
こんばんは、薬剤師のしぐです。
病院の診察が終わったら、すぐ近くで薬を受け取れる。
患者さんにとって、敷地内薬局の便利さはわかりやすいものです。体調が悪いとき、大きな病院の外まで歩かずに済むのは助かります。病院と薬局が近ければ、処方内容の確認や情報共有もしやすそうに見えます。
ただ、薬局側から見ると話はずいぶん違います。
病院のそばという立地をどうやって得たのか。そして、その場所で薬局を続けながら、どれだけ患者さんに向き合えるのか。今回のアインファーマシーズ元幹部を巡る最高裁判決は、敷地内薬局を考えるときに、この二つの問いを改めて突き付けたように感じます。
最高裁は二審の逆転無罪判決を破棄
2026年9月28日、KKR札幌医療センターの敷地内薬局整備事業を巡る事件で、最高裁はアインファーマシーズ元幹部2人に無罪を言い渡した二審判決を破棄しました。
ここは、見出しだけで読むと誤解しやすいところです。元幹部2人とも有罪が確定したわけではありません。
新山典義元取締役については、控訴が棄却され、一審の有罪判決が確定しました。一方、酒井雅人元社長については札幌高裁に差し戻され、改めて審理されます。
今回決まったことと、これから判断されることを分けて見ておきたいですね。
| 対象 | 2026年9月28日の最高裁判決後 |
|---|---|
| 新山典義元取締役 | 一審の有罪判決が確定 |
| 酒井雅人元社長 | 札幌高裁に差し戻して再審理 |
そもそも何が争われた裁判なのか
事件の舞台は、KKR札幌医療センターが進めた敷地内薬局の整備事業です。病院の敷地内に薬局を設ける事業者を選ぶ過程を巡り、アインファーマシーズの元幹部らが公契約関係競売入札妨害罪に問われました。
一審の札幌地裁は有罪と判断しました。しかし、二審の札幌高裁は判断を覆し、元幹部2人に無罪を言い渡しています。公募型プロポーザルによる今回の選定が、問われた罪の対象となる「入札」に当たるのかなどが、裁判の重要な争点でした。
そして今回、最高裁が二審判決を破棄しました。新山元取締役は有罪が確定し、酒井元社長については差し戻し審に進みます。
なお、「敷地内薬局を開設すること自体が違法」という判決ではありません。 問われているのは、今回の事業者選定を巡る行為です。この点は、敷地内薬局全体の話と混同しないようにしたいところです。

「アインの薬局」を、今回の事件だけで語れない
このニュースを見て、個人的にもう一つ考えたのが、アインというグループの規模と薬局機能です。
アイングループが公表する2024年度の実績では、地域連携薬局が552店舗、専門医療機関連携薬局が41店舗、健康サポート薬局が252店舗あります。認定の重複もあり得るため、この数字を足して認定薬局の総数とすることはできません。
また、グループの公表値では、2026年7月末時点の薬局店舗数は2,143店舗、2026年4月期の年間処方箋応需枚数は4,187万枚です。認定薬局数とは集計時点が異なりますが、現場を担う薬局の広がりは伝わると思います。
専門医療機関連携薬局の認定は、現時点ではがんの領域です。抗がん薬の服薬状況や副作用を確認し、医療機関と連携する。地域連携薬局では、外来から入退院、在宅へと続く薬物治療を地域で支える。どちらも、名前を掲げれば終わる仕事ではありません。
現場では、患者さんへの聞き取り、処方医への情報提供、他職種との連携、研修、体制の維持が続きます。だからこそ、今回の裁判を受けて会社や業界に厳しい目が向くことと、各店舗で薬剤師が積み重ねている仕事は、分けて見ておきたいと思います。
同時に、大きなグループであり、多くの患者さんの薬物治療に関わるからこそ、出店過程の公正さにはより重い責任がある、とも感じます。
敷地内薬局は、今の調剤報酬で本当に戦えるのか
「病院の敷地内なら、患者さんがたくさん来る。経営も有利なのでは?」
そう思う人は少なくないでしょう。確かに立地だけを見れば、処方箋を受け付ける機会は多そうです。
でも、今の調剤報酬で考えると、敷地内で十分に戦える薬局は、ほんのひと握りではないかと思います。

