マブジェネシスが東証グロース上場|犬・猫の抗体医薬を育てる創薬企業とは

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犬と猫の造形と抗体をイメージしたY字形を配したオレンジ色のイラスト

こんにちは、薬剤師のしぐです。

抗体医薬と聞くと、がん、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎など、人の治療に使われる薬を思い浮かべる方が多いと思います。今回注目したいのは、犬や猫の治療に向けて抗体を創り出している、日本の創薬企業です。

MabGenesis(マブジェネシス)が、2026年11月2日に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。証券コードは653A。藤田医科大学と宮崎大学で培われた抗体取得技術を基盤に、伴侶動物向けの抗体医薬品の研究開発を進めている会社です。

犬や猫も、大切な家族の一員。病気の症状を和らげ、過ごしやすい日常を支える薬が増えることには、大きな意味があります。薬剤師としても、薬の進歩が動物医療へどのように広がっているのか、気になるニュースですね。

今回は、マブジェネシスがどんな会社なのか、抗体を生み出す技術、製薬企業と組む事業モデル、今後のニュースを読むときのポイントを整理します。

  1. マブジェネシスの上場で、まず押さえたいこと
  2. 抗体医薬の開発が、犬や猫の治療にも広がっている
    1. 抗体医薬は、病気に関わる標的に結合する薬
    2. 犬・猫ごとの研究基盤を持つことに意味がある
  3. 技術の柱はMOURAライブラリーとIMPACT
    1. MOURAライブラリーは、抗体候補を探すための基盤
    2. IMPACTは、目的の抗体を見つける技術
  4. 抗体を創り、製薬企業へ開発をつなぐ事業モデル
    1. 自社プロジェクトと共同研究の二つの進め方
    2. 契約時一時金、マイルストーン、ロイヤリティの違い
  5. 国内外の動物薬企業との連携が進んでいる
  6. 上場後のニュースは、どこに注目するとよい?
    1. 研究の進展と、動物が使える薬になるまでを追う
    2. 会社の成長と、治療の価値をそれぞれ見る
  7. 薬剤師として、動物医療のニュースをどう受け止めるか
    1. 抗体医薬の知識が、関心を広げる入口になる
    2. 飼い主さんの相談では、まず現在の治療を確かめる
  8. よくある質問
    1. マブジェネシスは、何をしている会社ですか?
    2. いつ、どこに上場しましたか?
    3. 上場したので、新しい薬が動物病院で使えるようになりますか?
    4. 「導出済み」は「承認済み」という意味ですか?
    5. マイルストーン達成とは、何を意味しますか?
    6. 人の抗体薬を、犬や猫に使ってよいという話ですか?
  9. しぐの考え:薬の進歩を、動物と家族の暮らしへ
  10. 参考文献・確認先

マブジェネシスの上場で、まず押さえたいこと

今回のニュースの中心は、犬・猫向けの抗体医薬を研究する企業が、上場という節目を迎えたことです。新しい動物用医薬品が同日に承認された、あるいは発売されたという発表ではありません。

項目内容
会社名MabGenesis株式会社(マブジェネシス)
上場日2026年11月2日
上場市場東京証券取引所グロース市場
証券コード653A
設立2019年6月3日
本社神奈川県横浜市港北区
主な事業ペット用抗体医薬品の研究開発
技術の背景藤田医科大学・宮崎大学で培われた抗体取得技術

会社名に含まれる「Mab」は、モノクローナル抗体を連想させる表記です。普段、薬局で目にする抗体医薬の一般名にも「マブ」が登場しますが、この企業を理解するうえでも、抗体が重要なキーワードになります。

同社の公式発表では、伴侶動物と人々の症状の緩和、生活の質の向上への貢献が掲げられています。また、宮崎大学は今回の上場を、同大学発スタートアップとして初めてのIPOと紹介しています。大学の研究成果を社会に届ける取り組みとしても、注目したい動きです。

