
こんばんは。薬剤師のしぐです。
エンハーツが「国際ガリアン賞」を受賞しました。
がん薬物療法に関わっていると、薬の承認や適応追加、臨床試験の結果は日々目にします。でも、「薬が国際的な賞を受賞した」というニュースは、少し違った角度から医療の進歩を感じられますよね。
しかも、ガリアン賞は「医療のノーベル賞」とも呼ばれる賞。初めて名前を聞いた方なら、「医薬品にも、そんな賞があるんだ!」と思うかもしれません。
今回は、受賞の内容を入り口に、エンハーツがどんな薬なのか、最近どんな動きがあったのかを整理します。詳しいレジメン解説というより、普段使っている薬の背景にある研究の積み重ねを、ちょっと知るためのお話です。
エンハーツが受賞した「国際ガリアン賞」とは?
2026年10月29日、米国ニューヨークで開催された「プリ・ガリアン・インターナショナル」で、第一三共/アストラゼネカのエンハーツが最優秀バイオテクノロジー賞を受賞しました。同じ部門ではデュピクセントも受賞しています。
ガリアン賞は1970年にフランスで始まった、医薬品や医療技術の進歩をたたえる賞です。売上の大きさよりも、科学的な革新性や人々の健康への貢献を評価する点が特徴です。
各国の賞に加え、国際版が設けられています。今回は、その国際版での受賞です。エンハーツは2024年にも米国ガリアン賞を受賞しており、今回のニュースとは区別して捉えると分かりやすいですね。
なお、「医療のノーベル賞」は賞の位置付けを伝えるための呼び方で、ノーベル賞そのものではありません。薬や医療技術、その開発を支える取り組みに光を当てる賞、と理解するとイメージしやすいと思います。
薬の名前の後ろには、研究者だけでなく、臨床試験に参加した患者さん、医療者、製造や品質管理を担う人たちの積み重ねがあります。受賞のニュースは、普段の処方箋や薬の説明からは見えにくい、その背景に目を向けるきっかけになりますね。
実は、身近なあの薬も国際ガリアン賞を受賞しています
エンハーツの受賞をきっかけに、過去の受賞薬も調べてみました。
すると、日本でも発売されている薬の名前が、いくつも見つかりました。代表例はこちらです。
| 国際賞の受賞年 | 日本での商品名 | 成分名 | どんな薬? |
|---|---|---|---|
| 2024年 | マンジャロ | チルゼパチド | GIPとGLP-1の両受容体に作用する2型糖尿病治療薬 |
| 2022年 | エンレスト | サクビトリルバルサルタン | 心不全治療などに用いるARNI |
| 2018年 | ジャディアンス | エンパグリフロジン | SGLT2阻害薬 |
| 2016年 | キイトルーダ | ペムブロリズマブ | PD-1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬 |
| 2012年 | ステラーラ | ウステキヌマブ | IL-12/23を標的とする抗体医薬品 |
| 2010年 | イグザレルト | リバーロキサバン | 血液凝固第Xa因子を阻害する経口抗凝固薬 |
| 2000年 | レミケード | インフリキシマブ | TNFαを標的とする抗体医薬品 |
※ガリアン財団の歴代受賞一覧から、国際ガリアン賞の受賞歴があり、日本でも発売されている代表例を抜粋しています。受賞部門は製品によって異なります。米国賞やフランス賞など、各国のガリアン賞とは区別しています。
「えっ、エンレストも?」「ジャディアンスも受賞していたんだ!」
こうして並べると、急に身近に感じられますね。
マンジャロやエンレストは、日本でも発売され、日々の診療で使われている薬です。いつも見ている薬の名前に、世界的な評価という別の一面があるのは、ちょっと面白い発見です。
受賞薬を眺めると、糖尿病、循環器、がん、免疫疾患など、さまざまな分野の治療の進歩が見えてきます。
もちろん、受賞歴だけで薬の優劣や、個々の患者さんへの適否が決まるわけではありません。それでも、普段扱っている薬の背景を知る入り口として、こんな賞に注目してみるのもよいですね。
エンハーツとは?抗体に抗がん薬をつないだADC

