
薬剤師のしぐです。
「低血糖になったら、ブドウ糖は何gとればいい?」
「一度とっても治らないときは、追加していい?」
「家族の意識がはっきりしないときは、どうすればいい?」
糖尿病の治療では、血糖値を下げることと同じくらい、低血糖を防ぐことが大切です。
低血糖は早めの対応で改善することが多い一方、判断力の低下や意識障害につながることもあります。
まず覚えておきたいのは、次の2つです。
・意識がはっきりして安全に飲み込める場合は、速やかにブドウ糖をとる
・意識がはっきりしない、けいれんしている、飲み込めない場合は、口から与えず119番する
この記事では、主に糖尿病の薬による低血糖について、成人の一般的な対処法と再発予防をまとめます。小児や個別の対応指示がある方は、事前に決めた方法を優先してください。
低血糖が疑われたら、まずどうする?
低血糖への対応は、血糖値だけでなく「本人が安全に飲み込めるか」で分けて考えます。
| 状態 | 最初の対応 |
|---|---|
| 意識がはっきりしていて、安全に飲み込める | 作業や運動を中止し、ブドウ糖をとる |
| 反応がおかしい、自分で対処できない、飲み込めない | 119番通報。口から食べ物・飲み物を与えない |
| けいれん・意識消失がある | 直ちに119番。処方済みのグルカゴンがあれば、指導された方法で使用 |
| 糖分をとっても改善しない、いったん改善しても繰り返す | 医療機関に連絡。悪化や意識の変化があれば119番 |
血糖測定器がすぐ使える場合は測定します。ただし、測定の準備に時間がかかるために対処を遅らせないことも大切です。
低血糖は血糖値がいくつになったら注意する?
糖尿病治療中は、一般に血糖値70mg/dL未満が低血糖として対応する目安です。
国際的には、次のように分類されています。
| 分類 | 目安・意味 |
|---|---|
| レベル1 | 54mg/dL以上、70mg/dL未満 |
| レベル2 | 54mg/dL未満。速やかな対処が必要 |
| レベル3・重症低血糖 | 意識や身体機能に変化があり、回復に他者の援助を必要とする状態。血糖値の数値を問わない |
ここで大切なのは、「この数値なら必ずこの症状が出る」とは限らないことです。
普段の血糖値が高い方では、急に下がったときに70mg/dL以上でも低血糖に似た症状が出ることがあります。
反対に、血糖値が低くなっていても症状に気づかない場合があります。
「冷や汗がないから大丈夫」「まだ意識があるから大丈夫」と判断しないようにしましょう。
低血糖の症状|冷や汗やふるえだけではない
低血糖では、からだが血糖値を上げようとする反応や、脳へのエネルギー不足によって症状が出ます。
| 症状のタイプ | 主な症状 |
|---|---|
| 血糖低下を知らせる症状 | 冷や汗、手のふるえ、動悸、強い空腹感、不安感 |
| 脳の働きに影響する症状 | 眠気、脱力、めまい、目のかすみ、集中力低下、受け答えがおかしい |
| 重い症状 | 自分で対処できない、けいれん、意識消失 |
家族から見て「いつもと様子が違う」「急に怒りっぽい」「ぼんやりして会話が続かない」といった変化が、低血糖のサインになることもあります。
高齢者では、ふらつきやぼんやりに注意
高齢者では、冷や汗や動悸などの典型的な症状が目立たず、ふらつき、脱力、反応の鈍さなどが中心になる場合があります。
急な変化を「年齢のせい」「いつもの物忘れ」と決めつけないことが大切です。
症状に気づかない「無自覚性低血糖」もある
低血糖を繰り返すと、警告となる症状が出にくくなることがあります。
「以前は手がふるえたのに、最近は何も感じない」という変化も、主治医に伝えたい情報です。

