
こんにちは、薬剤師のしぐです。
「頭痛はいつものことだから」「市販薬を飲んで寝ていれば、そのうち治るから」。片頭痛があっても、こんなふうに日常生活の中でやり過ごしている方は少なくありません。仕事や家事を続けられていても、実際には痛みをこらえながら無理をしていたり、次の発作が心配で予定を入れられなかったりすることがあります。
そんな片頭痛の治療が、大きく変わっています。CGRPという片頭痛の病態に関係する物質の働きを抑える薬が登場し、注射薬だけでなく飲み薬も選べるようになりました。2026年9月には点滴の抗体薬も国内承認され、CGRP関連薬は承認ベースで6剤となっています。
第54回日本頭痛学会総会の会長を務める橋本洋一郎氏のインタビューで示されたのは、こうした治療の進歩を、実際に困っている患者さんへ届けていく必要性です。
ただし、「治せる」という言葉を、薬を使えば誰でも完全に治り、二度と頭痛が起こらなくなるという意味に受け取るのは適切ではありません。目指すのは、発作や生活への支障を減らし、本人が望む日常を取り戻すこと。そのために使える手段が増えた、という変化です。
今回は新薬6剤の整理とともに、急性期治療と予防治療の違い、薬の使いすぎ、薬局からできる受診支援をまとめます。
- 新薬6剤とは?CGRP関連抗体薬4剤とゲパント2剤
- 「治せる」とは、我慢で失っていた日常を取り戻すこと
- 片頭痛は、頭の片側がズキズキする人だけではない
- 受診経験57.4%という数字が示す、治療につながるまでの距離
- 急性期治療と予防治療は、役割が違う
- ナルティークとアクイプタは、同じゲパントでも使い方が違う
- 薬剤の使用過多による頭痛は、「錠数」だけでは見えない
- 頭痛日記は、治療の話し合いを助ける道具
- 「いつもの頭痛」で済ませてはいけないサイン
- 薬局でできるのは、処方薬の説明と受診への橋渡し
- 第54回日本頭痛学会総会が目指す「社会実装」
- FAQ|片頭痛の新薬と受診について
- まとめ|頭痛を我慢する日数を、治療につながる機会へ
- 参考情報
新薬6剤とは?CGRP関連抗体薬4剤とゲパント2剤

最初に整理したいのが、「6剤」の数え方です。ここではCGRP関連薬の抗体薬4剤と、低分子のCGRP受容体拮抗薬であるゲパント2剤を指します。片頭痛に使う薬全体が6剤だけ、という意味ではありません。
| 分類 | 一般名 | 代表的な販売名 | 主な役割・剤形 |
|---|---|---|---|
| 抗CGRP抗体 | ガルカネズマブ | エムガルティ | 発症抑制・皮下注射 |
| 抗CGRP抗体 | フレマネズマブ | アジョビ | 発症抑制・皮下注射 |
| 抗CGRP受容体抗体 | エレヌマブ | アイモビーグ | 発症抑制・皮下注射 |
| 抗CGRP抗体 | エプチネズマブ | ビエプチ | 発症抑制・点滴静注 |
| ゲパント | リメゲパント | ナルティーク | 急性期治療と発症抑制・OD錠 |
| ゲパント | アトゲパント | アクイプタ | 発症抑制・錠剤 |
2026年11月2日時点で確認した国内承認情報に基づく整理です。ビエプチは2026年9月16日に承認されていますが、承認と薬価収載・発売は別の段階です。本記事では発売済みとして扱わず、実際の処方・供給の可否は最新の公式情報で確認する必要があります。
また、ラスミジタンのレイボーは、セロトニン5-HT1F受容体に作用するジタン系の急性期治療薬です。CGRP関連薬6剤とは別の位置づけになります。トリプタンも含めて選択肢が増えたことと、それぞれの薬が同じ目的で使えることは分けて考えましょう。
CGRPを抑える薬でも、作用する場所が違う
CGRPは、片頭痛に関係する痛みの伝達などに関与するペプチドです。抗体薬にはCGRPそのものを標的とするものと、CGRPが結合する受容体を標的とするものがあります。ゲパントは小さな分子の薬で、CGRP受容体を阻害します。
患者さんへの説明では、細かい分子の話を一度に詰め込むより、「片頭痛に関係する信号の働きを抑える薬です」と伝えたうえで、発作時に飲むのか、発作を減らすために続けるのかを確認する方が、使い間違いを防ぐうえで大切です。
薬が効く仕組みを知っていることと、正しく使えることは別です。特に飲み薬が増えた今は、同じ片頭痛の薬でも役割や服用日が異なる点に注意が必要です。
「治せる」とは、我慢で失っていた日常を取り戻すこと
片頭痛治療の評価は、痛みの強さだけでは十分ではありません。「飲めば何とか出勤できる」という状態でも、仕事に集中できない、帰宅後は動けない、休日の予定を毎回取り消す、といった負担が残ることがあります。
そこで確かめたいのは、痛みが軽くなったかに加え、普段どおりに過ごせる時間が増えたかです。家族と外出できた、仕事中の中断が減った、発作を心配して予定を避けることが少なくなった。こうした変化も大切な治療効果です。
