糖尿病急性合併症による入院が約3割増|低血糖・DKA・HHSと薬局での予防策

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こんにちは、薬剤師のしぐです。

糖尿病の薬をお渡しするとき、「血糖値はどうですか」「低血糖はありませんか」と確認する機会は多いと思います。しかし、普段の検査値が落ち着いていても、食事が取れない、感染症にかかった、薬を重ねて使ってしまったといった変化から、入院が必要になることがあります。

MDVが2026年11月2日に公表した分析では、2型糖尿病の受診がある患者を対象に、急性合併症による延べ入院数が2021年から2025年に29.1%増加しました。同じ期間の2型糖尿病患者数の増加は13.9%で、入院数はそれを上回るペースで増えています。

対象となったのは、重症低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、高浸透圧高血糖状態(HHS)の3つです。この記事では数字の読み方を整理したうえで、保険薬局で確認したい食事・水分・薬の使い方、退院後の再発予防を考えます。

情報確認日:2026年11月8日。調査結果と、学会・公的機関の情報を踏まえた実務上の提案を区別して記載しています。

糖尿病急性合併症による入院はどのくらい増えた?

2021年を100とすると2025年は129.1

MDVの診療データベースを使い、2021年1月~2025年12月の全期間についてデータを保有する医療機関が分析対象になりました。対象患者は、期間中に2型糖尿病の受診がある患者です。急性合併症は、入院契機病名または医療資源を最も投入した傷病名に基づいて集計されています。

項目2025年の指数(2021年=100)2021年比
2型糖尿病患者数(参考)113.913.9%増
急性合併症による延べ入院数129.129.1%増
重症低血糖121.821.8%増
DKA139.939.9%増
HHS128.028.0%増

増加率が最も大きかったのはDKAです。ただし、これは各病態の2021年をそれぞれ100とした比較です。DKAの入院件数そのものが、重症低血糖やHHSより多いと示した数字ではありません。また、HHSは2023年の指数138.7から2025年には128.0へ下がっており、すべての病態が毎年一方向に増え続けたわけでもありません。

「全国の発症率が3割上昇」とは読めない

今回の結果は、対象施設における延べ入院数の推移です。同じ人が別の機会に入院すれば複数の入院として扱われ得るため、入院した実人数とは異なります。全国の糖尿病患者全員を追跡した発症率でもありません。

全期間のデータがある施設に限定することで、施設の追加だけによる見かけの増加を抑える工夫はあります。それでも、受診者の年齢構成、紹介や入院のされ方、診断・記録の変化、再入院などの影響を分けて考える必要があります。患者数と入院数の指数の差だけから、一人ひとりの危険度の変化や増加の原因を確定することはできません。

75歳以上で増加が目立つ一方、DKAは比較的若い層にも多い

入院時の年齢層急性合併症の2025年指数
64歳以下116.0
65~74歳121.0
75~84歳143.4
85歳以上135.4

2021年との比較では、75~84歳で43.4%増、85歳以上で35.4%増となりました。男女別の指数は男性121.3、女性142.2です。女性で増加幅が大きい結果ですが、年齢構成などを調整した個人のリスク比較として受け止めないことが大切です。

2021~2025年を合計した入院時年齢の中央値は、重症低血糖79歳、HHS80歳、DKA62歳でした。重症低血糖の入院は75歳以上が67.5%、HHSでは64.8%を占める一方、DKAでは64歳以下が53.7%でした。

高齢の方では食事量や水分摂取、服薬支援の変化に目を向けたいところです。一方、DKAについては「まだ若いから大丈夫」と考えず、治療の中断や体調不良、食べられない状態を年齢にかかわらず確認する必要があります。なお、この分析は2型糖尿病の受診がある人を対象としたもので、DKA全体の年齢分布や1型糖尿病の実態を示すものではありません。

糖代謝と水分のバランスを表す琥珀色と青緑の抽象イメージ

重症低血糖・DKA・HHSの違いを整理する

重症低血糖:血糖値の数字だけで重症度を決めない

重症低血糖は、本人だけで対処できず、回復のために他者の助けが必要になる状態です。血糖値が低いことに加え、意識や行動の変化、安全に飲み込めるかを確認する必要があります。高齢者では、冷や汗や手の震えなどの典型的な訴えが目立たず、「ぼんやりする」「返事がいつもと違う」「ふらつく」といった変化が手掛かりになる場合があります。

意識がはっきりして安全に飲み込めるときは、あらかじめ説明を受けた方法で速やかにブドウ糖を取ります。成人ではブドウ糖10gが一つの目安です。約15分後を目安に症状と、測定できれば血糖値を再確認し、改善しない場合は追加対応と医療機関への連絡が必要です。α-グルコシダーゼ阻害薬を使用中の低血糖には、砂糖ではなくブドウ糖を使います。

