こんばんは。薬剤師のしぐです。
肺がんの分子標的治療で、また一つ気になるニュースが出てきました。中外製薬が、次世代KRAS G12C阻害薬「divarasib」について、2026年中の国内製造販売承認申請を予定しています。
今回、しぐが注目したのは「次世代」という呼び方以上に、すでに使われている同じ標的の薬と直接比較したことです。新しい薬の成績が良く見えても、違う試験の数字を横に並べただけでは、本当に優れているのか判断しにくいもの。その点、今回のKrascendo 1試験は、第一世代のKRAS G12C阻害薬を比較相手に選んでいます。
ただし、期待できる結果が出たことと、今日から日本の薬局で使えることは別です。また、「第一世代薬より良かった」と「第一世代薬が効かなくなった後にも効く」は同じ意味ではありません。
この記事では、divarasibの特徴、直接比較試験の結果、そして薬局薬剤師として今から整理しておきたいポイントをまとめます。

まず押さえたい今回のポイント
- 中外製薬は、divarasibの国内製造販売承認申請を2026年中に予定しています。
- 対象となる試験は、治療歴のあるKRAS G12C変異陽性の進行・転移性非小細胞肺がんです。
- 第一世代のソトラシブまたはadagrasibを対照とする第III相試験で、無増悪生存期間と全生存期間の改善が示されました。
- KRAS阻害薬の治療歴がある患者さんは除外されており、耐性後の切り替え効果を証明した試験ではありません。
国内申請の予定は、中外製薬が2026年10月27日に公表した第3四半期決算説明会で明らかにしたものです。「2026年度中」から2027年3月末までを連想する読者もいると思いますが、本記事では公式発表の「2026年中」に表現をそろえます。
なお、ここで扱うのは申請予定の段階です。承認済み、発売決定、保険診療で使用可能、と読み替えないことが大切です。
Divarasibとは?がんの増殖シグナルを狙う飲み薬
Divarasibは、KRAS G12Cを選択的に標的とする開発中の経口分子標的薬です。ロシュ/ジェネンテックが創製・開発し、日本では中外製薬が開発を進めています。
KRASは、細胞の増殖に関わる信号の受け渡しを担うタンパクです。その遺伝子に特定の変化が起きると、増殖を促す信号が過剰に働き、がんの成長に関わることがあります。
「G12C」は変異の種類を表す名前です。患者さんへの説明では、細かい記号を最初から全部説明するよりも、「がん細胞にある特定の遺伝子の変化を目印にして選ぶ薬です」と伝えるほうが入りやすいと思います。
Divarasibは、その変異を持つKRASタンパクに結合し、働きが抑えられた状態に固定することで、がんを増殖させる信号を抑えるよう設計されています。
ここで注意したいのは、「KRASに変異がある」という情報だけでは対象を決められないこと。G12C以外の変異まで一括して使える薬と考えたり、肺がんなら誰にでも使える薬と考えたりしないようにしたいところです。
しぐとしては、新薬の名前を覚えるときほど、「どのがん」「どの変異」「どの治療段階」の3つを一緒に覚えるようにしています。名前だけ先に知っていると、あとで適応を広く受け取りすぎてしまうことがあるからです。

「次世代」と呼ばれる理由と、言葉だけで判断しない姿勢
Divarasibは、第一世代のKRAS G12C阻害薬と比べ、前臨床研究でより高い阻害活性と選択性を示した薬です。ただし、試験管内や動物での特性が、そのまま患者さんの治療成績になるわけではありません。
薬が体の中でどのくらい届くのか、十分な期間飲み続けられるのか、副作用で中断しないか。こうした要素を含めて、人で有効性と安全性を確かめる必要があります。
そのため、しぐは「次世代だから良い薬」という説明だけでは少し物足りないと感じます。どのような患者さんを対象に、何と比べて、どの指標が改善したのか。その順番で確認すると、ニュースの受け止め方が具体的になります。
今回の価値は、次世代という肩書に加え、同じKRAS G12Cを標的とする既存薬との無作為化比較試験で結果を示した点にあります。
Krascendo 1試験は、何と何を比べた?
