薬剤師のしぐです。
今回は抗がん剤の新薬エンハーツ点滴静注についてです。
調剤報酬改定からはや1ヶ月。
みなさんの薬局では特定薬剤管理指導加算2の算定は始まってますか??
厚生局への施設基準の届け出も必要になるこの加算。
自分の薬局では、4月末に届け出の受理通知が届き、そこからの算定に向け、薬局スタッフ全員で取り組んでいます。
そんな中、新薬「エンハーツ点滴静注」に胃がんの適応を追加申請しているとのことで、まとめてみようかと思いました。
他にも、大腸がんや非小細胞肺がんの試験も行ってるんだとか。
第一三共さんとアストラゼネカさんが共同で開発・商業化している医薬品です。
院内で使用されている抗がん剤についても知識が必要になっている現在の調剤薬局薬剤師。
最低限の知識をまとめておきます!
あと、先駆け審査指定についても書いてみます。
エンハーツ点滴静注の成分
エンハーツ点滴静注の有効成分は「トラスツズマブ デルクステカン」
分かる方の方が多いと思いますが、トラスツズマブ〈ハーセプチン〉にデルクステカンを結合させた医薬品になるんですよね。
トラスツズマブ〈ハーセプチン〉とは
まずはトラスツズマブ〈ハーセプチン〉についてです。
そのうちこれだけでまとめてみようと思うので、簡単に。
分子標的薬(抗HER2ヒト化モノクローナル抗体)で、乳がんと胃がんに用いられます。
コチラ、他モノクローナル抗体についてまとめた内容です。
このトラスツズマブ〈ハーセプチン〉の特徴がコチラ
- インフュージョン・リアクションを起こしやすい
- 初回投与量と維持量が異なる
- 心障害に注意が必要
- Tmabと表記される
インフュージョン・リアクションについてはコチラ。
デルクステカンとは
トポイソメラーゼⅠ阻害薬。
同系統薬ではイリノテカン:CPT-11〈トポテシン〉が有名ですかね。
DNAのリン酸ジエステル結合を切断し、再結合を触媒するトポイソメラーゼを阻害してDNAを傷害し、抗悪性腫瘍作用を示します。
細胞傷害性抗悪性腫瘍薬の1種ですね。
トラスツズマブとデルクステカンの薬物抗体複合体【ADC】
抗体薬物複合体【ADC】は、抗体に低分子医薬品を結合させたものです。
ADCに搭載する低分子医薬品を「ペイロード」。
抗体とペイロードをつなぐ部分を「リンカー」と呼びます。
標的特異性の高い抗体を「運び屋」として使い、活性の強い薬剤を標的細胞に直接届けることでの高い効果と、薬剤の全身暴露を抑えることでの副作用の低減を狙っています。
化学療法剤と抗体医薬品に はそれぞれ強みと弱みがありますが、ADCは両剤の強みを活かしつつ弱みをうまく補完し合うことのできる薬剤といえます。
トラスツズマブ デルクステカン〈エンハーツ点滴静注〉は、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブに、ペイロードとして新規のDNAトポイソメラーゼI阻害薬であるデルクステカンを結合させた、第一三共創製のADCになります。
抗体とペイロードをつなぐリンカーの安定性が高いこと、従来のADCに比べて多くの薬剤を結合できること、搭載しているペイロードも強力であること、などが特徴です。
ということで、この難しい言葉達を使って簡単にエンハーツを説明するとこんな感じ。
エンハーツは、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体である「トラスツズマブ」と、ペイロードとして「デルクステカン」をリンカーで結合させた抗体薬物複合体【ADC】
エンハーツの適応・効能効果
再発乳癌
化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌
(標準的な治療が困難な場合に限る)
現在はこの乳がんのみ。
胃癌
サードライン以降のHER2陽性胃がん
胃がんの治療に関しての先駆け審査指定を受けているという状態ですね。
トラスツズマブを含む2つ以上の前治療を受けたHER2陽性の進行・再発胃がん患者を対象にしているようです。
先駆け審査指定とは
先駆け審査指定とは、生命に重大な影響がある重篤な疾患等に対して極めて高い有効性が期待される医薬品や再生医療等製品等を指定し、日本の患者に世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指した制度です。
エンハーツなど、抗がん剤を中心にこの制度が適用されます。
エンハーツ点滴静注の用法用量
通常、成人にはトラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)として1回5.4mg/kg(体重)を90分かけて3週間間隔で点滴静注する。
なお、初回投与の忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。
エンハーツ点滴静注の警告
本剤の投与により間質性肺疾患があらわれ、死亡に至った症例が報告されているので、呼吸器疾患に精通した医師と連携して使用すること。投与中は、初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱等)の確認、定期的な動脈血酸素飽和度(SpO2)検査、胸部X線検査及び胸部CT検査の実施等、観察を十分に行うこと。異常が認められた場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
警告欄に上記警告の記載がある通り、間質性肺疾患(ILD)に注意が必要です。
第一三共さんのQ&Aでも下記注意が出ています。
異常が認められた場合は、本剤の投与を中止し、呼吸器疾患に精通した医師と連携の上、必要に応じて胸部CT検査、血清マーカー等の検査を実施するとともに、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行ってください。
また、間質性肺疾患(ILD)が発現した場合は、Gradeに関わらず投与を中止してください(再開はできません)。
エンハーツ点滴静注の添付文書
エンハーツの添付文書はコチラ
→ https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/42914D0D1026_1_02/
今回はこんな感じですねー
トラスツズマブ〈ハーセプチン〉のみでもインフュージョンリアクションに対しての処方って結構あったので、このエンハーツに関しても抗アレルギー剤やNSAIDsの1回分処方等あるかもですね。
また実際の処方だったり、レジメン情報提供文書等で見ることがあれば追記していきます。
以前まとめたことのある抗がん剤のお勉強について。
外来がん治療認定薬剤師の認定取得や、がん治療の学習に少しでも興味ある方は見てみてください。
自分がお勉強する際に主に使用しているものも紹介してます。
と、いうわけで今回は「エンハーツ点滴静注について」でした!
ではではーしぐでした
コメント
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