エンハーツが肺がん一次治療へ?制吐療法とがん種別の使うタイミングを解説

こんばんは。
薬剤師のしぐです。
エンハーツ。
一般名は、
トラスツズマブ デルクステカン
です。
もともとはHER2陽性乳がんの治療薬として登場しましたが、現在は、
- HER2低発現・超低発現乳がん
- HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん
- HER2陽性胃がん
- HER2陽性の進行・再発固形がん
へと、活躍の場を大きく広げています。
そして2026年9月、HER2遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんに対して、エンハーツを一次治療として評価した第Ⅲ相試験「DESTINY-Lung04」の結果が、世界肺癌学会WCLC 2026で発表されました。
比較対象は、
ペムブロリズマブ+白金製剤+ペメトレキセド
という現在の標準治療です。
その結果、無増悪生存期間の中央値は、
- エンハーツ:14.3か月
- 標準治療:8.3か月
となり、エンハーツは病勢進行または死亡リスクを37%低下させました。
これまで肺がんでは「がん化学療法後」に登場していたエンハーツが、診断後の一次治療まで前倒しされる可能性が出てきたわけです。
今回は、
「エンハーツはどんな薬なのか」
「各がん種では、いつ使われるのか」
「肺がん一次治療の試験で何が分かったのか」
「エンハーツの制吐療法はどう考えるのか」
「保険薬局では何を確認するのか」
というところを、最新データとともに整理します。
- エンハーツとは?
- エンハーツの投与方法
- 各がん種でエンハーツはいつ使う?
- ① HER2陽性乳がん
- ② ホルモン受容体陽性・HER2低発現/超低発現乳がん
- ③ 化学療法歴のあるHER2低発現乳がん
- ④ HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん
- ⑤ HER2陽性胃がん
- ⑥ HER2陽性の進行・再発固形がん
- 肺がん一次治療を評価したDESTINY-Lung04とは?
- 無増悪生存期間は14.3か月対8.3か月
- OSに差がつかなかった理由は?
- エンハーツの制吐療法はどうする?
- 基本となる制吐療法
- 初回から制吐療法の強化を考えたい患者
- 薬局で見かける可能性がある処方
- エンハーツで最も注意したい副作用は間質性肺疾患
- ILDの66%は軽快・消失
- 薬局で確認したい初期症状
- その他の副作用とフォローアップ
- Grade 3以上の副作用は標準治療と同程度
- 保険薬局で確認したいポイント
- エンハーツは肺がん一次治療としてまだ未承認
- エンハーツの可能性はどこまで広がる?
- FAQ
エンハーツとは?
エンハーツは、HER2を標的とする抗体薬物複合体です。
英語では、
Antibody-Drug Conjugate:ADC
と呼ばれます。
エンハーツは、大きく分けて、
- HER2を認識する抗体
- 抗体と薬物をつなぐリンカー
- トポイソメラーゼⅠ阻害作用を持つDXd
から構成されています。
HER2を発現しているがん細胞に結合し、細胞内へ取り込まれたあとにDXdを放出します。
簡単にいうと、
「HER2を目印にして、強力な抗がん薬をがん細胞へ運ぶ」
という仕組みです。
さらに、放出された薬物が周囲のがん細胞にも作用する「バイスタンダー効果」が期待できます。
そのため、すべてのがん細胞が均一にHER2を発現していなくても、周囲のがん細胞まで抗腫瘍効果が及ぶ可能性があります。
この特徴が、HER2陽性だけでなく、HER2低発現・超低発現乳がんまで適応が広がった理由のひとつです。
エンハーツの投与方法
エンハーツは、基本的に3週間に1回の点滴です。
| 対象 | 1回投与量 | 投与間隔 |
|---|---|---|
| 乳がん | 5.4mg/kg | 3週間ごと |
| 非小細胞肺がん | 5.4mg/kg | 3週間ごと |
| HER2陽性固形がん(胃がん以外) | 5.4mg/kg | 3週間ごと |
| 胃がん | 6.4mg/kg | 3週間ごと |
| HER2陽性固形がんのうち胃がん | 6.4mg/kg | 3週間ごと |
初回は90分かけて点滴し、忍容性に問題がなければ、2回目以降は30分まで短縮できます。
現在の電子添文上、他の抗悪性腫瘍薬との併用について有効性・安全性は確立しておらず、基本的にはエンハーツ単剤で使用します。エンハーツ電子添文情報
各がん種でエンハーツはいつ使う?

