
こんばんは、薬剤師しぐです。
多発性骨髄腫治療薬「サークリサ」の皮下投与に、新しい選択肢が加わります。
2026年10月19日、サークリサ皮下注1400mg専用の注入器「サークリック(CirCLIQ)」が国内で製造販売承認を取得しました。Enable Injections社のenFuse技術を用いた、体に装着して薬液を投与するオンボディ・インジェクター(OBI)です。
今回のポイントは、新しい抗がん薬成分の登場ではなく、すでに使われている抗体薬の「投与の仕方」が進化したこと。患者さんの負担軽減が期待される一方、感染症や骨髄抑制などへの対応は引き続き重要です。
まず押さえたい3つのポイント
- 皮下注製剤は2026年6月に承認され、8月に発売済み。今回の承認対象は専用デバイスです。
- OBIによるハンズフリー投与で、投与中の行動制限や医療従事者の手動投与の負担を減らすことが期待されます。
- OBIの承認を、そのまま自己注射・在宅投与の開始と受け取らないことが大切です。
今回は何が承認された?皮下注製剤の承認とは分けて整理
| 時期 | 内容 | 意味 |
|---|---|---|
| 2026年6月19日 | サークリサ皮下注製剤が国内承認 | 点滴静注に加え、手動による皮下投与が選択肢に |
| 2026年8月27日 | サークリサ皮下注1400mgが国内発売 | 皮下注製剤の提供開始 |
| 2026年10月19日 | 専用注入器サークリックが国内承認 | OBIを用いる投与に向けた新たな段階 |
「サークリサが初めて皮下注できるようになった」というニュースではありません。すでに発売されている皮下注製剤に対して、専用の自動投与デバイスが承認されたというニュースです。
サノフィの承認案内では、サークリックの発売日は決定後に案内するとされています。承認取得と、各施設で実際に使い始められる時期も分けて確認する必要があります。
そもそもサークリサとは?CD38を標的とする抗体薬

サークリサの一般名はイサツキシマブです。多発性骨髄腫に用いる「抗CD38モノクローナル抗体」に分類されます。
CD38というたんぱく質に結合し、免疫細胞による攻撃や貪食、補体の働き、細胞死の誘導などを通じて、骨髄腫細胞の増殖を抑えます。
同じ「抗体薬」でも、免疫チェックポイント阻害薬とは作用の仕組みが異なります。サークリサは、CD38を標的とする抗体薬として理解すると整理しやすくなります。
皮下注製剤で押さえる併用療法
| 略称 | 組み合わせ |
|---|---|
| IsaPd | イサツキシマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン |
| IsaKd | イサツキシマブ+カルフィルゾミブ+デキサメタゾン |
| IsaVRd | イサツキシマブ+ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン |
皮下注製剤の国内承認は、これらの併用療法を対象としています。患者さんの治療歴や状態に応じて使い分けるため、「多発性骨髄腫なら、どの治療にもそのまま置き換えられる」とは考えません。
点滴静注製剤と皮下注製剤では、承認の根拠となる治療法や用量をそれぞれ確認することが大切です。
OBIとは?体に装着して薬を投与するデバイス

