
こんばんは、薬剤師のしぐです。
膵がんの薬物療法に、新たな選択肢が加わる動きです。
オニバイド〈イリノテカンのリポソーム製剤〉を用いた「NALIRIFOX療法」。海外での成績を見ながら、国内で使えるようになるのを待っていた方もいるのではないでしょうか。
2026年10月21日に開催予定の薬事審議会・医薬品第二部会では、オニバイド点滴静注43mgの製造販売承認事項一部変更承認が報告事項に入りました。日本セルヴィエは、未治療の治癒切除不能な膵がんへの適応追加を2025年12月16日に申請しています。
ただし、部会の開催予定と正式な承認は区別が必要です。2026年10月15日時点で確認できた情報をもとに、一次治療への適応拡大の動きと、NALIRIFOX療法の特徴を整理します。承認後の正式な効能・効果、用法・用量は、改訂された電子添文で確認する必要があります。
点滴の治療だから、薬局では関わりにくい。そう感じることもありますよね。
でも、下痢止めや吐き気止めの使い方、食事や水分の摂れ方、発熱時の連絡先など、治療と治療の間に支えられることは少なくありません。
- 先に結論:NALIRIFOXは、オニバイドを含む4剤併用療法
- 何が変わる?オニバイドの一次治療への適応拡大
- そもそもオニバイドとは?普通のイリノテカンと何が違う?
- NALIRIFOX療法の薬剤とスケジュール
- NAPOLI-3試験:GnP療法と比べてどうだった?
- FOLFIRINOX・GnP療法との違い
- 薬局での副作用フォロー①:下痢は「何回ですか」で終わらせない
- 薬局での副作用フォロー②:発熱と全身状態の変化
- 薬局での副作用フォロー③:しびれ・吐き気・食事量
- UGT1A1と併用薬:薬局でも知っておきたい確認点
- 病院への情報提供は、次の治療判断に使える形で
- よくある質問
- まとめ:選択肢が増えるときこそ、治療と治療の間を支えたい
先に結論:NALIRIFOXは、オニバイドを含む4剤併用療法
今回押さえておきたいのは、次の3点です。
- オニバイドを含むNALIRIFOX療法が、膵がん一次治療の新たな選択肢となることが期待されている。
- NAPOLI-3試験では、未治療の遠隔転移を有する膵管腺がんで、GnP療法に対する全生存期間の改善が示された。
- 薬局では、下痢・脱水・発熱・しびれに加え、支持療法薬を実際に使えているかを確認したい。
「新しい治療が増える」というニュースを、患者さんが治療を続けるための準備につなげていきたいですね。
何が変わる?オニバイドの一次治療への適応拡大
これまでは、化学療法後に増悪した膵がんが対象
確認した2026年4月改訂の国内電子添文では、オニバイドの効能・効果は「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な膵癌」です。
また、一次治療における有効性・安全性は確立していないと記載されています。従来の基本的な使い方は、フルオロウラシルとレボホリナートとの併用です。
今回の申請は、他の抗悪性腫瘍剤との併用による「未治療の治癒切除不能な膵癌」への適応追加を目指したものです。
10月21日の第二部会では「報告事項」
厚生労働省の開催案内では、2026年10月21日18〜20時に第二部会が予定され、報告事項にオニバイドの一部変更承認が記載されています。
開催案内だけでは、その後の承認日や改訂後の詳細な投与条件までは確定できません。「すでに一次治療で使用可能になった」と読み取られない表現で伝えることが大切です。

そもそもオニバイドとは?普通のイリノテカンと何が違う?
