学校薬剤師は教室で何を測る?空気・照度・気流・騒音の学校環境衛生検査を実務から解説

こんばんは、薬剤師のしぐです。
学校薬剤師の仕事というと、プールの水質検査や給食室の衛生検査を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、子どもたちが一日の多くを過ごす「教室」も、大切な検査場所です。
教室に入り、温度や湿度、二酸化炭素濃度、気流、机や黒板の明るさ、授業を妨げる騒音などを確認します。数字を測るだけに見えますが、本当に知りたいのは、その教室が子どもたちにとって過ごしやすく、学びやすい環境になっているかということです。
今回は、実際にどのような準備をし、どこで、どのように測定しているのか。学校薬剤師として行う教室の環境衛生検査を、空気・照度・気流・騒音の4つに分けて紹介します。
※検査方法や記録様式、使用機器は自治体・学校・地域薬剤師会などで異なります。
本記事は学校環境衛生基準を踏まえた一例です。
教室の環境衛生検査は、何のために行う?
教室の環境は、見た目だけでは判断できません。
- 室温は適切でも、人数が増えると二酸化炭素濃度が高くなる
- 教室全体は明るく見えても、窓側と廊下側で大きな差がある
- 窓を開けると換気はしやすい一方、道路や校庭の音が入りやすい
- エアコンが効いていても、一部の席だけ強い風が当たる
こうした環境を客観的な数値と目視で確認し、必要に応じて換気方法、カーテンやブラインド、照明、座席、空調の使い方などについて学校へ助言するのが、学校薬剤師の役割の一つです。
検査は「基準を超えた・超えなかった」で終わるものではありません。測定時の天候、外気温、在室人数、窓や扉の開閉、エアコンの使用状況なども一緒に記録して、なぜその数値になったのかまで考えます。
学校薬剤師の業務全体については、コチラもあわせてご覧ください。

まずは検査する教室と時間を決める
検査前には、養護教諭や学校の担当者と相談し、代表となる教室を決めます。校舎の向きや階、日当たり、道路・校庭との位置関係、空調方式などが異なるため、特徴の違う教室を選ぶことが大切です。
空気の検査は、児童・生徒が在室し、普段どおり授業をしている時間帯に行うことで、実際の教室環境に近い状態を確認できます。一方、照度や騒音は、天候や窓の開閉、周囲の活動によって結果が変わるため、測定条件を記録します。
検査当日は、次のような項目を確認します。
- 天候、外気温、外気の湿度
- 教室名、在室人数
- エアコンや換気設備の使用状況
- 窓・廊下側扉の開閉状況
- 照明の点灯状況、カーテン・ブラインドの状態
- 工事、交通、校庭活動など一時的な騒音の有無
ここから、実際の測定内容を見ていきます。
① 空気の検査|温度・湿度・二酸化炭素濃度を確認

