
こんにちは、薬剤師のしぐです。
2026年9月16日、抗PD-1抗体「キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)」が、白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がんに対する国内適応追加承認を取得しました。
使用されるのはキイトルーダ単剤ではなく、
キイトルーダ+パクリタキセル±ベバシズマブ
という併用療法です。
卵巣がん治療ではプラチナ製剤が中心になりますが、再発後にプラチナ製剤が効きにくくなると、治療選択肢はどうしても限られてきます。
そこに、免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダが加わる。
卵巣がん領域において、非常に大きな変化だと感じます。
今回は、今回の承認内容とKEYNOTE-B96試験、保険薬局で確認したい副作用について整理します。
※本記事は2026年9月時点の承認・公表情報をもとに作成しています。実際の治療では最新の電子添文、最適使用推進ガイドライン、院内レジメンをご確認ください。
キイトルーダが白金製剤抵抗性の再発卵巣がんへ適応拡大
今回追加されたキイトルーダの効能・効果は、白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がんです。
承認の根拠となったKEYNOTE-B96試験では、次の患者が対象となりました。
- 白金製剤抵抗性の上皮性卵巣がん
- 卵管がん
- 原発性腹膜がん
- 1または2レジメンの化学療法歴を有する患者
試験には643例が登録され、日本人患者37例も含まれていました。
治療群は次のとおりです。
| 投与群 | 治療内容 |
|---|---|
| キイトルーダ群 | キイトルーダ+パクリタキセル±ベバシズマブ |
| 対照群 | プラセボ+パクリタキセル±ベバシズマブ |
つまり、現在行われているパクリタキセルを中心とした治療に、キイトルーダを上乗せすることで治療成績が改善するかを検証した試験です。
「白金製剤抵抗性」とは?

卵巣がんでは、カルボプラチンやシスプラチンなどのプラチナ製剤が治療の中心になります。
一般に、プラチナ製剤を含む治療終了後、6カ月未満で再発・増悪した場合を「プラチナ抵抗性」と呼びます。
一方、治療終了後6カ月以上経過して再発した場合は、プラチナ感受性再発として扱われます。
ただし、実際の治療選択は再発までの期間だけで決まるわけではありません。
- これまでの治療歴
- 前回治療への反応
- 骨髄機能
- 末梢神経障害の有無
- ベバシズマブの使用歴
- 全身状態
- 腫瘍の組織型
- BRCA変異やHRDなどのバイオマーカー
などを総合的に判断します。
白金製剤抵抗性となると、再度プラチナ製剤を使用しても十分な効果を得にくく、これまでは週1回パクリタキセル、リポソーム化ドキソルビシン、ノギテカンなどが治療候補となっていました。
今回の承認によって、ここにキイトルーダを含む治療が加わります。
KEYNOTE-B96試験とは
KEYNOTE-B96/ENGOT-ov65試験は、白金製剤抵抗性再発卵巣がんなどを対象とした国際共同無作為化二重盲検第Ⅲ相試験です。
主要な結果は次のとおりです。
試験全体集団の結果
| 評価項目 | キイトルーダ併用群 | 対照群 |
|---|---|---|
| 無増悪生存期間中央値:PFS | 8.3カ月 | 6.4カ月 |
| 全生存期間中央値:OS | 17.7カ月 | 14.0カ月 |
キイトルーダを加えることで、病勢進行または死亡までの期間だけでなく、全生存期間についても延長が示されました。
白金製剤抵抗性再発卵巣がんは治療の難しい領域です。
そのなかで、PFSだけでなくOSの改善まで確認されたことは、今回の承認を考えるうえで重要なポイントです。
PD-L1陽性集団ではどうだった?
米国FDAでの承認対象は、腫瘍のPD-L1発現がCPS≧1の患者です。
この集団では、次の結果が報告されています。
| 評価項目 | キイトルーダ併用群 | 対照群 |
|---|---|---|
| PFS中央値 | 8.3カ月 | 7.2カ月 |
| OS中央値 | 18.2カ月 | 14.0カ月 |
一方、今回の国内承認の効能・効果は「白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がん」とされています。
海外承認と国内承認では対象患者の記載が異なる可能性があるため、国内での患者選択は最新の電子添文や関連ガイドラインを確認することが重要です。
なぜキイトルーダとパクリタキセルを併用するの?