一定の敷地内薬局などには、通常の調剤基本料とは異なる特別調剤基本料Aが適用されます。どの薬局にも一律に当てはまるわけではなく、実際の算定は施設基準や医療機関との関係によって確認が必要です。それでも、「病院のすぐそばだから、処方箋が多ければ利益も大きい」と単純には言えない報酬設計です。
しかも、大きな病院の処方箋は、枚数だけで仕事量を測れません。
診療科が多ければ、扱う薬も増えます。高額な薬、めったに出ない薬、管理に注意が必要な薬もあります。退院後に薬が大きく変わった患者さん、複数科を受診している患者さん、抗がん薬の副作用を確認したい患者さん。同じ「処方箋1枚」でも、必要な確認の量はまったく違います。
薬をそろえるまでに時間がかかる。そろえた後の監査にも時間がかかる。投薬時には、処方箋に書かれていない困りごとが見つかることもある。そして不足薬が出れば、入荷の確認や患者さんへの連絡も必要になる。
薄利多売の極みですよね……。 ただし、薬局の「多売」は、商品を棚から取って数多く売ることではありません。処方箋が増えれば、それに伴って確認し、説明し、必要な人をフォローする仕事も増えます。
回転数を上げるために、患者さんへの確認を削るわけにはいかない。ここが、敷地内薬局の経営を考えるうえで一番難しいところだと思います。
もちろん、これは個々の敷地内薬局の損益を調べて「すべて赤字だ」と言っているわけではありません。立地条件、契約内容、応需枚数、薬剤師の配置、グループ内の物流体制などによって事情は変わります。それでも、必要な人員と在庫をそろえ、質を維持しながら利益を出せる運営体制は、誰にでもつくれるものではないはずです。
病院に近いからこそ、薬局の独立した判断が必要
敷地内薬局には、患者さんの移動負担を減らせるという利点があります。病院との連携を生かせる場面もあるでしょう。
でも、病院に近いことと、病院の処方をそのまま通すことは違います。
用量に疑問があれば確認する。前回からの変更理由がわからなければ確かめる。患者さんが「実は飲めていない」と話したら、その理由を聞く。治療を続けるうえで見逃せない副作用があれば、医療機関につなぐ。
そうした薬局の判断は、病院の敷地内にいても必要です。むしろ距離が近いからこそ、「病院と仲がよい薬局」で終わらず、患者さんのために必要な確認をできるかが問われます。

アインには、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局として認定された店舗も数多くあります。こうした機能を、認定の数字として示すだけでなく、忙しい一日の処方箋業務の中でも発揮できるか。そこに、患者さんが感じる薬局の価値があると思います。
今回の判決で考えたこと
今回の裁判が判断しているのは、敷地内薬局の事業者選定を巡る刑事事件です。一方、現在の調剤報酬で敷地内薬局を続ける難しさは、経営と現場の話です。二つを直接結び付けて、報酬が厳しいから今回の事件が起きた、と考えることはできません。
それでも、敷地内薬局を語るなら、両方を見たいと思います。
出店時には、誰が見ても説明できる公正な手続きを守ること。開局後には、患者さんへの便利さを生かしながら、薬局として独立した判断を続けること。そして、その仕事に必要な薬剤師、人員、在庫、時間を確保することです。
つまり、こういうこと!
病院のすぐそばに店を構えるだけでは、薬局の価値は決まりません。どう選ばれたか。そして、選ばれた場所で患者さんに何を提供し続けるか。 厳しい調剤報酬のもとで、その両方に向き合える薬局こそが、本当に敷地内で戦える薬局なのだと思います。
FAQ
アインの元幹部2人とも有罪が確定したのですか?
いいえ。新山典義元取締役は一審の有罪判決が確定しました。酒井雅人元社長は札幌高裁に差し戻され、再審理となります。
敷地内薬局そのものが違法と判断されたのですか?
いいえ。今回問われたのは、KKR札幌医療センターの敷地内薬局整備事業の事業者選定を巡る行為です。
アイングループの認定薬局は何店舗ありますか?
アインが公表する2024年度実績では、地域連携薬局552店舗、専門医療機関連携薬局41店舗、健康サポート薬局252店舗です。現在の薬局店舗数とは公表時点が異なり、認定区分間で店舗が重複する可能性もあります。
敷地内薬局は、処方箋が多ければ経営しやすいのですか?
枚数だけでは判断できません。適用される調剤報酬、契約条件、人件費、在庫負担、処方内容の複雑さ、患者さんへのフォローに必要な時間を合わせて考える必要があります。

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