抗体医薬の開発が、犬や猫の治療にも広がっている

抗体医薬は、病気に関わる標的に結合する薬

抗体は、特定の相手を認識して結合する性質を持っています。その性質を治療に利用するのが抗体医薬です。病気に関わる分子を標的にするという考え方は、人の薬物療法でも身近になっています。

ただし、「狙ったところに働く」という説明だけで、安全性まで保証されたように受け取るのは早計です。何を標的にするか、その分子が体のどこで働いているか、どのような投与条件で使うかによって、期待される効果も確認すべきリスクも変わります。

動物用の抗体医薬を考える際も、個々の候補について、対象疾患、対象動物、有効性、安全性を確かめていく必要があります。「抗体だから優れている」と一括りにせず、どのような困りごとに応える薬なのかを見たいところです。

犬・猫ごとの研究基盤を持つことに意味がある

マブジェネシスは、イヌ用、ネコ用、ヒト用の抗体ライブラリーを保有しています。犬や猫の薬を開発するという話は、人の抗体薬をそのまま小さくして使う話とは異なります。

薬剤師の立場では、同じ疾患名や似た標的分子が登場しても、人の薬の用量、投与間隔、注意事項をそのまま動物の治療に当てはめないことが基本です。このニュースも、飼育している動物に人の薬を使う根拠にはなりません。

飼い主さんにとって知りたいのは、技術の名前だけではなく、自分の犬や猫の生活がどう変わり得るかでしょう。食事、睡眠、活動、通院、投薬。その日常を支える選択肢につながるかという視点で、開発の進展を見ていきたいですね。

抗体候補の探索をイメージした球体の棚とY字形の抽象イラスト

技術の柱はMOURAライブラリーとIMPACT

MOURAライブラリーは、抗体候補を探すための基盤

抗体ライブラリーは、多様な抗体候補をそろえた集まりと考えるとイメージしやすいと思います。マブジェネシスは、独自の遺伝子増幅や抗体の組み合わせに関する技術を用いて、MOURAライブラリーを構築しています。

薬を作るには、まず治療の目的に合う抗体を見つける必要があります。その出発点として、多様な候補を持ち、目的に沿って調べられる基盤が重要になります。

ここで区別したいのが、「候補がたくさんあること」と「実際に薬として使えること」です。ライブラリーから抗体を取得できても、その後に性質の評価や開発が続きます。技術基盤の強みと、製品としての成功は、それぞれの段階で確認するものです。

IMPACTは、目的の抗体を見つける技術

もう一つの柱が、抗体を選び出すスクリーニング技術であるIMPACTです。公式の技術紹介では、細胞膜抗原に対する効率的なファージ抗体の単離が特徴として示されています。

ライブラリーを「候補の集まり」、スクリーニングを「目的に合う候補を選ぶ工程」と捉えると、両者の関係が分かりやすくなります。多くの候補をそろえる力と、そこから有用なものを見つける力を組み合わせて、創薬につなげるわけです。

技術の詳しさを競うよりも、「抗体を見つける段階に専門性がある会社」と理解すると、後に説明する製薬企業との役割分担も見えてきます。

抗体を創り、製薬企業へ開発をつなぐ事業モデル

自社プロジェクトと共同研究の二つの進め方

マブジェネシスの事業には、自社で標的を設定して抗体を取得するプロジェクトと、製薬企業との合意に基づいて進める共同研究プロジェクトがあります。

自社プロジェクトでは、抗体取得後に一定の前臨床試験を行い、開発・製造・販売を担える企業への導出を目指します。共同研究では、相手先と標的や抗体の品質条件を取り決めて研究を始め、条件を満たす抗体を取得した後、契約に沿って導出します。

「導出」とは、ここでは取得した抗体について、研究、開発、製造、販売などの権利を企業へ提供することです。創薬企業が生み出した成果を、次の開発段階につなぐ仕組みと考えるとよいでしょう。

