アクーゴとは?外傷性脳損傷の細胞治療薬、10月に初回投与を計画|効果・対象・薬局の役割

こんばんは、薬剤師のしぐです。
外傷性脳損傷によって残った運動麻痺に、新しい治療選択肢が届こうとしています。
サンバイオの細胞治療薬「アクーゴ脳内移植用注」。2026年5月に発売され、9月17日の決算説明会では、10月に1例目の投与を予定していると説明されました。
事故や転倒のあと、長く麻痺と向き合ってきた患者さんやご家族にとって、気になるニュースですよね。
ただ、「再生医療」「脳の細胞治療」と聞くと、傷ついた脳が元に戻る、どんな麻痺にも使える、と受け取られてしまうこともあります。期待が大きい治療だからこそ、何を目指す治療なのか、どの患者さんが対象なのかを丁寧に理解しておきたいところです。
今回は、アクーゴの基本から初回投与の計画、効果と安全性、そして保険薬局でできる関わりまで整理します。
- アクーゴ、10月に1例目の投与を計画
- そもそもアクーゴとは?
- 外傷性脳損傷(TBI)とは?脳梗塞との違い
- どうやって効く?細胞が脳を丸ごと置き換えるわけではない
- 誰が対象?受傷後6か月以上でも、それだけでは決まらない
- 効果はどのくらい?運動機能の改善が評価された
- 条件及び期限付き承認とは?使いながら確かめる仕組み
- 副作用は?細胞製品のリスクと手術のリスクを考える
- 薬価は約7,272万円。患者負担はどう考える?
- 製造移管で供給は大丈夫?会社は在庫確保を説明
- 脳梗塞にも広がる?今は開発計画の段階
- 保険薬局はどう関わる?相談の入口と治療前後の薬の管理
- リハビリと生活支援も、引き続き大切
- まとめ:新しい選択肢を、患者さんの生活につなげる
- FAQ(本文のまとめの後に配置)
アクーゴ、10月に1例目の投与を計画
サンバイオが決算説明会で示した計画では、2026年10月に1例目の投与を予定し、2027年1月末までに6例の投与を見込んでいます。
北海道大学、東京大学、横浜市立大学、大阪大学、岡山大学の5大学と、ほかの3施設を合わせた8施設を中心に、導入準備が進められているとされています。
| 項目 | 今回の動き |
|---|---|
| 初回投与 | 2026年10月に1例目を予定 |
| 当面の投与計画 | 2027年1月末までに6例を見込む |
| 導入準備 | 5大学と3施設の計8施設を中心に進行 |
| 製造体制 | ミナリスの横浜工場へ全工程を移管する方針 |
| 在庫・供給 | 会社は十分な在庫を確保し、供給停止の懸念はないと説明 |
| 脳梗塞への開発 | 2028年1月期にPMDAとの試験デザイン合意を目指す |
ここで押さえておきたいのは、初回投与も6例の投与も、現時点では会社が示した「計画」だということ。投与完了や治療成績の公表とは区別して見ていく必要があります。
また、導入準備を進める施設の名前が挙がったことと、その施設で誰でもすぐに治療を受けられることも、同じではありません。患者さんの適格性評価や施設の受入体制を含めて、実際の診療につながる準備が必要です。
そもそもアクーゴとは?
