
こんばんは、薬剤師のしぐです。
糖尿病の合併症としてよく知られているのは、網膜症・腎症・神経障害です。そこに、肺の働きの低下も加わるのでしょうか。
最近は、2型糖尿病と肺機能の低下、インスリン抵抗性、運動時の代謝との関係が注目されています。「第4の細小血管症」という呼び方も提案されていますが、確立した分類として受け取るのは早い段階です。
押さえておきたいのは、次の3点です。
- 呼吸器症状がなくても、詳しい検査で肺機能の異常が見つかることがある。
- 血糖だけでなく、インスリンの効きにくさも肺機能と関係する可能性がある。
- 運動が続かない理由を、意欲だけで判断しない。肺・心臓・筋肉などの評価につなげる。
糖尿病で肺の働きが低下するのはなぜ?
肺では、肺胞と毛細血管の間で酸素と二酸化炭素をやり取りしています。糖尿病に伴う微小循環の変化、慢性炎症、たんぱく質の糖化、肺組織の硬さの変化などが、肺機能低下に関係する仕組みとして考えられています。
ただし、肺機能の低下をすべて細小血管障害だけで説明できるわけではありません。肥満、喫煙、加齢、心不全、呼吸器疾患、身体活動量なども関係します。「糖尿病があるから糖尿病性の肺障害」と決めつけないことが大切です。
66研究・計59,511人をまとめた2021年のメタ解析では、2型糖尿病のある人は対照群と比べ、1秒量・努力性肺活量・肺拡散能などが低い傾向でした。一方、研究間のばらつきが大きく、ほとんどが横断研究です。関連は示されても、糖尿病が直接の原因と断定することはできません。
| 指標 | 何をみる検査? |
|---|---|
| 1秒量(FEV1) | 思い切り息を吐いた最初の1秒間に吐ける量 |
| 努力性肺活量(FVC) | 深く吸ってから、努力して吐き出せる全体の量 |
| 肺拡散能(DLCO) | 肺から血液へのガスの移動のしやすさ |
| 全肺気量(TLC) | 最大限に吸ったとき、肺に含まれる空気の総量 |
研究① 無症状でも、詳しい検査で拘束性の異常が見つかる

EASD 2026の学会報告では、喫煙習慣がなく、肺疾患や急性呼吸器疾患を認めない2型糖尿病患者101人が検討されました。
通常のスパイロメトリーで異常が見つかったのは2人でした。一方、体プレチスモグラフィで肺の容積まで評価した68人では、17人、25%に拘束性の異常が報告されています。
ここで大切なのは、25%の分母が「詳しい検査を受けた68人」であることです。糖尿病患者全体の4人に1人に当てはまるという意味ではありません。検査を受けた人の選ばれ方や、他の要因の影響も確認する必要があります。
拘束性とは、肺に取り込める空気の量が少なくなるタイプの機能障害です。スパイロメトリーだけでは確定できず、全肺気量などによる評価が必要になります。また、拘束性の異常があることと、肺線維症という病名がつくことは同じではありません。
無症状の段階から異常が見つかる可能性は興味深いものの、今回の小規模な学会報告だけで、全員に詳しい検査を勧める結論にはなりません。
研究② インスリン抵抗性と肺機能は関係する?
糖尿病になる前の段階でも、糖代謝と肺機能の関係が検討されています。
EASD 2026では、スウェーデンの糖尿病・肺疾患のない中年成人を対象に、血糖、インスリン関連指標と肺機能との関連が報告されました。インスリン感受性、つまりインスリンの効きやすさと肺機能との関連が注目されています。
ただし、横断的な関連だけでは、どちらが先に起きたのかは分かりません。インスリンが肺を硬くした、インスリン抵抗性を改善すれば肺機能が回復する、とまでは言えません。学会報告の解析人数や関連の方向は、原著論文での確認が必要です。
補足になるのが、2026年のDiabetes Care掲載研究です。1型糖尿病426件、2型糖尿病482件、対照244件のスパイロメトリー測定を横断的に解析し、インスリン感受性が高いほどFEV1とFVCが高い関連がみられました。別の遺伝学的解析も、インスリン抵抗性と低いFEV1との因果的関連を支持しましたが、実際の治療介入による改善効果を示すものではありません。
なお、「インスリン感受性」と「インスリン注射」は別の話です。この知見を理由に、必要なインスリン治療を減らしたり中止したりすることはありません。