一方で、治療の反応には個人差があり、薬が合わない場合や副作用で続けにくい場合もあります。新薬があるから最初の1剤で必ず解決する、という話ではありません。診断を確かめ、効果と負担を記録しながら、治療を見直していくことになります。
頭痛が減った後も、自己判断で薬を増減したり、予防薬を突然やめたりするのではなく、継続や休薬を主治医と相談します。薬を使わなくても過ごせる時期を目指せる場合があっても、その判断は経過を見て行うものです。
片頭痛は、頭の片側がズキズキする人だけではない
名前から「片側だけに起こる頭痛」と思われがちですが、両側が痛む方もいます。脈打つような痛みが典型的でも、毎回そのように感じるとは限りません。吐き気、光や音へのつらさ、動くと悪化することなども診断の手掛かりです。
「雨の前だから」「肩こりがあるから」と本人が原因を考えていても、それだけで頭痛の種類は決まりません。気圧の変化が発作のきっかけになっている可能性はあっても、天気痛という呼び方だけで診断が完了するわけではないためです。
また、CTやMRIで大きな異常が見つからないことと、痛みが存在しないことは全く別です。画像検査は必要に応じて危険な原因を調べるために使われますが、片頭痛は症状や経過を詳しく確認して診断します。
薬局で「検査では何もないと言われたので」と話されても、「では問題ありませんね」で終わらせたくないところです。痛みで生活がどう変わっているのかを聞くことで、治療につながっていない困りごとが見えてきます。
受診経験57.4%という数字が示す、治療につながるまでの距離
日本の大規模調査OVERCOME(Japan)では、片頭痛集団のうち、片頭痛や強い頭痛のために医療機関を受診した経験がある人は57.4%でした。現在トリプタンを使用していた人は14.8%、予防薬を使用していた人は9.2%と報告されています。
これは2021年に公表された調査の結果であり、2026年現在の受診率や新薬普及率そのものではありません。それでも、片頭痛があっても医療につながっていない人が多かったことを示す、重要な出発点になります。
新しい薬が承認されても、本人が「受診してよい頭痛だ」と知らなければ、選択肢にはたどり着きません。市販薬を繰り返し購入する方への声かけも、治療への入口になります。
「毎月どれくらい頭痛がありますか」「薬を飲んでも仕事や学校に支障が残りますか」。こんな問いかけなら、単に飲みすぎを注意するより、困りごとを話してもらいやすいのではないでしょうか。
急性期治療と予防治療は、役割が違う
急性期治療は、起きた発作を抑えるための治療
急性期治療には、アセトアミノフェン、NSAIDs、トリプタン、ラスミジタン、リメゲパントなどがあります。症状の重さ、これまでの効果、副作用、持病などに合わせて使い分けます。
薬局では、処方どおりに使ったときに十分な効果が得られているかを確認します。服用後に半日寝込む必要がある、毎回追加薬が必要になる、再び痛くなって予定を取り消す。こうした場合には、薬を受け取れているだけで治療が十分とは言い切れません。
服用のタイミングも大切ですが、どんな症状でも一律に早く飲めばよいわけではありません。診断された発作に対して、薬ごとに指示されたタイミング、追加服用までの間隔、上限を守ることが基本です。
予防治療は、痛みがない日にも発作を減らすために使う
予防治療は、発作の頻度や程度を減らし、生活への影響を軽くすることを目指す治療です。従来の内服予防薬にも役割があり、CGRP関連薬だけで全てを置き換えるわけではありません。
予防治療を相談するうえでは、頭痛の日数と生活への支障の両方が大切です。月に何度も発作がある、発作のたびに寝込む、急性期治療薬が使いにくい、使用する日が増えているといった場合は、主治医に相談するきっかけになります。
日本頭痛学会はCGRP関連抗体薬を成人の予防療法の第一選択薬に含めることを推奨する立場を示しています。ただし、この推奨と、国内の保険診療で実際に使用するための条件は同じ意味ではありません。最適使用推進ガイドラインなど、薬剤ごとの条件を確認して適用します。
ナルティークとアクイプタは、同じゲパントでも使い方が違う
ナルティークはリメゲパントを成分とするOD錠で、国内では急性期治療と発症抑制の両方に適応があります。急性期治療では発作時に75mg、発症抑制では75mgを隔日で服用する設計です。
同じ薬が二つの役割を持つため、患者さんには今回の処方目的をはっきり伝える必要があります。予防目的で飲んだ日に、発作が出たからと同じ薬をもう1回追加する使い方はしません。1日総量75mgを超えないことを確認し、予定日以外の発作時の対応も具体的に共有しておきます。
アクイプタはアトゲパントを成分とする、1日1回服用の発症抑制薬です。2026年4月17日に国内発売されています。発作が起きたときだけ飲む頓服薬として扱う薬ではありません。