エンハーツは、がん種だけでなく、
- HER2陽性
- HER2低発現
- HER2超低発現
- HER2遺伝子変異
- これまで受けた治療
によって使うタイミングが異なります。
① HER2陽性乳がん
HER2陽性の手術不能・再発乳がんでは、
トラスツズマブおよびタキサン系抗悪性腫瘍薬による治療歴のある患者
が対象です。
実臨床では、HER2陽性の進行・再発乳がんにおける二次治療の中心的な選択肢として位置づけられます。
一次治療では一般的に、
- トラスツズマブ
- ペルツズマブ
- タキサン系抗がん薬
などを組み合わせ、増悪後にエンハーツが検討されます。
一方、術前・術後薬物療法としての有効性・安全性は、現在の国内電子添文では確立していません。
HER2陽性乳がんで使用されるツカチニブの立ち位置はこちら

② ホルモン受容体陽性・HER2低発現/超低発現乳がん
ホルモン受容体陽性で、HER2低発現または超低発現の手術不能・再発乳がんにも適応があります。
基本的には、
内分泌療法で病勢が進行し、さらなる内分泌療法では十分な効果が期待しにくくなった段階
で検討されます。
従来は「HER2陰性」とまとめられていた患者の一部でも、HER2のわずかな発現を治療標的にできるようになりました。
ただし、HER2低発現・超低発現の判定には、承認された体外診断用医薬品または医療機器による適切な検査が必要です。
③ 化学療法歴のあるHER2低発現乳がん
HER2低発現の手術不能・再発乳がんでは、化学療法歴のある患者も対象です。
臨床試験では、進行・再発乳がんに対して1~2レジメンの化学療法歴がある患者が対象となりました。
ホルモン受容体陽性の場合は、内分泌療法後に病勢が進行し、さらなる内分泌療法の有用性が得られにくいと判断された患者が組み入れられています。
同じHER2低発現乳がんでも、ホルモン受容体と前治療歴によって、エンハーツを検討するタイミングが異なります。
④ HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん
現在の国内適応は、
がん化学療法後に増悪した、HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん
です。
つまり2026年9月時点では、一次治療ではなく、白金製剤を含むがん化学療法後に使用する薬です。
電子添文にも、
「一次治療における有効性及び安全性は確立していない」
と明記されています。
しかし、今回のDESTINY-Lung04によって、この位置づけが変わる可能性が出てきました。
⑤ HER2陽性胃がん
HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がんでは、
トラスツズマブを含む化学療法後に増悪した患者
が対象です。
DESTINY-Gastric04では、トラスツズマブを含む一次治療後に増悪した患者を対象に、エンハーツとラムシルマブ+パクリタキセルが比較されました。
全生存期間中央値は、
- エンハーツ:14.7か月
- ラムシルマブ+パクリタキセル:11.4か月
となり、エンハーツによる有意な延長が示されています。
これにより、エンハーツはHER2陽性胃がんの二次治療としても重要な選択肢になりました。
また、胃がんでは1回6.4mg/kgとなるため、乳がんや肺がんとの投与量の違いにも注意が必要です。
⑥ HER2陽性の進行・再発固形がん
2026年3月、エンハーツは、
HER2陽性の進行・再発固形がん(標準的な治療が困難な場合に限る)
へ適応が拡大されました。
対象となり得るがん種には、
- 胆道がん
- 膀胱がん
- 子宮頸がん
- 子宮内膜がん
- 卵巣がん
- 膵がん
- 大腸がん
- 唾液腺がん
などが含まれます。
ただし、
「HER2陽性なら、がん種に関係なく早い段階から使える」
という意味ではありません。
標準的な治療が困難となった進行・再発例で、適切な検査によってHER2陽性が確認された場合に検討される、がん種横断的な適応です。第一三共による適応拡大発表
肺がん一次治療を評価したDESTINY-Lung04とは?

