HECレジメンでオランザピン|糖尿病への禁忌見直し!統合失調症では引き続き注意【2026年】
薬剤師のしぐです。
今回は、抗がん剤治療における制吐療法でかなり大きな変更です。
オランザピンといえば「糖尿病患者には禁忌」
薬剤師なら、このイメージがかなり強いんじゃないでしょうか。
実際、オランザピンでは著しい血糖上昇から糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡に至った症例が報告され、2002年に「糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者」が禁忌に追加されています。
ところが2026年。
抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐、いわゆるCINVの予防・治療目的でオランザピンを使用する場合について、この糖尿病患者への禁忌が見直されることになりました。
2026年7月29日の医薬品等安全対策調査会でオランザピンの効能・安全性が再検討され、日本癌治療学会は8月25日、制吐目的での糖尿病・耐糖能異常患者に対する禁忌条項が削除されることになったと速報しています。
これは、がん薬物療法に関わる薬剤師にとってかなり重要な変更。
ただし!
「オランザピンは糖尿病でもOKになった」
と単純に覚えてしまうのは危険です。
今回ポイントになるのは、
- 抗がん剤による悪心・嘔吐に対して使用する場合の見直し
- 統合失調症や双極性障害など、他の効能では糖尿病患者への禁忌が引き続き重要
- 糖尿病患者に制吐目的で使用するときも、血糖管理なしで気軽に使えるわけではない
というところ。
今回はこの変更をきっかけに、
「そもそもHECって何?」
というところから、オランザピンを使用する代表的なレジメンや、薬剤師が押さえておきたいポイントまでまとめます!

そもそもHECとは?
HECは、
Highly Emetogenic Chemotherapy
の略。
日本語では、
高度催吐性リスク抗がん薬
などと表現されます。
簡単にいえば、
制吐薬による予防を行わなかった場合、90%を超える患者に悪心・嘔吐が起こる可能性がある抗がん薬・レジメン
です。
抗がん剤の催吐性リスクは大きく、
| 催吐性リスク | 悪心・嘔吐の発現割合 |
|---|---|
| HEC:高度催吐性 | 90%超 |
| MEC:中等度催吐性 | 30~90% |
| LEC:軽度催吐性 | 10~30% |
| 最小度 | 10%未満 |
のように分類されます。
つまりHECは、
「吐き気が出てから対応する」のではなく、治療開始前からしっかり予防する必要があるレジメン
ということですね。
HECに該当する代表的な薬剤・レジメン
代表的なのがこちら。
シスプラチンを含むレジメン
シスプラチンはHECを代表する抗がん薬。
たとえば、
- FP療法:5-FU+シスプラチン
- GC療法:ゲムシタビン+シスプラチン
- BEP療法:ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン
- TPF療法:ドセタキセル+シスプラチン+5-FU
など、さまざまながん種でシスプラチンを含む治療が行われます。
乳がんのAC・EC療法
こちらも薬剤師として遭遇することが多いと思います。
AC療法
- ドキソルビシン
- シクロホスファミド
EC療法
- エピルビシン
- シクロホスファミド
アントラサイクリン+シクロホスファミドの組み合わせは、高度催吐性リスクとして扱われます。
そのほか、
- ダカルバジン
- シクロホスファミド高用量
- ドキソルビシン高用量
- エピルビシン高用量
- イホスファミド高用量
などもHECに分類されます。

