零売の改正省令案を公表|「やむを得ない場合」の3要件と薬局の確認・記録は?

スポンサーリンク
薬局と白い書類を銀色のリボンで結んだ零売制度見直しのイメージ

こんにちは、薬剤師のしぐです。

処方箋なしで医療用医薬品を販売する「零売」を巡り、厚生労働省が具体的な運用を定める改正省令案を公表しました。

押さえたいのは、例外販売の判断に必要な条件を具体的に示し、継続使用・一時的な入手困難・代替薬の提案困難という条件を確認する仕組みにする点です。

2026年10月25日時点では意見募集中の案です。今回の案がすでに施行されたわけではありません。

まず要点|3つの条件をすべて確認する案

確認する条件省令案の内容を踏まえた整理
現在使っている薬か医師・歯科医師の処方箋によって、その医薬品を現に使用している
一時的に処方箋で受け取れないか診療を受けられないなどの特別の事情がある
ほかの選択肢を勧められないか薬局製造販売医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品への代替提案が困難

3条件のうち、どれか一つに当てはまればよいという案ではありません。

零売とは?「処方箋なしで買える薬」との誤解に注意

零売は本来、医薬品を小分けして販売することを指します。近年の制度議論では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方箋なしで販売することを指す場合が多くあります。

「医療用医薬品」と「処方箋医薬品」は同じ範囲の言葉ではありません。処方箋医薬品に指定されていないからといって、市販薬と同じ感覚で自由に購入できると説明するのは適切ではありません。

今回の省令案は、改正薬機法の原則と例外を具体化するものです。

開いたお薬の記録帳と時計と錠剤で表した治療継続のイメージ

3要件を実務でどう読み解く?

①「現に使用している」は、過去の処方歴と分けて考える

薬局で相談を受けると、「この薬、前にもらったことがあります」という言葉は珍しくありません。ただ、数年前に一度処方された薬と、現在の治療で継続している薬では、確認すべき内容が変わります。

現場では、薬の名前だけでなく、規格、使用方法、最後に処方された時期、今も使い続ける指示があるかを整理したいところです。お薬手帳や自薬局の調剤記録は、その確認に役立つ情報になります。ただし、手帳の提示だけで要件を満たすと決めることはできません。

特に気をつけたいのは、「以前と似た症状だから、同じ薬でよいだろう」という相談です。患者さんにとっては同じ不調でも、今回も同じ治療が適切とは限りません。使用歴の確認と、現在の状態の確認を並行して進める必要があります。

②「一時的に困難」は、その後の受診につながるかが大切

「病院に行けない」という訴えには、いろいろな事情があります。予定していた受診ができなかった、移動手段を確保できない、かかりつけ医に連絡がつかないなど、表面上は同じ相談でも背景は異なります。

そこで確認したいのが、いつから薬を受け取れていないのか、手元にどの程度残っているのか、次に受診できる見通しはあるのか、という時間の流れです。

薬局での対応が一時的なつなぎになるのか、それとも受診しない状態がそのまま続くのか。この違いは、患者さんの治療を考えるうえで大きなポイントです。

ただし、こうした事情のどこまでが法令上の例外に該当するかは、最終的な省令や通知等に沿った判断が必要です。具体例だけを独り歩きさせて「この理由なら必ず販売できる」と説明しないことが大切です。

③「代替薬を勧めることが困難」は、同じ成分の有無だけでは決まらない

医療用医薬品と市販薬を比べるときは、成分名が共通しているかに目が向きがちです。しかし、薬局で相談に応じる際には、効能・効果、含量、用法・用量、使用できる年齢、使用期間、剤形まで見て考えたいところです。

患者さんの使用目的に合っているか、服用中のほかの薬との関係はどうか、本人が使える剤形かといった確認も欠かせません。

一方、「いつもの銘柄がよい」「市販薬より医療用の方が安心」という希望だけで、代替提案が困難だと結論づけるのも早計です。何を検討し、なぜ提案できる、あるいは提案しにくいと考えたのか。その判断を説明できることが重要になります。

薬瓶を囲む三つのガラスのアーチで表した販売条件の確認

相談場面で考える|同じ「薬が欲しい」でも対応は変わる

以下は、相談内容を整理するための仮想例です。各場面について販売の可否を保証するものではありません。

相談の例薬局で整理したいこと
「以前処方された薬を、同じ症状が出たので買いたい」現在の処方による使用か、今回の症状に受診が必要かを確認する
「継続中の薬が切れそうだが、予定どおり受診できなかった」残薬、受診できない事情、次の受診予定、代替の選択肢を整理する
「家族が使っている薬を代わりに買いたい」使用者本人に関する確認要件との関係を確認し、安易に本人購入と同じ扱いにしない
「何軒かの薬局で少しずつ買っている」購入時期と数量、手元の薬を確認し、重複供給の可能性を考える
「薬を飲んでいるが、最近は症状が変わってきた」薬の補充だけで対応してよい状態か、医療機関への相談を優先すべきか考える

