マンジャロ、美容目的使用後などに副作用疑い35件|「痩せる注射」で終わらせずゼップバウンドと診察・フォローを

こんにちは、薬剤師のしぐです。
「マンジャロを使えば簡単に痩せられる」
SNSや美容クリニックの広告で、そんな言葉を見かける機会が増えました。
しかし2026年9月22日、2型糖尿病治療薬「マンジャロ」を適応外のダイエット・美容目的などで使用した後に起きた副作用疑いの報告が、販売開始後の3年余りで35件あったと報じられました。
報告には、低血糖、膵炎、ケトアシドーシスなどが含まれるとされています。
ここで大切なのは、35件という数字だけを見て必要以上に怖がることでも、「35件しかない」と軽く考えることでもありません。
マンジャロは、本来は2型糖尿病の治療薬です。
肥満症を治療するのであれば、同じ有効成分チルゼパチドを含み、肥満症に対する有効性・安全性を別の臨床試験で確認した「ゼップバウンド」があります。
もちろん、ゼップバウンドなら希望者全員が使えるわけではありません。肥満症としての診断や合併症、BMI、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られないことなど、適応をきちんと確認する必要があります。
だからこそ、まずはしっかり診察する。
肥満症として薬物治療が必要なら、適応のあるゼップバウンドを適正に処方する。
そして、マンジャロでもゼップバウンドでも、処方後のフォローと副作用対策までを治療として引き受ける。
今回のニュースは、その当たり前を改めて考えさせる内容でした。
今回わかった「副作用疑い35件」とは
共同通信の報道によると、マンジャロを適応外のダイエット・美容目的などで使用した後に起きた副作用疑いの報告が、販売開始後の3年余りで35件確認されました。
ただし、「副作用疑い報告」については次の点に注意が必要です。
- マンジャロとの因果関係が確定した35件という意味ではない
- 実際に使用した人数全体が分からないため、発生率は計算できない
- 同じ症例について複数の事象が報告される場合がある
- 報告されていない症例が存在する可能性もある
つまり、35件という数字だけで危険性の大きさを断定することはできません。
一方で、低血糖や膵炎、ケトアシドーシスなど、重症化し得る症状が疑われていることは軽視できません。
厚生労働省も2026年6月、美容・痩身目的でのGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用について注意喚起しました。適応外で使用した場合の安全性・有効性は確認されておらず、思わぬ有害事象につながるおそれがあるとしています。
また、美容・痩身目的の適応外使用で健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済制度の給付対象にならない可能性が非常に高い点にも注意が必要です。
マンジャロとゼップバウンドは何が違う?
マンジャロとゼップバウンドは、どちらも有効成分が「チルゼパチド」の週1回皮下注射薬です。

しかし、承認されている治療対象が違います。
| 製品名 | 有効成分 | 承認された主な対象 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| マンジャロ | チルゼパチド | 2型糖尿病 | 糖尿病治療薬 |
| ゼップバウンド | チルゼパチド | 一定の条件を満たす肥満症 | 肥満症治療薬 |
「同じ成分なら、どちらを使っても同じでは?」と思うかもしれません。
ですが、医薬品の承認は成分名だけで決まるものではありません。対象となる患者、投与方法、有効性、安全性を臨床試験で確認し、その範囲で使うことが前提です。
日本肥満学会などのステートメントでも、マンジャロとゼップバウンドは同じ成分を含むものの、ゼップバウンドは肥満症に対して独立した臨床試験で有効性・安全性を検証した別製剤と整理されています。
ゼップバウンドも「美容目的のダイエット薬」ではありません。
肥満症という疾患を診断し、食事療法・運動療法だけでは十分な効果が得られず、薬物治療が必要と判断された人に使用する薬です。単に数kg落としたい、見た目を細くしたいという目的で使う薬ではありません。
「しっかり診察して、ゼップバウンドで処方しようよ」と思う
今回の報道を見て、率直に思うことがあります。
肥満症として治療が必要なのであれば、きちんと診察し、適応を確認したうえで、肥満症治療薬として承認されているゼップバウンドを使おうよ、と。
血糖値やHbA1cだけでなく、BMI、血圧、脂質、肝機能、腎機能、肥満に関連する健康障害、膵炎や胆石症の既往、併用薬、妊娠可能性、食事量などを確認する。
その人に薬物治療が本当に必要なのか、別の病気が隠れていないか、薬を開始した後に安全に追跡できるかまで考える。
ここまで含めて「診察」だと思います。
オンライン診療そのものが悪いわけではありません。自由診療も、すべてが不適切というわけではありません。
ただ、簡単な問診だけで薬を送り、その後の状態確認がほとんどないのであれば、それは治療というより「販売」に近づいてしまいます。
医師が自由診療へ向かわざるを得ない制度にも目を向けたい

