ピロリ菌は膵がんにも関係する?膵頭部3.04倍・膵体部1.75倍を示した日本人研究【2026年】

こんばんは、薬剤師のしぐです。
胃がんの原因としてよく知られている、ヘリコバクター・ピロリ菌。
そのピロリ菌が、もしかすると膵臓がんの一部にも関係しているかもしれない。そんな興味深い日本人データが報告されました。
特に注目したいのは、膵臓がんをひとまとめにせず、発生した場所ごとに調べた結果です。
- 長期間の感染を反映する可能性がある群では、膵頭部がんのオッズが3.04倍
- ピロリ菌抗体陽性者では、膵体部がんのオッズが1.75倍
- 膵尾部がんでは、明確な関連なし
「ピロリ菌といえば胃」というイメージでしたが、膵臓との関係まで見えてくるとは……。
ただし、ここはとても大切です。
今回の研究だけで、ピロリ菌が膵臓がんの原因だと証明されたわけではありません。除菌すれば膵臓がんを予防できる、ともまだ言えません。
何が分かり、何がまだ分からないのか。薬剤師目線で整理します。
今回の研究を先にまとめると
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 研究機関 | 愛知県がんセンターなど |
| 掲載誌 | International Journal of Cancer |
| 掲載日 | 2026年7月14日 |
| 研究デザイン | 病院ベースの症例対照研究 |
| 対象 | 膵臓がん417人、胆道がん116人、非がん対照3,086人 |
| 評価方法 | 抗ピロリ菌IgG抗体+ペプシノゲン検査 |
| 膵がん全体 | 抗体価が10 U/mL高いごとにオッズ比1.04 |
| 膵頭部がん | 長期感染を反映する可能性がある群でオッズ比3.04 |
| 膵体部がん | 抗体陽性者でオッズ比1.75 |
| 膵尾部がん | 明確な関連なし |
| 胆道がん | 明確な関連なし |
結論を一言でいうと、
ピロリ菌感染は、すべての膵臓がんに同じように関係するのではなく、発生部位によって異なる形で関係する可能性がある。
という研究です。
そもそもピロリ菌とは?
ピロリ菌は、主に胃の粘膜に感染する細菌です。
多くは幼少期に感染し、除菌しなければ長期間にわたって感染が続きます。慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫などとの関係が知られています。
今回の研究で新しいのは、胃ではなく膵臓がんや胆道がんとの関係を詳しく調べたことです。
これまでにも、胆汁・胆道組織・膵組織からヘリコバクター属の細菌が検出されたという報告はありました。しかし、対象者数や感染の評価方法、対照群の選び方が研究ごとに違い、結果は一致していませんでした。

抗体検査だけでは「昔からの感染」を見逃すことがある

今回の研究で重要なのが、ピロリ菌抗体だけで判断しなかった点です。
ピロリ菌に長期間感染して胃粘膜の萎縮が強くなると、胃の中でピロリ菌が住みにくくなり、血液中の抗体価が低下することがあります。
つまり、
抗体が陰性だから、これまで一度も感染していなかったとは限らない。
ということです。
そこで研究グループは、抗ピロリ菌IgG抗体に加えて、胃粘膜の萎縮を反映するペプシノゲン検査を組み合わせました。
この評価によって、長期感染後に抗体が低下した可能性のある人も拾い上げたことが、今回の研究の大きな特徴です。
膵がん全体では「陽性・陰性」だけでは差が出なかった
まず、膵臓がん全体をピロリ菌抗体の陽性・陰性だけで比べた場合、明確な関連は認められませんでした。
ただし抗体価を連続した数値として見ると、抗体価が10 U/mL高くなるごとに、膵臓がんのオッズは1.04倍となりました。
1.04倍だけを見ると小さく感じますが、「10 U/mLごと」の変化です。また、この結果だけで臨床上のリスクを判断できるわけでもありません。
そして今回、より興味深かったのが、膵臓内の発生部位ごとの解析でした。
膵頭部がんではオッズ比3.04
膵臓は、十二指腸側から膵頭部、膵体部、膵尾部に分けられます。
膵頭部がんでは、長期間のピロリ菌感染によって胃粘膜萎縮が進み、抗体が低下した状態を反映する可能性がある群で、ピロリ菌抗体・萎縮性胃炎指標がともに陰性の群と比べ、オッズ比3.04でした。
95%信頼区間は1.23~7.54です。
数字としてはかなり目を引きますが、信頼区間には幅があります。発生部位別では症例数が少なくなるため、「3倍になる」とそのまま断定するのではなく、関連を示すシグナルが見つかったと読むのが適切です。
膵体部がんではオッズ比1.75

