GLP-1薬でテストステロンが上がる?肥満治療と男性ホルモンの研究を薬剤師が解説

こんにちは、薬剤師のしぐです。
GLP-1関連薬の話題というと、血糖値、体重、そして心臓や腎臓への影響を思い浮かべます。
ところが今回のテーマは、男性ホルモンの「テストステロン」。
「肥満症や糖尿病の治療薬を使った人の、テストステロンまで調べるんだ!」
研究って、こういうところが面白いですよね。普段は別々に考えている体重、血糖、ホルモンが、実はつながっているかもしれない。薬のニュースを追っていると、そんな発見に出会います。
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬で治療された男性について、治療中にテストステロン値が上昇したという研究が報告されています。
ただし、ここで「男性ホルモンを増やす薬が見つかった!」と話を進めるのは、まだ早い。
今回のポイントは、肥満や代謝の状態を改善することが、男性ホルモンの回復にもつながる可能性があるということです。面白がりつつ、どこまで分かったのかを整理してみます。
まず結論|期待できる変化はある。でも、男性ホルモンを上げる目的の薬ではない
今回の研究から受け取れることは、主に次の3つです。
- 肥満などを背景にGLP-1関連薬を使用した男性で、テストステロン値の上昇が観察されている。
- 薬そのものの直接作用と、減量や代謝改善を通じた変化は、まだ十分に切り分けられていない。
- テストステロンの数値が上がったことだけで、性欲、勃起機能、妊娠につながる力が改善したとは言えない。
**「肥満治療の効果を、体重計の数字以外にも広げて考える研究」**として読むと、この話題の面白さがよく見えてきます。
そもそも、GLP-1とGIPはどんなホルモン?
GLP-1とGIPは、食事に関連して分泌される「インクレチン」と呼ばれるホルモンです。血糖の状態に応じてインスリン分泌を促すなど、食後の代謝を調整します。
GLP-1受容体作動薬はGLP-1の働きを利用する薬で、代表的な成分の一つがセマグルチドです。一方、チルゼパチドはGIPとGLP-1の両方の受容体に作用します。
| 成分 | 薬の分類 | 国内で見かける主な製品名 |
|---|---|---|
| セマグルチド | GLP-1受容体作動薬 | リベルサス、オゼンピック、ウゴービ |
| チルゼパチド | GIP/GLP-1受容体作動薬 | マンジャロ、ゼップバウンド |
同じ成分でも、製品によって承認された病気、用量、使い方が異なります。例えばマンジャロの国内適応は2型糖尿病です。肥満症に用いるゼップバウンドには、対象となる患者の条件があります。

今回の研究をきっかけに、これらの薬を「テストステロンを上げるための薬」として使うことが認められたわけではありません。
どんな研究?約30%と約20%は、別々の報告

1,600人以上の男性を調べた学会報告
2026年の米国泌尿器科学会で発表された研究では、GLP-1関連薬で治療された男性の電子健康記録が解析されました。報道では、対象は1,600人以上と紹介されています。
学会抄録に示された総テストステロンの中央値は、治療前の320 ng/dLから治療後の419 ng/dLへ上昇。変化量は99 ng/dLで、治療前の中央値に対する割合を計算すると約31%です。
遊離テストステロンの中央値も、9.0 ng/dLから10.4 ng/dLへ上昇していました。
ここで注意したいのは、「総テストステロンの中央値が約30%上がった」という結果であって、一人ひとりが同じ割合で上がったという意味ではないこと。また、学会報告としての情報であり、研究方法の詳細や限界も含めて今後の評価を見ていく必要があります。
215人の男性を調べた後ろ向き研究
別の研究は、2026年に医学誌『Endocrine Practice』に掲載されています。
電子健康記録を使い、インクレチン関連薬の治療前と治療中に総テストステロンが測定されていた男性215人を解析しました。男性ホルモンに関連する治療を受けていた人は除外されています。
対象者は平均55歳、平均BMIは36.3。77%が2型糖尿病を持っていました。健康な男性一般を代表する集団ではない点が大切です。
| 評価項目 | 治療前 | 治療中 |
|---|---|---|
| 総テストステロン・215人の平均 | 332 ng/dL | 399 ng/dL |
| 遊離テストステロン・61人の平均 | 6.9 ng/dL | 8.0 ng/dL |
総テストステロンは平均67 ng/dL上昇し、治療前の平均値に対して約20%の増加でした。体重は約5%減少し、減量が大きい人ほどテストステロンの上昇も大きいという関連が見られました。
つまり、「30%と20%、どちらが正しい?」という話ではありません。別々の集団、別々の研究であり、中央値と平均値という集計方法にも違いがあります。
なぜ肥満の治療で、テストステロンが変わるの?