オニバイドは、イリノテカンをPEGで修飾したリポソームに封入した抗がん薬です。
イリノテカンは体内で活性代謝物SN-38となり、DNAの複製に関わるトポイソメラーゼⅠを阻害します。オニバイドは、その成分を「どのような製剤として届けるか」に特徴があります。
ここで大切なのは、通常のイリノテカン製剤と単純に置き換えられないことです。国内電子添文の警告にも、従来のイリノテカン塩酸塩水和物製剤の代替として投与しないことが明記されています。
「成分が同じだから、同じ量で使える」とは考えられません。製剤名、併用薬、用量の表記をセットで確認する必要があります。
また、「リポソームだから副作用が少なくて安心」と説明することも避けたいところ。重篤な骨髄抑制や下痢への注意は、引き続き欠かせません。
NALIRIFOX療法の薬剤とスケジュール
NALIRIFOX療法は、次の4剤を組み合わせる治療です。
| 薬剤 | 主な役割 |
|---|---|
| オニバイド〈リポソーム型イリノテカン〉 | トポイソメラーゼⅠ阻害 |
| オキサリプラチン | 白金製剤としてDNAに作用 |
| フルオロウラシル〈5-FU〉 | 代謝拮抗薬 |
| ホリナート/レボホリナート | 5-FUの作用を増強 |
NAPOLI-3試験で用いられた投与量
以下は海外試験の概要です。国内の適応拡大後の承認用量を確定する表ではありません。
| 薬剤 | NAPOLI-3試験での用量 |
|---|---|
| リポソーム型イリノテカン | 50mg/m² |
| オキサリプラチン | 60mg/m² |
| ホリナート | 400mg/m²〈レボホリナート200mg/m²に相当〉 |
| 5-FU | 2,400mg/m²、46時間の持続静注 |
28日を1サイクルとし、1日目と15日目に投与する設定で、実質的には2週間ごとの投与です。
米国FDAの承認情報では、オニバイド90分、オキサリプラチン120分、ホリナート30分、5-FU46時間の順次投与が示されています。前投薬やフラッシュもあるため、46時間を来院から終了までの総所要時間と捉えないようにしましょう。国内での投与順序や同時投与の可否は、承認後の資材と施設レジメンで確認します。
なお、従来の国内オニバイド+5-FU/レボホリナート療法の通常用量70mg/m²と、NALIRIFOXの試験用量50mg/m²は、併用療法そのものが異なります。数字だけを見て「減量されている」とは判断できません。
46時間の持続投与は、自宅での過ごし方にも関わる
外来で携帯型ポンプを使用する場合は、帰宅後も投与が続きます。
患者さんへの確認は、「次の点滴はいつですか」だけでは足りないかもしれません。ポンプ終了・抜針の予定、入浴や就寝時の注意、液漏れやチューブの異常時の連絡先まで、病院からどのような説明を受けているか確認したいですね。
薬局で一律に操作方法を教えるのではなく、使用機器と病院の指示に沿って支援します。

NAPOLI-3試験:GnP療法と比べてどうだった?
NAPOLI-3試験は、遠隔転移を有する未治療の膵管腺がん患者770人を対象に、NALIRIFOX療法とゲムシタビン+nab-パクリタキセル〈GnP療法〉を直接比較した海外第Ⅲ相試験です。
主な対象はECOG PS 0〜1の患者でした。
| 評価項目 | NALIRIFOX療法 | GnP療法 |
|---|---|---|
| 全生存期間〈OS〉中央値 | 11.1カ月 | 9.2カ月 |
| 無増悪生存期間〈PFS〉中央値 | 7.4カ月 | 5.6カ月 |
論文報告では、OSのハザード比は0.83、95%信頼区間0.70〜0.99、p=0.036でした。主要評価項目であるOSの統計学的に有意な改善が示されています。
ただし、中央値の差を「全員が1.9カ月長く生きられる」と解釈することはできません。試験集団全体の結果であり、個々の治療経過は異なります。
また、試験は遠隔転移を有する患者を対象としています。局所進行例、全身状態の低下した患者、高齢で併存疾患の多い患者などへ、そのまま同じ成績を当てはめることもできません。
選択肢が増えることは大きな前進です。そのうえで、「誰にでも一番よい治療」と受け止めず、体力や症状、生活との両立まで含めて選択される治療と理解しておきたいですね。