Krascendo 1は、治療歴のあるKRAS G12C変異陽性の進行・転移性非小細胞肺がんを対象にした、国際共同第III相無作為化非盲検試験です。
参加した成人338例を、divarasib群167例と、ソトラシブまたはadagrasibによる対照群171例に割り付けました。患者さん全員が3剤を順番に使った試験ではありません。また、対照群で2つのKRAS阻害薬を併用したわけでもありません。
| 項目 | 試験の内容 |
| 試験名 | Krascendo 1 |
| 対象 | 既治療のKRAS G12C変異陽性進行・転移性非小細胞肺がん |
| 参加者 | 338例 |
| 試験薬 | Divarasib |
| 比較相手 | ソトラシブまたはadagrasib |
| 主要評価項目 | 盲検独立中央判定による無増悪生存期間 |
| 主な副次評価項目 | 全生存期間、奏効率、奏効期間、安全性など |
主要評価項目が「盲検独立中央判定」という点も押さえておきたいところです。治療する医師や患者さんには薬剤が分かる試験でも、画像などの評価を治療割り付けを知らない立場で行うことで、判定への影響を抑える工夫がされています。
一方、非盲検試験であること自体がなくなるわけではありません。評価項目ごとの判定方法を見て、結果全体を受け止めたいと思います。
試験での投与量は、divarasibが400mgを1日1回、ソトラシブが960mgを1日1回、adagrasibが600mgを1日2回でした。これは研究上の投与方法であり、今後の日本での承認用量や服用条件を確定する情報ではありません。
試験結果|病気の進行を抑える期間と、生存期間が改善
公表された主要な結果を整理すると、次のようになります。
| 評価項目 | Divarasib群 | 対照群 |
| 無増悪生存期間中央値 | 9.8か月 | 5.7か月 |
| 全生存期間中央値 | 17.7か月 | 12.0か月 |
| 確認された奏効率 | 約58% | 約32% |
| 奏効期間中央値 | 11.9か月 | 6.9か月 |
無増悪生存期間のハザード比は0.58、95%信頼区間は0.44~0.76でした。全生存期間のハザード比は0.56、95%信頼区間は0.41~0.78です。
奏効率は、ベースラインで測定可能病変を持つ評価対象集団の結果です。また、奏効期間は、治療に反応した患者さんについて評価する指標です。すべての指標が、まったく同じ分母で計算されているわけではありません。
今回の結果では、腫瘍の縮小だけでなく、病気の進行や死亡までの期間、さらに全生存期間でも改善が示されました。同じ標的を狙う治療薬を選ぶうえで、注目すべき比較結果といえます。
ただ、数字が並ぶほど、患者さんには別の不安が生まれることもあります。「自分は何か月なのか」「この薬なら必ずその期間は大丈夫なのか」と受け止める方もいるでしょう。医療者側が指標の意味を整理して伝えることが大切です。
「死亡リスク44%低減」は、どう伝える?
死亡のハザード比0.56は、比較した期間の死亡ハザードが相対的に44%低かったことを示します。
これは「44%の患者さんが治った」「必ず寿命が44%延びる」「100人中44人の死亡を防ぐ」といった意味ではありません。もともとのリスクや観察期間を無視して、人数の差に置き換えることもできません。
また、全生存期間中央値17.7か月は、一人ひとりの余命を予測した数字ではありません。試験集団で推定された生存曲線の50%に相当する時点を示しており、それより長く治療や生活を続ける方も、短い経過になる方もいます。
無増悪生存期間についても同様です。「9.8か月は必ず効く」という約束にはなりませんし、その期間だけで生活の質や通院負担のすべてが分かるわけでもありません。
しぐなら、患者さんにはまず「同じ種類の既存薬と比べた試験で、病気の進行を抑える期間や、生存期間が長くなる結果が出ています」とお伝えします。そのうえで、個人の見通しは病状や体調、治療歴などを含めて主治医と確認することを補います。
期待できる情報を、期待できる範囲で伝える。新薬のニュースほど、この姿勢を大切にしたいですね。

第一世代薬が効かなくなった後にも使える?
