
こんにちは、薬剤師のしぐです。
イリノテカンとテモゾロミドを併用する。
この組み合わせを聞いて、少し意外に感じた方もいるのではないでしょうか。イリノテカンは消化器がんなどの治療、テモゾロミドは悪性神経膠腫の治療というイメージが強い薬です。普段接している処方だけを思い浮かべると、なかなか結びつかないかもしれません。
今回、その2剤の併用療法が、再発・難治性神経芽腫に対して保険適用となりました。保険適用日は2026年10月21日です。
ただし、「新しい効能が正式承認された」とそのまま言い換えるのは正確ではありません。公知申請の事前評価終了を受け、薬事承認上は適応外であっても保険で使用できる取扱いになった、というニュースです。
今回は、組み合わせの背景と制度上の位置づけ、薬剤師が押さえておきたい用量・スケジュール・副作用管理を整理します。
今回の保険適用で何が変わった?
対象は再発または難治性の神経芽腫
対象は、再発または難治性の神経芽腫に対するイリノテカンとテモゾロミドの併用療法です。神経芽腫全般の初回治療に一律でこの組み合わせを使用する、という変更ではありません。
また、イリノテカン単剤を神経芽腫に初めて使えるようになった、という理解も少し違います。イリノテカンには、もともと「小児悪性固形腫瘍」の効能・効果があります。今回の中心は、テモゾロミドと併用する際の用法・用量の追加です。
一方、テモゾロミドでは、再発または難治性の神経芽腫という効能・効果と、その併用時の用法・用量が追加される予定です。同じニュースの中でも、2剤で変更の内容が異なる点を押さえておきたいですね。
通知に掲載された製品
今回の通知に記載されているのは、イリノテカンではトポテシン点滴静注40mg・100mg、テモゾロミドではテモダールカプセル20mg・100mgとテモダール点滴静注用100mgです。
成分名が同じだからといって、すべての銘柄について今回の取扱いを自動的に当てはめるのは避けたいところです。実際の採用品や処方薬について、通知、製品情報、医療機関の運用を照合する必要があります。
保険適用の情報を薬歴やレジメンに反映する場合も、「対象疾患」「併用薬」「対象製品」「用法・用量」を一組として残しておくと、後から経緯を確認しやすくなります。
公知申請による保険適用と正式承認は違う
公知申請は、国内外の臨床試験や使用経験、診療ガイドラインなどから、医薬品の有効性・安全性が医学薬学上公知と判断できる場合に用いられる申請の仕組みです。
公知申請が適当とされ、その事前評価が終了した医薬品には、正式な一部変更承認を待たずに保険適用となる取扱いがあります。今回の2剤も、この仕組みによるものです。
つまり、薬事承認の手続きと保険診療での取扱いは、同じ日に同じ状態になるとは限りません。添付文書の効能・効果欄にまだ記載がない段階でも、通知に基づき保険適用になる場合があります。
薬局で添付文書だけを見て「適応がない」と判断してしまうと、今回のような経緯を見落とす可能性があります。逆に、保険適用の見出しだけを見て「正式承認済み」と説明してしまうのも避けたいところです。
2026年11月3日時点の記事としては、「10月21日から保険適用。正式な承認事項の変更とは区別して確認する」と整理します。今後の承認状況や通知の更新も確認が必要です。

なぜイリノテカンとテモゾロミドを組み合わせるのか
普段見ているがん種が違っても、薬の働きから考える
イリノテカンは体内で活性代謝物SN-38に変換され、Ⅰ型DNAトポイソメラーゼを阻害します。DNAの複製に必要な過程を妨げ、がん細胞に作用する薬です。
テモゾロミドはDNAをメチル化するアルキル化薬です。こちらもDNAに作用しますが、イリノテカンと同じ酵素を阻害するわけではありません。
両剤の併用を理解する入口は、日常的に使われる臓器のイメージから少し離れ、異なる働きでDNAに関わる薬を組み合わせている点に目を向けることです。ただし、作用機序が違う薬なら何でも併用できるわけではありません。実際の治療選択を支えているのは、対象疾患で積み重ねられた臨床データと使用経験です。
「違う機序だから必ず相乗効果がある」「2剤なら効果が2倍」といった説明はできません。薬理的な考え方と、患者さんで確かめられた効果は分けて受け止める必要があります。