相談を聞き取る目的は、販売条件を形式的に埋めることだけではありません。薬を求める言葉の奥にある困りごとを把握することです。

薬がないことに困っているのか、受診手段に困っているのか、治療への不安があるのか。それによって、薬局から案内できる支援も変わります。

「必要な数量」は、患者さんの希望だけで決めない

数量を考える際には、希望された箱数や、普段処方されている日数をそのまま当てはめるのではなく、今回の事情と対応期間を結びつける視点が必要です。

実務では、現在の残薬、実際の使用量、次の受診までの見通し、ほかの薬局から受け取った量などを整理することで、数量の判断根拠を明確にしやすくなります。

「普段は長期処方だから、今回も同じ量」という考え方には注意したいところです。通常の診療の中で交付される量と、例外的な事情への対応として必要な量は、目的が異なります。

また、少量なら必ず問題ないというわけでもありません。販売の条件を満たすかという判断と、そのうえで数量をどうするかという判断は、順番に確認する必要があります。

他薬局での購入状況を聞く意味

同じ薬を複数の薬局から受け取っていると、自薬局での販売量が少なくても、患者さんの手元には想定以上の量が集まる可能性があります。

聞き取りでは、「ほかで買っていませんか」という一言だけで終わらせず、いつ、どの薬を、どの程度受け取ったかを具体的に確認すると、全体像を整理しやすくなります。

その際、患者さんが責められていると感じると、必要な情報が出てこないかもしれません。「お薬が重ならないように、ほかで受け取った分も含めて確認させてください」と、確認する目的を添えると伝わりやすいと思います。

これは零売の場面に限らず、日常の服薬確認にも通じる考え方です。薬局ごとの記録だけで完結せず、その人が実際に持ち、使っている薬に目を向けたいところです。

記録は「やむを得ないため」だけで終わらせない

記録を残すとき、「やむを得ない事情があった」とだけ書いても、後から別の薬剤師が判断の経過を理解するのは難しくなります。

たとえば、受診が難しいという申し出があれば、その具体的な背景、確認できた現在の使用状況、次の受診の見通し、代替提案を検討した結果を分けて整理すると、対応の理由が伝わりやすくなります。

以下は、薬局内の記録様式を検討する際の項目例です。すべてが今回新たに義務化される項目だという意味ではありません。

項目例残しておきたい内容
相談日時・対応者いつ、誰が相談を受け、判断したか
現在の使用状況薬品名、規格、用法、使用を確認した情報
入手困難の事情何が起きて、いつまで通常の受取りが難しいのか
代替提案の検討検討した選択肢と、提案が難しいと考えた理由
手元の薬と購入状況残薬、他薬局で受け取った薬の時期と量
数量の判断今回の対応量と、その根拠
説明と今後の予定説明への理解、質問、受診や再相談の案内

記録様式を作るなら、チェック欄に加えて具体的な事情を書く余白を設けたいところです。チェックだけでは同じ「該当」であっても、患者さんごとの事情まで伝えきれません。

電子的に保存する運用では、必要な記録を後から取り出せるか、担当者が変わっても確認できるか、修正の経過をどう扱うかといった点も、薬局内で整理しておくと役立ちます。

記録帳とペンと保管ケースで表した薬局の記録保存

薬局実務では何を準備したい?

省令案では、販売に従事する薬剤師による正当な理由の確認、事情に照らして必要な数量に限った販売、3条件に関する事由の記録と2年間の保存を求めています。記録の電子化に対応する規定も整備する案です。

また、本人が使用すること、他薬局からの購入・譲受け状況、説明・指導内容の理解と質問の有無なども確認対象になります。

実務の準備としては、次のような確認欄を用意しておくと判断の経過を整理しやすくなります。これは省令案の文言そのものではなく、現場での運用を考えるための例です。

確認欄の例確認したい理由
薬品名・規格・用法、現在の使用状況以前使っていたという情報だけで判断しないため
処方箋による交付が困難な事情と期間一時的な対応が必要か整理するため
代替薬を勧めにくい具体的理由希望銘柄だけを理由にしないため
残薬・他薬局からの購入状況重複や過量の供給を避けるため
対応数量の根拠・受診につなぐ説明その後の治療継続まで考えるため

