
こんばんは、薬剤師のしぐです。
新しい経口抗真菌薬「オロロフィム」の国際共同第Ⅲ相OASIS試験で、84日時点の総合奏効率が30.5%となり、対照群の28.4%を数値上上回りました。
ただし、これだけで「アムビゾームより効く」と結論づけることはできません。今回の中心は、アゾール系抗真菌薬を使いにくい侵襲性アスペルギルス症で、新しい作用機序の経口薬が治療の選択肢になり得る点です。
先に押さえたいポイント
- オロロフィムは、真菌のピリミジン合成を妨げるオロトミド系の開発中の経口抗真菌薬です。
- 標的はジヒドロオロト酸脱水素酵素(DHODH)です。
- OASIS試験の主要評価項目は42日時点の全死因死亡率で、対照治療への非劣性を示しました。
- 84日奏効率の数値差は、優越性の証明を意味しません。
- 経口薬でも肝障害や併用薬への注意は必要です。
オロロフィムとは?
オロロフィム(olorofim、旧開発コードF901318)は、従来の抗真菌薬とは異なる標的を持つオロトミド系薬です。アゾール系薬に耐性がある、効果が不十分、副作用や相互作用のため使いにくい、といった状況での新しい治療候補として開発されています。
2026年10月21日時点では開発中の薬剤であり、国内で通常の処方・調剤ができる発売済み薬として扱う段階ではありません。国内の効能・効果、用法・用量、薬価を確定情報として記載することもできません。
「飲める抗真菌薬が増える」という剤形の話に加え、既存薬と異なる場所を狙えることが注目点です。
そもそも侵襲性アスペルギルス症とは?
アスペルギルスはカビの仲間です。侵襲性アスペルギルス症は、主に免疫機能が低下した患者さんで問題になる重い真菌感染症です。
がん治療や移植医療などでは、感染症への対応が治療継続にも関わります。既存薬が使えない状況で、治療の選択肢を確保する意味は小さくありません。
今回の試験を読むときは、一般的な軽症の真菌症や、あらゆるアスペルギルス症に結果を広げないことが大切です。

作用機序:真菌が増えるための「材料づくり」を止める
標的はDHODH
オロロフィムは、真菌のジヒドロオロト酸脱水素酵素(DHODH)を選択的に阻害します。
DHODHは、ピリミジンを新しくつくる経路に関わる酵素です。この経路では、ジヒドロオロト酸がオロト酸へ変わります。オロロフィムはこの段階を妨げます。
ピリミジンは、DNAやRNAをつくるために必要な構成要素です。供給が滞れば、真菌は増殖や生存に必要な働きを保ちにくくなります。
流れとしては「DHODHを阻害する→ピリミジン合成が滞る→増殖に必要な材料が不足する」と理解すると整理しやすくなります。
なお、DNA合成酵素そのものを直接阻害する薬、という説明とは区別が必要です。
アゾール系と何が違う?
アゾール系は真菌の細胞膜に必要なエルゴステロールの合成を妨げます。一方、オロロフィムが狙うのはピリミジン合成です。
標的が違うため、アゾール耐性のアスペルギルスに対しても活性が期待されています。ただし、作用機序が新しいからといって、すべての耐性菌に必ず効くわけではありません。原因真菌の同定や薬剤感受性を踏まえた判断が必要です。

カンジダやムーコルにも使える?
「抗真菌薬」という言葉だけで、すべての真菌に広く効くと考えないことが大切です。
オロロフィムは、アスペルギルスなどに活性を示す一方、カンジダ、クリプトコックス、ムーコル目に対しては活性を示しません。標的酵素の違いなどが関係しています。
ここでいう活性は主に基礎研究での評価です。試験管内での抗真菌活性と、個々の感染症での臨床的な治療効果、将来の承認適応は分けて考えます。