DESTINY-Lung04は、未治療のHER2遺伝子変異陽性・非扁平上皮非小細胞肺がんを対象とした国際共同第Ⅲ相試験です。
対象となったのは、HER2遺伝子の、
- exon 19変異
- exon 20変異
を有する、未治療の切除不能・局所進行または転移性非扁平上皮非小細胞肺がん患者です。
比較された治療
454人が、次の2群へ1対1で割り付けられました。
| エンハーツ群 | 化学療法+ペムブロリズマブ群 |
|---|---|
| 227人 | 227人 |
| エンハーツ5.4mg/kg | シスプラチンまたはカルボプラチン |
| 3週間ごと | +ペメトレキセド500mg/㎡ |
| 単剤投与 | +ペムブロリズマブ200mg |
| 3週間ごと | |
| 白金製剤は最大4サイクル |
割り付け時には、
- 喫煙歴
- 脳転移の有無・既往
などが層別化因子として設定されました。
主要評価項目は、盲検下独立中央審査による無増悪生存期間です。
副次評価項目には、
- 全生存期間
- 奏効率
- 奏効期間
- PFS2
- 安全性
- 忍容性
などが設定されました。
対象患者の背景
両群の患者背景は、おおむね一致していました。
主な特徴は次のとおりです。
- 年齢中央値:62歳
- 65歳未満:約半数強
- 女性:約6割
- アジア人:約半数
- 脳転移あり:約2割強
- HER2 exon 20変異:9割以上
- PD-L1発現1%未満:約4割
- 初発時から転移を有するde novo転移例:約8割弱
HER2遺伝子変異陽性肺がんの中でも、特にexon 20変異が中心となった試験である点は押さえておきたいところです。
無増悪生存期間は14.3か月対8.3か月
データカットオフは2026年6月9日。
観察期間中央値は、
- エンハーツ群:21.6か月
- 化学療法+ペムブロリズマブ群:20.4か月
でした。
主要評価項目である無増悪生存期間中央値は、
| 評価項目 | エンハーツ | 化学療法+ペムブロリズマブ |
|---|---|---|
| PFS中央値 | 14.3か月 | 8.3か月 |
| 95%信頼区間 | 12.4~16.5 | 7.0~9.9 |
| ハザード比 | 0.63 | ― |
エンハーツは、標準治療と比較して病勢進行または死亡リスクを37%低下させました。
また、PFSのサブグループ解析でも、
- 脳転移
- 肝転移
- 喫煙歴
- HER2変異の種類
- de novoまたは再発
などの主要なサブグループで、おおむねエンハーツ群に良好な傾向が認められました。DESTINY-Lung04試験結果
奏効率は70.0%
奏効率は、
- エンハーツ:70.0%
- 化学療法+ペムブロリズマブ:44.5%
でした。
| 評価項目 | エンハーツ | 化学療法+ペムブロリズマブ |
|---|---|---|
| 奏効率 | 70.0% | 44.5% |
| 完全奏効 | 1.8% | 1.8% |
| 部分奏効 | 68.3% | 42.7% |
| 奏効期間中央値 | 13.4か月 | 9.7か月 |
一次治療の段階から、エンハーツ単剤で70%に奏効が認められた点は、かなりインパクトがあります。
PFS2も延長傾向
PFS2は、
治療開始から、次の治療を受けたあとの2回目の病勢進行または死亡までの期間
を評価する指標です。
PFS2中央値は、
- エンハーツ:22.7か月
- 化学療法+ペムブロリズマブ:17.3か月
でした。
ハザード比は0.80でしたが、95%信頼区間は0.62~1.02であり、現時点では統計学的な確定結果とはいえません。
それでも、エンハーツを一次治療に使用することで、その後の治療まで含めた病勢コントロールが長くなる可能性が示されています。
OSに差がつかなかった理由は?