エンハーツの一般名は、トラスツズマブ デルクステカン。略称はT-DXdです。
HER2を標的とする抗体に、がん細胞の増殖を抑える薬物をつないだ「抗体薬物複合体」、ADCに分類されます。
簡単にいうと、抗体の「目印を認識する働き」と、抗がん薬の「細胞を攻撃する働き」を組み合わせた薬です。抗体と薬物をつなぐ部分はリンカーと呼ばれます。
エンハーツでは、抗体がHER2を認識し、細胞内へ取り込まれた後、結合していた薬物が放出されて作用します。薬物部分はトポイソメラーゼⅠを阻害することで、がん細胞の増殖を抑えます。
ただ、「がん細胞を狙う」という説明を聞くと、「正常な細胞には影響しない」「副作用が少ない」と受け取られがちです。そこは注意が必要です。届け方を工夫した薬でも、副作用への対応は欠かせません。
薬局で説明するなら、「薬を届ける仕組みに工夫がある抗がん薬です。治療中の体調変化は、早めに相談してください」と、仕組みと安全管理をつなげて伝えたいところです。
ADCという言葉は、いまやがん治療のニュースでよく見かけます。ただし、ADCという分類が同じでも、標的や結合している薬物、注意する副作用は異なります。「ADCだから同じように扱える」とまとめず、薬ごとの特徴を押さえることが大切です。
エンハーツの適応や用法・用量を詳しく確認したい方は、コチラもあわせてご覧ください。


最近の話題① HER2陽性乳がんの一次治療へ
最近の国内での大きな動きが、2026年9月16日の一部変更承認です。
エンハーツとペルツズマブの併用療法について、HER2陽性の手術不能または再発乳がんの一次治療に関わる承認が得られました。根拠となったのは、DESTINY-Breast09試験です。
ここでいう一次治療は、手術不能・再発乳がんに対する治療の段階を表しています。「乳がんと診断されたすべての方に、最初からエンハーツを使う」という意味ではありません。
今回のポイントは、エンハーツという薬の登場だけでなく、治療のどの段階で使うかが変わってきたことです。
同じ薬でも、前の治療で使うのか、次の治療として使うのか、ほかの薬と組み合わせるのかで、説明や確認事項は変わります。薬剤名を知っているだけで終わらず、「何のがんに、どの段階で、どの薬と一緒に使っているのか」まで確認したいですね。
たとえば、お薬手帳にエンハーツという名前があっても、それだけで治療内容を決めつけることはできません。病院からの治療情報や患者さんの説明と結び付けて、支持療法の薬や相談先を整理することが実務につながります。
今回の国内承認とダトロウェイの話題は、コチラで詳しく紹介しています。

最近の話題② 胃がん・固形がんでも広がる位置付け
2026年3月には、日本でHER2陽性の進行・再発固形がんへの適応が追加されました。対象は、標準的な治療が困難な場合に限られます。
同じ月には、HER2陽性胃がんの二次治療への使用を可能にする添付文書改訂も行われています。
エンハーツは、乳がんの薬という印象が強いかもしれません。でも、その位置付けは乳がんだけでは語れなくなっています。
一方で、「HER2が関係するがんなら、どのがんにも同じように使える」という理解はできません。がん種、検査結果、前治療歴などによって条件が異なります。HER2の発現と遺伝子変異も、同じ意味ではありません。
ニュースでは「対象が広がった」という見出しが先に目に入ります。その次に、「どんな条件を満たす方が対象なのか」を一段深く確認することが大切です。
薬剤師としては、適応拡大を覚えるだけでなく、患者さんへの説明が広がりすぎないようにしたいところ。「選択肢が増えていますが、使えるかどうかは検査やこれまでの治療を踏まえて判断されます」という説明が、期待と実際の治療をつなぐ助けになります。
最近の話題③ 海外では早期乳がんの術後療法も
海外の動きでは、2026年10月8日、中国でHER2陽性早期乳がんの術後薬物療法を対象とした承認取得が発表されています。
進行・再発がんの治療から、手術後の治療へ。エンハーツの話題を追ううえで、治療目的の広がりも注目したいポイントです。
ただし、これは中国での承認です。海外の承認と、日本の承認を混同しないようにしましょう。2026年9月改訂の国内電子添文では、乳がんの術前・術後薬物療法における有効性・安全性は確立していないとされています。
ニュースを読むときには、「試験で結果が出た」「承認申請された」「承認が勧告された」「承認された」を分けることも大切です。さらに、その出来事がどの国で起きたのかも確認する。ここを押さえるだけで、情報の受け取り方がずいぶん整理されます。
患者さんから「手術後にも使えると聞いたのですが」と質問された場合も、見た情報の国や時点を確認し、本人の治療については担当の医療機関につなげたいですね。
研究の背景や術後療法の意味は、エンハーツとHER2陽性早期乳がんの術後療法の記事で整理しています。
受賞のニュースと一緒に押さえたい、副作用への目配り