HECではオランザピンを含む「4剤併用」が基本に
ここが今回の本題。
日本癌治療学会の『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版』では、HECに対して、
- オランザピン
- 5-HT3受容体拮抗薬
- NK1受容体拮抗薬
- デキサメタゾン
による4剤併用療法が示されています。
オランザピンを追加できない場合には、
- 5-HT3受容体拮抗薬
- NK1受容体拮抗薬
- デキサメタゾン
の3剤併用となります。
さらにガイドラインでは、
HECの悪心・嘔吐予防として3剤併用療法へオランザピンを追加することを「強く推奨」
しています。
昔の感覚だと、
「オランザピンは吐き気が強かったときに追加する薬」
というイメージもありますが、現在はHECにおける予防的制吐療法の重要な1剤なんですよね。
オランザピンはなぜ吐き気に効く?
オランザピンはもともと非定型抗精神病薬。
統合失調症や双極性障害に使用される薬ですが、
- ドパミンD2受容体
- セロトニン5-HT2・5-HT3受容体
- ヒスタミンH1受容体
- ムスカリン受容体
など、複数の受容体に作用します。
悪心・嘔吐には複数の神経伝達物質が関係しているため、こうしたマルチターゲットな作用が制吐作用につながっていると考えられます。
5-HT3受容体拮抗薬やNK1受容体拮抗薬とは作用点が異なる。
だからこそ、組み合わせる意味があるわけですね。
制吐目的でのオランザピンの用量は?
抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐に使用する場合、
オランザピン5mgを1日1回
が基本。
患者の状態によって増量できますが、1日10mgを超えません。
また原則として、
- コルチコステロイド
- 5-HT3受容体拮抗薬
- NK1受容体拮抗薬
などと併用します。
ガイドラインでは、HECに対してオランザピン5mgをDay1~4に使用するスケジュールが示されています。
ここで一緒に確認しておきたいのがNK1受容体拮抗薬。
以前まとめた**「イメンドカプセルの125mgと80mg、いつ飲む?」**という記事でも詳しく整理しています。
抗がん剤当日の125mgと、その後の80mg。
薬局で処方箋を受けると、
「この125mgは今日?それとも次のクール?」
となることもあるので、ここは服薬指導で非常に重要なポイントです。

そして今回の大きな変更!糖尿病患者への禁忌が見直しへ
オランザピンで非常に有名な禁忌が、
「糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者」
でした。
オランザピンでは高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡など重篤な副作用が報告されています。
そのため、日本では2002年から糖尿病患者・糖尿病既往患者への投与が禁忌とされてきました。
ところが2026年7月29日。
厚生労働省の医薬品等安全対策調査会で、抗悪性腫瘍剤による悪心・嘔吐に対してオランザピンを使用する場合の安全性について再検討されました。
そして2026年8月25日、日本癌治療学会から、
制吐目的で使用する場合について、糖尿病もしくは耐糖能異常患者への禁忌条項が削除されることとなった
との速報が発信されています。
これはかなり大きい。
これまでは、
「HECなのでオランザピン4剤併用が推奨。でもこの患者さん糖尿病だから使えない」
というケースがありました。
そこに、新しい選択肢が生まれたわけです。
ただし!「オランザピン=糖尿病でもOK」ではない
ここは今回の記事で一番強調したいところです。
今回見直されるのは、
抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐に対して使用するケース
です。
つまり、
オランザピンという薬そのものから「糖尿病禁忌」が完全になくなった、と覚えるのはNG。
オランザピンには、
- 統合失調症
- 双極性障害における躁症状
- 双極性障害におけるうつ症状
- 抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐
など複数の効能があります。
今回の見直しはこの中の制吐目的に限定したもの。
統合失調症や双極性障害などで使用する場合については、糖尿病患者・糖尿病既往患者への禁忌を引き続き意識する必要があります。
薬局では、
オランザピンが処方されている
↓
患者さんは糖尿病
↓
「あれ?禁忌じゃないの?」
では判断できなくなるということ。
「何の目的で処方されたオランザピンなのか?」
まで確認する必要があります。
まさに薬剤師が処方意図を見る必要があるケースですね。
糖尿病患者なら普通に使っていい?もちろん違います
禁忌から外れる方向になったとはいえ、
高血糖のリスクそのものが消えたわけではありません。
日本癌治療学会の2026年8月25日の速報では、糖尿病または糖尿病既往のある患者へ使用する場合、
- 血糖コントロールが安定していることを確認
- 必要に応じ入院管理下で血糖管理
- 化学療法前に糖尿病が判明した場合は糖尿病・内分泌専門医への相談
- 血糖コントロール不良例では化学療法前に十分な血糖管理
- 血糖管理に難渋する場合は次コース開始前にも専門医へ相談
- 外来移行後も継続的な血糖管理
などへの注意が示されています。
つまり今回の変更は、
「糖尿病だから一律に使えない」から「リスクを評価し、血糖を管理しながら必要な患者には使える」
への変化と理解するのがよさそうです。
これは大きな違いですね。
デキサメタゾンも血糖を上げることを忘れずに
もう一つ。
HECで使用する4剤の中には、
デキサメタゾン
も入っています。
当然こちらも一過性の高血糖を起こす可能性があります。
日本癌治療学会のガイドラインでも、制吐薬の注意すべき副作用として、
- オランザピン:眠気、めまい
- デキサメタゾン:不眠、一過性高血糖
などが挙げられています。
つまり糖尿病患者では、
「オランザピンだけ見ておけばいい」
ではないんですよね。
抗がん剤+デキサメタゾン+オランザピン+食事量の変化
などを含めて血糖を見る必要があります。
薬局薬剤師が確認したいポイント
個人的には、今回の変更で薬局側の確認ポイントも少し変わってくると思っています。
① オランザピンの使用目的
最優先。
精神科領域なのか、CINV対策なのか。
同じオランザピンでも糖尿病患者への扱いが変わってきます。
② 抗がん剤レジメン
オランザピン5mgが数日分出ているなら、
「どんなレジメンなんだろう?」
まで考えたいところ。
HECであれば4剤併用の一部として処方されている可能性があります。
③ 糖尿病の有無・治療内容
- 糖尿病治療薬
- インスリン
- HbA1c
- 自己血糖測定の有無
- 最近の血糖変化
など、確認できる範囲でチェック。
④ オランザピン+デキサメタゾンによる高血糖
口渇、多飲、多尿、頻尿など、高血糖を疑う症状も重要。
⑤ 傾眠・転倒
オランザピンでは眠気も重要です。
高齢患者では特に、
「吐き気は減ったけど、眠くてふらつく」
ということも考えられるので、服薬指導やフォローアップで確認したいですね。
特定薬剤管理指導加算のフォローにもつながる
こういう支持療法こそ、外来がん治療で薬局薬剤師が見る意味があると思っています。
抗がん剤そのものだけでなく、
- オランザピン
- アプレピタント
- デキサメタゾン
- 5-HT3受容体拮抗薬
といった支持療法の処方からレジメンや患者状態を推測する。
そして、
「吐き気はどうですか?」
だけでなく、
「眠気はありませんか?」
「血糖値はいつもより上がっていませんか?」
「口が異常に渇くことはありませんか?」
まで聞けると、薬剤師のフォローアップの質はかなり変わると思います。
このあたりは、以前まとめた特定薬剤管理指導加算の記事ともつながるところです。


