
こんにちは、薬剤師のしぐです。
眼科の注射薬「アイリーア」のバイオシミラーで、一部ロットの自主回収が始まりました。対象は、富士製薬工業が製造販売し、日東メディックが販売するアフリベルセプトBS硝子体内注射用キット40mg/mL「NIT」です。
今回、確認しておきたいのは、薬液そのものの問題と決めつけず、注射を支える部品の不具合として対象製品を特定することです。指を掛けるフィンガーグリップがシリンジから外れる事象が報告され、対象となる2ロットが回収されています。
保険薬局では、この注射薬を直接扱う機会は限られるかもしれません。それでも「眼科で使っている薬が回収されたらしい」と相談されることはありますよね。今回は、2026年11月5日時点で確認できた回収内容と、現場での確認・説明のポイントをまとめます。
最初に確認したい回収の対象
対象はアフリベルセプトBSの「NIT」注射用キット
回収開始日は2026年11月5日です。正式な販売名は「アフリベルセプトBS硝子体内注射用キット40mg/mL『NIT』」。包装は0.183mL[1キット]で、回収区分はクラスⅡです。
「アイリーアBS」という呼び方だけでは、製品を一つに絞れません。メーカー名、販売名の末尾、注射液か注射用キットかまで確認して、手元の製品と照合します。今回は、製品名とロットがそろって初めて回収対象か判断できます。
| 製造番号(ロット) | 使用期限 | 出荷時期 |
|---|---|---|
| BF25A | 2027年5月 | 2026年1月〜4月 |
| AK25A | 2027年9月 | 2026年4月〜6月 |
統一商品コードは497310316です。対象品は使用を中止し、購入した特約店を通じて返品するよう案内されています。対象ロット以外は、不具合がないことを確認したとされています。
使用期限内でも回収対象になる
今回の対象品は、使用期限がまだ先の製品です。「期限切れではないから使える」という確認では、回収への対応はできません。期限とロットは、それぞれ別の意味を持っています。
在庫の先入れ先出しを徹底している施設でも、未使用品が保管されていれば対象ロットが残っている可能性があります。普段使う保管棚だけでなく、予備在庫や返品待ちの場所も含めて確認すると、見落としを減らせます。
なお、出荷時期は対象品を探す補助情報です。その期間に購入したという理由だけで対象と決めたり、購入月が違うという理由だけで除外したりせず、最終的には実物の製造番号を確認します。

注射補助具に何が起きたのか
フィンガーグリップがシリンジから脱落
フィンガーグリップは、注射器を操作するときに指を掛け、保持を助ける部品です。今回の不具合は、この部品がシリンジから脱落するというものです。
原因として、資材メーカーの製造工程で金型を切り替える際、本来使用すべきものとは異なる金型が使われたことが挙げられています。その結果、シリンジとの接合部分の寸法が規格から外れていました。投与中の脱落の可能性を否定できず、該当資材を使用した2ロットの回収に至っています。
注射薬では、有効成分の含量や薬液の外観だけでなく、容器や操作を支える部品も確認対象です。薬を安全に投与できる状態かどうかは、製剤と周辺部品を合わせて考える必要があります。
外観だけで使用可能とは判断しない
今回の対応で大切なのは、「いま触ってみて外れなければ使ってよい」と判断しないことです。回収対象品については、メーカーが使用中止と返品を求めています。現場での簡単な確認で、回収の指示を置き換えることはできません。
接着剤やテープで固定する、部品を別のものに交換する、といった独自の補修も行わず、正式な回収手順に沿って対応します。投与に使う器具を施設判断で加工することは、元の不具合とは別の問題を持ち込むおそれがあります。
これは一般的な実務上の考え方ですが、回収情報を見たら「使用前の点検を増やせばよい」で終えないことが重要です。今回の指示は対象ロットの使用中止であり、点検を条件に使用を継続する案内ではありません。

クラスⅡ回収をどう受け止めるか
クラスⅡは、一時的または医学的に治療可能な健康被害が生じる可能性がある場合、あるいは重篤な健康被害のおそれはまず考えられない場合の回収区分です。厚生労働省が示す、健康への危険度に基づく分類の一つです。