キイトルーダは、PD-1とPD-L1/PD-L2の結合を阻害する免疫チェックポイント阻害薬です。
がん細胞はPD-L1を利用して、免疫細胞からの攻撃にブレーキをかけることがあります。
キイトルーダはこのブレーキを解除し、T細胞によるがん細胞への免疫反応を再び働かせます。
一方、パクリタキセルは微小管の働きを阻害し、がん細胞の分裂を抑える細胞障害性抗がん薬です。
ベバシズマブはVEGFを阻害し、腫瘍の血管新生を抑制します。
今回のレジメンは、
- キイトルーダ:免疫による攻撃を回復させる
- パクリタキセル:がん細胞の分裂を抑える
- ベバシズマブ:腫瘍の血管新生を抑える
という、異なる作用を組み合わせる治療です。
ベバシズマブは必ず併用するの?
今回の治療は、
キイトルーダ+パクリタキセル±ベバシズマブ
です。
「±」なので、ベバシズマブを必ず使用するわけではありません。

ベバシズマブの併用可否は、過去の治療歴や患者さんの状態などから判断されます。
特に確認したいのは次のような項目です。
- 高血圧
- 蛋白尿
- 出血リスク
- 血栓塞栓症の既往
- 消化管穿孔のリスク
- 手術や抜歯の予定
- 創傷治癒の状態
- ベバシズマブの使用歴
保険薬局では点滴薬が処方箋に表示されないため、患者さんへの聞き取りや治療計画書から、ベバシズマブ併用の有無を確認することが大切です。
保険薬局で注意したい3種類の副作用

このレジメンでは、キイトルーダ、パクリタキセル、ベバシズマブ、それぞれの副作用を重ねて確認する必要があります。
①キイトルーダによる免疫関連有害事象
キイトルーダでは、免疫が過剰に働くことで起こる免疫関連有害事象、いわゆるirAEに注意します。
主な症状は次のとおりです。
- 空咳、息切れ、呼吸困難
- 水様便、下痢、腹痛、血便
- 強い倦怠感、食欲低下
- 頭痛、吐き気、意識の変化
- 動悸、発汗、体重変化
- 皮疹、かゆみ、水疱
- 黄疸、褐色尿
- 尿量減少、むくみ
- 口渇、多尿、急激な体調悪化
特に、肺障害、大腸炎、肝障害、甲状腺機能障害、副腎機能障害、下垂体機能障害、1型糖尿病などは見逃せません。

「少し体調が悪いだけ」「抗がん剤だから仕方がない」と思っている症状のなかに、irAEが隠れていることがあります。
②パクリタキセルによる副作用
パクリタキセルでは、特に次の症状を確認します。
- 末梢神経障害
- 骨髄抑制
- 発熱、感染症
- 筋肉痛、関節痛
- 脱毛
- 悪心、食欲低下
- 過敏症反応
末梢神経障害は「しびれがありますか?」だけでは十分に評価できません。
「ボタンを留めにくくなっていませんか?」
「箸やペンを落とすことはありませんか?」
「足裏の感覚が鈍くなっていませんか?」
「階段や段差が怖くなっていませんか?」
と、生活への影響を具体的に聞くことが重要です。
なお、今回使用されるパクリタキセルと、アルブミン懸濁型のnab-パクリタキセルは同じではありません。