意識がはっきりしない、けいれんしている、飲み込めない場合は119番です。食べ物や飲み物を無理に口へ入れないでください。処方されたグルカゴン製剤があり、家族等が使用方法を指導されている場合は、その指示に沿って対応します。いったん回復しても再び低血糖になることがあるため、重症例は医療機関での評価が必要です。

DKA:インスリン作用の不足とケトン体の増加

DKAは、インスリンの働きが著しく不足し、ケトン体の増加に伴って体内の酸塩基バランスが崩れる急性合併症です。吐き気、嘔吐、腹痛、強いだるさ、呼吸の異常などに注意します。感染症やインスリンの中断などがきっかけになることがあり、家庭で飲水だけを続けて様子を見る病態ではありません。

SGLT2阻害薬を使用している場合には、血糖値が著しく高くなくてもケトアシドーシスが起こる可能性があります。測定した血糖値だけを見て安心せず、嘔吐や腹痛、強い倦怠感があれば速やかな受診につなげます。診断には血中・尿中ケトン体や酸塩基状態などの評価が必要で、薬局の問診だけで確定も除外もできません。

HHS:著しい高血糖と脱水に注意

HHSは、著しい高血糖と高度の脱水を特徴とする状態です。高齢者に多く、感染症や水分摂取の不足などがきっかけになることがあります。口渇や多尿に加えて、ぐったりする、反応が鈍いなどの変化があれば、単なる疲れや年齢のせいにしないことが大切です。

DKAとHHSには重なりもあり、症状だけで見分けることはできません。意識の変化や呼吸の異常がある場合は救急対応を優先します。水分が取れない、繰り返し吐く、急に衰弱している場合も、通常の次回受診まで待たず医療機関に連絡してください。

重症低血糖の入院前処方は「薬剤の危険度ランキング」ではない

重症低血糖の入院前100日間に処方が確認できた事例では、薬剤クラス別の延べ処方数の構成比はインスリン34.9%、DPP-4阻害薬19.0%、ビグアナイド薬9.8%、SGLT2阻害薬9.0%、SU薬8.2%でした。

この数値の分母は薬剤クラス別の延べ処方数です。「インスリン使用者の34.9%が重症低血糖になった」という意味ではありません。併用薬、用量、腎機能、食事摂取、病状などを踏まえなければ、原因薬を特定することも、薬剤間の発症リスクを比較することもできません。

SGLT2阻害薬の構成比は2021年の5.3%から2025年には10.9%に上昇しましたが、使用が広がった影響なども考慮する必要があります。これをもって「SGLT2阻害薬による低血糖が倍増した」とは言えません。単独使用時と、インスリンやSU薬などとの併用時も分けて評価します。

薬の確認と低血糖予防を表すカプセルと保護するリボンのイメージ

退院後はSU薬の構成比が低下。それでも再確認は必要

入院前と退院後の両方で糖尿病治療薬の処方が確認できた同一入院では、SU薬の構成比は7.7%から2.7%へ、インスリンは35.8%から33.3%へ低下しました。ただし、この比較ができたのは重症低血糖入院全体の29.5%です。すべての入院を代表するとは限りません。

また、薬剤クラス別の構成比とは別に、処方パターンで見ると「SU薬を含むがインスリンを含まない」処方率は12.5%から4.1%へ低下しました。入院前にSU薬が処方されていた入院のうち、退院後にもSU薬が処方されていた割合は23.6%でした。

ここで薬局が確認したいのは、継続という事実だけではなく、減量の有無、食事量や腎機能、本人の管理能力、退院後の支援内容です。インスリンも、必要性が高く継続が欠かせない人がいます。薬剤名だけで中止を求めるのではなく、再発を防ぐための条件が整っているかを処方医と共有します。

古い薬や注射の指示が残っていないか

退院時に処方が変わっていても、自宅に残っていた薬を以前の通りに飲んだり、古いメモの単位数で注射したりすると、治療内容が意図とずれてしまいます。お薬手帳だけでなく、残薬、一包化の袋、注射薬の実物、家族や訪問スタッフが使う記録を照らし合わせると、行き違いを見つけやすくなります。

中止薬を取り分ける、変更した用量が分かる一覧を作る、誰が準備するかを決めるといった対応は、実務上の提案です。退院直後は生活が変わりやすいため、本人の理解だけで終わらず、実際に管理する人にも同じ説明が届いているか確認したいですね。

薬局で聞きたい「食事・水分・薬・支援」の4つ

食事は量と時間まで聞く

「食べられていますか」だけでは、本人が普段の半分しか食べていなくても「食べている」と答えることがあります。「昨日の夕食は何をどのくらい食べましたか」「朝食を抜いた日に薬はどうしましたか」と具体的に聞くと、薬の作用と食事量のずれが分かりやすくなります。

