
薬剤師のしぐです。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の初回治療で、二重特異性抗体を組み合わせる治療が前進しました。
第III相EPCORE DLBCL-2試験で、エプコリタマブ(商品名:エプキンリ)+R-CHOP療法が、R-CHOPを対照に無増悪生存期間(PFS)を改善しています。
注目したいのは、再発・難治性の治療で使われてきた薬を、初回治療に組み込むという動きです。ただし、今回の結果を受けて日本で初発DLBCLへの使用が承認されたわけではありません。
この記事のポイント
• 初発DLBCLを対象とする第III相試験でPFSが改善
• IPI 2〜5全体と、主要評価対象のIPI 3〜5を分けて読む
• 病勢進行または死亡のハザードは、どちらの集団も51%低下
• エプキンリはT細胞のCD3とB細胞のCD20をつなぐ皮下注製剤
• 薬局では発熱・神経症状・感染症に加え、支持療法と併用薬も確認
※2026年10月20日時点の情報です。開発中の併用療法と国内承認済みの用法を区別して解説します。
今回のニュース:初回治療への二重特異性抗体の追加
DLBCLは、B細胞に由来する悪性リンパ腫の一つです。進行が速い一方、初回治療で治癒を目指すことができる病気でもあります。
初回治療ではR-CHOPやPola-R-CHPなどが用いられます。今回の試験で直接比較した相手はR-CHOPです。Pola-R-CHPより優れていると結論づけることはできません。
エプコリタマブ+R-CHOPのトップライン結果の海外発表日は2026年10月5日です。国内ニュースの掲載日と、試験結果そのものの発表日は区別しておきたいところです。
EPCORE DLBCL-2試験の結果
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験 | EPCORE DLBCL-2(NCT05578976) |
| デザイン | 国際共同・第III相・非盲検・無作為化比較試験 |
| 対象 | IPI 2〜5の初発DLBCLなどの大細胞型B細胞リンパ腫 |
| 割付 | エプコリタマブ併用群:対照群=2:1 |
| 併用群 | エプコリタマブ+R-CHOPを6サイクル、その後エプコリタマブを2サイクル |
| 対照群 | R-CHOPを6サイクル、その後リツキシマブを2サイクル |
| 主要評価項目 | IPI 3〜5の患者におけるPFS |
| 重要な副次評価項目 | IPI 2〜5全体におけるPFS |
IPIは、年齢や全身状態、病期、LDH、節外病変などから予後のリスクを評価する指標です。「IPI 3〜5」は病期のステージIII〜IVという意味ではありません。
ハザード比0.49でも、95%信頼区間は集団ごとに異なる
| 解析対象 | PFSのハザード比 | 95%信頼区間 | P値 |
|---|---|---|---|
| 主要評価対象:IPI 3〜5 | 0.49 | 0.35〜0.69 | 0.0001未満 |
| 全体集団:IPI 2〜5 | 0.49 | 0.36〜0.67 | 0.0001未満 |
どちらも、病勢進行または死亡のハザードが対照群に比べて51%低下した結果です。
ただし、「治る人が51%増えた」「再発率が51ポイント下がった」という意味ではありません。PFSは病勢進行または死亡までの期間を評価する指標で、全生存期間(OS)や治癒率とは区別します。
現段階はトップライン結果です。一定時点のPFS率、PFS中央値、長期のOS、詳細な有害事象などは、今後の学会発表や論文で確認する必要があります。

エプキンリとは?CD3×CD20二重特異性抗体
エプキンリの一般名はエプコリタマブです。T細胞側のCD3と、B細胞側のCD20の両方に結合します。
T細胞とCD20陽性の腫瘍細胞を近づけ、T細胞による腫瘍細胞への攻撃を促す仕組みです。免疫チェックポイント阻害薬や、細胞傷害性薬剤を運ぶADCとは作用の仕組みが異なります。
CAR-T細胞療法のように、患者さんの細胞を採取して個別に加工する工程は必要ありません。ただし、CRSや神経毒性への対応体制は必要です。「皮下注だから管理が簡単」と考えないことが大切です。

R-CHOPとは?5剤の役割
| 略号 | 薬剤 | 主な役割 |
|---|---|---|
| R | リツキシマブ | CD20を標的とする抗体薬 |
| C | シクロホスファミド | DNAを障害するアルキル化薬 |
| H | ドキソルビシン | アントラサイクリン系抗がん薬 |
| O | ビンクリスチン | 微小管に作用する抗がん薬 |
| P | プレドニゾロン | ステロイド薬。リンパ腫への治療作用を持つ |
海外の試験発表ではPがprednisoneと表記され、日本のR-CHOPでは通常プレドニゾロンが用いられます。薬剤名や用量・日程は実際の施設レジメンで確認します。
エプコリタマブの追加は、R-CHOPの作用にT細胞を介した抗腫瘍作用を組み合わせる考え方です。

