こんにちは、薬剤師のしぐです。2026年11月6日、厚生労働省の社会保障審議会・介護給付費分科会で、居宅療養管理指導における高齢者虐待防止措置の扱いが議論されました。2027年3月末で終了予定の経過措置を受けて、どの薬局が対応する必要があるのかが具体的な論点になっています。
最初に押さえておきたいのは、すべての保険薬局に一律の新たな負担が確定したわけではないということです。厚労省は「一定の介護サービスの提供実績を有する事業所」を義務付けの対象とする案を示しました。一方、居宅療養管理指導については、高齢者虐待防止措置未実施減算の対象に加えない案も示されています。
この記事では、制度の現在地、確認したい4つの体制、介護サービス提供実績との関係、薬局の準備手順、患者・家族への対応まで整理します。内容は2026年11月8日時点の審議資料に基づくもので、最終決定の告示や通知ではありません。
今回の厚労省資料で何が示されたのか
対象となるのは居宅療養管理指導です。保険薬局は保険薬局の指定に伴って介護保険上の指定を受けたものとみなされる場合があり、これを「みなし指定」と呼びます。みなし指定があるからといって、全薬局が同じ頻度で介護サービスを行っているわけではありません。
2021年度介護報酬改定では高齢者虐待防止措置が全介護サービスの課題とされ、一般には2024年度から義務化されました。居宅療養管理指導は経過措置が延長され、2027年3月末の終了が予定されています。この期限と、議論中の対象範囲を区別する必要があります。
11月6日の対応案は、介護サービスを提供していない事業所や提供機会が極めて少ない事業所まで同じ義務を課すことの妥当性を考慮し、一定の実績を持つ事業所を対象にするというものです。何回以上など具体的な閾値はこの時点で確定していません。
対象薬局の判断は「みなし指定」と「実績」を分ける
在宅患者を一人でも訪問したことがある薬局と、恒常的に居宅療養管理指導を算定する薬局では、業務の実態が大きく異なります。保険薬局の指定という法的な位置付けだけでなく、実際の介護サービス提供状況を把握することが大切です。
まずは直近の介護保険レセプトと訪問記録から、居宅療養管理指導を算定した利用者数・実施月・担当薬剤師を確認します。医療保険による在宅患者訪問薬剤管理指導料との区別にも注意し、請求の種類を混同しないようにしましょう。 関連する実務論点として、居宅療養管理指導の算定間隔見直しの記事もあわせて確認できます。

現時点では対象基準が決まっていないため、独自に「月1件なら対象外」などと線を引くことはできません。必要な準備を始めつつ、正式な省令、告示、Q&Aが示された段階で対象範囲を再確認する姿勢が現実的です。
虐待防止措置の柱① 委員会の開催と周知
虐待防止のための対策を検討する委員会は、開催すること自体が目的ではありません。高齢者の尊厳を守るうえで、訪問先でどのようなリスクが見つかるか、相談や通報の経路は明確か、対応が属人的になっていないかを点検する場です。
複数店舗を運営する法人は本部の委員会と連携する方法を検討できますが、店舗の実態に合う議題が含まれているか、結果が従業者に周知されているかが重要です。会議記録、出席者、共有事項、改善の期限を残すと振り返りやすくなります。
薬局内の医療安全委員会や地域連携の会議など、既存の会議体を活用することも考えられます。ただし別の会議を開催しているだけで虐待防止の要件を満たすと断定せず、正式な運用通知に合わせて内容を確認しましょう。