「忙しい」「以前も使った」という申し出だけで、自動的に例外に当てはまると決めつけるべきではありません。個々の事情を確認し、最終的な省令・通知等と合わせて判断する必要があります。

いつから変わる?公布予定と施行を混同しない

意見募集は2026年11月14日23時59分までです。公布は同年11月下旬を予定し、零売に関する施行は改正法の該当規定の施行日に合わせる案となっています。

11月下旬に販売ルールがすべて切り替わる、と断定しないことが大切です。公布後は、確定した条文と施行日、具体的な運用を改めて確認しましょう。

しぐの視点|「薬を渡せるか」の先に、患者さんの生活がある

「いつもの薬がなくなってしまったんです」

薬局でこう相談されたとき、気になるのは薬の在庫だけではありません。次の診察はいつなのか。受診できなかった理由は何か。薬を使えない間、何に困るのか。制度の条件と一緒に、その人の生活にも目を向けたいところです。

大学病院前の保険薬局では、治療全体を踏まえて薬を確認することの大切さを感じます。一つの薬についての相談でも、ほかの治療や受診予定とつながっている可能性があります。「この薬が欲しい」という言葉だけで、相談の全体が分かるわけではありません。

だからこそ、零売を巡る話を「買える薬が増える・減る」だけで受け止めるのは、少しもったいないと思います。

薬剤師が何を確認し、どう判断し、どこまで支え、必要なときに誰へつなぐのか。今回の省令案は、薬局が担う相談機能を考えるきっかけにもなります。

販売できないときも、薬局の仕事は続く

条件に合わず販売できない場合、「決まりなので無理です」で会話が終わってしまうと、患者さんの困りごとは残ります。

かかりつけの医療機関に連絡できる時間はあるか。受診の相談先を確認できるか。市販薬を検討できる場面か。本人だけで調整するのが難しければ、どの支援者に相談できそうか。

実際に案内できる内容は状況によって違います。それでも、「販売できない理由」と「次にできること」をセットで伝える姿勢は、大切にしたいと思います。

販売しなかった対応も、相談に応じた薬剤師の判断です。その経過を薬局内で共有しておけば、次に別の薬剤師が相談を受けたときにもつながります。

ルールを整えるなら、相談できる余地も大切にしたい

薬へのアクセスが確保されることと、必要な診療が続くこと。その両方を支えられる仕組みであってほしいと感じます。

例外の条件を明確にすることは重要です。同時に、条件の確認が単なるチェック作業にならず、患者さんが困っている背景を聞く時間につながってほしいところです。

記録も、後から確認するためだけのものではありません。なぜその対応を選んだのかが残っていれば、次の相談で同じ説明を最初から繰り返してもらう負担を減らせるかもしれません。

薬を安全に届けること。そして、治療を続けるための相談に応じること。零売の制度が変わる中でも、保険薬局として大切にしたい役割です。

零売を巡る裁判の経緯は、コチラで整理しています。

零売裁判、薬局側が控訴|東京地裁は請求を全面棄却、処方箋なし販売の行方は?【2026年9月更新】
【追記】2026年9月18日の東京地裁判決後、原告の薬局側が判決を不服として控訴しました。本記事は、第一審の全面棄却から…

薬剤師の対面評価を生かした制度の議論は、コチラもご覧ください。新区分の提言と、今回の省令案は別の動きです。

大阪府薬剤師会が零売に「新しい医薬品区分」を提言|薬剤師の対面評価がつなぐ新たな選択肢
大阪府薬剤師会が零売に「新しい医薬品区分」を提言こんにちは、薬剤師のしぐです。零売を巡る議論に、興味深い提案が出てきまし…

FAQ

Q. 零売は、すでに全面禁止になったのですか?

今回公表されたのは省令案です。これだけを根拠に「今日から全面禁止」とは説明できません。原則と例外、現行の取扱い、施行後の取扱いを区別する必要があります。

Q. 昔処方された薬なら購入できますか?

過去の使用歴だけで今回の3条件を満たすとはいえません。案では、処方箋によって現に使用していることなどが条件です。

Q. 何日分まで販売できる案ですか?

公表された概要に一律の日数は示されていません。事情に照らして必要な数量に限るという案であり、「一律○日分まで」と補って説明しないようにします。

Q. 記録を残せば販売できますか?

記録だけで販売の条件を満たすわけではありません。販売できる事情の確認と、数量の判断が先に必要です。

Q. OTCへの変更を必ず行うのですか?

一律に変更するという内容ではありません。代替薬の使用を勧めることが困難かどうかも、例外販売の判断条件に含まれています。

—

コメント

タイトルとURLをコピーしました