エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)とは?2026年の適応・作用機序・副作用を薬剤師目線で整理
こんばんは、薬剤師のしぐです。
今回は、**エンハーツ®点滴静注用100mg(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)**について。
実はこの記事、最初に書いたのは2020年。
当時は、
「HER2陽性乳がんに登場した新しいADC!」
「胃がんへの適応追加が申請された!」
というタイミングでした。
ところが、それから6年。
改めて2026年の電子添文を見てみると……
いや、エンハーツの立ち位置、めちゃくちゃ変わってる。
乳がんだけを見てもHER2陽性だけではありません。HER2低発現、さらにHER2超低発現まで対象が広がっています。
そして胃がん、HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん、さらには2026年3月にHER2陽性の進行・再発固形がんという、がん種横断的な適応まで追加されています。
ここまで変わっているなら、部分修正ではもったいない。
ということで今回は、エンハーツについて、
「そもそもどんな薬?」
「ADCって何?」
「今はどのがんに使える?」
「乳がんのHER2-low、HER2-ultralowって何?」
「5.4mg/kgと6.4mg/kgはどう使い分ける?」
「薬剤師が絶対に押さえたい副作用は?」
このあたりを、2026年版としてまとめ直していきます。
エンハーツとは?まずは基本情報
エンハーツ点滴静注用100mgの一般名は、
トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)
です。
分類としては、
抗HER2抗体+トポイソメラーゼⅠ阻害薬を組み合わせた抗体薬物複合体(ADC:Antibody Drug Conjugate)
になります。
販売開始は2020年5月。2026年3月には電子添文が第13版へ改訂され、効能・効果だけでなく用法・用量にも変更が入っています。
エンハーツの作用機序|ADCって何?
エンハーツを理解するときに、まず押さえておきたいのがADCです。
ADCは簡単にいうと、
「がん細胞を見つける抗体」と「がん細胞を攻撃する薬」をくっつけた薬
です。
エンハーツの場合、抗体部分がHER2を認識し、その抗体にトポイソメラーゼⅠ阻害作用を持つ薬物部分が結合しています。HER2を目印にがん細胞へ結合したあと細胞内へ取り込まれ、薬物部分が作用することで腫瘍細胞の増殖を抑えます。PMDAの電子添文でも、エンハーツは抗HER2抗体とカンプトテシン誘導体から構成されるADCとして示されています。
「抗体が運び屋になって、強力な薬をがん細胞へ届ける」
と考えると分かりやすいですね。
この仕組みがあるからこそ、エンハーツはHER2が強く発現しているHER2陽性だけではなく、HER2低発現という領域まで治療対象を広げてきたわけです。