虐待防止措置の柱② 指針の整備
指針には、虐待防止の基本方針、相談・報告の連絡先、問題を発見した際の初動、記録方法、職員の教育、再発防止の考え方などを整理すると実務で使いやすくなります。誰が閲覧しても判断に迷わないよう、抽象的な理念だけにしないことが大切です。
薬剤師が訪問時に気付く変化は、身体の傷だけではありません。薬が大量に残る、必要な介護が受けられていない様子が続く、本人の意思が確認できない、家族が極端に説明を遮るなど、丁寧な評価が必要な場面があります。ただし一つの所見だけで虐待と決め付けてはいけません。
迷った場合に、管理薬剤師、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村担当窓口などへどの順で相談するかを事前に決めておくと、個々の薬剤師が一人で抱え込むことを防げます。
虐待防止措置の柱③ 研修の実施
研修では高齢者虐待の類型、早期発見の視点、個人情報への配慮、本人への声掛け、記録方法、相談・通報先などを扱います。新入職員や訪問担当者だけでなく、受付や電話相談を受けるスタッフにも基本的な知識があると連携しやすくなります。
厚労省資料では居宅療養管理指導事業所の回答213事業所のうち、研修を実施済みまたは年度内に実施予定とした割合が63.4%でした。この値は調査対象や回答者に依存し、全国のすべての薬局を代表するものではありません。
研修を受けた事実だけでなく、日時、内容、参加者、欠席者への共有方法を記録しておくと役立ちます。外部研修を活用する際は、薬局業務に結び付けた事例検討を短時間でも追加すると、日常の服薬支援に応用しやすくなります。
虐待防止措置の柱④ 担当者の配置
担当者は書類上の名前だけでなく、相談の取りまとめ、委員会との連絡、研修の計画、記録の保存、対応の進捗確認などを担う役割を明確にしたいところです。管理薬剤師が兼任する場合も、他の職員が連絡できる仕組みが必要です。
実際の相談が発生したとき、担当者の不在で対応が止まってしまわないよう、代理連絡先も考えておきます。地域の関係機関への相談を要する事例では、薬局だけで解決しようとせず、多職種が関わる仕組みを利用することが重要です。
担当者の配置方法や兼任の可否など細かな運用は、最終的な運営基準と通知を踏まえて点検します。現段階では、対応できるスタッフを育て、緊急時の連絡網を整えることから始められます。

未実施減算はどうなる?義務化と減算を混同しない
ここが今回の制度議論で特に誤解されやすい部分です。高齢者虐待防止措置の義務付けを検討することと、措置が未実施の場合に介護報酬を減算することは別の論点です。
11月6日の資料では、居宅療養管理指導について、保険医療機関・保険薬局のみなし指定や体制整備状況を考慮し、未実施減算の対象には加えない案が示されました。したがって「2027年4月から在宅薬局は一律1%減算」と書くのは正確ではありません。
逆に、減算の対象にならなければ虐待防止の重要性が小さくなるわけでもありません。患者の権利擁護や相談体制の整備は、安全な在宅療養のための基本であり、日常の薬学的管理とつながっています。
在宅訪問時に薬剤師が気付きたいサイン
薬の管理状況は生活全体の変化を知る手掛かりになります。処方薬の残薬が急増した、保管場所が不衛生になった、服薬支援者が変わった、本人が以前より話さなくなったといった変化を継続的に見ることが重要です。
同時に、認知症の進行、身体機能の低下、医療費負担、介護者の疲労など、虐待以外の理由もあり得ます。薬剤師が診断や断定をするのではなく、観察した事実を時系列で記録し、必要に応じて適切な専門職につなげることが大切です。
本人の安全が差し迫っている場合には、通常の連絡順序にこだわらず、救急対応や自治体への相談が必要になることもあります。本人を責めず、介護者も一方的に非難せず、支援につなげる姿勢を基本にしたいところです。
明日から薬局でできる準備チェック
まず管理者が、介護保険の居宅療養管理指導の提供実績、既存の虐待防止研修・指針・会議体の有無、担当者候補を一覧にします。新たにすべてを作り直すのではなく、現在の安全管理体制で流用できる部分を把握するところから始めると負担を抑えられます。
次に、相談先の電話番号、営業時間外の対応、記録様式、訪問スタッフへの情報共有方法を点検します。地域包括支援センターやケアマネジャーなど、すでに連携している相手と確認すると実務に落とし込みやすくなります。
最後に、2027年度改定の正式決定時に対象基準と必要な頻度を確認する担当を決めておきます。制度が確定する前から過度な設備投資や義務の断定をするのではなく、患者安全に役立つ準備を優先する考え方が重要です。

