
こんにちは、薬剤師のしぐです。
加齢黄斑変性で眼科の注射を続けている患者さんから、「水がたまるのは落ち着いたと言われたけれど、見えにくさは残っている」と相談されることがあります。治療が続いていることと、目の中のすべての変化が止まっていることは同じではありません。
新生血管型加齢黄斑変性、いわゆるnAMDでは、抗VEGF療法が滲出や出血を抑えるための中心的な治療です。一方、長く経過を見るなかでは、黄斑の萎縮という別の課題も出てきます。そこで注目されるのが、補体を標的とする治療を追加する考え方です。
今回紹介するのは、抗VEGF治療中のnAMDと萎縮を併せ持つ31眼に、ペグセタコプランを追加した米国の後ろ向き研究です。追加前後の1年間を比較すると、萎縮拡大の指標の増加が44%遅くなりました。ただし、視力が改善した割合ではなく、萎縮が44%小さくなったわけでもありません。
日本での承認状況、研究の限界、薬局で患者さんに伝えたいことを整理します。情報確認日は2026年11月5日です。
抗VEGF療法を続けても、萎縮が課題になるのはなぜ?
滲出と萎縮では、治療で見ている対象が違う
nAMDでは、黄斑の周辺に生じた異常な新生血管から液体が漏れたり、出血したりすることが問題になります。抗VEGF薬は血管内皮増殖因子に関わる作用を抑え、こうした病変の活動性をコントロールします。
これに対して萎縮は、網膜色素上皮や視細胞などが失われていく変化です。液体が減っても、すでに傷んだ組織がすべて元に戻るわけではありません。「むくみが落ち着いた」という説明と、「見え方が完全に戻る」という期待の間には、ずれが生じることがあります。
患者さんへの説明では、「注射の効き目がなくなった」と一括りにするよりも、いま治療しているのは何か、別にどのような変化があるのかを眼科で確認する流れが役立ちます。薬局だけで、見えにくさの原因を萎縮と決めることはできません。
抗VEGF薬の製剤や適応を確認するときは、関連記事のアイリーアBSとアフリベルセプト製剤の違いも参考にしてください。今回の補体阻害薬とは、治療で狙っている部分が異なります。
GAとMAという言葉を整理する
地図状萎縮は英語でgeographic atrophy、略してGAと呼ばれます。一方、nAMDに伴う黄斑の萎縮については、macular atrophy、MAという表現も使われます。今回の原著はGAと記載していますが、この記事では既存nAMD眼の萎縮を扱うことが分かるよう、黄斑萎縮という言葉を用います。
この区別が必要なのは、「萎縮型AMDに対する薬がある」という話を、そのまま「抗VEGF治療中のnAMDにも追加できる」と受け取らないためです。病変の見た目や用語が重なっていても、承認された対象と研究された対象が一致するとは限りません。

ペグセタコプランは、どのような薬?
