シスプラチン点滴静注10mg「マルコ」約2万箱を自主回収|対象ロットと薬局対応

こんにちは、しぐです。
抗がん剤の自主回収。しかも、シスプラチン。
がん治療に関わる薬剤師としては、「対象はどこまで?」「治療への影響は?」と気になるニュースです。患者さんにとっても、自分の治療に使われている薬の名前が出てくれば、不安になりますよね。
2026年9月29日、シスプラチン点滴静注10mg「マルコ」の自主回収が公表されました。対象は1ロット、19,903箱です。
まず押さえたいのは、今回の回収対象は、10mg製剤の特定ロットだということ。シスプラチンという成分全体が回収されるわけではありません。
今回は、回収内容を整理しながら、そもそもシスプラチンはどんな薬なのか、保険薬局でどこをフォローしたいのかまでまとめます。
今回の自主回収の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象製品 | シスプラチン点滴静注10mg「マルコ」 |
| 対象ロット | KV0100 |
| 数量 | 19,903箱 |
| 出荷時期 | 2026年5月27日~7月14日 |
| 回収開始日 | 2026年9月29日 |
| 回収区分 | クラスⅡ |
| 製造販売元 | 日医工ファーマ株式会社 |
| 販売元 | 日医工株式会社 |
「約2万箱」という数字は、回収対象製品の数量です。使用された患者さんが約2万人いる、という意味ではありません。
対象製品を扱う施設では、商品名だけでなく、規格とロット番号まで照合する必要があります。
25mg・50mgも回収される?
今回公表された回収対象は、10mg製剤のロットKV0100です。25mg・50mg製剤は、この回収情報の対象に含まれていません。
ただし、回収対象に含まれないことと、必要な量をすぐに確保できることは別の話です。代替製品やほかの規格の入荷状況は、メーカー・卸への確認が必要になります。
なぜ回収?確認試験で通常と異なる吸収スペクトル
今回の回収理由は、加速安定性試験の6か月時点で、確認試験の紫外可視吸収スペクトルが通常と異なっていたことです。
少し難しい言葉ですが、紫外可視吸収スペクトルは、試料がどの波長の光をどのように吸収するかを調べるもの。確認試験は、医薬品の品質を確認するための試験の一つです。
加速安定性試験は、一般に温度や湿度などの条件を設定して、時間の経過に伴う品質の変化を評価する試験です。今回の公表内容から、医療機関での保管が原因だった、と判断することはできません。
ここで気をつけたいのが、「いつもと違う試験結果」という情報から、原因を飛躍させないことです。
公表情報では、有効成分の含量を含む、ほかの承認規格には適合していたとされています。「成分が足りなかった」「異物が入っていた」「効果がなくなった」といった内容は、今回の回収理由として示されていません。
公表された事実を、そのまま正確に伝える。
回収情報を患者さんへ説明するときほど、この姿勢が大切だと思います。
健康被害の報告は?クラスⅡの意味も整理
メーカーは、公表時点で本件に起因すると考えられる健康被害の報告を受けておらず、重篤な健康被害が発生する可能性は低いと説明しています。
今回の回収はクラスⅡです。これは、一時的または治療可能な健康被害の可能性がある場合や、重篤な健康被害のおそれがまず考えられない場合に用いられる区分です。
とはいえ、「クラスⅡだから使ってよい」ということではありません。回収対象の在庫は使用を止め、メーカーの案内に沿って対応する必要があります。
一方で、すでに治療を受けた患者さんに「危険な薬を使ってしまった」と説明するのも適切ではありません。
対象ロットの使用状況と患者さんへの対応は、治療を行った医療機関が確認・判断することになります。ニュースだけを見て通院を取りやめたり、処方された薬を自己判断で中止したりせず、不安があれば治療先に相談しましょう。
医薬品の回収では、対象品の確認と、その後の治療を支える準備の両方が必要です。モビコールの自主回収についても、対象ロットと薬局対応を整理しています。