アクーゴは、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善を目的とした再生医療等製品です。一般名は「バンデフィテムセル」、開発コードは「SB623」です。
健康な成人ドナーの骨髄に由来する間葉系幹細胞を加工・培養して作られます。患者さん自身から採った細胞をその都度加工する自家細胞治療ではなく、他の人に由来する細胞を使う「他家」の製品です。
| 項目 | 基本情報 |
|---|---|
| 販売名 | アクーゴ脳内移植用注 |
| 一般名 | バンデフィテムセル |
| 開発コード | SB623 |
| 製造販売元 | サンバイオ |
| 区分 | 再生医療等製品/条件及び期限付承認品目 |
| 効能・効果 | 外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善 |
| 投与方法 | 定位脳手術によって損傷組織の周辺へ細胞を移植 |
「注」という名前でも、腕から点滴する治療ではありません。脳内に細胞を届けるために、手術を行う製品です。
保険薬局に処方箋が来て、通常の注射薬として患者さんにお渡しするような使い方とは違います。それでも、患者さんから治療について質問される場面は考えられます。まず製品の位置づけを知っておくことが、相談の入口になりますね。
外傷性脳損傷(TBI)とは?脳梗塞との違い
TBIは、Traumatic Brain Injuryの略で、日本語では外傷性脳損傷です。交通事故や転倒などによって頭部に外から強い力が加わり、脳が損傷する状態を指します。
損傷の部位や程度によって、手足の麻痺だけでなく、記憶や注意、感情、生活上の行動などに影響が残ることがあります。
一方、脳梗塞は、脳の血管が詰まって血液が届かなくなることで脳組織が障害される病気です。どちらも麻痺が残ることがありますが、原因は異なります。
アクーゴの現在の承認対象は、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺です。脳梗塞後の麻痺や、TBIに伴う記憶障害などの症状全体が承認対象になっているわけではありません。
「脳に障害がある」「麻痺がある」という共通点だけで、適応を広げて考えないことが大切です。
どうやって効く?細胞が脳を丸ごと置き換えるわけではない
アクーゴの作用機序は、完全には明らかになっていません。
電子添文では、移植した細胞が死滅する過程で放出されるFGF-2という因子が、神経細胞の増殖を促すことが作用機序の一つと考えられる、と説明されています。
つまり、移植細胞がそのまま長期間生き続けて、失われた神経をすべて置き換える、と単純に説明できる治療ではありません。細胞から放出される因子などを通じて、損傷した神経組織の修復を支える働きが期待されています。
患者さんに説明するときには、「傷ついた脳の周囲に細胞を移植し、その細胞が出す物質などの働きを利用して、運動機能の改善を目指す治療です」と伝えると、イメージしやすいかもしれません。
ただし、「神経が必ず再生する」「元通りになる」と言い切らないこと。仕組みへの期待と、患者さん一人ひとりの治療結果は分けて考える必要があります。
誰が対象?受傷後6か月以上でも、それだけでは決まらない
電子添文では、受傷後6か月以上が経過し、運動機能障害が固定した中等度または重度の患者さんが対象とされています。
具体的には、GOS-Eという評価尺度のスコアが3〜6であること、運動麻痺の原因となる局所病変をMRIなどで確認できることなどが求められます。
「半年以上たった麻痺なら使える」という判断ではありません。画像所見、障害の程度、手術の適否、合併症などを、専門の医療機関で評価します。
脳腫瘍がある、あるいは脳腫瘍の既往がある患者さんでは、細胞増殖を促す可能性などを考慮した慎重な判断が必要です。小児を対象とした臨床試験は実施されていません。
なお、承認上の「受傷後6か月以上」と、主要な臨床試験での「受傷後12か月以上」という組入れ条件は異なります。試験でどのような患者さんが評価されたかも踏まえて、適応を判断する製品です。
薬局でできるのは、治療可能と判定することではなく、患者さんの状況と希望を整理し、適切な医療相談へつなぐことです。
効果はどのくらい?運動機能の改善が評価された
国際共同第Ⅱ相試験では、細胞移植を受けたSB623群46例と、偽手術群15例を比較しました。
主要評価項目は、24週後のFMMSという運動機能評価スコアの変化でした。平均の変化量は、SB623群で8.3点、偽手術群で2.3点となり、統計学的に有意な差が認められています。
このSB623群は、複数の細胞用量を合わせた結果です。承認された用量のみの成績と、すべての用量を合わせた成績を混同しないようにしたいところです。
また、「スコアが平均8.3点改善した」は、「全員が歩けるようになった」「麻痺が8割治った」という意味ではありません。どの動作がどの程度変わったのか、患者さんの生活にどのような意味を持ったのかが大切です。
服の袖に腕を通す、物をつかむ、立ち上がる。運動機能の変化は、こうした生活動作につながって初めて実感されることもあります。
だからこそ、今後の実臨床での情報も重要です。対象となる患者さん、改善の程度、持続性、安全性について、丁寧にデータを積み重ねていく必要があります。
条件及び期限付き承認とは?使いながら確かめる仕組み
アクーゴは2024年7月31日に条件及び期限付き承認を取得し、2025年12月8日に製造販売承認事項一部変更承認を取得しています。薬価基準への収載は2026年5月20日、発売は5月21日です。
再生医療等製品の条件及び期限付き承認は、有効性が推定され、安全性が確認された製品について、条件と期限を設けて承認し、承認後にも評価を進める仕組みです。
アクーゴでは、使用する症例全例を対象とした製造販売後承認条件評価などが求められています。専門的な知識・経験のある医師が、緊急時に対応できる施設で使用することも承認条件です。
ここで大切なのは、「承認されたから、効果や長期の安全性がすべて確定した」という理解にしないこと。電子添文でも、臨床試験成績が限られていることと、手術のリスクを含む正確な情報を文書で説明し、文書同意を得ることが求められています。
新しい治療を患者さんに届けることと、その治療を評価し続けること。その両方を進める段階です。
副作用は?細胞製品のリスクと手術のリスクを考える
アクーゴは細胞を移植する製品ですが、定位脳手術を伴います。治療全体として安全性を考える必要があります。
電子添文に記載された重大な副作用・不具合には、痙攣発作、譫妄、平衡障害、出血、感染症があります。出血には頭蓋内出血が含まれます。
その他、頭痛、創合併症、嘔吐などが報告されています。症状によっては、製品自体の影響だけでなく、手術や処置の影響も含めて評価する必要があります。
また、ドナーの確認や製造工程で感染対策が行われていますが、ヒト由来・生物由来原料を使用する製品として、感染症伝播のリスクを完全には排除できないことも説明されています。
治療後の急な強い頭痛、繰り返す嘔吐、意識の変化、新しい麻痺や痙攣などは、通常の薬局フォローを待つ症状ではありません。治療施設への緊急連絡や、状態に応じた救急受診が必要です。
「細胞の治療だから体に優しいはず」と受け取られないよう、期待する効果と治療に伴う負担を一緒に伝えることが大切ですね。
薬価は約7,272万円。患者負担はどう考える?