教室の空気検査では、主に温度、相対湿度、二酸化炭素濃度を測定します。地域の検査体制によっては、一酸化炭素、二酸化窒素、浮遊粉じんなども確認します。
温度と湿度は、教室の中央付近で測る
温湿度計は、直射日光、暖房器具、エアコンの吹き出し口、窓際などの影響を受けにくい場所に置きます。測定器を持った手の熱や人の呼気も結果に影響するため、設置後すぐの数字を読むのではなく、値が落ち着いてから記録します。
教室の温度は18℃以上28℃以下が望ましく、相対湿度は30%以上80%以下が望ましいとされています。
ただし、数字だけで判断するのではありません。同じ室温でも、窓からの日射、湿度、風の当たり方によって体感は変わります。暑さ・寒さを感じる席が偏っていないかも、教室を歩きながら確認します。
二酸化炭素濃度は、換気状態を知る目安
二酸化炭素(CO₂)は、人の呼気によって教室内で増えていきます。CO₂そのものだけを見るというより、換気が十分に行われているかを知る目安として測定します。
測定器は、人の息が直接かからず、窓や換気口のすぐそばを避けた、教室を代表する位置に設置します。授業が始まってすぐではなく、児童・生徒が在室して一定時間が経過した状態を見ることも重要です。
学校環境衛生基準では、CO₂濃度は1,500ppm以下が望ましいとされています。
今回使用している携帯型CO₂モニターは、CO₂濃度に加えて温度・湿度も表示・記録できます。使用時には次の点にも注意しています。
- 測定者の呼気を近づけない
- 直射日光や発熱体から離す
- 充電直後や長時間手に持った状態では、機器の発熱による温湿度への影響に注意する
- 静電気の影響を避ける
- 警告ランプの色だけでなく、実際の数値と測定条件を記録する
たとえばCO₂濃度が高かった場合、単純に「窓を全開にしてください」と伝えるだけでは不十分です。季節、騒音、安全面、冷暖房との兼ね合いを考え、対角線上の窓や扉を少し開ける、休み時間に換気量を増やす、換気設備の作動を確認するなど、学校で続けられる方法を一緒に考えます。
② 気流の検査|風が強すぎないか、空気が動いているか
気流は風速計を使って測ります。目安は0.5m/s以下が望ましいとされています。
教室内で強い気流が続くと、特定の席だけ寒く感じたり、プリントがめくれたり、学習に集中しづらくなったりします。
この気流という項目は、換気とはまた別の検査となります。
換気の状態はCO₂濃度、窓や扉の開け方、換気設備の使用状況とあわせて考えます。
測定時は、エアコンの吹き出し口の直下や開いた窓のすぐそばだけでなく、児童・生徒が実際に座る範囲を意識します。風速計のセンサーの向きに注意し、数値が安定してから記録します。
学校へ助言するときは、風向板の向き、机の位置、空調設定なども確認します。検査は機器の数字を記入して終わりではなく、どの席で、なぜ風が強くなっているのかを見ることが大切です。
③ 照度の検査|机と黒板を複数箇所で測る

照度は照度計を使い、机上面と黒板面を複数の位置で測定します。単位はルクス(lx)です。
机上面の測り方
照度計の受光部を机の上に水平に置きます。測定者自身の影が受光部にかからないよう立ち位置に注意し、窓側・中央・廊下側、前方・中央・後方など、教室内の複数箇所を測ります。
机上面の照度は300ルクス以上、できれば500ルクス以上が望ましいとされています。
黒板面の測り方
黒板面では、黒板から一定の距離を保ちながら、上・中央・下、左右など複数箇所を測定します。こちらも300ルクス以上、できれば500ルクス以上が望ましいとされています。
大切なのは、最低値だけではありません。最も明るい場所と暗い場所の差を「照度比」として確認します。照度比は10:1を超えないことが望ましく、やむを得ない場合でも20:1を超えないことが目安です。
まぶしさや反射は、数値だけでは分からない
照度検査では、次のような点も目で確認します。
- 黒板の外側15度以内に強い光源が見えないか
- 黒板面や机上面に、文字を見づらくする光沢がないか
- テレビやディスプレイへ照明・窓が映り込んでいないか
- 画面や教材に強い影ができていないか
- 照明器具に汚れや故障、ちらつきがないか
- カーテンやブラインドが適切に使えるか
ディスプレイ画面の垂直面照度は、100~500ルクス程度が目安です。
数字を満たしていても、光が反射して黒板の一部が読みにくければ、学習環境としては改善が必要です。照明の交換だけでなく、カーテンの使い方、座席、画面の角度で改善できる場合もあります。
④ 騒音の検査|窓を閉めた状態と開けた状態で測る