【2026年版】エンハーツの適応はここまで広がった
ここが旧記事から最も大きく変わったところ。
2026年3月改訂の電子添文では、エンハーツには次の適応があります。
| 対象 | 2026年現在の効能・効果 |
|---|---|
| HER2陽性乳がん | 化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳癌 |
| HR陽性+HER2低発現・超低発現乳がん | ホルモン受容体陽性かつHER2低発現または超低発現の手術不能または再発乳癌 |
| HER2低発現乳がん | 化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳癌 |
| 非小細胞肺がん | がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLC |
| 胃がん | がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃癌 |
| HER2陽性固形がん | HER2陽性の進行・再発固形癌。ただし標準的な治療が困難な場合 |
2020年の記事では「現在は乳がんのみ」「胃がんへ追加申請」という内容でした。
それが6年後にはここまで広がっている。
エンハーツの進化そのものが分かる記事になりました。
HER2陽性だけじゃない!HER2低発現・超低発現とは?
ここは2026年版ではぜひ入れておきたいところ。
以前は乳がんのHER2を、
HER2陽性か、HER2陰性か
というイメージで捉えることが多かったと思います。
しかしエンハーツの登場によって、「HER2が少し発現している」こと自体が治療選択につながる時代になっています。
DESTINY-Breast06試験では、HER2低発現はIHC 1+、またはIHC 2+かつISH陰性として組み入れられました。
さらにHER2超低発現では、IHC 0のうち、腫瘍細胞の10%以下にごく弱い不完全な膜染色が認められる患者が対象となっています。
これは結構大きな変化ですよね。
「HER2陰性だからHER2を狙った治療は関係ない」
とは、単純には言えなくなってきています。
2025年8月には、日本でもホルモン受容体陽性かつHER2低発現または超低発現の、化学療法未治療の手術不能・再発乳がんに対する適応が追加されました。
DESTINY-Breast06では、HER2低発現集団の無増悪生存期間中央値はエンハーツ群13.2か月、医師選択化学療法群8.1か月で、ハザード比は0.62でした。
こういうところを見ると、
「HER2をどのくらい発現しているのか」
を確認する意味が、以前よりずっと大きくなっています。
胃がんは2026年に「二次治療」へ
旧記事で書いていた胃がんも大きく変わりました。
当時は、
「サードライン以降のHER2陽性胃がんへの追加が期待されている」
という内容。
現在はもちろん承認済み。
さらに2026年3月には、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がんについて、二次治療で使用できるよう電子添文が改訂されています。
ただし、電子添文にはトラスツズマブを含む化学療法による治療歴のない患者での有効性・安全性は確立していないこと、一次治療としての有効性・安全性は確立していないことも記載されています。
ここは「胃がんならエンハーツ」と単純に覚えないようにしたいところです。
2026年3月、HER2陽性の「固形がん」へ適応拡大
そして今回リライトしていて、一番「時代が変わったな」と感じるのがここ。
2026年3月23日、
HER2陽性の進行・再発固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)
という適応が追加されました。
つまり、特定のがん種だけではなく、**HER2というバイオマーカーを軸に治療を考える「がん種横断的治療」**へエンハーツが広がったということ。
電子添文の臨床成績にはHERALD、DESTINY-PanTumor02、DESTINY-Lung01、DESTINY-CRC02などの試験が掲載されています。
2020年の記事で、
「大腸がんや非小細胞肺がんでも試験が行われている」
と書いていたものが、6年後には実際の適応につながっている。
こういう過去記事のリライト、面白いですね。
エンハーツの用法・用量|5.4mg/kgと6.4mg/kgに注意
ここも薬剤師としてしっかり整理しておきたいポイント。
エンハーツはすべて同じ用量ではありません。
| 対象 | 通常投与量 |
|---|---|
| 乳がん | 5.4mg/kg |
| HER2変異陽性NSCLC | 5.4mg/kg |
| 胃がん | 6.4mg/kg |
| HER2陽性固形がん・胃がん以外 | 5.4mg/kg |
| HER2陽性固形がん・胃がん | 6.4mg/kg |
いずれも基本は3週間間隔で投与。
初回は90分かけて点滴静注し、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降は30分まで短縮できます。
つまり覚え方としては、
「基本5.4mg/kg、胃がんは6.4mg/kg」
が分かりやすい。
これは現場でレジメンを見るときにも結構大切ですね。
エンハーツで最も注意したい副作用は間質性肺疾患
エンハーツを勉強するとき、絶対に外せないのが**間質性肺疾患(ILD)**です。
電子添文の警告にも明記されており、死亡に至った症例も報告されています。
投与開始前には胸部CTと問診を行い、投与中も呼吸状態、咳、発熱などの症状確認に加え、SpO₂、胸部X線、胸部CTなどによる観察が求められています。
患者さんへの確認では、
「息切れはないですか?」
「新しく咳が出ていませんか?」
「熱はありませんか?」
というシンプルな問いかけが、ものすごく大切。
調剤薬局で治療そのものを行っていなくても、支持療法薬や併用薬を処方されている患者さんと接することがあります。
そんなとき、
「エンハーツ治療中」
という情報を見たら、咳・息切れ・発熱をちょっと意識する。
これだけでも薬局薬剤師としてできることはあると思っています。