食欲低下が続いているのに以前と同じ用量が続いている、飲み薬を使った後に食事が遅れる、注射したか思い出せず追加してしまうなど、起こり得る場面を確認します。低血糖らしい出来事があった場合は、発生時刻、直前の食事や活動、対応後の経過を記録して受診時の情報につなげます。

水分は飲めているか、吐いていないか

発熱、下痢、嘔吐があるときは、飲水量だけでなく、飲んでも吐いてしまうか、尿が減っていないか、普段より動けなくなっていないかを確認します。心不全や腎疾患などで水分制限を受けている人に、画一的な大量飲水を勧めることは避け、個別の指示を確認します。

薬は配合剤と他院処方まで確認する

同じ薬効の重複や配合剤中の成分、他院で始まった薬も確認します。薬剤名を覚えていなくても、薬袋やお薬手帳を一緒に見ると整理しやすくなります。インスリンでは製品名、使用時刻、単位数、注射手順を確かめ、処方変更が本人の実際の使い方に反映されているかを確認します。

支援は「誰が気づくか」まで決める

独居かどうかだけでなく、毎日様子を確認する人がいるか、休日や夜間に連絡できるかも大切です。低血糖時のブドウ糖の場所、主治医の連絡先、救急要請が必要な状態を家族や介護職と共有します。本人が説明できない場面でも、周囲が行動できる準備をしておきます。

退院後の医療と家庭の連携を表す青緑と金色の光の道

シックデイルールは体調が良いときに準備する

発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などで食事が取れない日は、血糖値が下がる場合も上がる場合もあります。SGLT2阻害薬はシックデイに休薬が必要です。脱水を伴う体調不良ではメトホルミンなどのビグアナイド薬も原則中止となります。SU薬やグリニド薬なども食事量や血糖値に応じた調整が必要になります。

一方、インスリンを自己判断で一律に中断しないことが重要です。特にインスリンが不可欠な人では、中断がDKAにつながることがあります。基礎分泌を補う製剤と食事に合わせた製剤では対応が異なるため、「食べられない日は全部やめる」という説明では不十分です。

薬ごとの休薬条件、インスリンの対応、測定方法、連絡先、再開の目安を、元気なときに主治医と相談して文章にしておきます。判断に迷う場合は、その日のうちに医療機関に確認します。何度も吐く、水分が取れない、意識が変わった、呼吸がおかしいといった状態では、数値や時間の基準に達するまで待たず受診につなげます。

食事摂取低下とケトーシスの関係は、GLP-1・GIP/GLP-1関連薬の適正使用とケトーシスの兆候でも整理しています。メトホルミン服用中の確認点は、メトホルミンとビタミンB12低下・乳酸アシドーシスも併せてご覧ください。

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よくある質問

Q.糖尿病の人は、みんな入院しやすくなったのですか?

今回示されたのは、対象施設での2型糖尿病の受診がある患者における延べ入院数の増加です。すべての糖尿病患者の個人リスクが一律に上がったとは言えません。年齢や病状、治療内容、生活環境を踏まえた対応が必要です。

Q.SU薬を使っていたら、すぐ中止すべきですか?

自己判断で中止するのではなく、低血糖の有無や食事量、腎機能、用量を医師・薬剤師と確認してください。重症低血糖を経験した場合は、原因と再発予防策を早めに見直す必要があります。

Q.血糖値が高くなければDKAの心配はありませんか?

SGLT2阻害薬を使用中などでは、著明な高血糖がなくても起こる場合があります。嘔吐、腹痛、強いだるさ、呼吸の異常があるときは、血糖値だけを理由に受診を遅らせないでください。

Q.低血糖が心配なので、インスリンをやめてもよいですか?

自己判断で中断すると高血糖やDKAにつながることがあります。低血糖の記録や食事状況を伝え、必要な調整を相談しましょう。意識の異常など緊急の症状がある場合は救急対応を優先します。

しぐの実務ポイント:退院後の最初の処方を再発予防の機会に

急性合併症による入院の増加は、「血糖値を下げる」ことに加えて、体調が変わったときに安全に治療を続けられるかを確認する必要性を示しています。高齢者だけに限らず、食べられない日や感染症のときに、薬をどう扱い、誰に連絡するかまで具体的にしておきたいところです。

退院後の最初の処方では、変更された薬、残薬、食事や水分、実際の管理者をセットで確認する。それぞれの生活に合った手順を医療機関や家族と共有し、次の急変を防ぐ支援につなげていきたいですね。

参考文献・確認先

本記事は一般的な情報提供を目的としています。薬の調整は、あらかじめ主治医から受けた個別の指示を優先してください。

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