膵体部がんでは、ピロリ菌抗体陽性者のオッズが抗体陰性者と比較して1.75倍でした。
95%信頼区間は1.10~2.77です。
抗体検査とペプシノゲン検査を組み合わせた感染評価でも、同じ方向の関連が認められました。
一方、膵尾部がんでは明確な関連は認められませんでした。
同じ膵臓がんでも、発生する場所によって背景や発がんメカニズムが異なる可能性があります。今回のデータは、その違いを考える手がかりになりそうです。

胆道がんとの明確な関連は認められず
研究では、胆道がんについても調べられました。
しかし、胆道がん全体だけでなく、肝内胆管がん、胆のうがん、肝外胆管がんに分けても、ピロリ菌感染との明確な関連は認められませんでした。
抗体価、ペプシノゲン検査、両者を組み合わせた評価のいずれでも同様でした。

2019年の日本人研究では「関連なし」だった
ここは、今回のニュースを読むうえで外せません。
国立がん研究センターのJPHC研究では、約2万人を追跡し、膵がんを発症した119人を解析しました。その結果、ピロリ菌感染や萎縮性胃炎と膵がん罹患リスクとの関連は認められませんでした。
では、今回の研究と矛盾するのでしょうか。
単純にどちらかが間違っている、という話ではありません。
| 研究 | 主な特徴 |
|---|---|
| JPHC研究(2019年) | 一般集団を追跡した前向きコホート内症例対照研究。膵がん119人 |
| HERPACC研究(2026年) | 病院ベースの症例対照研究。膵がん417人。膵臓内の発生部位別にも解析 |
今回の研究では、膵がん全体の陽性・陰性比較では明確な関連がなく、発生部位別に分けたことで異なるパターンが見えてきた点がポイントです。
まだ研究結果は一貫していません。だからこそ、今後さらに確かめる価値のあるデータだと考えます。
なぜ胃のピロリ菌が膵臓に影響するの?
現時点で、メカニズムは確定していません。
考えられているのは、主に次のような可能性です。
- ピロリ菌やヘリコバクター属が膵臓へ直接影響する
- 長く続く炎症や免疫反応が間接的に影響する
- 胃酸分泌や胃内細菌叢など、胃内環境の変化が下流の消化器に影響する
- 膵頭部・膵体部など、部位ごとに異なる生物学的背景がある
いずれも、今回の研究だけで証明されたわけではありません。
「ピロリ菌を除菌すれば膵がん予防」はまだ言えない