FOLFIRINOX・GnP療法との違い
名前が似ていて混乱しやすいのがFOLFIRINOX療法です。
| 比較項目 | NALIRIFOX療法 | FOLFIRINOX療法〈modifiedを含む〉 | GnP療法 |
|---|---|---|---|
| イリノテカン製剤 | リポソーム製剤 | 通常のイリノテカン製剤 | 含まない |
| オキサリプラチン | 含む | 含む | 含まない |
| 5-FUの持続投与 | あり | あり | なし |
| 主な構成 | リポソーム型イリノテカン+オキサリプラチン+5-FU+ホリナート系 | イリノテカン+オキサリプラチン+5-FU+ホリナート系 | ゲムシタビン+nab-パクリタキセル |
| NAPOLI-3での位置づけ | 試験治療 | 比較対象ではない | 直接比較した対照治療 |
NALIRIFOXとFOLFIRINOXは、使用するイリノテカン製剤と用量設計が異なります。FOLFIRINOXのイリノテカンだけを同量のオニバイドに交換した治療ではありません。
NAPOLI-3試験の結果から「NALIRIFOXはFOLFIRINOXより優れている」とは言えません。直接比較していない治療同士を、別々の試験の生存期間だけで順位づけすることは避けたいところです。
GnP療法で用いるアブラキサンも、通常のパクリタキセル製剤とは異なります。膵がん治療は、レジメン名だけでなく製剤まで理解すると、薬歴の読み取りや副作用の確認がぐっと具体的になります。
GnP療法で使用するnab-パクリタキセルの特徴は、コチラで詳しく整理しています。


薬局での副作用フォロー①:下痢は「何回ですか」で終わらせない
NALIRIFOXでは、下痢や悪心・嘔吐、食欲低下、骨髄抑制、低カリウム血症などに注意が必要です。
特に下痢は、治療継続にも日常生活にも直結します。イリノテカン関連の下痢には投与中〜直後のコリン作動性の症状と、時間が経ってから起こる遅発性の下痢があり、対応が異なります。
薬局では、普段の排便回数からどれくらい増えたか、水様便か、夜間にも続くか、水分を飲めているか、尿量は減っていないかまで確認します。発熱、血便、強い腹痛、繰り返す嘔吐を伴う場合は、単なる副作用と決めつけず病院へつなぎます。
下痢止めを持っていても、「いつから、どのように使うか」が曖昧なままでは対応が遅れます。病院からの具体的な指示を確認し、使っても改善しない場合の連絡基準まで共有しておきたいですね。
ロペラミドの増量や特殊な服用法を、患者さんの自己判断で行うようには勧めません。強い下痢や脱水、発熱を伴う下痢では、薬を追加する前に連絡が必要な場面があります。

薬局での副作用フォロー②:発熱と全身状態の変化
骨髄抑制があると、感染症が重症化することがあります。
「熱が出たら解熱薬で様子を見てください」と一律に案内せず、病院から示された発熱時の連絡基準を確認します。目安となる体温、夜間・休日の連絡先、次回受診を待たずに連絡する症状を、治療開始時から把握しておくことが大切です。
悪寒が強い、ぐったりしている、息苦しい、意識がぼんやりするなどの場合は、体温の数字だけで判断せず速やかな医療対応につなげます。
副作用の確認というと、症状のチェック表を埋める作業になりがちです。でも実際には、「いつもより会話が少ない」「立ち上がるのがつらそう」といった変化も、病院へ伝えるきっかけになります。
薬局での副作用フォロー③:しびれ・吐き気・食事量
オキサリプラチンでは、冷刺激で誘発されるしびれなどの急性症状と、蓄積して生活に影響する末梢神経障害を意識します。
「しびれはありますか」に加えて、ボタンを留められるか、箸を使いにくくないか、歩くときにふらつかないかまで聞くと、生活への影響が見えやすくなります。冷たい飲み物や物に触れる際の注意は病院の説明に合わせて補足します。
息苦しさや喉の違和感は自己判断で「冷たい物のせい」と片づけず、医療者に相談するよう伝えます。
吐き気についても、処方された制吐薬を飲めているか、頓服を使うタイミングが分かるかを確認します。「吐いていない」だけでは十分とは限りません。食事がほとんど摂れない、飲水量が減っている、体重が落ちている場合も情報提供の対象です。
