
こんばんは、薬剤師のしぐです。
2026年10月30日、国内初の経口の選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)である「イムルリオ錠200mg」が発売されました。一般名はイムルネストラントです。
乳がんの内分泌療法に、新しい飲み薬が加わったというニュースです。ただし、ホルモン受容体陽性の乳がんなら誰でも使える薬ではありません。対象は、内分泌療法後に増悪し、ESR1遺伝子変異を有する、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がんです。
薬局で特に押さえたいのは、通常は200mg錠を1回2錠服用すること、空腹時の条件が具体的に決められていること、そして他院の処方薬や市販薬との相互作用です。発売の概要から、処方箋を受け取ったときの確認点まで整理します。
イムルリオとは?まず押さえたい発売情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | イムルリオ錠200mg |
| 一般名 | イムルネストラント(製剤はトシル酸塩) |
| 分類 | 抗エストロゲン剤/抗悪性腫瘍剤、経口SERD |
| 製造販売元 | 日本イーライリリー株式会社 |
| 薬価基準収載日 | 2026年10月14日 |
| 発売日 | 2026年10月30日 |
| 薬価 | 200mg 1錠:27,551.80円 |
| 通常用量 | 1日1回400mg、空腹時に服用 |
| 包装 | 28錠PTP(14錠×2) |
「200mg」という製品規格と、「400mg」という通常の1回量を混同しないことが大切です。標準的な処方では、1日1回、200mg錠を2錠服用します。
また、28錠入りの包装は、通常用量で14日分に相当します。包装の錠数だけを見て「28日分」と判断しないようにしたいところです。新薬を採用するときには、規格、1回錠数、日数、総錠数を一緒に確認すると、入力や調剤の取り違えを防ぎやすくなります。

SERDはどのような薬?エストロゲン受容体の分解を促す内分泌療法
ホルモン受容体陽性乳がんと内分泌療法
ホルモン受容体陽性乳がんでは、女性ホルモンの働きが、がん細胞の増殖に関係します。内分泌療法は、この仕組みに働きかける治療です。
薬によって働く場所は異なります。ホルモンの産生を抑える方法もあれば、受容体に作用する方法もあります。イムルネストラントはエストロゲン受容体に作用し、その分解を促すことで、受容体を介した増殖シグナルを抑える薬です。
SERDは「Selective Estrogen Receptor Degrader」の略です。患者さんへの説明では、略語を覚えてもらうことより、「がんの増殖に関係するホルモンの受け取り口に働く薬」と伝えたうえで、飲み方や相談のタイミングに話をつなげる方が、日常の服薬に結びつきやすいと思います。
国内初の「経口SERD」という意味
今回のポイントは、SERDという治療の考え方そのものが初めて登場したことではなく、国内で初めて経口投与できるSERDが発売されたことです。
飲み薬で治療できることは、患者さんにとって治療の受け止め方や生活との組み合わせを考える材料になります。一方、自宅で服用する薬では、食事との間隔、飲んだかどうかの管理、体調変化の記録などが、治療継続を支える重要な要素になります。
「飲み薬だから軽い治療」と受け止められていないかも確認したいところです。治療の目的と、困ったときに連絡する相手を共有することまで含めて、服薬支援と考えたいですね。
対象となるのはESR1遺伝子変異陽性の乳がん
適応には複数の条件がある
イムルリオの国内の適応を確認するときは、次の条件をセットで捉えます。
- 内分泌療法後に増悪していること
- ESR1遺伝子変異を有すること
- ホルモン受容体陽性であること
- HER2陰性であること
- 手術不能又は再発乳がんであること
ESR1はエストロゲン受容体に関わる遺伝子です。薬の対象を判断する際には、単に「乳がん」「ホルモン療法中」という情報だけでは足りません。
電子添文では、承認された体外診断用医薬品又は医療機器を用いた検査により、ESR1遺伝子変異陽性が確認された患者さんに投与することとされています。薬局では、病院からの情報提供書や治療に関する説明資料などを活用し、確認できた情報と未確認の情報を分けて記録しておくと、継続支援に役立ちます。
術前・術後療法や、ほかの抗がん薬との併用とは区別する
国内の電子添文では、術前・術後薬物療法としての有効性・安全性は確立していません。また、ほかの抗悪性腫瘍剤との併用についても、有効性・安全性は確立していないとされています。
海外の研究や併用療法のニュースを見たときも、そのまま日本の承認内容として理解しないことが大切です。処方内容に疑問がある場合には、現在の治療目的や処方意図を病院へ確認します。
乳がん治療では、同じ「新薬」という言葉で紹介されても、対象となる病型や治療段階が異なります。乳がん治療全体の考え方を整理した記事も、治療の違いを理解する際の参考になります。

EMBER-3試験ではどのような効果が示された?