この区分を「問題が小さいので対応不要」と受け取らないようにします。一方で、クラスⅡという表示だけを根拠に、実際に重い事故が起きたと説明するのも適切ではありません。回収区分、実際に報告された事象、対象範囲は分けて確認したいところです。
今回確認したメーカー通知には、具体的な健康被害の件数や脱落の発生頻度は示されていません。そのため、被害が発生したとも、健康被害が一切なかったとも、通知の範囲を超えて断定しないようにします。
「何が分かっているか」と「まだ確認できないこと」を分けておくと、患者さんへの説明もぶれにくくなります。新しい情報が出た場合は、説明内容を更新できるよう確認日を残しておくとよいですね。
医療機関・取扱施設で進めたい在庫確認
対象品を見つけたら使用できる在庫から分ける
取扱施設での実務では、まず正式な販売名とロット番号を照合します。該当品を確認したら、通常使用する在庫から分け、回収対象であることが分かる状態にします。その際、製品に定められた保管条件は守ります。
現物をそのまま使える棚に戻してしまうと、別の担当者が事情を知らずに使用する可能性があります。担当者への口頭連絡に加え、在庫管理上も使用できない状態を共有することが大切です。
返品については、購入した特約店の案内に従います。処理が終わる前に独自に廃棄すると、回収数量の照合や返品手続きが進めにくくなる場合があります。まずは対象品を確保し、連絡と記録を進める流れが実務的です。
数量と連絡状況を同じ記録に残す
院内や施設内で共有するなら、製品名、ロット、在庫数、確認した保管場所、確認日時、担当者、特約店への連絡状況を一つの記録にまとめると整理しやすくなります。
複数部署が別々に確認すると、「薬剤部では在庫なしだが、処置室には残っていた」という状況も考えられます。確認済みの場所と未確認の場所を区別し、全体の確認を誰が完了させるか決めておくことが役立ちます。
ここで紹介している記録方法は、今回の通知に定められた専用様式ではありません。施設の回収手順を運用するための実務上の提案です。すでに院内のルールがある場合は、その仕組みの中で漏れなく対応します。
予約患者さんの治療をどう支えるか
回収対象の確認と次回投与の準備を並行する
対象品を保管していた施設では、回収作業に加えて、予定している治療に使える製品を確保できるか確認する必要があります。回収対象の有無と、今後の納品予定は、別々に整理する項目です。
今回の回収通知だけから、全国で欠品している、すべての納品が止まる、別製品への変更が必要になる、とまでは判断できません。対象外ロットの在庫や調達の見通しは、特約店やメーカーに個別に確認します。
製品を変更する場合には、適応、規格、用法・用量、取り扱い方法などの確認が必要です。同じ成分名や「BS」という呼び方だけで、現場の操作まで同じと考えないようにしたいですね。
患者さん自身の判断で通院をやめないよう案内する
回収のニュースを見て、次回の注射が心配になる方もいると思います。ただ、見出しを見ただけでは、ご自身が使った製品や今後使う製品が対象かは分かりません。
「次の治療は受けないほうがよいですか」と聞かれたら、予定している眼科に連絡し、使用予定の製品と治療の予定を確認するよう案内します。薬局だけで延期や中止を勧めるのではなく、治療を担当する眼科につなぐことが大切です。
患者さんが医療機関に問い合わせる際は、受診日、次回予約日、分かれば薬の名前を伝えると話が進みやすくなります。製造番号まで本人に調べてもらうことを前提にせず、院内の使用記録で確認してもらう流れを共有します。

保険薬局で相談されたときの聞き取り
まず「いつ、どこで、どの薬を使ったか」を整理
薬局で直接在庫を持っていなくても、患者さんの不安を整理する役割はあります。最初に確認したいのは、眼科の受診先、注射を受けた時期、次回の予定、薬の名前が分かる資料の有無です。
お薬手帳に院内投与薬が記載されていないこともあります。記載が見つからないだけで「その注射は受けていない」と判断せず、診療明細や説明書が手元にあるか聞いてみます。分からなければ、眼科で確認してもらえば大丈夫です。
説明の入口としては、「今回は特定の注射用キットの2ロットが対象です。使った薬が該当するかは、眼科で記録を確認してもらいましょう」という伝え方が考えられます。薬局で確認できた範囲を超えて、対象外と保証しないことも大切です。
症状がある場合は回収対象の確認だけで終えない