美容目的の適応外使用を「処方する医師のモラル」だけで片付けてよいのか、という疑問も残ります。
保険診療では、人件費や物価が上昇しても価格を医療機関側が自由に決められません。診療報酬によって収入の枠組みが決まり、診療科や医療機関の規模によっては、丁寧に診療しても経営が厳しくなりやすい構造があります。
その一方、自由診療は医療機関が価格を設定できるため、経営上の魅力が大きくなります。
だからといって、適応外処方や不十分な安全管理が許されるわけではありません。
でも、医師個人だけを責めて終われば、同じことは繰り返されます。
保険診療を丁寧に行うほど経営が成り立ちにくくなり、収益性の高い自由診療へ人や資本が流れやすくなるのであれば、まず問うべきは、その流れを生む医療制度の設計ではないでしょうか。
必要なのは、自由診療を一括して否定することではなく、少なくとも次の仕組みだと思います。
- 適応外使用であることを分かりやすく説明する
- 国内で承認された治療選択肢との違いを説明する
- 費用だけでなく、リスクや副作用、救済制度の対象外となる可能性を伝える
- 開始前の診察・検査と、開始後の定期的なフォローを必須にする
- 緊急時の連絡先と受診先を明確にする
- 副作用が疑われた場合に、医療者が適切に報告する
利益を出すこと自体が悪いのではありません。
問題なのは、収益性と安全性を比べたときに、安全性が後回しになってしまう構造です。
理由が何であれ、使った後のフォローアップは必要
糖尿病治療、肥満症治療、自由診療による適応外使用――使用理由がどれであっても、チルゼパチドを使った後のフォローアップは必要です。

「自己責任で使ったのだから」で切り離してよい副作用はありません。
毎回確認したい症状
- 吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛
- 食事量と水分摂取量
- 急激な体重減少
- ふらつき、冷汗、動悸、強い空腹感などの低血糖症状
- 尿量の減少、口の渇き、脱水症状
- 注射部位の腫れ、赤み、かゆみ
すぐに医療機関へ相談したい症状
- 嘔吐を伴う、持続する激しい腹痛:急性膵炎の可能性
- 強い腹痛、発熱、黄疸:胆嚢炎・胆管炎などの可能性
- 高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐:イレウスの可能性
- 冷汗、震え、意識がぼんやりする:重い低血糖の可能性
- 強い口渇、多尿、吐き気、腹痛、深く速い呼吸、意識障害:ケトアシドーシスなどの可能性
- 嘔吐や下痢が続き、水分が取れない、尿が極端に少ない:脱水・急性腎障害の可能性
- 息苦しさ、顔や喉の腫れ、全身のじんましん:重いアレルギー反応の可能性
マンジャロの電子添文では、中止後も作用が持続する可能性があるため、血糖変動や副作用に注意するよう求めています。
「具合が悪いから注射をやめた。もう大丈夫」とは限りません。
症状がある場合は、自己判断だけで済ませず、処方元や医療機関へ相談してください。
薬局薬剤師が関われること
自由診療では薬が院内から直接渡されたり、配送されたりすることがあり、保険薬局が介在しないケースも少なくありません。
だからこそ、薬剤師による安全確認の機会が失われない仕組みが必要だと感じます。
薬局でチルゼパチド製剤に関わるときは、少なくとも次の点を確認したいところです。
- 何の治療目的で使用しているか
- 製品名、用量、開始日、増量時期
- マンジャロとゼップバウンドなど、同一成分製剤を重複していないか
- インスリン、SU薬、速効型インスリン分泌促進薬などとの併用
- 食事量、水分量、体重の変化
- 嘔吐、下痢、便秘、腹痛の程度
- 低血糖症状の有無と対処方法の理解
- 膵炎、胆石症、イレウスなどを疑う症状
- 次回診察日と、緊急時の連絡先
「薬を受け取れた」で終わらず、使用後の生活まで追う。
理由はどうであれ糖尿病治療薬を使うのであれば、その後の副作用対策とフォローアップは必要です。
これは、保険診療か自由診療かとは別の、安全な医療の最低条件だと思います。