一方、全生存期間中央値は、
- エンハーツ:29.3か月
- 化学療法+ペムブロリズマブ:33.1か月
でした。
ハザード比は1.15で、現段階ではエンハーツによるOSの改善は示されていません。
ここだけを見ると、
「PFSは延びたのに、OSでは逆転している?」
と気になりますよね。
ただし、今回のOSデータには注意が必要です。
OSデータはまだ未成熟
解析時点のOSデータ成熟度は46.9%でした。
正式な仮説検定は実施されておらず、今後予定される中間解析や最終解析を待つ必要があります。
つまり、
「OSでエンハーツが劣っていた」
と結論づけられる段階ではありません。
後治療に偏りがあった
試験治療中止後に何らかの後治療を受けた割合は、
- エンハーツ群:71.5%
- 化学療法+ペムブロリズマブ群:72.4%
と、ほぼ同等でした。
しかし、後治療の内容には差がありました。
抗HER2療法を受けた割合は、
- エンハーツ群:23.3%
- 化学療法+ペムブロリズマブ群:48.0%
でした。
つまり、標準治療群では、増悪後にエンハーツなどのHER2標的治療へ移行した患者が多かった可能性があります。
一方、エンハーツ群で後治療として化学療法+免疫チェックポイント阻害薬を受けた患者は23.8%にとどまっていました。
このような後治療の違いが、OSに影響した可能性があります。
そのため、今回の結果は、
「PFSではエンハーツが明確に優れていた」
一方で、
「OSはデータが未成熟で、後治療の偏りもあるため評価を保留する」
と考えるのが妥当です。
エンハーツの制吐療法はどうする?
エンハーツでは、悪心・嘔吐が比較的多く認められます。
HER2遺伝子変異陽性肺がんを対象としたDESTINY-Lung02では、
- 悪心:59.4%
- 嘔吐:22.8%
- 食欲減退:28.7%
が報告されています。
エンハーツは国内では中等度催吐性リスクとして扱われることがありますが、海外ガイドラインでは高度催吐性リスクに分類されるなど、積極的な制吐療法の必要性が意識されるようになっています。
特に問題になりやすいのが、
「吐かないけれど、何日も気持ち悪い」
という遅発性悪心です。
HECで使用するオランザピンと糖尿病患者への注意点はこちら

基本となる制吐療法
患者背景や施設基準によって異なりますが、エンハーツ投与前には、
- 5-HT3受容体拮抗薬
- デキサメタゾン
を中心とした制吐療法が行われます。
さらに悪心・嘔吐のリスクを考慮して、
- NK1受容体拮抗薬
- オランザピン
を追加することがあります。
エンハーツによる悪心が問題となる患者では、
5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン
の3剤併用や、オランザピンを加えた4剤併用が検討されることもあります。
初回から制吐療法の強化を考えたい患者
- 女性
- 若年
- 乗り物酔いの既往
- 妊娠悪阻の既往
- 過去の抗がん薬で悪心・嘔吐が強かった
- 不安が強い
- 飲酒習慣が少ない
- 前回のエンハーツで遅発性悪心が残った
こうしたリスクがある場合は、制吐療法を早めに強化することも検討されます。
薬局で見かける可能性がある処方
- デキサメタゾン
- アプレピタント
- ホスネツピタント
- オランザピン
- メトクロプラミド
- プロクロルペラジン
- 5-HT3受容体拮抗薬
などが処方される可能性があります。
薬局では、
- 吐き気が何日目から出たか
- 何日間続いたか
- 食事量・水分量
- 体重減少
- レスキュー薬の使用回数
- 便秘
- オランザピンによる眠気・ふらつき
- デキサメタゾンによる不眠・高血糖
まで確認したいところです。
前回の投与後に悪心が残っていた場合は、次回投与前に病院へ情報提供することで、予防的な制吐療法の強化につながります。
エンハーツで最も注意したい副作用は間質性肺疾患

エンハーツで最も注意したい副作用のひとつが、間質性肺疾患・肺臓炎です。
DESTINY-Lung04では、安全性評価対象226人中47人、20.8%に薬剤関連ILD・肺臓炎が認められました。
| Grade | 発現人数 | 発現割合 |
|---|---|---|
| Grade 1 | 7人 | 3.1% |
| Grade 2 | 30人 | 13.3% |
| Grade 3 | 5人 | 2.2% |
| Grade 4 | 1人 | 0.4% |
| Grade 5 | 4人 | 1.8% |
| 合計 | 47人 | 20.8% |
多くはGrade 1~2でしたが、Grade 3以上の重症例や死亡例も認められています。
ILDの66%は軽快・消失