日本では初発DLBCLへの併用は承認されている?
2026年10月20日時点で確認した国内電子添文では、初発DLBCLへのエプキンリ+R-CHOPは承認用法に含まれていません。
国内のDLBCLに対する対象は再発・難治性で、抗CD20抗体を含む少なくとも2つの標準的治療が無効、または治療後に再発した患者さんです。大細胞型B細胞リンパ腫では、他の抗悪性腫瘍薬との併用の有効性・安全性も未確立とされています。
なお、濾胞性リンパ腫には別の承認内容があります。別の病型で認められた併用療法を、そのままDLBCLへ当てはめることはできません。
国内承認済みDLBCL単剤投与のスケジュール
以下は再発・難治性DLBCLに対する国内承認用法です。今回の初発DLBCL併用試験の投与日程ではありません。
| サイクル | 投与日・用量 |
|---|---|
| 1サイクル目 | Day 1:0.16mg、Day 8:0.8mg、Day 15・22:48mg |
| 2〜3サイクル目 | Day 1・8・15・22に48mg |
| 4〜9サイクル目 | Day 1・15に48mg |
| 10サイクル目以降 | Day 1に48mg |
1サイクルは28日間です。最初から48mgを投与せず段階的に増量し、CRSのリスクを軽減します。
少なくとも1サイクル目の初回48mg投与後48時間は、国内電子添文上、必ず入院管理が必要です。投与間隔が空いた場合には、漸増投与からの再開が必要になることもあります。
副作用フォロー:発熱を「よくあること」で終わらせない
ここからはエプキンリの既知の安全性と薬局での確認点です。今回の併用試験における副作用発現率を示すものではありません。
1.CRS:発熱・悪寒・息苦しさ・ふらつき
サイトカイン放出症候群(CRS)は、免疫細胞の活性化に伴って起こり、重症化することがあります。
発熱、悪寒、息苦しさ、強いふらつきなどがあれば、治療施設へ速やかに連絡します。感染症による発熱との区別を自宅でつけようとせず、解熱薬だけで様子を見ないことが重要です。
2.ICANS:家族が気づく「いつもとの違い」
免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)にも注意します。
「言葉が出にくい」「会話がかみ合わない」「ぼんやりしている」といった変化は、ご家族が先に気づくことがあります。疑わしい場合はすぐ医療機関へ連絡し、意識障害やけいれん、強い呼吸困難では救急要請を考えます。
3.感染症・血球減少
咳や息切れ、悪寒、強いだるさ、出血しやすさなども確認します。症状だけでは血球数を判断できないため、採血結果と治療施設からの指示を共有することが大切です。

4.支持療法は「何のための薬か」まで確認
CRS予防のステロイドなどは、投与前後の日程が重要です。感染予防薬や制吐薬なども、目的、服用日、飲み忘れ時の対応を確認します。
R-CHOPを受けている患者さんでは、しびれ、便秘、悪心、食事量、ステロイド服用日の血糖や睡眠なども、病院に伝えたい情報です。


薬局の+α:注射日と併用薬をセットで把握する
保険薬局でエプキンリ自体を調剤しなくても、治療を受けていることを知る意味はあります。
| 確認項目 | 具体的な聞き方・対応 |
|---|---|
| 直近の投与 | 「最後の注射はいつでしたか。増量中ですか」 |
| 発熱・呼吸 | 「熱や寒気、息苦しさ、立ちくらみはありませんか」 |
| 神経症状 | 「会話や反応で、普段と違う様子はありませんか」 |
| 支持療法 | 服用日を注射日と照合し、残薬や飲み忘れを確認 |
| 併用薬 | 他院処方、OTC、サプリまで確認 |
| 連絡体制 | 夜間・休日の連絡先と、患者ごとの連絡基準を確認 |
特に押さえたいのが、治療域の狭いCYP基質との相互作用です。
エプキンリによるサイトカイン放出はCYPを抑え、ワルファリン、シクロスポリン、ボリコナゾールなどの血中濃度を上げる可能性があります。初回投与から最初の48mg投与の14日後まで、CRSの発現中・発現後は特に注意します。
注射薬が院内投与でも、お薬手帳に治療内容と直近の投与日を残すことで、薬局での確認につながります。
よくある質問
エプキンリは飲み薬ですか?
皮下注射の薬です。医療機関で投与し、治療初期はCRSなどへの管理が必要です。
今回の結果で初発DLBCLの標準治療が変わりますか?
今後の治療を変える可能性があります。ただし、トップライン結果の段階であり、詳細データや承認・ガイドラインの更新を確認する必要があります。
「51%低下」は治癒率が51%上がった意味ですか?
違います。病勢進行または死亡のハザードが対照群より51%低かったという意味です。治癒率やOSの改善とは区別します。
Pola-R-CHPより効果が高いのですか?
今回の試験はPola-R-CHPとの直接比較ではないため、優劣は判断できません。
発熱したら解熱薬を飲んで待ってよいですか?
CRSや重い感染症の可能性があるため、治療施設の指示に従い速やかに連絡します。強い息苦しさや意識の変化は緊急対応が必要です。
おわりに
エプコリタマブ+R-CHOPは、初発DLBCLの治療を前進させる可能性を示しました。
今後確認したいのは、効果の持続、OS、詳細な安全性、既存治療との位置づけです。薬局では、注射日、支持療法、併用薬、緊急時の行動をつなげて把握することが、患者さんの治療を支える一歩になります。


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