イムルネストラントの臨床成績を考えるうえで重要なのが、国際共同第III相試験のEMBER-3試験です。
ESR1遺伝子変異陽性の集団では、イムルネストラント単独療法と、医師が選択した内分泌療法であるフルベストラント又はエキセメスタンが比較されました。無増悪生存期間(PFS)の中央値は、イムルネストラント群で5.5カ月、対照群で3.8カ月でした。ハザード比は約0.62で、病勢進行又は死亡のリスク低下が示されています。
PFSは、病気が進行するか死亡するまでの期間を評価する指標です。「治癒率」「余命」と同じ意味ではありません。また、中央値の差だけを取り出して、患者さん一人ひとりの治療期間がその通りになると説明することも適切ではありません。
この結果は、対象となる患者さんに、新しい内分泌療法の選択肢が加わったことを示すものです。ESR1変異の有無、これまでの治療歴、全身状態などを踏まえて治療が選択されます。異なる試験の数字を並べて、ほかの薬より一律に優れていると判断することもできません。
薬局で効果を説明するときには、「検査結果やこれまでの治療を踏まえて選ばれた薬です」と伝え、患者さんが医師から受けた説明とずれがないかを確認することが大切だと考えます。

飲み方は1日1回400mg、空腹時
服用前1時間・服用後2時間は食事を避ける
通常、成人にはイムルネストラントとして1日1回400mgを空腹時に服用します。200mg錠では1回2錠です。
特に重要なのが、服用の1時間前から服用後2時間は食事をしないという条件です。「空腹時」とだけ説明して終えると、患者さんごとに受け取り方が異なる可能性があります。
例えば、午前7時に服用する場合は、午前6時から午前9時まで食事を避けることになります。朝食を午前9時以降にできる生活か、毎日同じ時間帯に続けられるかなど、実際の生活に合わせて確認します。これは時間の関係を示した例であり、午前7時の服用を一律に勧めるものではありません。
食事と一緒に服用すると血中濃度が上昇することがあるため、この条件が設定されています。「食後に飲む方が胃にやさしそう」という自己判断で変更しないよう、理由も短く添えて説明したいですね。
生活に組み込める服用計画を一緒に考える
服用時刻を決める際には、起床・就寝時刻、食事、間食、仕事や通院の予定も確認します。普段の生活では守れても、休日だけ食事の時間が大きく変わる方もいます。
薬袋や説明用紙には、服用する時刻に加えて、食事を避ける時間帯も具体的に書いておくと確認しやすくなります。患者さん自身の言葉で「何時に飲んで、何時から食べるか」を説明してもらう方法も、理解を確かめる一つの工夫です。
飲み忘れや服用後に吐いた場合の対応については、処方元の指示や患者向け資材を確認し、最初に共有しておきます。自己判断で2回分をまとめたり、追加服用したりしないことも伝えます。錠剤を飲み込みにくい場合も、自己判断で割る・砕くといった変更をせず、医療者へ相談してもらいます。
副作用は下痢・疲労・悪心、肝機能の変化などを確認
電子添文では、下痢、疲労、悪心、嘔吐、食欲減退、関節・筋骨格痛、AST・ALT増加などが挙げられています。服薬指導では、すべての名称を一度に並べるより、本人が気づける症状と、受診時に確認する検査の両面から説明したいところです。
下痢や悪心は、生活への影響まで聞く
下痢がある場合は、「ありますか」だけでなく、普段より排便が何回増えたか、水様便か、水分が取れているか、外出や睡眠に影響していないかを確認します。悪心についても、食事や水分の摂取、処方された支持療法薬の使用状況まで聞くと、病院へ伝える情報が具体的になります。
症状を我慢して服薬を続けている場合もあれば、困った結果として自己中断している場合もあります。飲めていないことを責めず、何が障害になっているかを確認し、処方元に共有することが大切です。
水分が取れない、強いふらつきがある、尿が明らかに少ない、血便や発熱を伴うなどの場合は、早めに医療機関へ連絡するよう案内します。個別の連絡基準や支持療法の使い方は、病院の指示と合わせて確認しておきます。
疲労や検査値の変化も見逃さない