OASIS試験:どの患者さんで比較した?
対象は、アゾール系が無効、または使用に適さない成人の侵襲性アスペルギルス症患者です。合計225例が、オロロフィム群151例と対照群74例に割り付けられました。
対照は「アムビゾームを少なくとも10日間投与し、その後に標準治療を行う」治療です。84日間ずっとアムビゾームだけを投与した群との比較ではありません。
| 評価項目 | オロロフィム群 | アムビゾーム後に標準治療を行う群 |
|---|---|---|
| 42日時点の全死因死亡率〈主要評価項目〉 | 23.8% | 24.3% |
| 42日時点の総合奏効率 | 26.5% | 31.1% |
| 84日時点の総合奏効率 | 30.5% | 28.4% |
| 84日時点の全死因死亡率 | 32.5% | 29.7% |
総合奏効は独立委員会が判定し、臨床所見・画像所見・真菌学的所見のすべての改善が必要です。「症状だけが改善した割合」ではありません。
「84日奏効率が上回る」をどう読む?
数値差と優越性は別
84日奏効率はオロロフィム群が高い一方、42日奏効率は対照群が高く、84日死亡率もオロロフィム群が低いわけではありません。
評価する時点や指標によって数値の方向は変わります。都合のよい項目だけで薬剤全体の優劣を決めることはできません。
主要評価項目は非劣性
42日死亡率の群間差は−0.5パーセントポイント、95%信頼区間は−13.1~10.8パーセントポイントでした。事前設定の非劣性マージンは20パーセントポイントです。
非劣性試験は、対照治療より効果が劣る可能性について、あらかじめ決めた許容幅を超えないかを検証します。「完全に同じ効果」や「より優れる」と証明する試験ではありません。
読み方としては、主要評価項目で非劣性を達成したことを軸に、奏効、安全性、投与経路を合わせて評価するのが適切です。
安全性:腎臓だけでなく肝臓も確認
薬剤との関連があると治験担当医が判断した有害事象は35.8%対63.9%、腎関連の有害事象は1.3%対22.2%でした。
ただし、「飲み薬だから安全」「腎臓への影響が少ないから検査不要」とは言えません。専門家評価で試験治療との関連が少なくとも疑われた薬物性肝障害は4.6%対4.2%で、肝障害は引き続き重要な確認事項です。安全性の解析対象は151例対72例で、有効性の対照群74例とは分母が異なります。

薬局の視点:経口化を支える確認まで考える
以下は今回の試験で検証された薬局介入ではなく、将来の実用化を見据えた実務上の視点です。
まず「なぜ既存のアゾール系が使いにくいのか」を引き継ぐ
効果不十分、耐性、副作用、相互作用では、治療変更後に確認すべき点が変わります。退院時の情報共有では、薬剤名だけでなく変更理由が重要です。
飲めているかを具体的に確認する
処方日数だけでなく、飲み忘れ、嘔吐、嚥下の問題、食事摂取の低下などを確認します。内服できない状態が続く場合は、早めに治療施設へつなぐ必要があります。
食事の影響、飲み忘れ時の対応、粉砕・簡易懸濁の可否などは、将来の承認内容や正式な製剤情報で確認すべき事項です。
併用薬は退院後の変更も拾う
「アゾール系と違う作用機序だから相互作用がない」とは判断できません。処方薬に加え、他院薬、OTC、サプリメントまで含め、正式な相互作用情報と照合します。
症状と検査の両方を追う
発熱や呼吸状態の悪化、内服困難などがあれば医療機関へ連絡します。肝機能検査の予定や結果も共有できると、継続治療を支えやすくなります。
経口薬の価値は、点滴が減る可能性だけではありません。退院後も治療を続けられる仕組みと組み合わさって、初めて生かされます。
よくある質問
オロロフィムは抗菌薬ですか?
真菌を対象とする抗真菌薬です。一般的な細菌感染症に使う抗菌薬とは対象が異なります。
オロロフィムの作用機序を一言でいうと?
真菌のDHODHを阻害し、増殖に必要なピリミジンの合成を妨げます。
アムビゾームより効果が高いと分かったのですか?
84日総合奏効率は数値上上回りましたが、優越性が証明されたとは言えません。主要評価項目では42日全死因死亡率の非劣性を示しました。
カンジダ症にも効きますか?
カンジダに対する活性は示しません。すべての真菌症に使える薬ではありません。
すでに日本で処方できますか?
2026年10月21日時点では開発中の薬剤です。国内の承認・発売情報を今後確認する必要があります。

参考情報
- 塩野義製薬:OASIS試験の新データ(2026年10月21日)
https://www.shionogi.com/global/en/news/2026/10/e20261021_3.html - 塩野義製薬:第Ⅲ相試験トップライン結果(2026年6月18日)
https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2026/06/20260618_1.html - Oliver JD, et al. F901318 represents a novel class of antifungal drug that inhibits dihydroorotate dehydrogenase. PNAS. 2016.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27791100/ - Jørgensen KM, et al. EUCAST Determination of Olorofim (F901318) Susceptibility of Mold Species, Method Validation, and MICs. 2018.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6105844/
※第Ⅲ相の数値は企業が公表した学会発表予定データに基づきます。詳細な論文公表や承認審査に伴い、評価が更新される可能性があります。


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