騒音検査では、まず授業の妨げになりそうな音がないかを確認します。
校内では、空調設備、放送、廊下、隣の教室、体育館や校庭などが騒音源になります。校外では、幹線道路、鉄道、航空機、工場、工事などの影響が考えられます。
騒音レベルを測る場合は、積分・平均機能を備えた普通騒音計を用い、A特性で等価騒音レベル(LAeq)を測定します。添付の検査票では、教室の窓側・廊下側で、それぞれ窓を閉めた状態と開けた状態を測り、5分間の値を記録する方法が示されています。
基準は次のとおりです。
| 測定条件 | 等価騒音レベルの目安 |
|---|---|
| 窓を閉めた状態 | LAeq 50dB以下 |
| 窓を開けた状態 | LAeq 55dB以下 |
測定中にチャイム、救急車、工事音など突発的な音が入った場合は、その事実を記録します。騒音源を特定できるか、授業中に繰り返し発生するかも重要です。
換気のために窓を開けたい一方、開けると交通騒音が大きくなる教室もあります。空気と騒音を別々に考えるのではなく、機械換気の活用、開ける窓の位置、換気する時間帯などを含めて現実的な対策を考えます。
検査結果を学校へどう伝える?
検査後は、測定値と測定条件を記録し、基準と照合します。改善が必要な場合は、すぐにできる対策と、設備面の検討が必要な対策を分けて伝えます。
すぐに試しやすい対策
- 窓や扉の開け方、換気する時間を見直す
- カーテン・ブラインドで直射日光や映り込みを調整する
- エアコンの風向きを変える
- 教室内の机やディスプレイの位置を調整する
- 切れている照明、汚れた照明器具を確認する
設備面で検討する対策
- 換気設備の点検・清掃・修理
- 照明器具の増設やLED化
- 遮光・防音設備の検討
- 空調設備や吹き出し口の改善
学校薬剤師が設備工事を決めるわけではありません。養護教諭、教職員、学校設置者などと結果を共有し、子どもたちの学校生活に合った改善へつなげます。
まとめ|測っているのは、子どもたちの「学びやすさ」
教室の空気、明るさ、風、音は、目に見えにくいものばかりです。
だからこそ、学校薬剤師が測定器を使って数値にし、教室の使われ方や子どもたちの様子と重ね合わせて確認します。
学校環境衛生検査は、単に検査票の空欄を埋める仕事ではありません。
CO₂濃度が高ければ、続けられる換気方法を考える。明るさに差があれば、その原因を探す。風が一部の席に当たるなら、座席や風向きを見直す。騒音が大きければ、発生源と時間帯を確認する。
そうした小さな改善の積み重ねが、子どもたちが安心して過ごし、授業に集中できる環境につながります。
薬局の中だけでは見えない「地域の子どもたちの健康」を、学校の中で支える。これも学校薬剤師の大切な役割です。
FAQ
Q1. 学校薬剤師は全ての教室を毎回測定するのですか?
必ずしも全教室を同時に測るわけではありません。校舎の位置、階、方角、空調、騒音源などを考慮して代表教室を選びます。地域の実施要領や学校の状況によって対象は異なります。
Q2. 二酸化炭素濃度が1,500ppmを超えたら危険ですか?
1,500ppmは学校における換気状態を評価するための基準です。直ちに中毒を意味する数値ではありませんが、換気方法や設備の作動状況を確認し、濃度を下げる対応が必要です。
Q3. 家庭用のCO₂モニターでも同じように測れますか?
日常的な換気の目安にはなりますが、定期検査では性能や校正状態が確認された適切な測定機器を使用します。設置場所や測定者の呼気、機器の発熱でも値が変わるため、機器だけでなく測り方も重要です。
Q4. 教室の照明が明るければ、照度検査は問題ありませんか?
明るさの総量だけでは判断できません。机上面と黒板面の最低照度、場所による差、黒板やディスプレイへの映り込み、まぶしさ、影なども確認します。
Q5. 騒音は授業中に測定するのですか?
授業への影響を確認できる通常の学校生活に近い条件で行います。ただし、測定者の会話や移動音が入らないよう注意し、突発的な騒音があれば記録します。
Q6. 気流が弱いと換気不足ということですか?
気流の値はそもそも換気の指標では利用しません。
換気についてはCO₂濃度、窓や扉の開閉、換気設備の運転状況などをあわせて評価します。



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