HEC+オランザピンを整理すると
最後にまとめます。
HECとは
→ 制吐薬による予防を行わない場合、90%を超える患者に悪心・嘔吐が起こる高度催吐性リスクの抗がん薬・レジメン。
代表例
→ シスプラチンを含む治療、AC療法、EC療法など。
HECの基本的な制吐療法
→ オランザピン+5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾンの4剤併用。
そして2026年、
制吐目的でオランザピンを使用する場合について、糖尿病・糖尿病既往患者への禁忌が見直されることになりました。
これは、これまでオランザピンを使用できなかった患者さんにも適切な制吐療法を届けられる可能性が広がる、大きな変更だと思います。
ただし、
「オランザピンは糖尿病でも使えるようになった」
とだけ覚えるのは危険。
精神科領域など他の効能では扱いが異なりますし、制吐目的であっても血糖管理は重要です。
薬剤師としては今後、
「オランザピンが処方された」だけを見るのではなく、「何のために処方されたオランザピンなのか」まで確認する。
ここがますます重要になりそうですね。
ではでは。
しぐでしたーっ。
FAQ
Q1. HECとは何ですか?
HECはHighly Emetogenic Chemotherapyの略で、高度催吐性リスク抗がん薬・レジメンを指します。制吐薬を予防投与しない場合、90%を超える患者で悪心・嘔吐が起こるリスクがあります。
Q2. HECではオランザピンは必ず使いますか?
日本癌治療学会のガイドラインでは、オランザピン、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾンの4剤併用療法が示されています。オランザピンの使用が困難な場合には3剤併用療法が選択されます。
Q3. 糖尿病患者でもオランザピンを使えるようになったのですか?
2026年7月29日の安全対策調査会で、抗悪性腫瘍剤による悪心・嘔吐に使用する場合について禁忌の見直しが決まり、日本癌治療学会が8月25日に速報を公表しました。ただし血糖管理は引き続き必要です。
Q4. 統合失調症の糖尿病患者にも使用できますか?
今回の見直しは抗がん剤による悪心・嘔吐に対する使用が対象です。統合失調症や双極性障害など他の効能については同じ扱いではないため、適応・処方目的と最新の電子添文を確認する必要があります。
Q5. オランザピンで注意する副作用は?
高血糖に加えて、眠気、めまいなどに注意します。特に糖尿病患者では、併用されるデキサメタゾンによる血糖上昇も含めて評価することが重要です。

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