膵がんでは、病気そのものによる消化吸収の問題などが食事・便の変化に関わる場合もあります。すべてを抗がん薬の副作用と決めつけず、経過と処方内容を病院へつなぎたいですね。
UGT1A1と併用薬:薬局でも知っておきたい確認点
イリノテカンの活性代謝物SN-38の代謝にはUGT1A1が関わります。
従来の国内電子添文では、UGT1A1*6または*28のホモ接合体、あるいは*6と*28の複合ヘテロ接合体を有する患者に対する開始用量の規定があります。
ただし、従来療法の減量規定をNALIRIFOXにそのまま当てはめることはできません。一次治療への適応拡大後は、改訂電子添文でレジメンごとの規定を確認します。
また、相互作用の確認では処方薬に加えて、市販薬やサプリメントも対象にします。オニバイドではCYP3A4やUGT1A1に関わる薬剤などに注意が必要です。新しい薬が追加されたときは、支持療法薬も含めた全体の確認が欠かせません。

病院への情報提供は、次の治療判断に使える形で
「下痢あり」「しびれあり」だけでは、緊急度や生活への影響が伝わりにくいことがあります。
例えば、下痢なら次のように整理できます。
「点滴○日後から水様便。通常1日1回に対し、昨日は○回。処方された下痢止めを指示どおり使用したが継続。飲水は普段の半分程度で、尿量も減っている。体温○℃。本日、病院へ連絡を案内した。」
発症日、程度、生活への影響、対応とその効果がそろうと、病院側も状況を把握しやすくなります。
強い症状がある場合は、トレーシングレポートの送付だけで終えず、電話などで速やかにつなぐ必要があります。薬局側で治療の休薬・減量を決めるのではなく、その判断に必要な情報を届ける役割です。
よくある質問
NALIRIFOX療法はどんな治療ですか?
リポソーム型イリノテカン〈オニバイド〉、オキサリプラチン、5-FU、ホリナート系薬剤を組み合わせる治療です。海外試験では2週間ごとに投与し、5-FUを46時間持続静注しました。
オニバイドは、もう日本で一次治療に使えますか?
2026年10月15日時点で確認した国内電子添文は、化学療法後に増悪した治癒切除不能な膵がんを対象としています。一次治療への適応追加は申請され、10月21日の第二部会では一部変更承認が報告予定です。正式な承認状況と改訂電子添文を確認する必要があります。
普通のイリノテカンと交換できますか?
単純な置き換えはできません。オニバイドはリポソーム製剤であり、従来製剤の代替として投与しないことが電子添文の警告に記載されています。
FOLFIRINOXより効果がありますか?
NAPOLI-3試験はGnP療法との比較であり、FOLFIRINOXとの直接比較ではありません。この試験だけで優劣は判断できません。
ホリナート400mg/m²とレボホリナート200mg/m²は違うのですか?
別の製剤・表記です。メーカーの試験紹介では、ホリナート400mg/m²はレボホリナート200mg/m²に相当すると説明されています。製剤名を省略せず確認します。
下痢止めを飲んでも下痢が続くときは?
病院からの連絡基準に従って相談します。特に水分が摂れない、尿量が減る、発熱・血便・強い腹痛がある場合は、次回受診まで待たず速やかに連絡してください。
まとめ:選択肢が増えるときこそ、治療と治療の間を支えたい
NALIRIFOX療法は、オニバイドの一次治療への適応拡大によって、国内でも新たな治療選択肢となることが期待されています。
NAPOLI-3試験でGnP療法に対する生存期間の改善が示されたことは、膵がん治療を考えるうえで大きなポイントです。一方で、通常のイリノテカンとの製剤の違い、持続投与、下痢や骨髄抑制への対応まで含めて理解する必要があります。
薬局でできるのは、レジメン名を覚えることだけではありません。
「下痢止めを使うタイミングは分かるか」「水分を摂れているか」「夜に熱が出たらどこへ連絡するか」。こうした一つひとつを確かめることが、患者さんの安心と、次の治療へつながる情報になります。
新しい治療への期待とともに、その治療を日常生活の中で支える準備も進めていきたいですね。


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