在宅業務の質を高める機会として考える
虐待防止措置は単独の書類仕事ではありません。服薬状況の変化や生活の困りごとを把握し、患者・家族・多職種と情報を共有するという、薬局が在宅で果たすべき役割を整理する機会にもなります。
たとえば訪問後のカンファレンスで「薬を飲めているか」だけでなく「本人の意思が反映されているか」「支援者に負担が偏っていないか」を確認すれば、安全管理を患者中心の支援につなげられます。
薬局の規模や在宅件数に関わらず、相談先を知り、記録を残し、必要な機関へつなぐ基本姿勢は役立ちます。制度上の対象範囲と、薬剤師としての専門職責任を切り分けて考えたいですね。
介護保険の記録と薬局の情報共有をどう結び付けるか
介護保険の居宅療養管理指導に関する資料は、訪問日・利用者・担当者・サービス内容を確認できる状態で管理することが基本です。虐待防止の取組を整える場合も、患者の私的な情報を必要以上に委員会へ共有しないようにし、匿名化や閲覧権限を検討します。具体的な事例検討が必要な場合は、どこまで誰に共有するかを確認し、記録の保管場所と保存期間も組織内でそろえておきましょう。
また、2027年度の制度は本日時点で議論中です。患者への説明や法人内の稟議で「新たな義務が正式施行された」「未実施だと減算される」と断定しないようにしてください。研修資料やマニュアルの冒頭に資料の確認日を入れ、厚労省が最終的な運営基準を示した際に改訂できるようにすると、誤情報を防ぎやすくなります。
よくある質問(FAQ)
2027年4月からすべての薬局に義務が生じますか?
11月6日時点の対応案は、居宅療養管理指導で一定のサービス提供実績がある事業所を義務化の対象とする考え方です。全薬局が一律対象と決まったわけではありません。
居宅療養管理指導を行っていない薬局も対象ですか?
みなし指定の薬局のうち提供実績がない、または極めて少ない事業所への取扱いが検討されています。対象範囲は正式な基準の発表を待って確認してください。
虐待防止の4項目とは何ですか?
一般に委員会の定期開催と周知、指針整備、研修、担当者配置です。具体的な実施頻度や運用は最終通知で確認する必要があります。
未実施なら薬局の居宅療養管理指導も1%減算ですか?
11月6日の案では居宅療養管理指導を未実施減算の対象に加えない方向が示されています。義務化の対象検討と減算の対象検討は別です。
既存の研修を活用できますか?
他の会議や研修と一体的に実施する工夫が紹介されています。ただし内容が虐待防止の要件を満たしているか、開催記録があるかを確認してください。
虐待が疑われたら薬剤師が判断してよいですか?
一つのサインだけで断定せず、事実を記録し、管理者や地域包括支援センター、市区町村の相談窓口等に適切につなぐことが重要です。
今すぐ何から始めればよいですか?
介護保険の提供実績、研修、指針、委員会、担当者の現状を点検し、連絡網と記録様式を整えます。正式な要件が出てから再確認します。
まとめ|薬局で確認したいこと
今回のポイントは、居宅療養管理指導における2027年3月末の経過措置終了と、対象事業所を一定の提供実績がある事業所に絞る案をセットで理解することです。あわせて、未実施減算には加えない案が示されている点も重要です。
薬局ではまず、実績の把握、4項目の現状確認、相談・記録の手順整備を進め、制度確定後に基準を見直しましょう。患者の安全と尊厳を守る実務として、無理なく継続できる体制を考えたいところです。


コメント