テストステロンは、性機能だけに関係するホルモンではありません。筋肉や骨、赤血球の産生などにも関わります。
肥満の男性では、テストステロンが低くなることがあります。その背景には、ホルモンを調整する仕組みやインスリン抵抗性、血液中でホルモンを運ぶたんぱく質など、複数の要素が関係します。
脂肪組織には、テストステロンをエストラジオールへ変換する「アロマターゼ」という酵素があります。これは肥満と性ホルモンの関係を考える一つの要素ですが、「脂肪が多いから男性ホルモンが全部女性ホルモンに変わる」という単純な仕組みではありません。
肥満の程度によっては、脳から精巣に送られるホルモンの指令も影響を受けます。さらに、SHBGという性ホルモン結合グロブリンの変化によって、総テストステロンの測定値が変わることもあります。
そのため、肥満に伴うテストステロン低下の一部では、体重や代謝の状態が改善すると数値が回復する可能性があります。こうした変化は、GLP-1関連薬が登場する前から、減量を伴う治療でも研究されてきました。
今回の研究は、その流れの中に位置づけると理解しやすいですね。
薬が直接作用した?それとも、減量の効果?
ここは、薬剤師として特に気になるところです。
「治療中にテストステロンが上がった」ことと、「薬が精巣などに直接働いてテストステロンを増やした」ことは、同じではありません。
今回の215人の研究では、減量とテストステロンの変化に関連がありました。これは、体重減少や代謝の改善が関与している可能性と整合する結果です。ただし、それだけで仕組みを確定することはできません。
後ろ向き研究では、診療の中で残された記録を調べます。薬を使う人と使わない人を無作為に分けた試験とは違い、食事や運動、病気の状態、他の治療、検査を受けた理由などの影響を完全には取り除けません。
そもそも、治療前後にテストステロンを測定していた人が対象です。測定していない人にも同じ変化が起こるとは限りません。採血時間などの条件も、数値の解釈には重要です。
今後、同程度に減量した人同士で治療法を比較するなど、薬固有の作用を検討する研究が積み重なると、さらに面白くなりそうです。
+α|「テストステロンが上がる」と「元気になる」は別に確かめたい
ニュースでは、つい「ホルモンが増えるなら、元気も出そう!」と考えたくなります。
でも、総テストステロン、遊離テストステロン、患者さんの症状は、それぞれ別の評価項目です。
総テストステロンは、血液中にあるテストステロン全体を測った値です。遊離テストステロンは、そのうちたんぱく質と結合していない部分。SHBGの状態などによって、両者が同じように動かないことがあります。
さらに、数値が改善しても、性欲、勃起機能、気分、筋力が同じ程度に改善するとは限りません。疲れやすさや気分の落ち込みにも、睡眠、貧血、甲状腺の病気、ストレスなど、さまざまな原因があります。
検査値の改善から、生活の改善までを一足飛びに結びつけない。 この視点は、薬のニュース全般を読むときにも役立ちます。
男性不妊や妊活にもつながる話?
テストステロンは精子を作る働きにも関わります。ただし、今回紹介したテストステロンの変化だけで、「妊娠しやすくなった」「男性不妊が治療できる」とは言えません。
精子の数、運動率、形、そして実際の妊娠や出産は、別に評価する必要があります。
もう一つ知っておきたいのは、外からテストステロンを補充する治療が、精子の産生を抑える場合があることです。「男性ホルモンが増えれば、妊活にも必ずよい」という理解には注意が必要です。
子どもを希望している人が、性機能やテストステロン低下を相談するときには、その希望も医師に伝えることが大切です。GLP-1関連薬も、テストステロン補充療法も、自己判断で開始・変更するものではありません。
保険薬局ではどう受け止める?体重だけを聞いて終わらせない