ブドウ糖は何gとる?成人では10gをひとつの目安に
意識がはっきりしていて、安全に飲み込める場合は、速やかにブドウ糖をとります。
成人では、ブドウ糖10gをひとつの目安として覚えておくと実用的です。
日本の診療ガイドラインでは、経口摂取するブドウ糖の初期量は5〜10gを目安とし、症状に応じて調節します。必要量には個人差があるため、主治医から量の指示がある場合は、その方法を優先してください。
ブドウ糖製品は、1包・1粒あたりの含有量が異なります。
例えば、ブドウ糖として1包5gなら2包で10gです。ただし、製品全体の重さが、そのままブドウ糖の量とは限りません。
薬局では「ブドウ糖を持っていますか?」に加えて、「その製品なら何包・何粒ですか?」まで確認しておくと、いざというときに迷いにくくなります。
とったら、約15分後に再確認する
ブドウ糖をとったあとは安静にし、約15分後に血糖値と症状を確認します。
血糖値がまだ70mg/dL未満の場合や、低血糖症状が改善しない場合は、安全に飲み込めることを確認して、同量をもう一度とります。
ただし、反応がおかしくなったり、飲み込めなくなったりしたら、15分を待たず119番してください。
追加しても改善しない、低血糖が続く場合も医療機関への連絡が必要です。糖分を繰り返しとるだけで、長時間様子を見続けないようにしましょう。
回復したあとも、再び下がることがある
症状が治まっても、インスリンや飲み薬の作用が残っていれば、再び血糖値が下がる可能性があります。
回復後は食事の時間を確認し、次の食事まで間がある場合は、事前に指導された補食をとります。
意識障害を伴った場合や、低血糖を繰り返す場合は、回復しても受診が必要です。

ブドウ糖がないとき、砂糖やジュースでもよい?
ブドウ糖が手元にない場合は、砂糖や糖分を含む飲料が代わりになることがあります。
ただし、飲んでいる薬と製品の成分に注意が必要です。
| 食品・飲料 | 注意点 |
|---|---|
| ブドウ糖製品 | 含有量を確認して使う。普段の備えとして分かりやすい |
| 砂糖 | 代用できる場合があるが、ブドウ糖と同じ重さで一律に置き換えない |
| 糖分を含むジュース・清涼飲料 | 製品によって糖の種類や量が異なる |
| ゼロ・無糖の飲料 | 低血糖を改善するための糖分補給には使えない |
| チョコレート・アイスクリーム | 脂質を多く含み、糖の吸収が遅くなるため最初の対処には不向き |
| ラムネ・飴 | ブドウ糖の含有量は製品ごとに異なる。商品名だけで判断しない |
「ジュースなら何でもよい」「200mL飲めば必ず大丈夫」とは言えません。
いつも使う製品と必要量を、薬局で一度確認しておくのがおすすめです。
αグルコシダーゼ阻害薬を飲んでいる場合は、必ずブドウ糖
アカルボース、ボグリボース、ミグリトールなどのαグルコシダーゼ阻害薬は、糖の分解・吸収を遅らせます。
これらを服用している方が低血糖を起こした場合は、砂糖ではなく、必ずブドウ糖をとってください。
配合剤に含まれている場合もあるので、薬の名前だけで判断できないときは薬剤師に確認しましょう。

意識がない・飲み込めないときは119番
意識がはっきりしない方に、ジュースやブドウ糖を無理に飲ませると、誤嚥や窒息につながります。
次のような場合は、すぐに119番してください。
・呼びかけへの反応が悪い
・自分で糖分をとれない
・安全に飲み込めない
・けいれんしている
・意識がない
口に食べ物や飲み物を入れず、通信指令員の指示に従います。
普段どおりの呼吸がない、呼吸が分からない場合は、そのことを119番で伝え、心肺蘇生やAEDについて指示を受けてください。
バクスミーなどのグルカゴン製剤で備える方法もある
本人が口から糖分をとれない低血糖に備えて、グルカゴン製剤が処方されることがあります。
点鼻薬のバクスミーは、グルカゴン3mgを鼻腔内に投与する救急治療薬です。
家族などが使えるように、処方時に使用方法の指導を受けておきます。本人が自分で吸い込む必要はありません。
ただし、救急要請を遅らせないことが大切です。使用後に意識が戻っても、再び低血糖になる可能性があるため、医療機関での評価を受けます。
また、日本の電子添文では、効果が不十分な場合にバクスミーや他のグルカゴン製剤を追加投与しないよう定められています。
「効かなかったから、もう1本」と自己判断で繰り返さないでください。
薬を用意するだけでなく、家族と保管場所・使用方法・119番への連絡を共有しておきましょう。

低血糖を起こしやすい薬や状況は?
特に注意したいのは、インスリン、SU薬、グリニド薬を使っている場合です。
ほかの糖尿病薬も、これらとの併用や体調によって低血糖のリスクが変わります。
| 状況 | 確認したいこと |
|---|---|
| 食事が少なかった・遅れた | 薬の作用と食事のタイミングが合っていたか |
| いつもより運動した | 運動中だけでなく、その後にも低血糖がなかったか |
| 飲酒した | 食事量や飲酒後の血糖変化はどうだったか |
| 腎機能が低下した | 薬の種類・量の再評価が必要ではないか |
| 薬や注射を変更した | 用量、注射時刻、重複使用に間違いがなかったか |
| 食欲低下や体重減少がある | 今の治療が現在の生活・体格に合っているか |
食べられない日の薬の扱いは、薬の種類や病型で異なります。
特に1型糖尿病では、食事がとれないからとインスリンをすべて自己中止すると危険です。体調不良時の対応は、元気なうちに主治医と決めておきましょう。