OBIは「On-Body Injector」の略です。体に装着し、皮下に薬液を送り込むデバイスを指します。
サークリックは、サークリサ皮下注1400mg専用の注入器です。ワンクリックで投与を開始できる自動投与システムを採用しています。
針は格納式で、サノフィの承認案内では30G・7.2mmの小型針が示されています。一般的な大容量の手動皮下投与と比べ、細く短い針を使えることが特徴です。
手動でシリンジを操作し続ける方法に比べ、ハンズフリーでの投与が可能になります。投与中には軽度な移動が可能とされていますが、自由に行動できるという意味ではありません。装着状態や体調を確認し、医療従事者の指示に従います。
なお、この記事のデバイス画像はイメージです。実物の形状や具体的な操作は、製造販売元の製品情報・使用説明書で確認します。
点滴静注・手動皮下注・OBIの違い
| 項目 | 点滴静注 | 手動の皮下投与 | OBIによる皮下投与 |
|---|---|---|---|
| 薬液を届ける場所 | 静脈内 | 皮下 | 皮下 |
| 投与に使うもの | 点滴ライン等 | シリンジ・皮下投与セット | 専用注入器サークリック |
| 用量の考え方 | 体重・レジメンに応じて設定 | 成人1回1400mgの固定用量 | 成人1回1400mgの固定用量 |
| 主な特徴 | 静脈路を確保して投与 | 医療従事者が手動で投与 | 装着して自動投与、ハンズフリー |
| 確認したい点 | 点滴関連反応、静脈路など | 注射部位の状態、投与中の症状 | 左記に加え、装着・作動・投与完了の確認 |
皮下注製剤の投与間隔は併用療法によって異なり、治療の進行に応じて変更されます。「固定用量」は「毎回同じ間隔で投与する」という意味ではありません。
また、点滴静注製剤と皮下注製剤は取り違えに注意が必要です。製品名だけで判断せず、剤形・規格・投与経路まで確認します。
治療効果はどうなの?IRAKLIA試験のポイント
皮下注製剤の重要な根拠となったのが、再発・難治性の多発性骨髄腫を対象とした第III相IRAKLIA試験です。
ポマリドミド・デキサメタゾンとの併用下で、OBIを用いたイサツキシマブ1400mgの皮下投与と、10mg/kgの静脈内投与を比較しました。
| 評価項目 | 皮下投与群 | 静脈内投与群 |
|---|---|---|
| 客観的奏効率(ORR) | 71.1% | 70.5% |
| Infusion reactionの発現割合 | 1.5% | 25.0% |
客観的奏効率と、定常状態における投与前血中薬物濃度を主要な評価項目として、静脈内投与に対する皮下投与の非劣性が示されました。
非劣性とは、あらかじめ決めた基準の範囲で、効果などが劣らないことを検証する考え方です。「皮下注のほうが治療効果に優れる」と示した試験ではありません。
この数値は、特定の患者集団と併用療法で得られた結果です。すべての多発性骨髄腫治療へ一律に当てはめずに読み取ります。
投与が楽になっても、副作用の確認は続ける
投与時反応は減っても、なくならない
皮下投与群ではInfusion reactionの発現割合が低くなりましたが、ゼロではありません。
息苦しさ、のどの違和感、咳、発疹、めまいなどが出たら、投与中はすぐに医療従事者へ伝えます。帰宅後も、強い症状や急な悪化があれば速やかな連絡・受診が必要です。
皮下注製剤にも前投与薬の規定があります。電子添文では、投与開始15〜60分前に、併用するデキサメタゾン、抗ヒスタミン薬、解熱鎮痛薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬を投与することとされています。皮下注へ変更したことだけを理由に、患者さんの判断で省略しないよう確認します。
発熱・感染症・血球減少
骨髄抑制や感染症への注意は、皮下注でも重要です。定期的な血液検査に加え、発熱、悪寒、咳、息切れ、強いだるさなどの変化を確認します。
薬局では「熱が出たら解熱薬で様子を見る」だけにならないよう、病院から指示された連絡基準と、夜間・休日の連絡先まで共有しておきたいところです。
注射部位の赤み・腫れ・痛み
全身の副作用に加え、注射した場所の状態も確認します。赤みや腫れが広がる、痛みが強くなる、水疱ができるなどの変化は、医療機関への相談につなげます。
OBIの作動不良や薬液漏れが疑われるときも、自己判断で追加投与や再装着をせず、医療従事者に確認します。
自己注射・在宅投与ができるようになったの?
今回の国内承認だけを根拠に、「自宅で自分で投与できるようになった」と説明するのは適切ではありません。
OBIは薬を投与する仕組みの名称です。誰が、どこで、どのように使うかは、国内の承認条件、電子添文、使用説明書、施設の運用で判断します。
サークリサ皮下注の電子添文では、緊急時に十分対応できる医療施設で、造血器悪性腫瘍治療の知識・経験を持つ医師のもとで投与することが求められています。
また、サークリサの投与時間が短縮されても、採血、診察、前投与、併用薬の投与、経過観察などは別に必要です。「OBIになれば通院が不要になる」「すぐ帰れる」といった説明は避け、治療日全体の流れを確認します。
薬局で押さえたい+α:投与方法が変わった日こそ、治療全体を聞く