「飲み薬になったから使い方は簡単」と決めつけず、服用日、飲み忘れ時の対応、発作時の別の薬を確認しましょう。また、内服薬では併用薬による影響にも目を向けます。処方薬だけでなく、他院の薬、市販薬、サプリメントまで共有してもらうことが大切です。
薬剤の使用過多による頭痛は、「錠数」だけでは見えない
頭痛が増える、薬を使う、また頭痛が起こる。この繰り返しの中で、薬剤の使用過多による頭痛、MOHが問題になることがあります。
確認する基本は、1回に何錠飲んだかだけではなく、1か月に何日使ったかです。1日に2回飲んだ日も、使用日数としては1日です。ただし、日数が少なければ用量超過をしてよいわけではなく、1回量や1日上限も別に守る必要があります。
MOHの診断では、もともとの頭痛があり、月15日以上の頭痛が起こり、急性期・対症治療薬の使用過多が3か月を超えて続くことなどを確認します。使用過多の目安は薬剤によって異なり、トリプタンや複合鎮痛薬などでは月10日以上、単純鎮痛薬などでは月15日以上が診断基準上の目安です。
これらは「そこまでは安全に飲み続けてよい」という許可の数字ではありません。また、予防目的で定期服用する薬まで、同じ基準で機械的に数えてはいけません。リメゲパントの隔日投与と、市販鎮痛薬の連用は区別します。
薬を使う日が増えているときには、我慢を増やすように伝えるだけでは解決しません。自己判断で急に中止させず、頭痛治療全体を見直せるよう医師につなぐことが大切です。

頭痛日記は、治療の話し合いを助ける道具
記録は細かすぎると続きません。まずは、頭痛があった日、生活への支障、使った薬、その後の様子を短く残すだけでも、診察時に役立ちます。
例えば「頭痛あり・午前の仕事を中断・処方薬使用・午後は復帰」と書けば、単に痛みがあったことに加え、生活への影響と薬の効果が伝わります。予防薬を始めた後も、頭痛日数だけでなく、寝込む日や予定を取り消す日が減ったかを見られます。
市販薬も忘れずに記録します。商品名が違っても成分が重なる場合があり、お薬手帳だけでは実際の使用状況が見えないことがあるからです。現物やパッケージの写真を持参してもらう方法もあります。
受診前に完璧な記録を作る必要はありません。記録をためることを優先して受診が遅れないよう、今分かる範囲を持って相談することから始めましょう。
「いつもの頭痛」で済ませてはいけないサイン
突然起こり、短時間で最も強くなる頭痛、これまでに経験したことのない激しい頭痛、片側の手足の麻痺や言葉の出にくさ、意識の異常を伴う頭痛は、救急対応が必要な病気の可能性があります。症状に応じて119番を含め、直ちに医療につなぎます。
発熱や首の硬さを伴う頭痛、頭を打った後の頭痛、妊娠中・産後に初めて起きた強い頭痛、これまでと性質が変わった頭痛も、早急な評価が必要です。片頭痛の既往があることは、今回の頭痛まで安全だという保証にはなりません。
「新しい片頭痛薬を試してから考える」という順番にしてはいけない場面があります。薬局では診断を断定せず、危険な原因を除外するための受診が必要だと伝えます。

薬局でできるのは、処方薬の説明と受診への橋渡し
薬局の入口は処方箋だけではありません。市販薬の相談、同じ鎮痛薬の繰り返し購入、家族からの相談の中にも、治療につながるきっかけがあります。
最初に聞きたいのは、「1か月に何日くらい頭痛がありますか」「薬を使うのは何日くらいですか」「仕事・家事・学校を休んだり、無理して続けたりしていますか」の三つです。薬の数だけでなく、本人が失っている時間に目を向けます。
そのうえで、「発作が起きたときの薬に加えて、発作を減らす治療を相談できる場合があります」と伝える。特定の新薬を勧めることよりも、治療を見直す選択肢があると知ってもらうことが大切です。
注射の継続が負担なのか、毎日の内服を忘れやすいのか、費用が心配なのかによって、必要な支援も変わります。薬剤ごとの負担額や通院方法を医療機関と確認し、続けられる治療を一緒に考えたいところです。
新しい薬の登場は、しぐブログの新薬情報の記事一覧でも整理しています。片頭痛に限らず、承認されたことと実際の使い方を分けて理解する姿勢は、日々の服薬支援でも共通しています。
第54回日本頭痛学会総会が目指す「社会実装」
第54回日本頭痛学会総会は、2026年12月4日・5日に熊本城ホールで開催予定です。会長は橋本洋一郎氏で、テーマは「頭痛診療の社会実装―明日へのシナリオ―」です。
社会実装という言葉は少し難しく感じますが、新しい知識や治療法を、実際に必要とする人の暮らしに届く形にすること、と考えると分かりやすくなります。
専門医の診察室で新薬が使えるだけでは、受診していない方の頭痛は変わりません。かかりつけ医、薬局、職場、学校、家族が、頭痛は相談してよい症状だと理解することも必要です。薬剤師が市販薬の相談から受診を後押しすることも、その一部になります。