契約時一時金、マイルストーン、ロイヤリティの違い

この事業モデルでは、収入の意味も、一般的な医薬品の販売会社とは少し違います。

収入の種類基本的な意味
契約時一時金契約締結時に受け取る収入
研究マイルストーン共同研究の進捗に応じて受け取る収入
開発マイルストーン導出後の開発進展や承認取得など、契約条件の達成に応じた収入
販売ロイヤリティ製品売上に応じて受け取る収入
販売マイルストーン年間売上が所定の額に達するなど、契約条件の達成に応じた収入

例えば「マイルストーンを達成した」というニュースは、契約で決めた到達点に進んだという意味です。何を達成したのかが公表されていなければ、それだけで承認や発売を意味するとは判断できません。

同様に、会社に売上があることだけで、すでに自社由来の新薬が販売されていると考えるのも適切ではありません。契約時一時金や研究の進捗による収入もあるためです。創薬企業のニュースは、収入が生じる仕組みまで押さえると読み違いを減らせます。

研究成果を製薬企業へつなぐ連携を二つの橋で表した抽象イラスト

国内外の動物薬企業との連携が進んでいる

公式サイトでは、Ceva、MSDアニマルヘルス、Virbac、共立製薬、日本曹達が事業パートナーとして掲載されています。国内の研究成果を、海外も含む製薬企業の開発体制へつなげる点が特徴です。

ただし、パートナーとして名前が並んでいても、契約内容や進捗は案件ごとに異なります。共同研究の開始、抗体の取得、権利の導出、開発の進展を区別して見る必要があります。

日本曹達に関しては、2026年4月28日にネコ炎症性疾患治療用抗体のライセンスが公表され、同年8月27日に契約に基づくマイルストーン達成が発表されています。ネコ向けの抗体開発が事業上の具体的な動きになっている例です。

一方で、この発表だけから、対象となるすべての疾患や投与方法、国内の発売時期まで決めつけることはできません。飼い主さんに説明するなら、「研究開発が進んでいる」という現在地を伝え、実際に使える薬については個別の承認・販売情報を確認することになります。

上場後のニュースは、どこに注目するとよい?

研究の進展と、動物が使える薬になるまでを追う

上場によって企業の認知度が高まり、情報に触れる機会も増えると思います。そのときは、まず「今回の発表は、どの段階の出来事か」を確かめたいですね。

抗体取得に成功したのか。製薬企業への導出が決まったのか。試験が進んだのか。規制当局への申請や承認に至ったのか。そして販売が始まったのか。それぞれ、動物医療にとっての意味が異なります。

研究段階で良い結果が得られることは、次へ進むための重要な材料です。ただ、実際の治療でどの動物にどれだけ役立つか、どのような注意が必要かは、その後の検証を含めて見ていくことになります。

会社の成長と、治療の価値をそれぞれ見る

提携が増えること、収入が増えること、研究が継続できることは企業にとって大切です。同時に、医療に関わる立場からは、対象動物の症状や生活への影響、飼い主さんの負担、治療を続けられる条件も知りたいところです。

これは今後の評価軸としての提案ですが、新薬の発表を読む際には「何が改善するのか」「どのような動物で確かめたのか」「どのくらい観察したのか」「どんな安全性情報があるのか」を並べて確認すると、期待と実態を整理しやすくなると思います。

投与回数が少ない、作用が長く続くといった特徴が将来示された場合も、それだけで全例の負担が軽くなるとは限りません。通院や検査、費用を含む治療全体として、どのような価値があるかを考えることが大切です。

薬剤師として、動物医療のニュースをどう受け止めるか

抗体医薬の知識が、関心を広げる入口になる

人の薬物療法で学んでいる標的分子、抗体、薬効評価、副作用、継続支援という視点は、動物医療の研究ニュースに関心を持つ入口にもなります。ただし、具体的な治療判断では、動物種ごとの専門的な情報が必要です。