【重要】ILDの再開基準は旧記事から変わっている
ここ、今回の完全リライトでかなり重要。
旧記事では、
「ILDが発現した場合はGradeにかかわらず投与中止。再開できない」
としていました。
しかし、現在の電子添文では変わっています。
Grade 1では投与を中止し、原則として再開しません。
ただし、すべての所見が消失し、治療上の有益性が危険性を大きく上回ると判断された場合には、1用量レベル減量して再開できる場合があります。
一方、Grade 2~4では投与中止です。Grade 1で再開後にILDが再発した場合も中止となります。
これは2020年の記事をそのまま残しておくと、医療情報としてかなり気になる部分。
今回リンク切れチェックからこの記事を見つけられたのは、ある意味すごく良かったと思います。
間質性肺疾患だけではない!薬剤師が確認したい副作用
2026年3月の電子添文では、重大な副作用として間質性肺疾患11.6%、骨髄抑制56.7%、Infusion reaction 1.2%が記載されています。悪心、嘔吐、疲労、脱毛症なども比較的多くみられます。
また、LVEF低下にも注意が必要で、投与開始前の心機能確認と、必要に応じた投与中の心機能評価が求められています。
点滴治療に関連するInfusion reactionについては、しぐブログの
もあわせてどうぞ

薬局薬剤師だからこそ「院内の注射抗がん薬」を知っておきたい
「エンハーツは病院で点滴する薬なんだから、薬局では関係ないのでは?」
と思うかもしれません。
でも、外来がん治療ではそうとも言い切れないんですよね。
患者さんはエンハーツを病院で投与したあと、薬局で制吐薬、便秘薬、鎮痛薬、ステロイドなどを受け取ることがあります。
そのとき、
何の抗がん薬を使っているのか。
どんな副作用に注意する治療なのか。
次回治療までに薬局から拾える情報はないか。
ここまで分かっていると、服薬指導の質はかなり変わってきます。
外来がん治療における薬局でのフォローについては、こちらの2026年版もあわせてどうぞ。

そしてHER2陽性乳がんでは、点滴薬だけではなく内服薬という選択肢もあります。

エンハーツと並べて読むと、現在のHER2治療がかなり整理しやすいと思います。
エンハーツを薬剤師目線でまとめると
エンハーツは、抗HER2抗体にトポイソメラーゼⅠ阻害作用を持つ薬物を結合させたADC。
2020年の発売当初と比較すると適応は大きく広がり、2026年現在ではHER2陽性乳がんだけでなく、HER2低発現・超低発現乳がん、HER2変異陽性NSCLC、HER2陽性胃がん、そしてHER2陽性の進行・再発固形がんまで対象となっています。
個人的に今回のリライトで特に押さえておきたいのは、
「HER2-low/ultralowまで治療対象が広がったこと」
「胃がんだけ6.4mg/kgであること」
「HER2陽性固形がんというがん種横断的適応が加わったこと」
「ILD Grade 1の扱いが以前の記事から変わっていること」
このあたり。
6年前の記事を振り返ると、エンハーツという薬がどれだけ大きく育ったのかがよく分かります。
薬局にいると注射抗がん薬そのものを触ることはありません。
でも、その治療を受けている患者さんには会う。
だからこそ、
「院内で何が投与されているのかを知っておく」
というのは、今後ますます大切になりそうですね。
ではではー、しぐでした!

FAQ
エンハーツはどんな薬ですか?
抗HER2抗体とトポイソメラーゼⅠ阻害作用を持つ薬物を組み合わせたADCです。HER2を目印としてがん細胞へ薬物を届ける仕組みを持っています。
エンハーツはHER2陽性乳がんだけに使う薬ですか?
いいえ。2026年現在はHER2低発現・超低発現乳がん、HER2変異陽性非小細胞肺がん、HER2陽性胃がん、HER2陽性の進行・再発固形がんなどにも適応があります。
エンハーツの投与量は?
胃がん以外は原則5.4mg/kg、胃がんでは6.4mg/kgを3週間間隔で点滴静注します。初回90分、忍容性が良好なら2回目以降30分まで短縮できます。
エンハーツで特に注意する副作用は?
特に重要なのが間質性肺疾患です。咳、息切れ、発熱などの初期症状を見逃さないことが重要です。このほか骨髄抑制、Infusion reaction、心機能低下などにも注意します。
エンハーツでILDが出たら再投与できませんか?
Grade 2以上では投与中止です。Grade 1では原則再開しませんが、すべての所見が消失し、有益性が危険性を大きく上回ると判断された場合に限り、1用量レベル減量して再開できる場合があります。


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