「ウゴービを打って視力を失った」NAIONとは?GLP-1薬と失明リスクをどう考える【2026年最新】

こんにちは、薬剤師のしぐです。
「ウゴービを打って視力を失った」――。
米国で、ウゴービやオゼンピックなどを使用した後に視力を失ったとして、製薬企業を相手取る訴訟が相次いでいると報じられました。
そこで出てきた病名が、**NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)**です。
正直にいうと、薬剤師として働いていても「GLP-1受容体作動薬の副作用」としてNAIONを強く意識していた人は、まだ多くないのではないでしょうか。
ただし、ここで大切なのは、訴訟が起きていることと、薬が原因だと科学的に確定したことは同じではないという点です。一方で、欧州ではすでにセマグルチドの「極めてまれな副作用」と判断されています。
この記事では、NAIONとはどのような病気なのか、セマグルチドとの関連はどこまで分かっているのか、そして薬局で患者さんに何を伝えるべきかを整理します。
まず結論|NAIONは「極めてまれ」でも見逃せない
- NAIONは、視神経への血流が不足して起こる視神経障害
- 典型的には、突然・痛みなく・片眼の視力低下や視野欠損が起こる
- 失われた視力が十分に戻らないこともある
- 欧州医薬品庁(EMA)は、セマグルチドの「極めてまれな副作用」と判断
- 頻度の目安は最大1万人に1人
- ただし、研究ごとに結果は異なり、個々の症例で因果関係を断定するのは難しい
- 突然の見え方の変化があれば、自己判断で様子を見ず、速やかに眼科で評価を受ける
治療効果が大きい薬だからこそ、「怖いから全員中止」でも「まれだから説明不要」でもありません。利益とリスクの両方を正しく伝えることが重要です。
NAIONとは?視神経の血流が不足して起こる病気

NAIONは、英語の Non-Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy の略です。日本語では「非動脈炎性前部虚血性視神経症」と呼ばれます。
目で受け取った情報を脳へ届ける視神経の前方部分で血流が不足し、視神経が障害される病気です。
主な症状
- 片眼の急な視力低下
- 視野の上半分・下半分など、一部が欠ける
- かすむ、暗く感じる
- 色が分かりにくくなる
- 多くは目の痛みを伴わない
「痛くないから少し様子を見よう」と考えてしまいやすい点には注意が必要です。
NAIONそのものに確立した治療法はなく、視力障害が残ることがあります。だからこそ、急な症状が出たときは緊急性を意識する必要があります。
なぜウゴービやオゼンピックが注目されたのか
ウゴービ、オゼンピック、リベルサスの有効成分は、いずれもセマグルチドです。
| 製品名 | 有効成分 | 日本での主な位置づけ |
|---|---|---|
| ウゴービ皮下注 | セマグルチド | 肥満症治療薬 |
| オゼンピック皮下注 | セマグルチド | 2型糖尿病治療薬 |
| リベルサス錠 | セマグルチド | 2型糖尿病治療薬 |
| マンジャロ皮下注 | チルゼパチド | 2型糖尿病治療薬 |
| ゼップバウンド皮下注 | チルゼパチド | 肥満症治療薬 |
今回、欧州当局がNAIONを副作用として位置づけた対象は、セマグルチドを含む製品です。
マンジャロやゼップバウンドは同じインクレチン関連薬として並べて語られやすいものの、有効成分はチルゼパチドであり、セマグルチドと同一ではありません。「GLP-1系の薬はすべてNAIONが確定した」と広げて理解しないことが大切です。
欧州は「極めてまれな副作用」と判断
EMAの安全性委員会は、非臨床試験、臨床試験、市販後データ、医学文献などを評価し、2025年6月、NAIONをセマグルチドの極めてまれな副作用と結論づけました。
頻度区分は、最大で1万人に1人です。欧州では、オゼンピック、リベルサス、ウゴービの製品情報にNAIONを追加するよう勧告されました。
WHOも同月、セマグルチド使用中の突然の視力低下について注意を呼びかけています。英国では2026年2月、突然の視力喪失や部分的な視力低下を訴えた患者を、緊急に眼科へ紹介するよう医療従事者へ案内しました。
「リスク2倍」「4~7倍」でも、数字だけで判断できない理由