③ベバシズマブによる副作用
ベバシズマブを併用している場合は、次の症状にも注意します。
- 血圧上昇
- 頭痛
- 鼻血や歯肉出血
- 蛋白尿
- 下肢の腫れや痛み
- 胸痛、突然の息苦しさ
- 強い腹痛
- 傷の治りが遅い
強い腹痛や突然の胸痛・呼吸困難は、消化管穿孔や血栓塞栓症などの可能性があるため、緊急性を考えて対応します。
下痢は原因を分けて考える
この治療中に下痢が起きた場合、「抗がん剤の副作用」でまとめてはいけません。
考えられる原因には、
- パクリタキセルによる消化器症状
- キイトルーダによる免疫関連大腸炎
- 感染性腸炎
- 便秘後の溢流性下痢
- 下剤や酸化マグネシウムなどの影響
があります。
保険薬局では、少なくとも次の点を確認します。
- 1日何回か
- 普段より何回増えたか
- 水様便か
- 血便や粘液便はないか
- 腹痛や発熱はないか
- 夜中も排便があるか
- 食事や水分が取れているか
- 下痢止めを自己判断で使用していないか
irAEによる大腸炎が疑われる場合、一般的な下痢として市販の止瀉薬だけで対応すると受診が遅れる可能性があります。
症状の回数と開始時期を確認し、必要に応じて速やかに治療施設へ情報提供します。
保険薬局で確認したい10項目
- 対象となるがん種と再発状況
- これまでの治療レジメン数
- プラチナ製剤終了から再発までの期間
- キイトルーダとパクリタキセルの投与日
- ベバシズマブ併用の有無
- 発熱、空咳、息切れ
- 下痢の回数、腹痛、血便
- 末梢神経障害と日常生活への影響
- 血圧、頭痛、出血、蛋白尿
- 支持療法薬と他院処方、市販薬の使用状況
処方箋に支持療法薬しか記載されていない場合でも、背景に点滴抗がん薬がある可能性を意識したいところです。
フォローアップで使える質問例
「点滴治療を受けてから、空咳や息切れは出ていませんか?」
「便の回数は、普段より何回くらい増えましたか?」
「強いだるさや食欲低下で、起きているのがつらいことはありませんか?」
「手足のしびれで、ボタンを留める、箸を使う、歩くなどに困っていませんか?」
「ご自宅で血圧を測っていますか?以前より高くなっていませんか?」
「鼻血、歯肉出血、血便、黒い便はありませんか?」
単に「副作用はありませんか?」と聞くよりも、症状と生活への影響を分けて確認する方が、患者さんの変化を拾いやすくなります。
保険薬局における副作用評価や病院との連携については、がん薬物療法と薬剤師の関わりでも詳しくまとめています。
病院へ情報提供する記載例
キイトルーダ+パクリタキセル+ベバシズマブ療法中。前回投与3日後から水様便が出現し、本日は計5回認めています。普段は1日1回程度です。腹痛を伴い、食事量と水分摂取量は通常の半分程度まで低下しています。発熱および血便は現時点で認めていません。免疫関連大腸炎を含めた評価が必要と考え、患者さんへ治療施設に連絡するよう案内しました。
報告時には、
- 治療レジメン
- 最終投与日
- 症状の開始日
- 客観的な回数や数値
- 食事・水分摂取量
- 使用した支持療法薬
- 薬局で行った対応
まで伝えると、病院側も判断しやすくなります。
まとめ
2026年9月16日、キイトルーダが白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がんに対する国内適応追加承認を取得しました。
使用されるのは、
キイトルーダ+パクリタキセル±ベバシズマブ
です。
KEYNOTE-B96試験では、試験全体集団においてPFS中央値が8.3カ月対6.4カ月、OS中央値が17.7カ月対14.0カ月となり、キイトルーダ併用による改善が示されました。
保険薬局では、キイトルーダによるirAEだけでなく、
- パクリタキセルによる末梢神経障害や骨髄抑制
- ベバシズマブによる高血圧、出血、蛋白尿
- 下痢の回数や原因
- 投与薬が処方箋に表示されない問題
まで意識したフォローが必要です。
卵巣がん領域にも免疫チェックポイント阻害薬が本格的に入ってくる。
治療選択肢が増える一方で、薬局側にも点滴治療を含めたレジメンの把握と、治療後の継続的なフォローが一層求められそうです。
FAQ
キイトルーダは卵巣がんに単剤で使用しますか?
今回承認された治療は単剤ではなく、パクリタキセルとの併用です。患者さんの状態などに応じてベバシズマブを追加する場合があります。
白金製剤抵抗性とは何ですか?
一般には、プラチナ製剤を含む治療終了後6カ月未満で再発・増悪した状態を指します。ただし、実際の治療方針は過去の反応や副作用、全身状態なども含めて判断されます。
PD-L1検査は必要ですか?
米国の承認対象はPD-L1 CPS≧1ですが、国内承認の効能・効果は「白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣がん」とされています。国内での患者選択については、最新の電子添文や関連資材を確認してください。
ベバシズマブは全員に併用しますか?
全員ではありません。「パクリタキセル±ベバシズマブ」であり、使用歴、高血圧、蛋白尿、出血や血栓、消化管穿孔のリスクなどを考慮して判断されます。
キイトルーダ投与終了後ならirAEは起こりませんか?
投与終了後にもirAEが現れることがあります。治療が終了していても、空咳、息切れ、下痢、強い倦怠感、急な体重変化などがあれば、治療施設へ相談する必要があります。
薬局で最も確認したい症状は何ですか?
呼吸器症状、下痢、強い倦怠感、発熱、末梢神経障害、血圧上昇、出血などです。併用薬によって注意点が異なるため、点滴内容の確認が重要です。


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