
こんにちは、薬剤師のしぐです。
HPVワクチンを、男性も公費で接種しやすい制度へ。2026年10月26日、自民党の「HPVワクチン推進議員連盟」が、男性への早期の定期接種化を求める決議をまとめたと報じられました。2027年度の実現を求める動きです。
まず大切なのは、男性の定期接種が2027年度から始まると正式に決まったわけではない、ということです。今回のニュースは、実現を求める政治的な働きかけ。対象年齢、開始日、公費負担の範囲などが確定したという意味ではありません。
それでも、「HPVワクチンは女性だけのもの」という受け止め方を変える、大切な話題だと感じます。
海外では、男の子も女の子も接種し、検診や治療を組み合わせて、子宮頸がんを公衆衛生上の問題ではなくすことを目指す国があります。日本でも、予防できるがんを減らす取り組みを、もっと積極的に進めていきたいところです。
一方で、過去の報道や、積極的な接種勧奨が差し控えられた時期の記憶が残り、すぐには前向きになれない方もいるはずです。その気持ちを置き去りにせず、いま何がわかり、何を確認して判断すればよいのかを整理します。
まず押さえたい、今回のニュースの要点
| 確認したいこと | 現時点での整理 |
|---|---|
| 今回の動き | 議員連盟が男性への早期定期接種化を求める決議をまとめたとの報道 |
| 2027年度の位置づけ | 実現を求める時期であり、開始決定ではない |
| 男性は現在接種できる? | 国内で男性への使用が承認されたHPVワクチンがある |
| 承認されていれば無料? | 承認と定期接種化、自治体の助成は別の仕組み |
| 男性接種の意味 | 男性自身のHPV関連疾患予防と、社会全体の感染予防 |
| 子宮頸がんを減らす方法 | ワクチンに加え、検診、精密検査、必要な治療が重要 |
今回提示された報道の抜粋には、女性への間接効果を踏まえた研究への言及もあります。ただし、研究の結論や決議文の全文まで確認できたわけではありません。費用対効果の結論や、制度の詳細を先回りして決めつけず、今後の厚生労働省の審議や正式な通知を追う必要があります。
HPVは、女性だけに関係するウイルスではない
HPVは、ヒトパピローマウイルスの略称です。さまざまな型があり、一部はがん、一部は尖圭コンジローマなどの原因になります。
子宮頸がんとの関係が広く知られていますが、HPVが関係する病気はそれだけではありません。肛門がんや中咽頭がんなど、男性にも関係するがんがあります。感染は珍しいことではなく、感染したからといって、その人の生活や人柄を評価できるものでもありません。
感染しても、すべての人ががんになるわけではありません。多くは自然に排除されますが、一部では感染が持続し、長い年月をかけて病変につながります。だからこそ、症状が出てから対応するだけでなく、感染する前に備える予防が意味を持ちます。
ここで気をつけたいのは、「HPVが原因になりうる病気」と「日本でそのワクチンに承認されている予防対象」を同じにしないことです。関連するがんを挙げたからといって、そのすべてについて国内で予防の効能が承認されているわけではありません。製品ごとの説明は、最新の電子添文に沿って確認します。
男性接種を考える出発点は、男性本人の健康を守ることです。「女性を守るために男性も接種する」という説明だけでは、男の子自身の予防という大切な意味が伝わりにくくなります。本人の利益を丁寧に説明したうえで、周囲にも予防の利益が広がる可能性を伝えたいですね。

男性への接種には、本人を守る意味と間接効果がある