セマグルチドとNAIONの関連を調べた観察研究では、リスク上昇を示したものがあります。
デンマークとノルウェーの住民データを使った研究では、2型糖尿病に対してセマグルチドを開始した人で、SGLT2阻害薬を開始した人よりNAIONが多い傾向が示されました。ただし、発症そのものは少数でした。
一方、米国の眼科専門施設の研究では、より大きな相対リスクが報告されています。しかし、眼科専門施設にはもともと目の病気を持つ人が集まりやすく、一般集団より発症率が高く見える可能性があります。
研究結果がそろわない背景には、次のような事情があります。
- 糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患などがNAIONのリスクになり得る
- 睡眠時無呼吸症候群も関連する
- GLP-1薬を使う人は、こうした基礎疾患を複数持つことが多い
- 観察研究では、薬の影響と患者背景の影響を完全には分けにくい
- 対象集団、比較薬、追跡期間、NAIONの診断方法が研究ごとに異なる
つまり、相対リスクが何倍かだけでなく、もともとの発症頻度、研究対象、絶対リスクを一緒に見る必要があります。
米国の訴訟は「因果関係の確定」を意味しない
報道では、セマグルチド使用後にNAIONを発症したとして、製薬企業に損害賠償を求める訴訟が多数起こされているとされています。
しかし、訴訟は「原告が因果関係や警告不足を主張している段階」を含みます。提訴された件数を、そのまま医学的に確認された副作用件数として数えることはできません。
また、海外の補償制度で補償が認められた事例も、すべての使用者に同じ因果関係が成立することを意味するものではありません。裁判、安全性評価、行政上の補償は、それぞれ目的と判断基準が異なります。
ニュースの見出しに驚いたときほど、訴訟・副作用報告・規制当局の評価を分けて読むことが必要です。
マンジャロの副作用報告と共通すること|利用者が増えると見えてくるリスクがある
先日、マンジャロを美容目的で使用した後の副作用疑いが35件報告されたというニュースもありました。
マンジャロとセマグルチドは別の成分であり、今回のNAION情報をそのままマンジャロに当てはめることはできません。それでも、安全性情報を見るうえで共通する点があります。
それは、使う人が増えれば、臨床試験だけでは捉えきれなかった非常にまれな有害事象や、実際の使われ方に伴う問題が見えてくるということです。
利用者が100万人規模になれば、1万人に1人の事象でも一定数が表面化します。さらに、適応外使用、急速な増量、医療機関をまたいだ処方、個人輸入などが加わると、安全なフォローが難しくなります。
副作用報告が増えたという情報は、直ちに「薬が以前より危険になった」という意味ではありません。
- 使用者そのものが増えた
- 医療者や患者の認知が高まり、報告されやすくなった
- 新しい患者層に使用が広がった
- 長期使用後に起こる事象が見え始めた
- 本当に薬との関連があるシグナルが表面化した
こうした可能性を切り分けながら評価するのが、製造販売後の安全対策です。
※マンジャロの美容目的使用と副作用疑い35件については、関連記事「マンジャロの美容目的使用後に副作用疑い35件」で詳しく整理しています。
薬局で確認したいこと|「見え方に変化はありませんか?」

GLP-1関連薬では、悪心、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状が服薬指導の中心になりがちです。しかし、セマグルチドでは視覚症状も確認項目に加える価値があります。
患者さんへの声かけ例
急に片方の目が見えにくくなった、視野の一部が欠けた、暗く感じるなど、突然の見え方の変化はありませんか?
そのような症状が出た場合は、痛みがなくても次の受診を待たず、すぐに医療機関へ相談してください。
特に背景を確認したい患者
- 糖尿病がある
- 高血圧や脂質異常症がある
- 心血管疾患の既往がある
- 睡眠時無呼吸症候群がある、または強いいびきや日中の眠気がある
- 過去にNAIONを発症したことがある
- もともと視力低下や視野異常がある
こうした項目に当てはまるからといって、直ちに薬を使えないわけではありません。処方医・眼科医と情報を共有し、症状を見逃さないための材料になります。
症状が出たら自己判断で中止する?
突然の視力低下や視野欠損が出た場合、最優先は速やかな眼科評価です。処方元にも連絡してください。
一方、症状がない人が報道だけを理由に自己判断で中止すると、血糖管理や体重管理、心血管リスク低減など、治療で得られていた利益を失う可能性があります。
「怖いからすぐやめる」のではなく、治療目的、患者背景、代替治療の有無を含めて医師と相談することが大切です。
まとめ|新しい副作用情報は、怖がるより正しく使う
NAIONは、突然の視力低下や視野欠損を起こし、回復しにくいこともある視神経障害です。欧州では、セマグルチドの極めてまれな副作用と判断されました。
今回のニュースで、初めてNAIONという名前を知った人も多いと思います。
マンジャロの美容目的使用後の副作用疑いもそうですが、薬の使用者が急速に増えると、発売時には十分に見えなかった安全性情報が少しずつ集まってきます。これは新薬に限った話ではなく、薬を多くの人が使うようになった後に安全性を評価し続ける「育薬」の一部です。
大切なのは、刺激的な見出しだけで薬を怖がることではありません。
突然、片方の目が見えにくい。視野が欠ける。痛みはないけれど、いつもと違う。
そんな症状を「次の受診まで様子見」にしないこと。そして医療者側も、消化器症状だけでなく、見え方の変化を一言確認することです。
効果の大きな薬を安全に使い続けるために、増えていく副作用情報を冷静に受け止め、日々のフォローへつなげていきたいですね。
FAQ
Q1. ウゴービやオゼンピックを使うと失明するのですか?
必ず失明するわけではありません。欧州ではNAIONをセマグルチドの「極めてまれな副作用」と判断し、頻度は最大1万人に1人とされています。ただし、突然の視力低下や視野欠損があれば、速やかな眼科受診が必要です。
Q2. NAIONの初期症状は何ですか?
典型的には、痛みを伴わない片眼の突然の視力低下、視野の一部が欠ける、暗く見える、色が分かりにくいといった症状です。
Q3. マンジャロでもNAIONが起こりますか?
マンジャロの有効成分はチルゼパチドです。今回、欧州当局が極めてまれな副作用と判断した対象はセマグルチドであり、同一視はできません。今後の安全性情報は継続して確認する必要があります。
Q4. 怖いので薬を中止したほうがよいですか?
症状がない場合に、報道だけを理由として自己判断で中止することは勧められません。治療の利益もあるため、心配な点は処方医や薬剤師に相談してください。急な視覚症状がある場合は、眼科への速やかな相談が優先です。
Q5. 眼科検診は全員に必要ですか?
一律に全員へ必須とする国内の統一的な案内があるわけではありません。眼疾患の既往やNAIONのリスク因子がある場合は、処方医や眼科医と相談するとよいでしょう。
Q6. 副作用報告が増えたのは、薬が危険になったからですか?
必ずしもそうではありません。利用者の増加、認知向上、新しい患者層への使用拡大、長期使用データの蓄積などでも報告は増えます。報告数だけでなく、使用者数、患者背景、比較群、規制当局の評価を合わせて見る必要があります。

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