薬剤師のしぐです。
新型コロナウイルス。
この数ヶ月で全世界の常識をことごとく変えていった新型コロナウイルス。
コレまでにもいくつか内容をまとめてきました。
現在、新型コロナウイルス治療薬として唯一使用可能な「レムデシビル」がコチラ
そして今回、この新型コロナウイルスに対する新しい治療薬開発のニュースが入ってます。
その成分が「ナファモスタット」です。
コレまでファビピラビル〈アビガン錠〉を中心に、たくさんの医薬品が新型コロナウイルスに効果があるのではないかと感染患者に試されてきました。
今回はナファモスタット〈フサン注射用〉について、概要や基本的な使い方、新型コロナウイルス治療に期待できる作用機序等々まとめるよ。
フサン注射用の有効成分
ナファモスタット
新型コロナウイルスの感染阻害作用があると報告されているカモスタット〈フオイパン錠〉の類似薬です。
このカモスタット〈フオイパン錠〉のコロナへの有効性については後でまとめてあります。
ナファモスタット〈フサン注射用〉の適応・効能効果
- 膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の急性膵炎、外傷性膵炎)の改善
- 汎発性血管内血液凝固症(DIC)
- 出血性病変又は出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析及びプラスマフェレーシス)
ナファモスタット〈フサン注射用〉の用法用量
膵炎の急性症状(急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、術後の急性膵炎、膵管造影後の急性膵炎、外傷性膵炎)の改善
通常、1回、ナファモスタットメシル酸塩として10mgを5%ブドウ糖注射液500mLに溶解し、約2時間前後かけて1日1〜2回静脈内に点滴注入する。
なお、症状に応じ適宜増減する。
汎発性血管内血液凝固症(DIC)
通常、1日量を5%ブドウ糖注射液1,000mLに溶解し、ナファモスタットメシル酸塩として毎時0.06〜0.20mg/kgを24時間かけて静脈内に持続注入する。
出血性病変又は出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析及びプラスマフェレーシス)
通常、体外循環開始に先だち、ナファモスタットメシル酸塩として20mgを生理食塩液500mLに溶解した液で血液回路内の洗浄・充てんを行い、体外循環開始後は、ナファモスタットメシル酸塩として毎時20〜50mgを5%ブドウ糖注射液に溶解し、抗凝固剤注入ラインより持続注入する。なお、症状に応じ適宜増減する。
ナファモスタット〈フサン注射用〉の作用機序
酵素阻害作用
本品はトロンビン、活性型凝固因子(XIIa、Xa、VIIa)、カリクレイン、プラスミン、補体、トリプシン等の蛋白分解酵素を強力に阻害し、ホスホリパーゼA2に対しても阻害作用を示す。
トロンビンに対する阻害作用は、ATIIIを介さずに発現する。
またα2-マクログロブリンに結合したトリプシンを遊離型トリプシンと同様に阻害する。
実験的急性膵炎に対する作用
本品はトリプシン、エンテロキナーゼ及びエンドトキシンを膵管内に逆行性に注入して惹起した各種実験的膵炎に対し、死亡率を低下させる(ラット、ウサギ)。
血液凝固時間延長作用
本品は各種凝固時間(APTT、PT、TT、LWCT、CCT)を延長させる。
血小板凝集抑制作用
本品はトロンビン、アドレナリン、ADP、コラゲン及びエンドトキシンによる血小板凝集を抑制する。
実験的DICに対する作用
本品はエンドトキシン投与による実験的DICに対し、各種凝血学的検査値を改善し、腎糸球体のフィブリン血栓形成を抑制する(ラット、ウサギ)。
体外循環路内の抗凝固作用
本剤を血液透析及びプラスマフェレーシスの抗凝固薬として使用したとき、血中濃度に相関した血液凝固時間の延長が体外循環路内にほぼ限局して認められた(ヒト)。
カリクレイン-キニン系に対する作用
本品は静脈内投与後採取した血漿において、ガラス粉によるキニン生成を抑制する(ラット)。本剤を膵炎患者に投与した結果、カリクレインの活性化に基づく総キニノゲン量の減少が改善された。
補体系に対する作用
本品は補体溶血反応を抑制する
結果的に、すごく、たくさんの効果があるんですね。
ナファモスタット〈フサン注射用〉の薬価
- 注射用フサン10:437円/瓶
- 注射用フサン50:960円/瓶
カモスタット〈フオイパン錠〉のコロナウイルスへの有効性について
新型コロナウイルスへの有効性を試されてきたたくさんの医薬品の中の1つに、カモスタット〈フオイパン錠〉があります。
新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際に、細胞の膜上にあるACE2と呼ばれる受容体たんぱく質に結合した後、やはり細胞膜上にあるセリンプロテアーゼと呼ばれる酵素の1種であるTMPRSS2を利用して細胞内に侵入していることが報告されています。
カモスタットはTMPRSS2を妨げる働きを持つことが知られており、重症呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるコロナウイルスの感染を妨げることが報告されてきました。
コレが、簡単な新型コロナウイルスに対するカモスタットの作用機序です!