そもそもシスプラチンとは?今もがん治療を支える白金製剤
シスプラチンは、白金を含む抗がん剤です。治療記録やレジメンでは、CDDPという略称で見かけることもあります。
主にDNAに結合し、がん細胞の増殖を妨げることで作用します。肺がん、頭頸部がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、胆道がん、子宮頸がん、精巣腫瘍など、幅広いがんで使われる薬です。実際の使い方は、がんの種類や治療目的、併用薬によって異なります。
新しい分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬のニュースが続くなかでも、こうした従来からの抗がん剤が治療を支えている場面はたくさんあります。
「昔からある薬だから、もう出番が少ない」という話ではないんですよね。
だからこそ、品質と供給の情報をきちんと把握する意味があります。注射薬の回収は、在庫管理だけでなく、その先の治療予定にも関わるからです。
カルボプラチンやオキサリプラチンに簡単に変更できる?
同じ白金製剤には、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンなどがあります。
ただ、同じ仲間だから、そのまま置き換えられるわけではありません。適応、投与量の決め方、治療での位置づけ、副作用の特徴が異なります。
シスプラチンの別メーカー製品を検討することと、別の白金製剤へ治療を変更することは、分けて考える必要があります。治療内容の変更は、担当医が患者さんの状態や治療目的を踏まえて判断します。

医療機関では「回収」と「次の治療の準備」を進める
対象製品を扱う施設で確認したいのは、次の点です。
- 保管場所ごとに10mg製剤のロットを確認する。
- 対象品は通常在庫と分け、使用されないようにする。
- 数量と入出庫記録を確認し、メーカー・卸の案内に沿って返却する。
- 使用済みの対象品がある場合は、投与記録と照合し、院内で対応を検討する。
- 直近の治療予定と必要量を確認し、代替在庫の確保を相談する。
ほかの規格や製品へ切り替える場合は、バイアル本数、採取量、調製手順なども改めて確認したいところです。現場でいつも使っている規格が変わると、慣れた作業ほど思い込みが入りやすくなります。
なお、今回の回収情報だけから、全国的な供給停止や治療の延期が決まったとはいえません。実際の影響は、各施設の在庫と調達状況によって確認する必要があります。
保険薬局でシスプラチンを調剤しなくても、関係はある
シスプラチンの点滴は、通常、医療機関で行われます。そのため保険薬局では、回収対象の注射薬を直接扱わないことも多いでしょう。
それでも、その治療を受けている患者さんは、吐き気止めや痛み止めなどを受け取りに薬局へ来られます。
「この薬、回収ってニュースで見たんだけど……」
そう聞かれたときに、対象の範囲と確認先を説明できることは大切です。
説明例としては、こんな形です。
今回は、シスプラチンの10mg製剤のうち、特定の製造番号が回収対象になっています。公表時点では、この件による健康被害の報告はないとされています。使われた製品や製造番号は治療先で確認できますので、不安な点を病院へ確認しましょう。次の治療予定についても、病院の案内に沿ってくださいね。
お薬手帳や外来の処方箋だけでは、点滴薬の製造番号まで確認できない場合があります。薬局側で対象外と決めつけず、必要に応じて医療機関へつなぐことが大切です。
そして、回収の話を整理したあとには、いつもの副作用フォローも忘れたくありません。
新しい治療が増えても、帰宅後の副作用フォローの大切さは変わりません。レンビマ+ウェリレグの併用についても、薬局で確認したい点をまとめています。

シスプラチン治療後、薬局で確認したいポイント
1.吐いていなくても、吐き気で飲めていないことがある
「吐きましたか?」だけでは、食事や水分が取れているかまでは分かりません。
吐かずに耐えていても、気持ち悪くてほとんど飲めていない。そんな状態は見逃したくないですよね。
抗がん剤による吐き気には、治療当日だけでなく、翌日以降に出てくるものもあります。吐き気止めが処方されている場合は、定期で飲む薬と、症状が出たときに使う薬の違いを確認しましょう。
薬局では、次のように具体的に聞くと状況をつかみやすくなります。
- 点滴のあと、何日目から気持ち悪くなりましたか?
- 昨日から今日にかけて、水分はどのくらい取れましたか?
- 吐き気止めは、指示どおり飲めていますか?
- 吐き気止めを使っても、食べたり飲んだりするのが難しいですか?
水分が取れない、嘔吐が続く、薬も飲めない場合は、次の診察まで我慢せず治療先への連絡が必要です。