この研究を読んだからといって、薬局でGLP-1関連薬を使う男性全員にテストステロンの検査を勧める必要はありません。
実務につなげるなら、まずは「治療中の体調をもう少し広く聞く」というところでしょう。
1.減量の数字と一緒に、食事と生活を確認する
「体重が減りましたね」で終わらず、食事が取れているか、吐き気で食べられない日が続いていないか、日常生活で力が入りにくくなっていないかも確認します。
食欲が落ちることと、必要な栄養が取れなくなることは、分けて考えたいところです。
例えば、「量は減っていても、卵や魚、肉、大豆製品などは食べられていますか?」と聞くと、具体的な食事の状態が見えます。腎機能などによって食事の注意点は異なるので、一律に高たんぱく食を勧めるのではなく、必要に応じて医師や管理栄養士につなげます。
2.だるさを「ホルモンのせい」と決めつけない
治療中のだるさには、摂取不足や脱水、低血糖なども考える必要があります。インスリンやSU薬を併用している場合には、冷汗、ふるえ、強い空腹感などがないかを確認します。
強い腹痛が続く、嘔吐を伴う、水分が取れないといった場合は、通常の胃腸症状として我慢させず、速やかな医療機関への相談につなげます。
ホルモンの新しい研究に関心を持つことと、既知の副作用を丁寧に確認すること。その両方が大切です。
3.相談しにくい症状には、話せる場を作る
性欲や性機能の悩みは、受付で大きな声で話せる内容ではありません。相談があったら、プライバシーに配慮できる場所や方法を選びます。
「体調の変化や、診察で聞きづらかったことはありませんか?」という声かけも、一つの入り口になります。
症状が続く場合には、糖尿病や肥満の診療を担当する医師、泌尿器科、内分泌の診療につなげます。テストステロン低下の診断は、症状と検査結果を合わせて判断するもので、一般に朝の採血を繰り返して確認するなど、適切な評価が必要です。
4.患者さんに聞かれたら、こう説明する
「治療中に男性ホルモンの値が上がったという研究はあります。体重が減ったことや、代謝が改善したことが関係している可能性があります。ただ、ホルモンを上げる目的で使う薬というわけではなく、全員に同じ変化が起きるかも分かっていません。今の治療目的に沿って使いながら、体調の変化を確認していきましょう。」
期待を持てる話題だからこそ、何が期待できて、何がまだ分からないのかを一緒に伝えたいですね。

しぐのまとめ|体重の向こう側まで見る研究は、やっぱり面白い
GLP-1関連薬を使った人のテストステロンまで調べる。最初は「おもしろい研究をするなぁ」と思いました。
でも考えてみると、肥満、糖尿病、ホルモン、筋肉、生活の調子は、患者さんの体の中でつながっています。診療科や検査項目ごとに分けて見ているのは、医療者側の都合もあるのかもしれません。
今回の研究は、肥満や代謝の治療によって、男性ホルモンにも好ましい変化が起こる可能性を示しています。一方で、薬の直接作用、症状への効果、妊孕性への影響は、引き続き確かめる必要があります。
結論は、肥満治療を「何kg減ったか」だけで評価せず、体調や生活の変化まで見ていきたい、ということ。
保険薬局でも、血糖と体重に加えて、食事、だるさ、筋力の変化、相談しにくい悩みまで拾えると、フォローアップが一段深くなりそうです。
研究の面白さを楽しみながら、患者さんの毎日にどうつなげるかを考える。今回のニュースは、そのよいきっかけになりますね。
FAQ
Q1.GLP-1薬を使えば、誰でもテストステロンが上がりますか?
そうとは言えません。今回の報告は特定の患者集団で観察された変化です。肥満や糖尿病のない人、もともとの値が正常な人にも同じ効果があるとは限りません。
Q2.約30%と約20%の上昇は、どう違いますか?
別の研究の結果です。学会報告では総テストステロンの中央値が320→419 ng/dL、215人の論文では平均値が332→399 ng/dLでした。個人の上昇率を保証する数字ではありません。
Q3.テストステロンを増やす目的でマンジャロを使えますか?
今回の報告は、その使い方を承認するものではありません。マンジャロの国内適応は2型糖尿病であり、治療目的と承認された適応に沿った判断が必要です。
Q4.男性更年期やEDの治療薬になるのですか?
今回の研究だけでは、そのようには位置づけられません。ホルモンの数値と症状への効果は別に評価する必要があります。気になる症状が続く場合は医師に相談してください。
Q5.テストステロンが上がれば、男性不妊も改善しますか?
数値の上昇だけでは判断できません。精液所見や実際の妊娠・出産への影響は別に検討する必要があり、不妊治療を置き換える根拠にはなりません。
Q6.GLP-1薬の使用中は、ホルモン検査が必要ですか?
今回の研究を理由に、全員へ一律に検査を行う必要性が示されたわけではありません。症状や患者背景を踏まえ、医師が検査の必要性を判断します。


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