発売時に公表されたアクーゴの薬価は、72,716,528円です。
かなり大きな金額ですが、薬価がそのまま患者さんの窓口負担額になるわけではありません。公的医療保険や高額療養費制度の対象となる費用と、保険外の費用を分けて確認する必要があります。
実際の負担は、年齢、所得区分、加入する保険、診療月などによって異なります。手術や入院に関する費用、食事代、差額ベッド代、交通費なども含め、治療施設の医療相談窓口などで個別に確認したいところです。
薬局で「高額療養費があるから、この金額だけで済みます」と断定するのは避けたいですね。治療の希望だけでなく、通院や家族の付き添いまで含めた生活上の負担にも目を向けることが、相談支援につながります。

製造移管で供給は大丈夫?会社は在庫確保を説明
細胞治療では、臨床効果と同じくらい、安定した品質で製造し、治療施設に届けられる体制が重要です。
今回、上流工程を担っていたミナリスの米国マウンテンビュー工場の閉鎖に伴い、下流工程を担っていた横浜工場へ全工程を移管する方針が示されています。
サンバイオは、ミナリス社内での移管は順調に進んでおり、十分な在庫を確保済みで、供給停止などの懸念はないと説明しています。また、ミナリスやJCRファーマとの製造に関する契約を通じて、供給体制の強化を進めています。
この説明は、「工場閉鎖=すぐに供給停止」と結びつけないために重要です。一方で、将来にわたる供給を保証するものと受け取らず、移管の進捗や品質・製造体制に関する情報を継続して確認していく必要があります。
細胞製品は、一般的な錠剤と同じように保管・配送できるわけではありません。アクーゴの細胞剤は液体窒素気相下で保管され、融解後の調製や移植までの時間管理も必要です。導入には、薬剤・細胞の取り扱いを含めた施設全体の準備が求められます。
脳梗塞にも広がる?今は開発計画の段階
サンバイオは脳梗塞への適応拡大に向け、2028年1月期にPMDAとの臨床試験デザインの合意を目指しています。
「2028年1月期」は、2027年2月から2028年1月までの事業年度です。「2028年1月に承認される」という意味ではありません。
試験デザインの合意、試験開始、結果の確認、承認申請、承認は、それぞれ別の段階です。外傷性脳損傷で得られた結果だけで、脳梗塞でも同じ効果が得られるとは判断できません。
脳梗塞後の麻痺に悩む患者さんから質問された場合には、「今の承認対象は外傷性脳損傷による慢性期の運動麻痺で、脳梗塞への使用は開発計画の段階です」と整理してお伝えしたいところです。

保険薬局はどう関わる?相談の入口と治療前後の薬の管理
アクーゴを薬局で調剤する機会がなくても、患者さんの治療と薬局の仕事が無関係になるわけではありません。
以下は、アクーゴに特有の一律の投薬指示ではなく、手術を伴う治療を受ける患者さんを支えるための薬局実務上の視点です。
1.「自分も受けられる?」を医療相談につなぐ
まず、外傷性脳損傷と脳梗塞のどちらなのか、いつ受傷したのか、現在どの医療機関にかかっているのか、本人が何を改善したいと考えているのかを確認します。
病名や経過だけで適応を判定せず、主治医に相談するための情報を整理することが薬局の役割です。例えば、質問したいことを短く書き出し、次の受診時に持参できるようにするだけでも、相談の助けになります。
2.手術前の薬を、診療科をまたいで整理する
抗血小板薬・抗凝固薬、糖尿病治療薬、市販薬、サプリメントなどを含め、現在使っているものを確認します。複数の医療機関から薬が出ている場合は、治療施設に全体像が伝わっているかも確認したいところです。
休薬の要否や時期は、薬剤、手術、患者さんの状態によって異なります。薬局が一律に中止日を決めるのではなく、医療機関の指示を確認し、「どの薬を、いつまで、いつ再開するか」が患者さんに伝わっているかを支えます。
とくに、手術前の中止だけを確認して、手術後の再開が曖昧なままになることは避けたいですね。
ブリリンタの作用・服薬指導と手術前の注意点


3.退院後の処方変更と、実際に飲めるかを確認する
退院後は、入院前の薬と新しい処方が重複していないか、継続・中止・再開の指示が整理されているかを確認します。