ワクチンによって感染しにくい人が増えると、社会全体で感染が広がる機会を減らすことが期待されます。接種を受けた本人以外にも利益が及ぶ、間接効果という考え方です。
ただし、男性の接種だけで子宮頸がんがなくなるわけではありません。また、男性が接種したから、女性は接種や検診を受けなくてよい、という話でもありません。それぞれの予防を組み合わせていくことが大切です。
男女のどちらか一方に予防の負担を集中させず、自分の健康を守る選択肢を、性別にかかわらず知る。その方向へ社会が進むことには意味があります。
学校で説明するときにも、「男の子には関係のない授業」と受け止められない工夫が必要です。がんや感染症について学ぶことは、いまの自分だけでなく、将来の生活や大切な人との関係を考えることにもつながります。
同時に、授業の場で個人の接種歴や家庭の方針を答えさせる必要はありません。知識を伝えることと、個人の選択を人前で明らかにさせることは分けて考えたいところです。
日本では男性も接種できる。ただし「承認」と「公費」は別
男性へのHPVワクチン接種は、国内でまったく認められていないわけではありません。
4価のガーダシルに加え、9価のシルガード9も、2025年8月に男性への接種対象拡大と肛門がん予防の適応追加の承認を取得しました。男性については、肛門がんや尖圭コンジローマなどの予防が関係します。対象は9歳以上で、年齢によって接種回数の選択肢が異なります。
9価とは、9種類のHPV型に対応するという意味です。9種類のがんを防ぐ、という意味ではありません。また、すでに成立した感染や、できているがんを治療する薬でもありません。
相談で混乱しやすいのが、次の3つです。
| 仕組み | 意味 |
|---|---|
| 薬事承認 | 定められた対象・用法・目的で、その製品を使用できる |
| 国の定期接種 | 予防接種法に基づく接種として対象者などが定められる |
| 自治体独自の助成 | 自治体が独自の条件で費用を支援する |
男性が任意接種を検討するときは、自治体の助成の有無、対象となる年齢と製品、指定医療機関、予約前の申請の要否を確認します。接種後に申請しても助成の対象にならない制度もありうるため、最初に確認したいところです。
費用は医療機関や製品、必要回数によって変わります。「1回の値段」だけを見て判断せず、接種完了までの総額を聞いておくと安心です。今回の報道だけを理由に、将来の払い戻しや遡及的な助成があると考えることも避けましょう。
海外の具体例|オーストラリアは男女の接種と検診を進めている
海外の取り組みとして参考になるのが、オーストラリアです。
同国は、2035年までに子宮頸がんを公衆衛生上の問題として排除することを目指しています。国の戦略では、HPVワクチン接種率90%という目標を、女の子だけでなく男の子にも広げています。さらに、検診への参加と治療へのアクセスも一緒に改善する方針です。
ここは、海外の話を紹介するときに大切な点です。「男性もワクチンを打つので子宮頸がんがなくなる」という単純な仕組みではありません。接種しやすい環境、検診を受けやすい仕組み、異常が見つかった後の治療までをつなげています。
ワクチンを受けた人が多くても、検診に来られない人や、精密検査につながらない人が取り残されれば、十分な成果には結びつきません。予防の知識を知っているかどうかだけでなく、実際に行動できる環境があるかが問われます。
日本でも海外の接種率だけを目標にするのではなく、予約の取りやすさ、費用、学校や家庭への情報提供、接種後の相談体制まで含めて考えたいですね。「接種しましょう」の一言だけで実現できる話ではないからです。

「子宮頸がんの根絶」は、患者数ゼロという意味?