ユーイング肉腫では同じ組み合わせの先例がある
実は、テモゾロミドとイリノテカンの併用は、再発または難治性のユーイング肉腫でも用いられる組み合わせです。テモダールの既承認の用法・用量にも、この併用が記載されています。
消化器がんと脳腫瘍の薬を突然組み合わせたというより、小児・若年者の固形腫瘍の領域で経験が蓄積されてきた併用療法、と捉えると理解しやすくなります。
ただし、同じ薬剤の組み合わせでも、疾患が違えば用量や投与条件は同じとは限りません。ユーイング肉腫で見慣れた処方を、そのまま神経芽腫の処方監査に当てはめないことが大切です。
新薬の登場だけでなく、既存薬の使い方が整備されることも治療の前進です。がん薬物療法のニュースを見るときは、新しい名前だけでなく、昔から知っている薬の新しい位置づけにも目を向けたいですね。
治療の根拠は?「海外で未承認」と「使われていない」は別
今回の評価では、海外の診療ガイドライン、臨床試験、国内外の使用経験などが検討されています。公知申請への該当性に係る報告書では、NCI-PDQやNCCNなどで、この併用を含む治療が再発・難治性神経芽腫の治療選択肢として扱われていることが整理されています。
規制当局による効能・効果の承認と、臨床現場での標準的な使用は、必ずしも完全に一致しません。今回も、評価資料では欧米等6カ国で当該用途の承認はない一方、臨床上の使用が検討の根拠となっています。
ここで「海外で標準的に使われる」と「すべての患者さんに第一に選ばれる」は分けたいところです。既治療、再発までの経過、病変の場所、臓器機能、骨髄の状態などによって、治療の選択は変わります。
研究の数字は投与法とセットで読む
代表的な研究として、Children’s Oncology Groupの第Ⅱ相試験があります。再発・難治性神経芽腫を対象に、イリノテカンとテモゾロミドを併用し、客観的奏効率は15%と報告されました。
ただし、この研究のイリノテカンは1回10mg/m²を週5日、2週間投与する方法です。今回整理された1日50mg/m²を5日間投与する方法とは異なります。この15%を、そのまま今回のスケジュールの期待奏効率として説明することはできません。
同じ2剤併用でも、投与量、投与日数、併用する追加薬、評価基準が異なれば、数字の意味も変わります。研究を紹介するときほど、「どの患者さんに、何を、どのように使った結果なのか」を一緒に確認したいところです。

用法・用量は「5日間投与+16日間以上の休薬」
以下は、今回の保険適用に関わる通常用量の整理です。実際の投与は専門施設のレジメン、患者さんの状態、検査値に基づいて判断されます。
| 薬剤 | 通常用量・投与方法 | 休薬期間 |
|---|---|---|
| イリノテカン塩酸塩水和物 | 1日1回50mg/m²、5日間連日点滴静注 | 少なくとも16日間 |
| テモゾロミド | 1回100mg/m²または150mg/m²、1日1回、5日間連日投与 | 16日間以上 |
テモゾロミドはカプセル剤では経口投与、点滴静注用製剤では静脈内投与です。両剤とも、患者さんの状態によって適宜減量します。
「21日ごと」と覚えても、再開日は固定しない
5日間の投与と16日間の休薬を合わせると、最短では21日を1クールとする整理になります。ただし、休薬期間は「以上」「少なくとも」とされています。
カレンダー上で次の予定日になったから、必ず再開するという意味ではありません。血球の回復、副作用、全身状態などを確認し、延期や減量が必要になる場合があります。
薬局では、処方日数だけでなく「今は何クール目の何日目か」「最終服用日はいつか」「次回の診察・採血はいつか」まで分かると、継続服用や再開日の取り違えを防ぎやすくなります。
テモゾロミドの100mg/m²と150mg/m²を自己判断で選ばない
通常用量として2つの用量が示されていますが、薬局でどちらかを自由に選ぶということではありません。採用レジメンと処方意図の確認が必要です。
また、悪性神経膠腫の治療で用いられる投与量や休薬期間と混同しないことも大切です。「テモゾロミドだからこの日数」という薬剤名だけの判断ではなく、疾患とレジメンに沿って確認します。
副作用管理は「新たな懸念なし」でも省略できない