2.腎機能と脱水。飲水の指示は個別に確認
シスプラチンで特に注意したい副作用の一つが、腎障害です。
医療機関では、腎機能の確認や補液などを行いながら治療します。薬局でも、食事・水分摂取、尿量の変化、ふらつきなどを確認したいところです。
「尿がいつもよりかなり少ない」「水分が取れない」「強いだるさがある」といった変化は、早めの相談につなげましょう。
ただし、誰にでも一律に「たくさん水を飲んでください」と説明するのは避けます。心臓や腎臓の病気、水分制限の有無、治療施設の指示などを踏まえ、飲水の目安を確認する必要があります。
外来で行うショートハイドレーションでも、帰宅後の過ごし方や水分摂取の指示を理解しているかは、確認しておきたい点です。
3.耳鳴りや聞こえにくさも、薬局から拾いたい
シスプラチンでは、耳鳴りや聴力低下が起こることがあります。
吐き気やしびれに比べると、患者さんから「薬の副作用かもしれない」と申し出にくい症状かもしれません。
「最近、耳鳴りはありませんか?」
「テレビの音や会話が、前より聞こえにくくなっていませんか?」
こうした質問も、フォローの一つになります。新しく出た症状や悪化した症状は、早めに治療先へ伝えましょう。
4.しびれは生活への影響まで確認する
末梢神経障害では、「しびれがありますか?」に加えて、何ができなくなってきたかを聞くことが大切です。
ボタンが留めにくい、箸を使いにくい、足の感覚が鈍く歩きにくい。こうした変化は、患者さんの生活に直結します。
症状の程度だけでなく、いつから始まったか、前の治療後と比べて悪化しているかを記録し、医療機関への情報提供につなげます。
5.発熱・出血・息苦しさは、連絡のタイミングを確認
シスプラチンでは、骨髄抑制などにも注意が必要です。併用薬も含めた治療全体として、感染症や出血などのリスクを確認します。
発熱、悪寒、止まりにくい出血、強い息苦しさなどがある場合は、速やかに治療先へ連絡してください。強い呼吸困難や意識の異常など、緊急性が高い症状では救急対応が必要です。
薬局では「何度の熱で、どこへ連絡するか」という施設からの指示と、夜間・休日の連絡先を患者さんが把握しているかまで確認しておきましょう。
6.市販薬も含めて、使っている薬を確認
治療中の患者さんが、痛みや発熱に対して市販薬を追加することもあります。
腎機能や併用薬を踏まえて確認が必要な薬もあるため、処方薬だけでなく、市販の鎮痛薬やサプリメントなども聞き取ります。自己判断で追加する前に相談してもらえる関係を作っておきたいですね。
薬薬連携は「心配です」で終わらせず、具体的な情報を
病院へ情報を伝えるときは、点滴日、症状が出た日、食事・飲水状況、制吐薬の使用状況、尿量の変化などを整理すると、判断に役立ちます。

たとえば、次のような情報です。
シスプラチン投与後の経過を確認したところ、投与翌日から吐き気が続き、本日は水分摂取が普段より大幅に減っているとのことでした。処方された制吐薬の使用状況を確認し、尿量も普段より少ないとの訴えがあったため、治療先へ速やかに連絡するよう案内しました。
これは記載例です。実際には、確認できた事実と対応を記録します。
回収対象の確認と、現在の体調の確認。どちらも、患者さんが安心して治療を続けるために必要な仕事だと思います。
まとめ|対象ロットを確認し、治療を支えるフォローを続ける
今回の回収対象は、シスプラチン点滴静注10mg「マルコ」のロットKV0100、19,903箱です。
対象品を扱う施設では、在庫確認と回収対応を進め、次の治療に必要な製品を確保する。保険薬局では、患者さんの不安を受け止め、必要な確認を治療先へつなぐ。
そのうえで、吐き気、飲水、尿量、耳鳴り、しびれなど、帰宅後の変化をしっかり拾っていくことが大切です。
回収情報を正確に伝え、患者さんが治療を続けられるよう支える。今回、薬剤師として意識したいのはここです。
※回収情報は2026年9月30日時点の確認内容です。対象の変更や追加情報は、メーカー・PMDAの最新公表内容をご確認ください。
よくある質問
Q.シスプラチンはすべて回収されるのですか?
今回公表された対象は、10mg「マルコ」のロットKV0100です。25mg・50mgや、ほかのメーカーのシスプラチンを含む全製品の回収ではありません。
Q.すでに点滴を受けました。どうしたらよいですか?
使用された製品とロットは、治療を受けた医療機関へ確認してください。公表時点で本件による健康被害の報告はありません。体調の変化があれば、回収対象だったかどうかの確認を待たず、治療先へ相談しましょう。
Q.次の治療は中止になりますか?
今回の回収情報だけで、治療が中止になるとはいえません。在庫や代替製品の確保状況などによって対応が異なるため、治療先の案内を確認してください。
Q.カルボプラチンへ変更すればよいのですか?
同じ白金製剤でも、適応や投与方法、治療での位置づけが異なります。そのまま置き換えられる薬ではなく、担当医が治療内容を判断します。
Q.薬局では何を相談できますか?
回収情報の整理や治療先への確認に加え、吐き気止めの使い方、食事・水分摂取、尿量、耳鳴り、しびれ、市販薬の使用などを相談できます。

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