サークリサは医療機関で投与される薬ですが、併用薬や支持療法を通して保険薬局が関わる場面があります。
薬局での提案は、投与方法が変わったタイミングに、内服薬の使い方と緊急時の行動を一緒に確認することです。
| 確認すること | 具体的な聞き方・確認内容 |
|---|---|
| 剤形と投与日 | 「点滴から皮下注へ変わりましたか」「直近の投与日はいつですか」 |
| 併用薬の服用・休薬日 | レナリドミド、ポマリドミド、デキサメタゾン等のカレンダーと処方日数を確認 |
| 前投与薬 | 病院で使う薬と、自宅で服用する指示のある薬を区別 |
| 発熱時の行動 | 連絡する体温・症状、夜間休日の連絡先を患者さんの言葉で確認 |
| 注射部位の変化 | 赤み、腫れ、痛みの経過と、広がり・悪化の有無 |
| 服薬継続の負担 | 飲み忘れ、残薬、通院後の疲労、家族の支援状況 |
併用するレナリドミド・ポマリドミドには適正管理手順があります。投与デバイスの変更とは別に、服薬・休薬日や管理手順の確認を続けます。
輸血に関係する情報も引き継ぐ
抗CD38抗体では、輸血前の適合性試験に干渉することがあります。サークリサでも、最終投与から約6か月間、影響が続く可能性があります。
他院を受診する際や、輸血が必要になりそうなときには、サークリサ治療中・治療歴があることを伝えられるようにしておきます。治療連絡カードやお薬手帳で情報を共有することも大切です。
まとめ
サークリックの承認は、サークリサの皮下投与を自動化し、患者さんと医療従事者の負担軽減につなげる新しい選択肢です。
一方で、投与方法が変わっても、感染症、血球減少、投与時反応、併用薬の管理が不要になるわけではありません。
薬局では「注射が楽になりましたね」で終わらせず、内服薬の予定、注射後の体調、困ったときの連絡先まで確認することが、治療を支える実務につながります。
よくある質問(FAQ)
Q. サークリサの皮下注製剤が今回初めて承認されたのですか?
いいえ。皮下注製剤は2026年6月19日に承認され、8月27日に発売されています。今回、10月19日に承認されたのは専用注入器のサークリックです。
Q. サークリックとenFuseは同じ名称ですか?
enFuseはEnable Injections社の投与技術・プラットフォームの名称です。サークリックは、その技術を用いたサークリサ皮下注専用注入器の製品名です。
Q. 皮下注のほうが点滴より効くのですか?
IRAKLIA試験では、奏効率と血中薬物濃度について非劣性が示されました。皮下注が点滴より優れた治療効果を持つと結論づけた試験ではありません。
Q. 皮下注に変われば、前投与薬は不要ですか?
不要にはなりません。電子添文には前投与の規定があり、実際の薬剤・服用時刻は治療施設の指示で確認します。
Q. 自分で装着して、自宅で投与できますか?
今回の承認だけで、国内での自己注射・在宅投与が可能になったとは判断できません。国内の承認条件、製品情報、治療施設の指示を確認します。
Q. デバイスはすぐ使えますか?
承認取得と発売・施設導入は別です。承認案内では発売日は決定後に案内するとされており、導入時期は治療施設で確認します。
関連記事
治療レジメンは異なりますが、抗がん薬治療中の発熱時対応や支持療法の考え方を整理したい方は、次の記事も参考にしてください。薬剤や投与方法をそのまま置き換えるものではありません。


※2026年10月21日時点。実際の治療は、最新の電子添文と治療施設の指示に従います。


コメント