今回、特に混同したくないポイントです。
Krascendo 1では、KRAS G12C阻害薬やpan-KRAS/RAS阻害薬による治療歴がある患者さんは除外されています。つまり、第一世代薬で治療した後に耐性が生じた患者さんを集めて、divarasibへ切り替える効果を調べた試験ではありません。
「治療歴がある」という表現は、「すでにKRAS阻害薬を使った」という意味ではないのです。
この違いを曖昧にすると、「今の薬が効かなくなっても、次世代薬へ替えれば大丈夫」という説明につながりかねません。今回の比較結果だけでは、そうした順番での有効性を保証できません。
薬局でニュースについて聞かれたときも、現在の薬剤名だけでなく、これまでどの治療を受けたのかを確認したいところです。現在治療がうまくいっている患者さんに、報道だけを理由として切り替えを勧めることも適切ではありません。
しぐとしては、「選択肢が広がる可能性」と「どの順番で使えるか」は、別の問いとして整理したいと思っています。
比較結果を読むときの限界も確認したい
直接比較は大きな強みですが、すべての患者さんに同じ効果があると判断できるわけではありません。
試験は非盲検で実施されました。また、対照群のうちadagrasibを使った患者さんは比較的少なく、2つの対照薬それぞれについて同じ精度で優劣を判断できるとは限りません。主な結果は、ソトラシブまたはadagrasibから成る対照群全体との比較として読む必要があります。
未治療の脳転移がある患者さんも組み入れの対象外でした。そのため、今回の結果だけから、活動性の脳転移に対して十分な効果が確認されたと広げることはできません。
さらに、国際共同試験全体での成績と、日本人患者さんだけの成績は同じではありません。承認審査や学会発表で日本人集団の情報が示された際には、人数や安全性の特徴を確認したいところです。
良い結果だからこそ、対象集団を丁寧に読む。これは期待を小さくするためではなく、必要な患者さんに正しく届けるための確認だと感じます。
副作用は?「新たな安全性シグナルなし」の読み方
Divarasibでは、新たな安全性シグナルは認められなかったと発表されています。主な治療関連有害事象には、下痢、悪心、嘔吐などの消化器症状と、肝毒性が挙げられています。
治療関連有害事象による中止はdivarasib群4.8%、対照群11.7%でした。重篤な治療関連有害事象はそれぞれ7.8%と15.2%と報告されています。
ただし、「新たな安全性シグナルがない」は「副作用がない」という意味ではありません。また、「重篤」と「重症度のグレード」は異なる分類で、数字を混ぜて説明しないよう注意が必要です。
薬局での準備としては、最終的な国内電子添文や適正使用資材が公表された時点で、必要な検査、休薬・減量基準、併用薬の制限などを確認したいところです。開発中の情報から、国内の正式な管理手順を先回りして決めることはできません。
今から考えておきたいのは、症状を具体的に聞き取る方法です。「副作用はありませんか」だけでは、患者さんが自分の変化を副作用と認識していない場合に拾いにくいことがあります。
下痢なら普段から何回増えたか、夜間にも起きるか、水分が取れているか。吐き気なら食事や服薬に影響していないか。強いだるさなら、いつから出たのか、ほかの症状はないか。こうした日常生活に沿った質問を準備しておくと、処方元へ伝える情報も具体的になります。
これはdivarasibの確定した服薬指導手順ではなく、経口抗がん薬を支える薬局としての実務上の考え方です。

薬局では、発売前に何を準備しておく?
新薬の勉強というと、薬効と用量の暗記が中心になりがちです。ただ、実際に患者さんの生活を支えるには、それ以外の確認も必要になります。
まず、対象となる遺伝子変異と検査の位置づけです。処方が始まったときには、承認された適応や検査条件を確認し、情報が足りなければ処方元と共有する必要があります。
次に、治療歴です。何次治療なのか、前の薬でどのような副作用があったのか、現在も症状が残っていないか。お薬手帳の薬剤名だけで分からない部分を、連携で補えるようにしたいと思います。
そして、併用薬の確認です。処方薬だけでなく、市販薬やサプリメントまで含めた一覧を作ることには意味があります。ただし、他のKRAS阻害薬で知られている相互作用を、そのままdivarasibの禁忌や制限として転記しないこと。薬剤ごとの正式な情報を確認する必要があります。
飲み忘れ時、服用後に嘔吐したとき、食事との関係、保管や一包化の可否も、承認後にそろえて確認したい項目です。同じ「飲む抗がん薬」でも、対応がすべて共通とは限りません。
さらに、次回受診までに困ったときの連絡先を共有しておくことも大切です。症状が強くなってから初めて連絡方法を探すのでは、患者さんの負担が増えてしまいます。
しぐとしては、新薬を「知っている薬」にするだけでなく、「相談を受けたときに必要な情報へたどり着ける薬」にしておきたい。薬局での準備は、そこまで含めて考えたいですね。
一次治療や術後治療にも広がる?