今回の評価で、新たな安全性上の懸念が認められなかったことは、既知の副作用がなくなったという意味ではありません。特に、骨髄抑制、感染症、下痢、悪心・嘔吐などへの対応は引き続き重要です。
下痢は回数だけでなく、飲水・尿量・発熱を一緒に聞く
イリノテカンでは高度な下痢や腸炎に注意が必要です。家庭での聞き取りでは、「下痢がありますか」だけでは、重症度や生活への影響が十分に見えないことがあります。
普段と比べた排便回数、水様便の有無、腹痛、発熱、飲水量、尿量、元気の程度などを具体的に確認したいところです。飲めない、尿が明らかに少ない、強い腹痛や発熱を伴うといった場合は、治療施設へ速やかに連絡する必要があります。
止瀉薬が処方されていても、自己判断で回数を増やし続けるのではなく、施設から示された使い方と連絡基準を共有します。成人の別レジメンで使った対処法を、小児の処方にそのまま持ち込まないことも大切です。
骨髄抑制と感染症は休薬中も確認する
投与が終わった日と、副作用の心配が終わる日は同じではありません。休薬期間も、発熱、悪寒、強いだるさ、出血しやすさなどの変化に注意します。
具体的な受診・連絡基準は治療施設の指示を優先し、夜間や休日も含めた連絡先を保護者と確認しておくと安心です。薬局への相談を待つ必要があるのか、直接病院に連絡すべき状態なのかを、治療開始時に整理しておきたいですね。
UGT1A1と併用薬も確認する
イリノテカンでは、UGT1A1*6、*28の遺伝子多型により、SN-38の代謝が遅れ、重篤な副作用、特に好中球減少が起こりやすくなる組み合わせがあります。結果が共有されている場合は、処方内容や過去の副作用歴とともに確認します。
また、CYP3A4に関わる薬剤やグレープフルーツジュースなど、相互作用の確認も必要です。感染症治療の薬が他院から追加されたときなどは、抗がん薬が点滴だから薬局の併用薬確認と無関係、とは考えられません。

テモゾロミドの服薬支援は「飲める形」と「飲む日」を具体的に
カプセルを家庭で開けない
テモダールカプセルは、開けたり、かみ砕いたりせず服用する薬です。飲み込みにくい場合に、保護者の判断で中身を食べ物に混ぜるといった対応は避け、治療施設や薬剤師に相談します。
小児では、処方された量が正しくても、その剤形で実際に服用できるかという問題が残ります。カプセルを飲めるか、吐き気で服薬が難しくなっていないかを、処方監査とは別に確認したいところです。
食事の影響があるため、患者向医薬品ガイドではなるべく空腹時の服用が案内されています。具体的な服用時刻、制吐薬との順序、点滴との時間関係は治療施設の指示に合わせます。飲み忘れや服用後に吐いた場合も、自己判断で追加服用せず確認します。
保護者と同じカレンダーを見ながら確認する
「5日間だけ飲む」と説明しても、開始日がずれると終了日もずれます。複数規格を組み合わせる場合は、1回分のカプセル数の取り違えにも注意が必要です。
薬局では、服用開始日と終了日、1回に飲む規格と個数、休薬する日、次回受診日を一枚にまとめると説明しやすくなります。保護者に実際の飲み方を言葉にしてもらうと、説明したつもりの部分も確認できます。
抗がん薬の副作用管理には、薬局と医療機関で同じ情報を持つことが欠かせません。副作用ごとの専門科連携については、ADCの眼毒性管理と薬局での確認ポイントでも整理しています。

抗GD2抗体との併用研究とは分けて考える
再発・難治性高リスク神経芽腫では、この2剤に抗GD2抗体を組み合わせる治療も研究されています。国内でも、ジヌツキシマブ、テモゾロミド、イリノテカン、フィルグラスチムを用いる医師主導治験が登録されています。
ただし、今回の保険適用のニュースをもって、抗GD2抗体を含むすべての追加併用が同じ条件で保険適用になる、と解釈することはできません。研究中のレジメン、既承認の使用、今回の通知の範囲は、それぞれ確認します。
化学療法が、別の治療を組み合わせる土台になることも、がん薬物療法の興味深い点です。新しい薬の話題としては、エンハーツの概要と国際ガリアン賞の話題も紹介しています。既存薬と新薬の両方から、治療の変化を追っていきたいですね。

よくある疑問
イリノテカンが神経芽腫に初めて使えるようになったの?