ナファモスタットに関する東京大学医科学研究所の発表内容
そしてコレが、新型コロナウイルスの治療薬として期待されているナファモスタットに対しての発表です。
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2の感染の最初の段階であるウイルス外膜と、感染する細胞の細胞膜との融合を阻止することで、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止する可能性がある薬剤としてナファモスタット(Nafamostat mesylate、商品名フサン)を同定した。
- 本年3月初めにドイツのグループはナファモスタットの類似の薬剤であるカモスタット(Camostat mesylate、商品名フォイパン)のSARS-CoV-2に対する有効性を発表したが(参考文献1)、カモスタットと比較してナファモスタットは10 分の1以下の低濃度でウイルスの侵入過程を阻止した。
- ナファモスタット、カモスタットともに急性膵炎などの治療薬剤として本邦で開発され、すでに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤である。安全性については十分な臨床データが蓄積されており、速やかに臨床治験を行うことが可能である。
発表概要
東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点の井上純一郎教授と山本瑞生助教は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである SARS-CoV-2が細胞に侵入する最初の過程であるウイルス外膜と細胞膜との融合を、安全かつ定量的に評価できる膜融合測定系を用いて、セリンプロテアーゼ阻害剤であるナファモスタットが、従来発表されている融合阻害剤に比べて10 分の1以下の低濃度で膜融合を阻害することを見いだした。
SARS-CoV-2が人体に感染するには細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのち、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こすことが重要である。
コロナウイルスの場合、Spikeタンパク質(Sタンパク質)がヒト細胞の細胞膜のACE2受容体に結合したあとに、タンパク質分解酵素であるTMPRSS2で切断され、Sタンパク質が活性化されることがウイルス外膜と細胞膜との融合には重要である。
井上らはMERSコロナウイルスでの研究結果(参考文献2)をもとに、ナファモスタットやカモスタットの作用を調べたところ、ナファモスタットは1-10 nMという低濃度で顕著にウイルス侵入過程を阻止した。
このことから、ナファモスタットはSARS-CoV-2感染を極めて効果的に阻害する可能性を持つと考えられる。
発表内容
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因となる感染症(COVID-19)は、2019年暮れに中国・武漢で世界で初めて患者が確認されてから、2ヶ月あまりで世界152カ国に拡散し、世界保健機構(WHO)も2020年3月11日にパンデミックを宣言した。
日本では、感染者の多くが無症候性キャリアもしくは軽症であるものの、重症化しさらに高齢者や基礎疾患がある人の場合には死に至ることがある。
しかしながら現時点で効果が確認された治療薬は存在せず、その開発は急務である。既に全世界的にSARS-CoV-2の感染が拡大している現状を鑑みると、安全性が確認された既存の薬から治療薬を探すいわゆるドラッグリポジショニングは極めて有効と考えられる。
SARS-CoV-2などのコロナウイルスは、脂質二重層と外膜タンパク質からなるエンベロープ(外膜)でウイルスゲノムRNAが囲まれている。SARS-CoV-2はエンベロープに存在するSpikeタンパク質(Sタンパク質)が細胞膜の受容体(ACE2受容体)に結合したあと、ヒトの細胞への侵入を開始する。
Sタンパク質はFurinと想定されるヒト細胞由来のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によりS1とS2に切断される。その後S1が受容体であるACE2受容体に結合する。もう一方の断片S2はヒト細胞表面のセリンプロテアーゼであるTMPRSS2で切断され、その結果膜融合が進行する。
