血糖自己測定の記録 | 測定した時間帯ごとの血糖 | 測っていない時間帯の高血糖を見逃すことがある |
| CGMなどの記録 | 日内変動や低血糖・高血糖の傾向 | 測定条件やデータの欠測も含めて評価する |
空腹時血糖が落ち着いていても、食後の高血糖が続いている場合があります。また、最近になって血糖が改善した場合は、HbA1cがまだ高く残ることもあります。
そのため、1回の血糖値とHbA1cが合わないという理由だけで、検査試薬の問題とは決めつけられません。
偽高値が治療判断に影響する可能性
HbA1cが高値方向にずれると、糖尿病の診断や血糖管理状況の評価に影響する可能性があります。
一方、糖尿病診療では、HbA1cだけでなく、血糖値やその他の検査結果、患者さんの症状、これまでの経過を合わせて判断します。こうした継続的・総合的な評価が行われることから、製造販売業者は、今回の事象によって重大な健康被害が生じる可能性はないと評価しています。公表時点で、国内外とも関連する健康被害の報告はありません。
薬局では、HbA1cの上昇をきっかけに薬が追加・増量された場合、血糖記録との整合性や、治療変更後の低血糖症状を確認したいところです。これは今回報告された健康被害ではなく、測定誤差が治療判断に影響する可能性を踏まえた実務上の確認ポイントです。

薬局で確認したい5つのこと
1.前回からどのくらい変化したか
「高かった」という言葉だけでなく、今回と前回のHbA1c、検査日、血糖値を確認します。検査結果の用紙を見せてもらえると、経過を把握しやすくなります。
2.血糖の記録と整合しているか
血糖自己測定やCGMを利用している場合は、記録の期間と測定時間帯を確認します。「朝だけ測っている」のか、「食後も確認している」のかによって、読み取れる情報が変わります。
3.生活や体調に変化がなかったか
食事、間食、運動、飲み忘れ、感染症、ステロイドの開始など、実際に血糖が上がる要因も確認します。「変わりありませんか?」だけで終わらせず、具体的に聞くことが大切です。
4.最近、治療が強化されていないか
薬の追加・増量があった場合は、その時期と理由を確認します。低血糖らしい症状、食事量の低下、体重の変化も処方医に伝えたい情報です。
5.検査施設や測定方法が変わっていないか
転院、健診施設の変更、検査の外注先の変更などがなかったかを確認します。
薬局から試薬のロットを直接確認できないことも多いため、必要に応じて医療機関を通じ、検査部門や委託先に照合してもらいます。
糖尿病治療薬の安全な使い方は、コチラもあわせて確認してください。


処方医への情報共有は、数値と経過をセットに
情報提供では「回収があったので検査が間違っていると思います」と断定せず、確認できた事実を並べます。
例えば、次のように整理できます。
HbA1cの上昇を契機に治療が強化されています。患者さんの血糖測定記録と検査結果に差があるため、検査日・血糖記録・服薬変更の経過を共有します。ビトロス スライド HbA1cの回収情報との関連も含め、使用試薬・ロットの該当性と、必要に応じた再評価をご検討ください。
この文面は情報提供の例です。実際には検査日、数値、低血糖症状の有無などを加えます。
再検査が必要か、別の方法で測定するか、治療をどうするかは、処方医と検査部門が判断します。
クラスⅡは「対応しなくてよい」という意味ではない
クラスⅡは、一時的または治療可能な健康被害につながる可能性がある場合や、重篤な健康被害のおそれはまず考えられない場合に用いられる回収区分です。
重篤な被害が起きていないことと、確認が不要であることは別です。検査施設では対象在庫の確認に加え、過去の測定結果への影響についても製造販売業者の案内を確認する必要があります。
使用期限が切れたロットでも、期限内に使用した過去の結果に関係する可能性があります。「すでに在庫がない」だけで確認を終えないことが重要です。
患者さんへ伝えたいこと
今回の情報だけを理由に、全員がすぐ再検査を受けたり、糖尿病の薬をやめたりする必要があるとはいえません。
気になる場合は、検査結果と血糖の記録を用意し、受診先に相談してください。特に、最近HbA1cが急に上がって薬が増えた人や、治療変更後に低血糖らしい症状がある人は、その経過を伝えましょう。
自分の検査が対象だったかどうかは、検査結果の数値だけでは判断できません。検査を受けた医療機関を通じて、使用した試薬・ロットと測定時期を確認する必要があります。
今回の対象は検査試薬です。血糖自己測定器やCGM、糖尿病治療薬そのものの回収ではありません。薬を自己判断で中止・減量せず、気になる検査結果や症状があれば、血糖の記録と合わせて相談してください。
食事がとれない、嘔吐が続くなどの体調不良時には、個別に指示されたシックデイ対応も必要です。コチラも参考になります。

よくある質問
Q.糖尿病の薬が回収されたのですか?
今回の対象は、HbA1cを測るための体外診断用医薬品です。糖尿病の飲み薬やインスリンそのものの回収ではありません。
Q.HbA1cが高かったら、今回の回収が原因ですか?
数値だけでは判断できません。実際の血糖上昇や、HbA1cと血糖が反映する時間の違いなども考えられます。使用試薬とロットの確認が必要です。
Q.対象ロットで測ったら、必ず誤った値になりますか?
すべての測定結果に誤差があると断定する情報ではありません。個々の結果への影響は、検査施設で評価する必要があります。
Q.数値から一定の値を引けばよいですか?
自己判断で補正しないでください。誤差の大きさや影響を一律に扱うことはできません。
Q.薬は減らした方がよいですか?
回収情報だけを理由に、自分で減量・中止しないでください。血糖の記録や症状を共有し、処方医に相談してください。
Q.使用期限が切れたロットも関係しますか?
過去に期限内で使用された検査結果に影響していた可能性は、在庫の有無とは別に検討する必要があります。確認は検査施設と製造販売業者が行います。
まとめ
HbA1cは糖尿病診療に欠かせない指標ですが、数値と患者さんの状態を照らし合わせて評価することが大切です。
今回の回収情報で薬局が意識したいのは、HbA1cの急上昇、血糖記録との不一致、治療強化後の低血糖症状です。
数値だけを見て生活習慣や服薬状況に原因を求める前に、測定条件も確認する。患者さんの言葉と検査結果をつなぐことが、薬局からできる安全管理につながります。


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