受賞はうれしいニュースですが、実際の治療を支える場面では、安全に使うための確認が欠かせません。
エンハーツで特に重要なのが、間質性肺疾患です。2026年9月にも、第一三共から適正使用に関する注意喚起が更新されています。
治療中の咳、息切れ、発熱などは、早めに治療先へ連絡してほしい症状です。重い息苦しさなどがあるときは、緊急の受診が必要です。
薬局では、「副作用はありませんか?」だけでなく、普段の生活に結び付けて聞く工夫ができます。「最近、歩いたときに息が切れやすくなっていませんか」「新しく咳が出ていませんか」と聞くと、患者さんが変化を思い出しやすくなるかもしれません。
もちろん、咳があればすべて薬の副作用というわけではありません。薬局で原因を決めるのではなく、見逃したくない症状として拾い、医療機関の評価につなげることが大切です。
悪心・嘔吐や食事量の低下などについても、「処方された薬を受け取れたか」に加えて、「実際に使えたか」「使ってもつらさが残っていないか」を確認したいですね。
支持療法の薬が出ていても、飲むタイミングが分からなかったり、我慢して使っていなかったりすることがあります。薬を増やす相談の前に、今ある薬の使い方を一緒に振り返ることも、薬局でできる支援です。
詳しい確認ポイントは、コチラにまとめています。

薬局から見ると、受賞のニュースにも意味がある
点滴で使う抗がん薬は、保険薬局では直接調剤しないことも多い薬です。それでも、患者さんは点滴後の生活を地域で過ごし、吐き気止めや便秘薬などを受け取りに来ます。
だからこそ、点滴薬の名前と治療の特徴を知ることは、薬局での会話に役立ちます。
「その薬、世界的な賞を受賞したんですよ」という話題も、患者さんとの関係や状況によっては会話の入り口になるでしょう。ただ、受賞を理由に「絶対に効く」「心配しなくて大丈夫」とは伝えられません。
患者さんが知りたいのは、賞の大きさよりも、「自分の治療は何を目指しているのか」「つらいときに誰へ相談すればよいのか」かもしれません。ニュースを知識として持ちながら、会話の中心はその方の困りごとに置く。そこを大切にしたいですね。
受賞した薬の仕組みを知り、最近の治療上の変化を知り、今の体調を聞く。華やかなニュースが、いつもの確認を少し丁寧にするきっかけになれば、それも薬局らしい受け止め方だと思います。
よくある質問
エンハーツが受賞したのはノーベル賞ですか?
いいえ。受賞したのは2026年のプリ・ガリアン・インターナショナルの最優秀バイオテクノロジー賞です。「医療のノーベル賞」と呼ばれることがありますが、別の賞です。
2024年にも受賞していませんでしたか?
2024年には米国ガリアン賞を受賞しています。今回の2026年のニュースは国際版での受賞です。賞の名称と開催年を一緒に確認すると整理しやすくなります。
エンハーツは、がんの種類を問わず使える薬ですか?
すべてのがんが対象ではありません。HER2に関する検査やがん種、前治療などの条件があります。詳しくは最新の国内電子添文と、担当医療機関での説明を確認してください。
受賞した薬なら、自分にも効果がありますか?
受賞は医薬品の革新性や貢献を評価するものです。個々の患者さんでの効果を保証するものではなく、治療選択は病状や検査結果、これまでの治療などを踏まえて判断されます。
点滴を受けていることは薬局でも伝えた方がよいですか?
ぜひ伝えてください。薬剤名や投与日、病院で受けた説明が分かると、体調変化や支持療法の薬について確認しやすくなります。治療内容が分かる手帳や説明書があれば、一緒に見せていただくと役立ちます。
こんなふうに、医薬品の進歩をたたえる賞があるんですね
エンハーツの国際ガリアン賞受賞は、薬の名前の向こう側にある研究と開発を知るニュースでした。
がん治療の話題は、どうしても難しい試験名や数字が並びがちです。今回はそこから少し視点を変えて、「医薬品の進歩をたたえる賞があるんだね」と知るだけでも、十分に面白い話だと思います。
そして、受賞した薬がどんな仕組みで、いまどんな場面で使われているのかを、少しだけ調べてみる。その先に、普段の実務や患者さんとの会話につながる発見があるかもしれません。
新しい治療への期待と、毎日の体調確認。その両方を大切にしながら、これからのエンハーツの動きも追っていきたいですね。
参考リンク(情報確認日:2026年11月2日)
- ガリアン財団・2026年国際賞の受賞発表
- 第一三共・2024年米国ガリアン賞受賞
- 第一三共・2026年9月16日 国内一次治療の承認
- 第一三共・2025年度決算資料:2026年3月の適応拡大
- 第一三共・プレスリリース一覧:2026年10月8日 中国術後療法承認
- PMDA・最新電子添文/適正使用ガイド
- 第一三共・2026年9月 間質性肺疾患に関する留意事項
※本記事は情報提供を目的としています。治療の適否や副作用への対応は、担当の医療機関にご相談ください。


コメント