HoffmannらによりSARS-CoV-2の感染にはACE2とTMPRSS2が気道細胞において必須であることが発表された。
井上らは、2016年にMERS-CoV Sタンパク質、受容体CD26、TMPRSS2に依存した膜融合系を用いてセリンプロテアーゼ阻害剤であるナファモスタットが膜融合を効率よく抑制してMERS-CoVの感染阻害剤になることを提唱した。
そこで今回、293FT細胞(ヒト胎児腎臓由来:を用いてSARS-CoV-2 Sタンパク質、受容体ACE2、TMPRSS2に依存した膜融合測定系を用いて、ナファモスタットがSARS-CoV-2 Sタンパク質による膜融合を抑制するかどうか検討した。
その結果ナファモスタットは10から1000 nMの濃度域で濃度依存的に抑制した。つぎにACE2やTMPRSS2を内在的に発現し、ヒトで感染が起こるさいに重要な感染細胞と考えられる気道上皮細胞由来のCalu-3細胞を用いて同様の実験を行ったところ、さらに低濃度の1-10 nMで顕著に膜融合を抑制した。
この濃度域はMERS-CoV Sタンパク質による膜融合に対する抑制濃度域とほぼ同じである。さらに井上らはナファモスタットと類似のタンパク質分解阻害剤であるカモスタットの作用を比較検討したところ、SARS-CoV-2 Sタンパク質による融合において、ナファモスタットはカモスタットのおよそ10分の1の濃度で阻害効果を示すことが明らかになった。
以上から、臨床的に用いられているタンパク分解阻害剤の中ではナファモスタットが最も強力であり、COVID-19に有効であると期待される。
ナファモスタット、カモスタットともに膵炎などの治療薬剤として本邦で開発され、すでに国内で長年にわたって処方されてきた薬剤である。ナファモスタットは臨床では点滴静注で投与されるが、投与後の血中濃度は今回の実験で得られたSARS-CoV-2 Sタンパク質の膜融合を阻害する濃度を超えることが推測され、臨床的にウイルスのヒト細胞内への侵入を抑えることが期待される。
カモスタットは経口剤であり、内服後の血中濃度はナファモスタットに劣ると思われるが、他の新型コロナウイルス薬剤と併用することで効果が期待できるかもしれない。
こ新型コロナウイルス感染症治療として、ナファモスタット(製品名:フサン)をめぐり、東京大学、理化学研究所(理研)、日医工、第一三共は6月8日、吸入製剤の共同開発について基本合意したと発表した。
ナファモスタットは点滴静注製剤しかないが、気道や肺に高濃度で移行できる吸入製剤の効果が期待されている。
抗インフルエンザウイルス薬・イナビルの経験を有する第一三共が参画し、開発を加速させたい考えだ。今後は第一三共が主体となり、7月までに非臨床試験を開始する予定。当局との協議を踏まえ、2021 年 3 月までの臨床試験移行を目指す。現時点では申請・販売は第一三共が担う予定で、いち早い治療選択肢の提供を目指すという。
ナファモスタットは、東京大学医科学研究所が新型コロナの原因ウイルスであるSARS-CoV-2 の感染の最初の段階であるウイルス外膜と、感染する細胞の細胞膜との融合を阻止することで、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止する可能性があることを指摘していた。
理研は、創薬化に最適化するために、アカデミアと企業・医療機関の橋渡しを行っており、理研の持つ多方面の先端技術を用いて研究開発を支援するとしている。
ナファモスタットは現在、急性膵炎や播種性血管内凝固症候群などの治療薬として、国内で長期間処方されている。製造販売元の日医工は蓄積したデータを提供するほか、共同研究開発への原薬供給を行う。データの提供を通じ、開発スピードの加速も期待できるとしている。
今回はこんな感じですねーー
新型コロナウイルスに対する2番目の治療薬として治験が進められることになったこのナファモスタット。
レムデシビル〈ベクルリー点滴静注〉同様、早い段階での承認を得られるのか、気になるところです。
ではでは、しぐでしたっ
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