疲労は「がんの治療中だから仕方ない」と、患者さんが相談せずに抱えていることもあります。「家事や仕事ができているか」「横になっている時間が増えたか」といった聞き方なら、変化を捉えやすくなります。
また、肝機能の変化は自覚症状だけでは判断できません。共有された検査値や受診予定を確認し、変化があれば処方元と連携します。体調や検査結果に応じた休薬・減量・中止の判断は、医師が電子添文の基準などを踏まえて行います。
急な息苦しさや胸痛など、普段と異なる強い症状がある場合には、次の定期受診まで待たず、速やかに医療機関へ相談することも共有しておきたい点です。
相互作用は「イムルリオが影響を受ける側」と「与える側」の両方を見る
強いCYP3A阻害薬・誘導薬との併用
イムルネストラントは主にCYP3A4で代謝されます。強いCYP3A阻害薬との併用では血中濃度上昇、強いCYP3A誘導薬との併用では血中濃度低下が問題になります。
代表例として、強い阻害薬にはクラリスロマイシン、イトラコナゾール、ボリコナゾールなど、強い誘導薬にはカルバマゼピン、リファンピシン、フェニトインなどがあります。いずれも可能な限り併用を避け、代替薬を検討する位置づけです。
強いCYP3A阻害薬との併用が避けられない場合、イムルリオは1回200mgへの減量が必要です。薬局で独自に用量を変更するのではなく、処方医に確認します。がん治療の処方箋だけでなく、感染症や持病のために追加された薬にも目を向ける必要があります。
市販のせき止めや持病の薬も確認する
イムルネストラントはCYP2D6、P-gp、BCRPを阻害するため、併用薬の血中濃度を上昇させる可能性もあります。確認例として、デキストロメトルファン、ジゴキシン、ダビガトラン、ロスバスタチンなどがあります。
デキストロメトルファンは、市販のせき止めにも関係する成分です。「病院の薬は全部見せています」という方にも、市販薬やサプリメントを含めて聞く意味があります。相互作用は、該当した薬を患者さんが勝手に中止するための情報ではなく、医療者が代替や観察の必要性を判断するための情報です。
薬が追加・変更されたときは、お薬手帳を提示してもらい、イムルリオを服用中であることを他院や他薬局にも伝えてもらいます。初回だけでなく、その後の処方変更時にも確認を続けることが重要です。
減量や追加確認が必要な患者さん
中等度又は重度の肝機能障害、具体的にはChild-Pugh分類B又はCの場合、1回用量は200mgに減量します。「肝機能の数値が少し高い」という情報だけで、この分類に当てはめることはできません。減量処方では、その理由や今後の予定が共有されているかを確認します。
閉経前の乳がん患者さんと男性には、LH-RHアゴニスト投与下で使用します。病院で注射薬が投与されている場合、薬局の処方箋に載っていないこともあるため、内服薬だけで治療全体を判断しないことが大切です。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には禁忌です。妊娠する可能性のある方や男性への避妊の説明、授乳に関する確認も必要になります。話しにくい内容だからこそ、周囲に聞こえにくい環境を整え、病院での説明内容を確認しながら対応します。
薬価はいくら?通常用量の薬剤費と処方日数
200mg錠の薬価は1錠27,551.80円です。通常用量の400mgでは1日2錠となるため、薬価に基づく薬剤費の単純計算は次の通りです。
| 期間 | 錠数 | 薬剤費の単純計算 |
|---|---|---|
| 1日 | 2錠 | 55,103.60円 |
| 14日 | 28錠 | 771,450.40円 |
| 28日換算 | 56錠 | 1,542,900.80円 |
これは薬価を掛けた参考値であり、実際の窓口負担額ではありません。診察・検査・調剤などの費用、自己負担割合、高額療養費制度等により支払額は変わります。また、28日換算は費用感を示すためのもので、発売直後に28日処方が可能という意味ではありません。