補体C3を標的とする硝子体内注射薬
ペグセタコプランは補体C3およびC3bに結合して作用する薬です。米国ではSyfovreという製品名で、加齢黄斑変性に伴う地図状萎縮に対する硝子体内注射薬として使用されています。補体は免疫を構成する仕組みの一つで、GAの病態との関わりが研究されてきました。
抗VEGF薬と補体阻害薬は、同じ眼科の注射でも目的が異なります。前者は主に滲出を伴う病変の活動性、後者は萎縮の拡大を抑えることを目標にします。薬が増えるから治療効果が単純に足し算になる、という理解は避けたいところです。
補体阻害薬は、失われた網膜を再生する薬として説明するものではありません。どの評価項目で、どの程度の差が観察されたのかを確認してから、患者さんが期待できることを伝える必要があります。
国内で別疾患に使う製剤と混同しない
ペグセタコプランという成分名を、眼科以外の領域で見聞きした薬剤師もいると思います。ただし、成分名が同じでも、別疾患向けの製剤と硝子体内注射薬は同じように扱えません。国内で成分として承認されていることだけで、眼内投与の承認まであると理解しないことが大切です。
今回の記事で扱うのは、あくまで眼科の硝子体内投与です。製品名、剤形、投与経路、対象疾患を一組で確認する。この習慣は、新薬のニュースを薬局内で共有するときにも役立ちます。
研究の対象は、長く抗VEGF療法を受けていた31眼
米国の単施設で、既存のnAMDと、中心窩下に及んでいない萎縮を併せ持つ31例31眼が解析されました。中心窩は細かな文字を読むなど、中心の見え方に関わる重要な部分です。今回の結果は、すでに中心窩下に萎縮がある眼にも同じように当てはめられるとは限りません。
| 項目 | 研究の内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 単施設・後ろ向きの前後比較 |
| 対象 | 既存nAMDと非中心窩下の萎縮を伴う31例31眼 |
| 平均年齢 | 87.2歳 |
| nAMDの平均治療期間 | 6.5年 |
| 比較期間 | ペグセタコプラン追加前1年と追加後1年 |
| 評価 | 萎縮の広がり、ETDRS視力、治療間隔など |
重要なのは、抗VEGF薬をやめてペグセタコプランに置き換えた研究ではないことです。抗VEGF療法は継続し、そこに補体阻害薬が追加されました。したがって、「萎縮があるなら抗VEGF薬は不要」という結論にはつながりません。
また、前向きに無作為に割り付けた試験ではありません。治療を受けた人の診療記録から結果を振り返っているため、治療対象の選び方や、経過中の診療内容が成績に影響した可能性があります。

萎縮拡大の44%減速は、何を意味する?
平方根変換した面積の増加が0.39mmから0.22mmへ
萎縮の大きさは画像で評価され、面積を平方根変換した値を用いて解析されました。面積そのものの単位はmm²ですが、平方根を取った指標の単位はmmになります。病変が円形であることを前提にした、通常の意味での直径と同じではありません。
| 指標 | 追加前1年間 | 追加後1年間 |
|---|---|---|
| 平方根変換した萎縮面積の増加 | +0.39mm | +0.22mm |
この年間増加の違いから、拡大速度は44%減速したと報告されました。比較のP値は0.0001未満です。計算の考え方は「追加前の増加量に対して、追加後の増加量がどれくらい減ったか」です。
ここで取り違えたくない点が三つあります。萎縮が44%消失したわけではないこと、失明リスクが44%低下したと示したわけではないこと、萎縮面積そのものの増加率が44%低下したと同義ではないことです。変換後の指標の拡大速度についての結果として読む必要があります。
拡大は遅くなったが、止まったわけではない
追加後も指標は増加しています。つまり、今回観察されたのは萎縮の進行が完全に止まった状態ではなく、前の1年より進み方が緩やかだった状態です。
この違いは、患者さんの期待を調整するうえで大切です。「新しい薬があるなら、もう見えにくくならないのですね」と受け取られると、後の説明が難しくなります。薬の目的は進行を遅らせること、その先の生活上の利益は経過を追って評価することを、分けて伝えたいですね。
視力はおおむね維持、改善を示したわけではない
ETDRS視力は、文字をどれだけ読めたかをスコア化して評価する指標です。添付資料に示された経過は、追加1年前が67.5文字、追加時が68.8文字、追加1年後が67.9文字でした。
| 時点 | ETDRS視力 |
|---|---|
| ペグセタコプラン追加1年前 | 67.5文字 |
| 追加時 | 68.8文字 |
| 追加1年後 | 67.9文字 |
原著抄録の「67.5文字から67.9文字、P=0.93」は、追加直前と追加1年後の比較として読み替えないように注意します。67.5文字は追加1年前の値で、観察全体の2年間に対応しています。
また、中心窩下に萎縮がない眼を対象にした点も、視力の解釈に関わります。視力が大きく変わらなくても周辺の萎縮が広がる場合があるため、視力表だけで進行の有無を判断することはできません。病変の位置と広がりを併せて見る必要があります。
第Ⅲ相のOAKS・DERBY試験でも、萎縮の拡大抑制と視機能の結果は分けて評価されました。24カ月時点の主要な副次的視機能評価では、シャム群との差が示されていません。「画像で差が出た」ことを、そのまま「見え方がよくなった」と言い換えない姿勢が大切です。
抗VEGF薬の注射を減らせると考えてよい?