今回の研究は、膵臓がんの患者さんと非がん対照者を比較した症例対照研究です。
関連を見つけることはできますが、原因と結果を確定することはできません。
さらに、次のような限界があります。
- 除菌歴を詳細に把握した研究ではない
- 血液検査による感染評価には限界がある
- 部位別解析では一部の症例数が少ない
- 発生部位が不明な症例を除外したことによる偏りの可能性がある
- オッズ比は個人の「発症確率がそのまま3倍」を意味しない
したがって、現段階では、
膵がん予防だけを目的にピロリ菌検査や除菌を行う根拠が確立した。
とは言えません。
もちろん、ピロリ菌は胃がんや消化性潰瘍などとの関係が確立しています。検査や除菌の必要性は、胃の状態や既往歴をもとに医師と相談してください。
薬剤師として注目したい「除菌して終わりではない」ポイント
ピロリ菌除菌では、胃酸分泌抑制薬と複数の抗菌薬を組み合わせ、通常7日間服用します。
薬局では、次の確認が大切です。
- 途中で自己中断せず、指示された期間を飲み切る
- 下痢、軟便、味覚異常、発疹などの副作用を確認する
- メトロニダゾールを使用する二次除菌中は飲酒を避ける
- 除菌治療後は、決められた時期に除菌判定を受ける
- 除菌成功後も、必要な胃の経過観察を続ける
今回の研究は興味深いものですが、患者さんに「除菌すれば膵がんも防げます」と説明する段階ではありません。
研究の可能性と、今の医療で確立していること。この2つを分けて伝えたいところです。
外来がん治療における薬局フォローについては、コチラ

まとめ|膵がんを「発生部位別」に見たから分かった可能性
今回の研究では、ピロリ菌抗体とペプシノゲン検査を組み合わせ、膵臓がんを発生部位別に解析しました。
- 膵がん全体では、抗体の陽性・陰性だけによる明確な関連はなし
- 抗体価が10 U/mL高いごとに、膵がん全体のオッズ比1.04
- 長期感染を反映する可能性がある群で、膵頭部がんのオッズ比3.04
- ピロリ菌抗体陽性者で、膵体部がんのオッズ比1.75
- 膵尾部がんと胆道がんでは、明確な関連なし
胃にいるピロリ菌と、遠くない場所にある膵臓。
これまでの研究では結論が一致していませんでしたが、膵臓がんをひとまとめにせず、場所ごとに見たことで新しい可能性が見えてきました。
すごくおもしろいデータです。
ただし、今はまだ「関連が示唆された」段階。ピロリ菌が膵がんの原因であることも、除菌で予防できることも証明されていません。
今後、除菌歴を含む大規模研究で同じ結果が再現されるのか。胃がん予防として定着しているピロリ菌対策が、いつか膵がんの一部にもつながっていくのか。
続報に期待したい研究です。
FAQ
Q1. ピロリ菌がいると膵臓がんになりますか?
今回の研究は一部の膵臓がんとの関連を示しましたが、ピロリ菌が膵臓がんの原因だと証明したものではありません。感染している人が必ず膵臓がんになるわけでもありません。
Q2. ピロリ菌を除菌すれば膵臓がんを予防できますか?
現時点では分かっていません。今回の研究では除菌による予防効果を調べておらず、膵がん予防を目的とする除菌の根拠はまだ確立していません。
Q3. 膵頭部がんが3.04倍という意味は?
長期感染を反映する可能性がある群で、基準群と比べたオッズが3.04倍だったという意味です。個人の発症確率が必ず3.04倍になるという意味ではなく、症例数や研究デザインも踏まえた慎重な解釈が必要です。
Q4. ピロリ菌抗体が陰性なら過去の感染も否定できますか?
必ずしも否定できません。長期感染で胃粘膜萎縮が進むと抗体価が低下し、陰性になる場合があります。今回の研究ではペプシノゲン検査を組み合わせて評価しました。
Q5. 2019年の日本人研究と結果が違うのはなぜですか?
研究デザイン、症例数、対象集団、評価方法が異なります。2026年研究では膵臓内の発生部位別に解析したことで、膵頭部と膵体部に異なる関連が見つかりました。現時点では結果が一貫しておらず、さらなる検証が必要です。
Q6. ピロリ菌陽性なら、すぐに除菌した方がよいですか?
胃炎、消化性潰瘍、胃がんリスクなど、現在確立している適応や検査結果に基づいて医師が判断します。自己判断で薬を使用せず、消化器内科などで相談してください。


コメント