いいえ。イリノテカンはすでに小児悪性固形腫瘍の効能・効果を持っています。今回は再発・難治性神経芽腫でテモゾロミドと併用する場合の用法・用量を整備する取扱いです。
2剤とも点滴で使うの?
イリノテカンは点滴静注ですが、テモゾロミドには経口のカプセル剤と点滴静注用製剤があります。実際の投与経路は処方とレジメンで確認します。
テモゾロミドは脳腫瘍の薬ではないの?
悪性神経膠腫で知られていますが、再発・難治性ユーイング肉腫ではイリノテカンとの併用という先例があります。今回の神経芽腫も、対象疾患での臨床経験を踏まえた位置づけです。
「新たな安全性の懸念なし」なら副作用は軽い?
その意味ではありません。既知の副作用として、骨髄抑制や感染症、下痢などへの対応が必要です。新たなリスクが見つからなかったことと、重い副作用が起きないことは別です。
5日間飲めば、残りの日は何も気にしなくてよい?
休薬期間も体調変化に注意が必要です。飲み終わりの日、次回受診日、発熱や下痢の際の連絡先まで確認しておきましょう。
まとめ:意外な組み合わせの先に、積み重ねられた治療経験がある
イリノテカンとテモゾロミド。普段よく見る疾患だけで考えると意外な組み合わせですが、小児固形腫瘍の領域では臨床経験が積み重ねられてきた併用療法です。
今回の変更は、新薬が発売されたニュースではありません。既存薬による治療選択肢について、保険診療での位置づけが整えられたニュースです。
薬剤師としては、保険適用と正式承認を区別すること、疾患ごとの用量と休薬期間を確認すること、家庭での服薬と副作用対応を具体的に支えることが大切だと感じます。
「この薬と、この薬を組み合わせるんだ」という気づきを、処方全体を理解する入口にしていきたいですね。
※本記事は2026年11月3日時点の公開情報に基づく解説です。個々の治療選択、投与量、再開・減量、支持療法は、最新の公式情報と専門施設の判断に従います。
参考資料
- 厚生労働省:公知申請に係る事前評価が終了した医薬品の保険上の取扱い(2026年10月21日、保医発1021第1号)
- PMDA:事前評価終了後、薬事承認上は適応外でも保険適用の対象となる医薬品
- PMDA:イリノテカンの公知申請への該当性に係る報告書・神経芽腫
- PMDA:トポテシン点滴静注の製品情報・電子添文
- PMDA:テモダールカプセルの製品情報・電子添文・患者向医薬品ガイド
- Bagatell R, et al. Phase II study of irinotecan and temozolomide in children with relapsed or refractory neuroblastoma. J Clin Oncol. 2011;29:208–213.
- 厚生労働省:抗GD2抗体を含む国内医師主導治験(jRCT2051250095)


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