研究における平均投与間隔は、抗VEGF薬が11.8週、ペグセタコプランが8.1週でした。抗VEGF薬の間隔については、追加1年前の13.5週と追加1年後の12.0週で有意差はありませんでした。
この結果から、ペグセタコプランを追加すると抗VEGF薬の注射を減らせる、と説明することはできません。新しい注射が加わるため、治療全体の注射回数や通院の負担が増える可能性も考える必要があります。
患者さんにとっては、注射そのものだけでなく、検査、待ち時間、移動、付き添いの手配も治療負担です。効果の数字だけを取り出して評価するより、「何を守るための治療か」「どのくらいの通院が必要か」を一緒に確認することが、意思決定の助けになります。
31眼で重い眼障害がなかったとしても、安全性は別に確認する
添付資料では、今回の観察中に眼内炎症、閉塞性網膜血管炎、眼内炎は認められなかったと紹介されています。ただし、少数例で認めなかったことは、まれな副作用が起こらない証明にはなりません。
米国のペグセタコプラン硝子体内注射薬の添付文書には、眼内炎、網膜剥離、網膜血管炎・網膜血管閉塞、眼内炎症、眼圧上昇、新生血管型AMDへの注意が記載されています。既存のnAMDがある眼でも、滲出の変化を引き続き観察する必要があります。
治療後に強い眼痛、充血、急な視力低下、見え方の急変などがあれば、治療先の眼科へ速やかに連絡することが大切です。薬局で「注射後だからよくあること」と決めつけたり、市販の目薬で様子を見るよう勧めたりせず、診療につなげます。
研究の限界|44%をそのまま薬の効果と断定しない
同時期に比較する対照群がない
今回の研究は、同じ眼の追加前後を比較しています。同時期に抗VEGF療法だけを続けた対照群があるわけではありません。時間の経過で進行速度が変わった可能性、治療対象が選ばれた影響、併用薬や抗VEGF薬の変更などを完全には分けられません。
P値が小さいことと、薬の因果的な効果が確立したことは別です。統計上の差があっても、研究デザインから生じる限界は残ります。少数の単施設研究で得られた結果として、次の検証につながる情報と受け止めるのが適切です。
画像評価と中心窩の位置関係も確認する
添付資料では、主に赤外線反射像で萎縮面積を計測したことが示されています。画像の種類や病変の境界の捉え方は、評価に影響し得ます。別の試験の数値と比較する際には、同じ測定方法、同じ対象、同じ期間なのかを確認したいところです。
加えて、萎縮面積が同じでも、中心窩までの距離や広がる方向が異なれば、生活への影響も同じとは限りません。今回の44%という数字を、他のGA治療試験の抑制率と横並びにして、薬の優劣を決めることはできません。
日本では、どう位置づける?