注射後の強い眼痛、急な見え方の低下、増悪する充血などの相談があれば、回収ロットかどうかの調査よりも、眼科への速やかな連絡を優先します。注射後の症状については、治療施設から受けている注意事項も確認します。
今回の部品の不具合と、その症状に因果関係があるかは薬局では判断できません。「回収された薬だから起きた」「対象外だから大丈夫」といった結び付けをせず、症状と経過を医療機関に伝えられるよう支援します。
症状の相談では、発症時刻、左右どちらの目か、変化の速さ、受診先への連絡状況を整理すると役立ちます。市販の点眼薬で様子を見るよう勧めて受診を遅らせないことも、薬局で意識したいポイントです。
他のアイリーア関連製品と混同しない
アフリベルセプト製剤には、先行品や複数のバイオシミラーがあり、注射液と注射用キットの違いもあります。「アイリーアの関連薬」という大きな括りで情報を共有すると、回収対象が広がったように伝わってしまいます。
今回の通知で対象とされているのは「NIT」の注射用キットの指定2ロットです。通知を根拠に、先行品、8mg製剤、他社のBSや別剤形まで一律に回収対象とすることはできません。別の通知が出ていないかは、その製品ごとに確認します。
販売に向けた動きについては、関連記事のアイリーアBSを第一三共エスファが販売へ|アフリベルセプト「SCD」の適応・8mgとの違いでも整理しています。今回の「NIT」とは別の製品として読み分けてください。
また、2026年11月4日付で「NIT」には糖尿病黄斑浮腫の適応追加がありました。翌日の回収とは内容の異なる情報です。適応が追加されたことと、手元の製品が回収対象かどうかは、それぞれ確認する必要があります。
よくある質問
Q. アイリーアBSは全部使えなくなったの?
今回の通知は、「NIT」の注射用キットのBF25A・AK25Aを対象とした回収です。メーカーは対象外ロットについて、不具合がないことを確認したとしています。実物の販売名と製造番号で照合してください。
Q. 薬の成分が問題だったの?
公表された回収理由は、フィンガーグリップの接合部分の寸法不良と、それに伴う脱落の可能性です。この通知だけで、有効成分の効き目やBS全体の品質に問題があると説明することはできません。
Q. すでに注射を受けていたらどうする?
使った製品やロットは、治療を受けた眼科で確認してもらいます。そのうえで必要な対応について相談してください。目の強い痛みや急な見え方の変化があれば、対象ロットかどうか分からない段階でも、速やかに眼科へ連絡します。
Q. 薬局に相談してもよい?
もちろん相談できます。薬局で製品名や情報を整理し、必要に応じて眼科への確認につなげます。ただし、院内で使用されたロットや今後の投与方針は、治療を担当する医療機関への確認が必要です。
Q. 対象品があった場合の問い合わせ先は?
日東メディックのおくすり相談窓口に、自主回収専用窓口が設けられています。電話は03-6706-7722、受付時間は9時〜17時で、土日、祝日および同社休日を除きます。返品は購入した特約店を通じて行います。
しぐの実務メモ|回収情報は製品名とロットまで伝える
医薬品の回収では、見出しを共有するだけでなく、「どの製品の、どのロットに、どの対応が必要か」までセットにしておくことが大切です。今回なら、注射用キットのフィンガーグリップという、投与操作を支える部品が確認の中心になります。
薬局内でのお知らせにも、正式な販売名、対象ロット、使用中止と返品の手順、確認日をまとめておきたいですね。患者さんには、必要な確認先と次の行動が分かる言葉で説明する。対象品を確実に回収しながら、眼科での治療を続けられるよう支えることが、今回の実務のポイントだと思います。
他の回収事例では、プラノプロフェン点眼液「参天」の自主回収と薬局での確認ポイントも紹介しています。また、ヘパリン類似物質ローション「NIT」の自主回収は今回とは回収理由・対象製品が異なります。同じ会社の情報でも、通知ごとに切り分けて確認しましょう。
参考資料
・日東メディック:自主回収(クラスⅡ)に関するお知らせ(2026年11月5日掲載)
・日東メディック:「NIT」適応追加・使用上の注意改訂(2026年11月)
※2026年11月5日時点。回収範囲や対応は、メーカーの最新通知も確認してください。


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