メーカーの案内では、新医薬品のため2027年10月末日までは1回14日分が投薬の限度です。通常用量なら14日分で28錠となり、1包装に対応します。
高額な薬では、費用への不安が服薬や受診に影響する可能性もあります。具体的な自己負担の見通しは、加入する保険の窓口や病院の相談窓口などにつなぎ、患者さんが確認できるよう支援したいところです。

初回処方で確認したい情報と病院との連携
メーカーの保険請求に関する案内では、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、ESR1遺伝子変異陽性を確認した検査の実施年月日について、初回投与時には診療報酬明細書への記載が必須とされ、以後は当該検査を実施した月に記載することとされています。
この案内を、そのまま「薬局が毎月すべての検査年月日を調剤レセプトへ記載する」という意味に読み替えないことも大切です。薬局では適応確認に必要な情報を整理し、不明点は処方元や請求の確認先に照会します。
実務では、処方日数と総錠数、400mg又は200mgとなっている理由、食事との間隔、併用薬、病院で投与される薬、次回受診日、症状が出た際の連絡先を確認しておくと、継続支援につながります。
病院へ情報を返すときには、「飲めていません」だけでなく、「朝食の時間と合わず週に何回飲み忘れる」「下痢で外出が難しくなった」など、状況を具体化します。処方内容の確認と生活上の困りごとの把握を結びつけることが、保険薬局の役割だと思います。
よくある質問
イムルリオはホルモン受容体陽性乳がんなら誰でも使えますか?
いいえ。内分泌療法後の増悪、ESR1遺伝子変異陽性、HER2陰性、手術不能又は再発といった条件があります。検査結果や治療歴を踏まえて、医師が適応を判断します。
200mg錠なので1日1錠ですか?
通常用量は1日1回400mgで、200mg錠を1回2錠です。ただし、肝機能障害、相互作用、副作用への対応などで減量される場合があるため、個別の処方指示を確認します。
空腹時とは、食前30分のことですか?
イムルリオでは、服用前1時間から服用後2時間は食事を避けます。「食前30分」と置き換えず、服用時刻と食事時刻を具体的に確認してください。
飲み薬になれば通院は不要ですか?
服薬状況や体調、検査結果、治療効果などの確認が必要です。また、発売直後は14日処方制限もあります。受診間隔は医師の指示に従います。
他院で風邪薬をもらうときも伝える必要がありますか?
はい。抗菌薬やせき止めなどにも、相互作用の確認が必要な成分があります。受診時や市販薬の購入時には、イムルリオを服用中であることを伝えてください。
新しい選択肢を、続けられる治療につなげる
イムルリオの発売は、ESR1遺伝子変異陽性の患者さんに、経口SERDという新たな選択肢が加わったニュースです。
薬局では、薬剤名や作用機序を覚えることに加えて、1回の錠数、食事との間隔、他院薬・市販薬、体調の変化を確認し、患者さんの生活の中で治療が続けられるよう支援することが求められます。
乳がんの薬物療法は、内分泌療法、分子標的薬、抗体薬物複合体など、それぞれ対象や確認点が異なります。エンハーツの作用機序・適応・副作用を整理した記事も参考に、個々の薬を治療全体の中で捉えていきたいですね。

参考資料
確認日:2026年11月4日。承認内容・用法・注意事項は、日本国内の最新の電子添文を優先してください。
- PMDA:イムルリオ錠200mg 電子添文(2026年10月改訂)
- 日本イーライリリー:イムルリオ 新発売のご案内(添付の発売案内も参照)
- 日本イーライリリー:ESR1遺伝子変異の検査
- 日本イーライリリー:用法及び用量の設定根拠・臨床成績
- 日本イーライリリー:食事の影響
- 日本イーライリリー:併用注意の薬剤
- 日本イーライリリー:処方日数制限
- 日本イーライリリー:保険請求時の検査実施年月日の記載
- Lilly:EMBER-3の有効性データ(海外情報) ※海外の承認内容は日本と異なります。


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