抗体という言葉が共通していても、通常の抗体医薬、抗体薬物複合体などでは設計や作用が異なります。「抗体薬は全部同じ」という理解にしないことは、人の医療でも動物医療でも大切にしたい姿勢です。

人の領域における抗体関連薬の具体的な管理については、ADCの眼毒性管理と薬局で確認したいポイントでも整理しています。こちらは人のがん治療の記事であり、動物への使用方法を示すものではありませんが、薬剤ごとの情報確認が必要という視点につながります。

飼い主さんの相談では、まず現在の治療を確かめる

薬局で「動物向けにも抗体の薬が増えるらしいね」と話題になったときは、今回の企業ニュースと、目の前の動物の治療を分けて説明したいところです。

実務上の会話の例としては、「犬や猫向けの抗体を研究する会社が上場しました。ただ、今回の発表だけで新しい薬がすぐ使えるという意味ではありません。今の治療に追加できるかは、かかりつけの獣医師に確認しましょう」と伝えると、ニュースの意義と現在地を共有しやすいと思います。

人の薬の余りを使う、体重だけで量を減らす、治療中の薬を自己判断で置き換える、といった行動につながらない説明が必要です。薬の進歩を前向きに伝えることと、個々の治療を専門家につなぐことは両立できます。

よくある質問

マブジェネシスは、何をしている会社ですか?

犬や猫などに向けた抗体医薬品の研究開発を行う創薬企業です。抗体ライブラリーと抗体取得技術を基盤に、自社研究や製薬企業との共同研究を進めています。

いつ、どこに上場しましたか?

2026年11月2日、東京証券取引所グロース市場に上場しました。証券コードは653Aです。

上場したので、新しい薬が動物病院で使えるようになりますか?

上場は医薬品の承認・発売とは別の出来事です。個々の候補について、開発の進捗、承認された国や地域、販売状況を確認する必要があります。

「導出済み」は「承認済み」という意味ですか?

異なります。導出は、抗体の開発・製造・販売などに関する権利を相手企業へ提供することです。その後も開発が続く場合があり、導出だけで使用可能とは判断できません。

マイルストーン達成とは、何を意味しますか?

契約で定めた研究や開発などの到達条件を満たしたという意味です。どの条件を達成したかは案件によって異なり、必ずしも承認取得を指しません。

人の抗体薬を、犬や猫に使ってよいという話ですか?

今回のニュースは、そのような使用を勧めるものではありません。治療中の動物への薬の選択、用量、投与方法は、かかりつけの獣医師へ確認してください。

犬と猫の健康を支える創薬を肉球と抗体の形で表したイラスト

しぐの考え:薬の進歩を、動物と家族の暮らしへ

今回の上場でおもしろいと感じるのは、抗体を創り出す研究の強みを、犬や猫の治療へつなげようとしている点です。大学の研究成果を基盤に、国内外の製薬企業と役割を分担する。創薬には、こうした形もあるのですね。

動物の病気は、その動物だけの出来事ではありません。食事や睡眠、通院、日々のケアを通して、家族の暮らしにも関わります。症状を和らげる新しい選択肢への期待が大きいことは、想像しやすいと思います。

だからこそ、期待を持ちながら、開発の現在地を丁寧に追いたいところです。提携や研究の成功が、実際に使える薬となり、どんな動物に役立つのか。上場後も、その歩みに注目していきたいですね。

参考文献・確認先

企業情報・技術・契約についての確認先を、以下にまとめます。本文中の実務上の会話例や評価の視点は、これらを踏まえた筆者の提案です。情報確認日:2026年11月4日。

・MabGenesis:東京証券取引所グロース市場への上場に関するお知らせ(2026年11月2日)

・日本取引所グループ:新規上場会社概要

・MabGenesis:当社技術

・MabGenesis:共同研究

・MabGenesis:事業領域・事業パートナー

・MabGenesis:ニュース一覧(日本曹達とのライセンス、マイルストーン達成)

・宮崎大学:宮崎大学初のIPO―MabGenesis上場

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