まとめ|問題はマンジャロだけではなく、診察からフォローまでの“抜け”
マンジャロを美容・痩身目的などで使用した後の副作用疑いが、販売開始後の3年余りで35件報告されました。
35件は因果関係が確定した件数でも、発生率でもありません。しかし、低血糖、膵炎、ケトアシドーシスなどが疑われている以上、「痩せる注射」として安易に扱ってよい薬ではありません。
肥満症として治療が必要なら、しっかり診察し、適応のあるゼップバウンドを含めて治療を考える。
処方したら、体重だけでなく食事量、水分量、消化器症状、低血糖、膵炎、脱水などを継続的に確認する。
そして、医師が収益性の高い自由診療へ向かわざるを得ない背景があるのなら、個人のモラルだけではなく、保険診療を丁寧に続けられる制度になっているのかも議論する。
処方するところだけ切り取るのではなく、診察、適応判断、説明、投与、フォロー、副作用報告までを一つの治療として考える必要があります。
「痩せたかどうか」だけではなく、「安全に治療を続けられているか」まで見る。
今回の35件は、その当たり前が抜け落ちていないかを問い直すニュースだと感じました。

FAQ
Q1. マンジャロはダイエット目的で使える薬ですか?
マンジャロの国内で承認された効能・効果は2型糖尿病です。美容・痩身・ダイエット目的での使用は適応外であり、その目的での安全性・有効性は確認されていません。
Q2. ゼップバウンドなら誰でも痩せる目的で使えますか?
いいえ。ゼップバウンドは美容目的の薬ではなく、一定の条件を満たす肥満症の治療薬です。BMIや肥満関連の健康障害、食事療法・運動療法の実施状況などを医師が評価し、対象となるか判断します。
Q3. マンジャロとゼップバウンドは同じ薬ですか?
有効成分はいずれもチルゼパチドですが、承認された治療対象が異なります。マンジャロは2型糖尿病、ゼップバウンドは一定の条件を満たす肥満症に用います。両剤を併用してはいけません。
Q4. 「副作用疑い35件」は、マンジャロが原因と確定した件数ですか?
確定件数ではありません。副作用との関連が疑われて報告された症例であり、個々の因果関係が確立しているとは限りません。また、使用人数が分からないため、この数字から発生率を計算することもできません。
Q5. 吐き気や下痢が出たら、次の診察まで待ってよいですか?
症状の強さや持続期間によります。水分を取れない、嘔吐や下痢が続く、尿が少ない、強い腹痛がある場合は、次回診察を待たず処方元へ連絡してください。持続する激しい腹痛や意識障害、呼吸異常などがあれば、速やかな受診が必要です。
Q6. 美容目的の適応外使用でも副作用被害救済制度を利用できますか?
適応外の美容・痩身目的で使用した場合、適正使用と認められず、救済給付の対象にならない可能性が非常に高いと厚生労働省は注意喚起しています。


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