追加資料によると、発現したILD・肺臓炎のうち66.0%は軽快または消失しました。
一方で、Grade 3以上のILDを発症した患者では、約90%において、
- ステロイド治療の開始が遅かった
- ステロイドの投与量が不十分だった
という状況が確認されました。
これはかなり重要な情報です。
エンハーツによるILDでは、
「重症化してからステロイドを開始する」
のではなく、
疑った時点でエンハーツを中止し、迅速に評価・治療へつなげる
ことが重要になります。
薬局で確認したい初期症状
- 新しく出てきた咳
- 乾いた咳
- 息切れ
- 階段や歩行時の息苦しさ
- 発熱
- SpO₂の低下
- いつもと違う倦怠感
大切なのは、
「風邪だと思って少し様子を見る」
で終わらせないことです。
エンハーツ治療中の咳・息切れ・発熱は、症状が軽い段階でも速やかに治療施設へ連絡する必要があります。
電子添文では、ILDがGrade 1の場合も投与を中止し、原則として再開しない扱いです。
Grade 2以上では投与中止となります。エンハーツ電子添文情報
その他の副作用とフォローアップ
骨髄抑制
- 好中球減少
- 貧血
- 血小板減少
- 発熱性好中球減少症
に注意します。
DESTINY-Lung04におけるGrade 3以上の好中球減少は、
- エンハーツ:11.1%
- 化学療法+ペムブロリズマブ:14.1%
でした。
発熱、悪寒、息切れ、動悸、出血しやすいなどの症状を確認します。
悪心・食欲不振
エンハーツでは、嘔吐まで至らなくても遅発性悪心が長引くことがあります。
- 食事量
- 水分量
- 体重
- 尿量
- 制吐薬の使用状況
を具体的に確認することが重要です。
心機能低下
HER2を標的とする薬剤であるため、LVEF低下や心不全にも注意します。
- むくみ
- 急な体重増加
- 動悸
- 息切れ
- 横になると苦しい
などがないか確認します。
脱毛・疲労
ADCではありますが、搭載されているDXdは抗がん薬です。
脱毛や疲労も起こり得るため、
「HER2を狙う薬だから、副作用が少ない」
と単純には説明できません。
Grade 3以上の副作用は標準治療と同程度
DESTINY-Lung04では、治療期間中央値が、
- エンハーツ:12.3か月
- 化学療法+ペムブロリズマブ:7.1か月
と、エンハーツ群の方が長くなっていました。
それでもGrade 3以上の治療関連有害事象は、
- エンハーツ:34.1%
- 化学療法+ペムブロリズマブ:33.6%
と、ほぼ同程度でした。
薬剤関連有害事象による、
- 治療中止
- 休薬
- 減量
- 死亡
の割合にも、大きな差は認められていません。
ただし、エンハーツではILDという特徴的かつ重篤になり得る副作用があります。
単純に「Grade 3以上の副作用が同じくらいだから安全性も同じ」と考えるのではなく、副作用の種類と早期対応の重要性まで見る必要があります。
保険薬局で確認したいポイント
エンハーツ治療中の患者さんに確認したい内容を整理します。
① 呼吸器症状
- 新しい咳
- 乾いた咳
- 息切れ
- 発熱
- 呼吸状態の変化
最優先で確認します。
「前回の点滴後から、新しく出てきた咳や息切れはありませんか?」
と具体的に聞くことが大切です。
② 悪心・嘔吐
- 発現した日
- 持続期間
- 食事量
- 水分量
- 体重変化
- 日常生活への影響
を確認します。
③ 制吐薬
- 予防薬を正しく使用できたか
- レスキュー薬を何回使ったか
- 効果があったか
- 眠気や便秘がなかったか
を確認します。
④ 骨髄抑制
発熱、悪寒、口内炎、強い倦怠感、出血傾向がないか確認します。
⑤ 心機能低下
むくみ、急な体重増加、動悸、息切れを確認します。
⑥ 治療スケジュール
3週間ごとの投与日、延期、休薬、減量の有無を確認します。
延期されている場合は、
- ILD
- 骨髄抑制
- 悪心・食欲不振
- 心機能低下
など、背景にある副作用を意識したいところです。
エンハーツは肺がん一次治療としてまだ未承認
ここは記事の中で、はっきり分けておきたいポイントです。
DESTINY-Lung04で良好な結果が示されましたが、2026年9月時点で、日本国内における肺がんの適応は、
がん化学療法後に増悪したHER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん
です。
一次治療として承認されたわけではありません。
第一三共は今回の結果に基づき、各国の規制当局と協議を進めるとしています。
そのため現段階では、
「エンハーツが肺がん一次治療になった」
ではなく、
「肺がん一次治療へ適応が広がる可能性が示された」
と表現するのが適切です。
エンハーツの可能性はどこまで広がる?