2026年11月5日時点で確認した国内の開発・製品情報では、眼科用ペグセタコプランは国内で通常使用できる承認薬として扱う段階ではありません。日本人のGA患者を対象とする硝子体内投与の第Ⅲ相試験が登録されていますが、治験の存在は製造販売承認を意味しません。
国内では、C5を標的とするアバシンカプタド ペゴルナトリウムのアイザベイが、「萎縮型加齢黄斑変性における地図状萎縮の進行抑制」を効能・効果として承認されています。ペグセタコプランとは別の薬で、今回の併用研究を根拠に、同じ成績が得られると考えることはできません。
また、この効能・効果があることだけで、既存nAMDに伴う黄斑萎縮への併用が承認されたとは読み替えられません。対象病態、最新の電子添文、臨床試験で検証された範囲を眼科で確認する必要があります。この記事は、未承認薬や適応外使用を勧めるものではありません。

保険薬局で確認したい、三つのこと
眼科で受けている注射も治療情報に含める
お薬手帳に飲み薬と点眼薬しか載っていなくても、医療機関で硝子体内注射を受けている場合があります。相談の内容に応じて、注射の名前、最後の注射日、治療を受けている目、次の受診日を確認します。
薬剤名が分からなければ、診療明細や治療の説明書が手がかりになります。分からない部分を推測して薬歴に埋めるより、「眼科で注射治療中、製品名未確認」と残し、必要な場面で確認するほうが確実です。
「見えにくい」が生活のどこに影響しているかを聞く
小さな文字が読みづらい、薬袋の朝夕の区別が難しい、点眼薬の容器を取り違えそうになる。こうした困りごとは、視力の数値だけでは見えません。薬局では、実際の服薬や点眼に困っていないかを確認できます。
文字を大きくする、説明を短く区切る、本人が使いやすい識別方法を相談するなど、治療を続けるためにできる工夫があります。ただし、急に悪化した見え方は工夫だけで済ませず、受診につなぐことを優先します。
抗VEGF薬を減らしたくなった理由を整理する
「萎縮が進むなら、いまの注射は意味がないのでは」と感じる方もいるかもしれません。その場合は、滲出を抑える目的と萎縮の問題を分けて説明し、自己判断で中断しないよう伝えます。
費用、通院、注射への不安など、負担の中身を聞き取って眼科に共有できれば、相談が具体的になります。萎縮があることを理由に、薬局から抗VEGF薬の減量や投与間隔の延長を提案することは避けます。
よくある質問
Q. ペグセタコプランを使うと、失われた視力が戻る?
今回の研究は、失われた視力が回復することを示していません。観察されたのは、萎縮の拡大指標の増加が遅くなったことと、視力がおおむね保たれたことです。
Q. 44%減速なら、萎縮面積が44%減ったということ?
違います。面積を平方根変換した指標の年間増加を、追加前後で比較した結果です。萎縮自体は追加後も広がっており、縮小したという意味ではありません。
Q. 抗VEGF薬の代わりになる?
今回の研究では抗VEGF療法を継続しています。滲出を抑える治療の代わりとして検証したものではありません。変更や中断は眼科で相談してください。
Q. 国内のアイザベイでも同じように併用できる?
別の薬の結果をそのまま当てはめることはできません。アイザベイの承認適応と、今回の既存nAMD眼の病態は分けて確認する必要があります。
Q. 視力が変わらなければ、萎縮は進んでいない?
視力だけでは判断できません。萎縮の面積や中心窩との位置関係を画像で経過観察することが重要です。検査結果の意味は主治医に確認しましょう。
しぐの実務メモ|注射を続ける意味を、一緒に確認する
今回の研究は、抗VEGF療法で滲出を管理しながら、萎縮にも目を向けるという今後の治療を考える材料です。ただし、31眼の前後比較から、併用すれば視力を守れるとまで断定することはできません。
保険薬局で大切にしたいのは、患者さんが受けている治療の目的を整理し、急な変化を拾い、通院や服薬の困りごとを眼科につなぐことです。「新しい薬が出たら教えてほしい」という期待にも、現時点で分かっていることを具体的に伝えたいですね。
眼科の新薬や治療に関する記事は、眼科の記事一覧にもまとめています。
参考資料
- Adrean SD, et al. One-Year Results of Geographic Atrophy Patients With Preexisting nAMD Treated With Both Anti-VEGF Therapy and Pegcetacoplan. Retina. 2026;46:1695–1702. DOI: 10.1097/IAE.0000000000004915/PubMed
- Heier JS, et al. OAKS and DERBY. Lancet. 2023;402:1434–1448. PubMed
- FDA. SYFOVRE米国添付文書(2024年12月改訂)
- アステラス製薬. アイザベイ製品Q&A・電子添文案内
- jRCT. 日本人GA患者へのペグセタコプラン硝子体内投与第Ⅲ相試験 jRCT2071260009
※添付された記事画像も参照。画像中の図表は転載せず、数値を独自の表に整理しました。研究の解釈と薬局での対応提案を区別して記載しています。


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