夜間低血糖・CGMで分かる低血糖にも注意
寝ている間の低血糖は、本人が気づきにくいことがあります。
寝汗、悪夢、起床時の頭痛などが続く場合は、夜間の血糖変化も確認したいところです。
CGMは、深夜や早朝の低血糖を把握する助けになります。
ただし、センサーが示す値と指先で測る血糖値は、急な変動時などに一致しないことがあります。
表示と症状が合わない場合は、使用機器の説明や事前の指示に従って、指先測定で確認してください。明らかな低血糖症状がある場合は、確認のために対処を遅らせないようにしましょう。
また、改善しているのにセンサー値だけを見て短時間に糖分を追加し続けないよう、対処後の確認方法も医療者と共有しておくことが大切です。
運転中に低血糖を感じたら?
安全な場所に停車し、運転を中止して対処します。
運転しながら糖分をとったり、「家までもう少しだから」と走り続けたりしないでください。
低血糖の症状が治まっても、判断力などの回復が遅れることがあります。血糖値と体調が十分に回復したことを確認し、再開時期は事前の医療者の指示に従いましょう。
無自覚性低血糖がある方は、運転の安全性について主治医との相談が必要です。

薬局で大切にしたいのは「持っている」から「使える」への確認
低血糖対策は、ブドウ糖を渡して終わりではありません。
「どこに入っているか」
「何包とればよいか」
「とったあと、いつ確認するか」
「自分で対処できなくなったら、誰がどう動くか」
ここまで具体的にしておくと、日常生活で役立つ備えになります。
薬局で確認したいポイントは、次の5つです。
・低血糖らしい症状や測定値がなかったか
・実際に使うブドウ糖製品と必要量
・家族も対処方法を知っているか
・食事、運動、飲酒、薬の変更との関係
・主治医へ共有すべき低血糖の繰り返しがないか
相談時は、起きた時刻、血糖値、直前の食事・運動・薬、糖分をとった量と回復までの経過をメモしておくと、治療の見直しに役立ちます。
低血糖を繰り返しているときは、単に「ブドウ糖を多めに持つ」だけでは解決しません。薬の量や血糖目標が今の生活に合っているかを見直すことが大切です。
よくある質問
Q.血糖値が低くても、症状がなければ放っておいてよい?
症状がなくても、70mg/dL未満であれば対応が必要です。
症状に気づきにくくなっている可能性もあるため、繰り返す場合は主治医に相談してください。
Q.ブドウ糖をとったら、何分待てばよい?
約15分後を目安に、血糖値と症状を再確認します。
ただし、意識の変化や飲み込みにくさが出た場合は待たずに119番してください。
Q.ブドウ糖10gをとっても改善しない場合は?
安全に飲み込める場合は、約15分後の確認で低血糖が続いていれば同量を追加します。
追加しても改善しない、悪化する、再発する場合は医療機関に連絡してください。本人が対応できない状態なら119番です。
Q.ラムネ菓子でもよい?
ブドウ糖を含む製品は使える場合がありますが、含有量は商品によって異なります。
「何粒で必要量になるか」まで確認してください。αグルコシダーゼ阻害薬を服用中は、必ずブドウ糖を使います。
Q.子どももブドウ糖10gでよい?
小児では体格や治療内容に応じた対応が必要です。
成人の量をそのまま当てはめず、主治医と決めた量・手順を家族や学校と共有してください。
Q.低血糖が怖いので、薬をやめてもよい?
自己判断で治療全体を中止せず、早めに主治医へ相談してください。
低血糖を起こさないために、薬の種類・量・使用時刻や血糖目標を見直せる場合があります。
まとめ
低血糖では、早めの対処と、その後の再確認が大切です。
意識がはっきりして飲み込める場合は、指導された量のブドウ糖をとり、約15分後に血糖値と症状を確認します。
本人が対応できない、意識がはっきりしない、飲み込めない場合は、口から与えず119番してください。
そして、回復したあとこそ再発予防の出番です。
「なぜ起きたのか」「次に同じことを防ぐにはどうするか」を、主治医や薬剤師と一緒に確認していきましょう。


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