エンハーツは、HER2陽性乳がんの治療薬として始まりました。
それが現在では、
- HER2低発現乳がん
- HER2超低発現乳がん
- HER2遺伝子変異陽性肺がん
- HER2陽性胃がん
- HER2陽性固形がん
へと広がっています。
今回、HER2遺伝子変異陽性肺がんの一次治療において、標準治療を上回る無増悪生存期間が示されました。
これまでエンハーツは、
「標準治療が効かなくなったあとに使う薬」
という印象が強かったと思います。
しかし今後は、
「進行肺がんと診断された段階でHER2遺伝子変異を確認し、最初からHER2を標的にする」
という治療戦略へ変わっていく可能性があります。
一方で、
- OSデータはまだ未成熟
- 後治療に偏りがある
- ILD・肺臓炎が20.8%
- Grade 5のILDも1.8%
- 重症例ではステロイド開始の遅れや投与量不足が問題
という点は見逃せません。
効果が高い薬だからこそ、
- HER2遺伝子検査をいつ行うか
- どの患者を一次治療の対象とするか
- ILDをどう早期発見するか
- 制吐療法をどう最適化するか
- 後治療をどう組み立てるか
まで、セットで考える必要があります。
エンハーツの可能性は、確かに大きい。
だからこそ薬剤師としては、適応拡大のニュースだけでなく、制吐療法とILD対策まで追いかけていきたいですね。
ではでは。
しぐでしたーっ。
FAQ
Q1. エンハーツはどのような薬ですか?
エンハーツは、HER2を認識する抗体にトポイソメラーゼⅠ阻害薬のDXdを結合させた抗体薬物複合体です。HER2を目印にして抗がん薬をがん細胞へ届けます。
Q2. エンハーツは何週間ごとに投与しますか?
通常は3週間に1回です。乳がん・肺がん・胃がん以外の固形がんでは5.4mg/kg、胃がんでは6.4mg/kgを投与します。
Q3. HER2遺伝子変異陽性肺がんの一次治療として使用できますか?
2026年9月時点では、国内の肺がん一次治療として承認されていません。現在は、がん化学療法後に増悪したHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんが対象です。
Q4. DESTINY-Lung04ではどのような結果が出ましたか?
無増悪生存期間中央値は、エンハーツ群14.3か月、化学療法+ペムブロリズマブ群8.3か月でした。エンハーツは病勢進行または死亡リスクを37%低下させました。
Q5. エンハーツ群でOSが延長しなかったのはなぜですか?
OSデータが未成熟であることに加え、標準治療群では増悪後に抗HER2療法を受けた患者が多いなど、後治療の偏りが影響した可能性があります。今後の解析が必要です。
Q6. エンハーツの制吐療法は必要ですか?
必要です。5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンを中心に、患者のリスクや前回の悪心に応じてNK1受容体拮抗薬やオランザピンの追加が検討されます。
Q7. 最も注意したい副作用は何ですか?
間質性肺疾患です。新しい咳、息切れ、発熱などが出た場合は、軽い症状でも治療施設へ速やかに連絡する必要があります。


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