FAQ|片頭痛の新薬と受診について
Q. 新薬を使えば片頭痛は完治しますか?
全員の完治を保証する治療ではありません。発作の回数やつらさ、生活への支障を減らすことを目指します。十分に改善して治療を減らせる場合もありますが、継続や休薬は主治医と相談します。
Q. 頭痛が月に数日でも、予防治療を相談してよいですか?
相談できます。日数だけでなく、発作時の支障や急性期治療の効果も大切です。ただし、相談することと、特定の新薬が保険診療で使用できることは別です。薬ごとの適用条件を確認して判断します。
Q. 市販薬で痛みが軽くなっていれば、受診は不要ですか?
薬を使う日が増えている、薬を飲んでも生活への影響が残る、以前と症状が変わっている場合には相談が必要です。危険なサインがあるときは、市販薬の効果を見るために待たず受診します。
Q. CGRP関連薬は何剤も組み合わせられますか?
全ての組み合わせを自由に使えるわけではありません。急性期治療と予防治療の併用か、予防薬同士の併用かによって意味が異なります。安全性、根拠、保険診療上の取り扱いを含め、医師が個別に判断します。
Q. 子どもの片頭痛にも、この6剤を同じように使えますか?
成人の治療選択肢を、そのまま子どもに当てはめることはできません。薬剤ごとの承認範囲や小児のデータを確認する必要があります。欠席や保健室の利用が増えている場合も含め、小児科や頭痛を診療する医療機関に相談してください。
まとめ|頭痛を我慢する日数を、治療につながる機会へ
CGRP関連薬が6剤となり、片頭痛治療には注射、点滴、飲み薬という選択肢がそろいつつあります。その一方で、薬が増えたことを知らず、毎月の発作を我慢している方もいます。
「いつもの薬で何とかしている」という言葉の向こうに、どれくらいの負担があるのか。薬局では、頭痛の日数、薬を使った日数、生活への支障を聞くことから始められます。
片頭痛を、ひたすら耐えるものから、治療を相談できる疾患へ。新しい薬の知識を、患者さんが日常を取り戻すための声かけにつなげていきたいですね。
※2026年11月2日時点の情報です。治療は症状や持病、併用薬などに応じて個別に判断します。
参考情報
日本頭痛学会:CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版) https://www.jhsnet.net/guideline_CGRP.html
日本頭痛学会:成人の片頭痛予防療法におけるCGRP関連抗体薬の使用に関するポジションステートメント https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/52/3/52_493/_article/-char/ja
ファイザー・エーザイ:ナルティークの製品概要 https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2026/2026-07-27
アッヴィ:アクイプタ国内発売のお知らせ https://www.abbvie.co.jp/press-release/abbvie-launches-oral-medication-aquipta-atogepant-in-jjapan-for-the-prevention-of-migraine-attacks.html
PMDA:ビエプチ承認審査情報 https://www.pmda.go.jp/drugs/2026/P20261008001/navi.html
OVERCOME(Japan)原著論文 https://doi.org/10.1080/03007995.2021.1971179
国際頭痛分類第3版:MOH https://ichd-3.org/8-headache-attributed-to-a-substance-or-its-withdrawal/8-2-medication-overuse-headache-moh/
日本頭痛学会:片頭痛/片頭痛の治療 https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html
第54回日本頭痛学会総会 https://jhs54.umin.jp/


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