運動麻痺がある患者さんでは、錠剤を取り出す、袋を開ける、水を準備する、といった服薬動作そのものが負担になることもあります。家族の支援、一包化、服薬補助具などを検討する際も、本人ができることと希望を確認することが大切です。
4.体調と生活の変化を、治療施設へ届ける
治療後の体調、服薬状況、リハビリへの参加、生活で困っている動作などを確認し、必要な情報を治療施設へ共有します。
ただし、改善や悪化をすべてアクーゴの影響と決めつけることはできません。薬局では、患者さんの言葉と観察した事実を整理して伝えることが基本です。
「前より良くなりましたか?」だけでなく、「薬の袋は開けやすくなりましたか?」「家での薬の準備は誰がしていますか?」と、生活に沿った聞き方をすると、薬局ならではの情報が拾えます。

リハビリと生活支援も、引き続き大切
新しい治療が登場すると、「これを受ければ、あとは大丈夫」と期待したくなるものです。
でも、アクーゴの治療を検討する段階でも、治療後でも、リハビリや日常生活の支援を自己判断でやめる理由にはなりません。臨床試験でも運動プログラムへの参加が組入れ条件に含まれていました。
機能を評価することと、生活の中で使える動作を増やすことは、つながっています。主治医やリハビリの担当者と相談しながら、患者さんに合った取り組みを続けることが大切です。
薬局も、通院が続けられているか、薬が負担になっていないか、家族の支援に無理が出ていないかを確認できます。新しい治療を知ることに加えて、その治療を受ける人の暮らしを支える視点を持っておきたいですね。
まとめ:新しい選択肢を、患者さんの生活につなげる
アクーゴは、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺に対して、改善を目指す細胞治療薬です。2026年10月の初回投与が計画され、実際の診療に導入する段階へ進もうとしています。
一方で、対象患者は限られ、脳内への移植手術を伴い、条件及び期限付き承認のもとで評価が続く製品でもあります。
保険薬局では、治療への期待を受け止めながら、現在の適応と限界を整理すること。そして、主治医への相談、手術前後の薬の確認、退院後の服薬と生活の支援へつなげることが大切です。
アクーゴの登場は、慢性期の運動麻痺に新たな可能性を開く一歩。その可能性を患者さんの生活につなげるには、専門施設の治療と地域での支援の両方が必要です。
FAQ(本文のまとめの後に配置)
Q.アクーゴは脳梗塞後の麻痺にも使えますか?
現在の承認対象は、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺です。脳梗塞への適応拡大は開発計画の段階で、今回のニュースは脳梗塞への承認を意味しません。
Q.アクーゴは点滴で投与しますか?
点滴ではありません。専用の機器を用いた定位脳手術によって、損傷した脳組織の周辺に細胞を移植します。
Q.受傷後6か月以上なら、誰でも対象ですか?
いいえ。障害の程度、画像で確認できる局所病変、手術の適否、合併症などを含めて専門施設が判断します。
Q.治療を受ければ麻痺は必ず治りますか?
必ず治るとはいえません。臨床試験では運動機能評価スコアの改善が示されましたが、改善の程度には個人差があり、完全な回復を保証する結果ではありません。
Q.薬価約7,272万円を、そのまま支払うのでしょうか?
薬価がそのまま患者負担額になるわけではありません。保険診療の自己負担や高額療養費制度、入院・手術に伴う費用などを、医療機関と加入保険で個別に確認してください。
Q.どこに相談すればよいですか?
まず現在の主治医に、アクーゴの治療について相談したいことを伝えてください。治療施設への紹介や受入状況の確認が必要です。メーカーの相談窓口は情報提供を行いますが、個別の適応判定を行うものではありません。
Q.治療後はリハビリをやめてもよいですか?
自己判断でやめず、主治医やリハビリ担当者に相談してください。治療後の機能評価と、生活に必要な動作の練習・支援を継続することが大切です。

コメント