研究③ 運動時のつらさは、肺以外の要因にも目を向ける
運動中の酸素の利用には、肺で取り込む、心臓が送り出す、筋肉が受け取って使う、という複数の段階があります。
EASD 2026の別の報告では、2型糖尿病110人と糖代謝異常のない対照121人が比較され、運動時の最大脂質酸化量の低下と、最高酸素摂取量との関係が取り上げられました。
最大脂質酸化量は、運動中に脂肪をエネルギーとして使う速さが最大になるときの値です。肺機能そのものを表す指標ではありません。また、この学会報告では末梢の酸素抽出能の具体的データが示されておらず、筋肉が酸素を取り込めないことが原因と断定することもできません。
関連するEMPA-HEART試験の探索的解析では、エンパグリフロジン群でシタグリプチン群に比べ、最大脂質酸化量などの改善が報告されています。ただし、これは「SGLT2阻害薬が糖尿病による肺機能低下を治療する」と証明した研究ではありません。代謝指標の改善と、肺機能や息切れの改善は分けて考える必要があります。
3つの研究から何が分かる?
| テーマ | 注目点 | まだ言えないこと |
|---|---|---|
| 無症状の肺機能異常 | 通常の検査だけでは捉えにくい異常があり得る | 糖尿病患者全体の25%に異常がある |
| インスリン抵抗性 | 糖代謝と肺機能が関連する可能性 | インスリン抵抗性の治療で肺機能が回復する |
| 運動時の代謝 | 運動耐容能には肺以外の要因も関係する | SGLT2阻害薬が肺障害を治す |
「第4の細小血管症」という言葉のインパクトより、肺も糖尿病に関連して影響を受ける可能性がある臓器として、見落とさないことが実務では大切です。
薬局では「運動できていますか?」の次を聞く

「歩いてくださいね」と伝える前に、歩けない理由を確認したいところです。
- 以前と同じ距離で、息が上がるようになっていませんか?
- 階段や買い物の途中で、休む回数が増えていませんか?
- 息切れに加えて、むくみや急な体重増加はありませんか?
- 運動中の冷や汗、手の震え、動悸はありませんか?
- 咳、発熱、胸の痛みなどはありませんか?
息切れの背景には、心不全、貧血、感染症、喘息・COPD、低血糖などが隠れていることもあります。いつから、何をすると、どの程度つらいかを具体的に記録し、医師への情報提供につなげます。
急に強い息苦しさが出た、安静時にも苦しい、胸痛や意識の異常がある場合は、速やかな救急対応が必要です。
運動中の冷や汗や震えなどが気になる方は、コチラも確認してください。

薬の継続や使い方の確認は、生活の様子を聞く機会にもなります。コチラも合わせ、数値と日常生活の両方から治療を支えたいところです。

よくある質問
肺機能低下は、正式な「第4の細小血管症」ですか?
今回の報告では、そのように位置づける提案がされています。ただし、網膜症・腎症・神経障害と並ぶ確立した分類として紹介するのは避け、研究上の提案として理解するのが適切です。
糖尿病があれば、症状がなくても全員が肺機能検査を受けるべきですか?
今回の小規模な学会報告だけで、全員に一律の検査が必要とは言えません。息切れや活動量の変化、喫煙歴、心肺疾患の有無などを踏まえて、主治医に相談します。
HbA1cが5.5%以上なら、肺に異常があるのでしょうか?
そのような診断基準はありません。観察研究で示された統計的な関係を、個人の肺障害を診断する境界値として使うことはできません。
インスリン注射が肺を悪くするのでしょうか?
今回の研究から、そのようには結論できません。インスリン感受性に関する知見と、注射による治療の影響は分けて考えます。自己判断で中止・減量しないでください。
SGLT2阻害薬で肺機能は改善しますか?
紹介した研究は、その効果を証明していません。運動時の脂質代謝への影響は興味深いものの、肺機能改善を目的とした薬剤の選択や変更にはつながりません。
まとめ
糖尿病と肺機能低下の関係は、無症状の異常、インスリン抵抗性、運動時の代謝という複数の視点から研究が進んでいます。
薬局でできる第一歩は、「運動できない」を意欲の問題だけで片づけず、以前と比べた息切れや活動量の変化を聞くことです。血糖の数字だけでなく、普段の暮らしの変化にも目を向けていきましょう。


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