Divarasibでは、既治療例を対象とするKrascendo 1に加え、未治療例での併用療法や、切除後の患者さんを対象とする開発も進められています。
例えばKrascendo 2では、divarasibとペムブロリズマブの併用を、化学療法とペムブロリズマブの併用と比較しています。術後の治療を検討するKrascendo 3もあります。
ただし、今回報告されたKrascendo 1の結果を、そのまま一次治療や術後補助療法の効果として扱うことはできません。対象の病状も、治療の目的も、比較相手も異なるからです。
「同じ薬だから、どの段階でも同じように使える」とは考えず、それぞれの試験結果と承認範囲を追いかける必要があります。
肺がんの分子標的治療の広がりについては、ヘルネクシオスのHER2変異陽性肺がんに関する記事でも整理しています。標的遺伝子は異なりますが、「どの変異に、どの治療段階で使うのか」を確認する考え方は共通です。
しぐの視点|治療の進歩を、患者さんの日常につなげたい
今回のニュースを見て、しぐは、KRAS G12Cを標的とする治療が、薬を使えるようにする段階から、同じ標的の中でより良い治療を検討する段階へ進んでいると感じました。
同じ標的の薬同士を直接比べ、生存期間まで改善を示したことには、前向きな意味があります。
一方で、薬局で向き合う患者さんにとっては、論文の結果だけで毎日の治療が完結するわけではありません。食事が取れるか、外出できるか、困ったときに相談できるか。そうした生活の一つひとつが、治療を続ける土台になります。
新薬の登場を期待しながら、承認前の情報を確定事項として話さないこと。現在の治療を不必要に不安にさせず、今後の選択肢として正確に説明すること。そして実際に処方が始まったときには、患者さんが小さな変化を話せる関係を作ること。
治療の進歩を、患者さんの日常へつなげる。そのために、薬局でも一歩先の準備をしておきたいと思います。

FAQ
Divarasibは、もう日本で承認されていますか?
本記事で確認したのは、2026年10月27日の中外製薬による「2026年中の国内製造販売承認申請予定」です。承認や発売が決まったという情報ではありません。今後の正式発表を確認する必要があります。
肺がんの患者さんなら誰でも対象になりますか?
今回の試験対象は、KRAS G12C変異陽性で治療歴のある進行・転移性非小細胞肺がんです。肺がん全体や、KRASの別の変異を持つ患者さん全体への有効性を示したものではありません。
ソトラシブが効かなくなった後の薬ですか?
今回の試験では、KRAS G12C阻害薬などの治療歴がある患者さんは除外されました。そのため、ソトラシブへの耐性後に切り替える効果を、この結果から判断することはできません。
奏効率約58%は、約58%の人が治るという意味ですか?
違います。一定の評価基準を満たす腫瘍縮小が確認された割合です。治癒率とは異なります。また、この奏効率は測定可能病変を持つ評価対象集団での数値です。
飲み薬なので、副作用の心配は少ないですか?
投与経路だけで安全性は判断できません。今回も消化器症状や肝毒性が報告されています。国内での使用時には、正式な電子添文や適正使用資材に基づいた検査とフォローが必要です。
今の薬から早く切り替えたほうがよいですか?
ニュースだけを理由に治療変更を判断することはできません。現在の治療効果、副作用、治療歴、国内での承認状況などを踏まえて、主治医と相談する内容です。自己判断で中止・変更しないでください。
一次治療や手術後にも使えるようになりますか?
それぞれの場面で開発が進んでいますが、今回の既治療例の結果とは分けて考える必要があります。今後の試験結果と国内の承認範囲を確認していきます。
※本記事は2026年10月28日時点の公開情報を整理したものです。個々の患者さんの治療選択は、主治医・治療施設と相談してください。


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