子宮頸がんの話では、「根絶」「排除」「撲滅」などの言葉を見かけます。ただ、国際的な目標を理解するときは、その意味を押さえておく必要があります。
WHOが掲げるのは、公衆衛生上の問題としての子宮頸がんの排除です。目安は、女性10万人あたりの年間罹患率を4人未満に下げ、その状態を維持すること。世界中のHPVが消えることや、子宮頸がんの患者さんが完全にゼロになることとは異なります。
その道筋として掲げられているのが、2030年までの「90・70・90」です。
| 柱 | 世界的な目標 |
|---|---|
| ワクチン | 15歳までに女の子の90%がHPVワクチン接種を完了 |
| 検診 | 女性の70%が35歳までに、さらに45歳までに高性能な検査を受ける |
| 治療 | 前がん病変のある女性の90%が治療を受け、浸潤がんのある女性の90%が適切な管理を受ける |
これは世界戦略の目標で、日本の個々人の検診開始年齢や間隔をそのまま示すものではありません。実際の受診は国内の制度や自治体の案内に沿って確認します。
海外で男性接種が進んでいることと、WHOの世界目標が女の子の接種を中心に設定されていることも、矛盾ではありません。各国が自国の状況に応じて、男性も含めた対策を組み立てています。
日本に残る、過去の記憶をどう受け止めるか
日本では2013年4月にHPVワクチンが定期接種になりましたが、同年6月、接種後の持続する痛みなどの報告を受け、積極的な接種勧奨が差し控えられました。この間も、定期接種そのものが廃止されたわけではありません。
その後、国内外の情報を踏まえた評価が続き、2021年11月に差し控えの終了が決まり、2022年4月から個別の勧奨が再開されました。現在の国の評価は、接種による利益が副反応のリスクを上回るというものです。
ただ、「勧奨が再開されたので安心してください」と説明されても、当時の映像やニュースがすぐに頭から消えるわけではありません。
子どもの健康を守りたいからこそ、予防したい気持ちも、接種が怖い気持ちも生まれます。保護者が迷っていることを、知識不足や無関心の一言で片づけるべきではないと思います。
一方で、過去に強い不安を感じたという事実と、現在の医学的な評価は、分けて確かめる必要があります。「昔怖い話を見たから、今も評価は変わっていないはず」と思ったままでは、新しく積み重なった情報に出会いにくくなります。
その間をつなぐのが、医療者の役割です。まず、何がいちばん気になるのかを聞く。痛みなのか、長く続く症状なのか、国の方針が変わった理由なのか。心配の中身がわかれば、必要な説明も具体的になります。
接種後の症状と、ワクチンが原因であることは分けて考える
医薬品の安全性を考えるとき、「接種の後に起きたこと」と「接種が原因で起きたこと」は同じではありません。
接種後の体調変化は、因果関係が明らかでないものも含めて収集し、評価する必要があります。そのため、副反応疑いの報告件数を、そのままワクチンが原因の被害件数として読むことはできません。
しかし、因果関係がすぐにわからないからといって、その人の痛みや生活上の困りごとがなくなるわけでもありません。症状がある方が適切な診療や支援につながることは、安全性評価とは別に、目の前で必要な対応です。
ここを混ぜないことが、信頼につながると思います。「安全性を評価するためには慎重に調べる」と「つらい症状には対応する」は、同時に進められます。
実際に接種後の症状について相談を受けたときは、起きた時刻、症状の内容、続いている期間、日常生活への影響、受診状況などを確認し、接種医や適切な医療機関につなぎます。最初から原因を断定する説明も、気にしすぎだと片づける対応も避けたいところです。
安全性は「副反応があるか」だけでなく、対応まで確認する
HPVワクチンでは、接種部位の痛みや腫れ、発熱などが起こることがあります。まれな重いアレルギー反応にも注意が必要です。また、注射に伴う緊張や痛みなどをきっかけに、失神する場合があります。
接種後は医療機関の指示に従い、30分程度は背もたれのある椅子などで座って様子を見ることが勧められます。立ち上がって転倒しないようにすることも大切です。
呼吸が苦しい、全身のじんましんに加えてぐったりする、意識がおかしいといった症状があれば、すぐに医療者へ知らせ、必要に応じて救急対応につなぎます。帰宅後も、強い症状や長く続く症状を自己判断で抱え込まず、接種した医療機関に相談します。
接種を検討する段階で、「何が起こりうるか」とともに「起きたら誰に相談できるか」を確認しておくと、漠然とした不安を少し具体的にできます。
健康被害に対する救済の仕組みも、定期接種か任意接種かで異なります。自治体の助成があっても、接種の法的な区分まで同じになるとは限りません。費用だけでなく、その接種がどの制度に位置づけられるのかも確認したいところです。

しぐの視点|予防を進めたい。だからこそ、怖さを置いていかない
保険薬局でがん治療に関わり、学校薬剤師として子どもたちの健康を考える立場から、予防できるがんを減らす取り組みは、日本でも積極的に進めたいと感じます。
病気になる前にできることがある。その選択肢を、本人や家族が知らないまま時間が過ぎてしまうのは、もったいないことです。男性への制度拡大も、そうした情報と機会を届けるきっかけになると思います。
ただ、日本には過去の記憶があります。勧奨が差し控えられていた時期を知る世代にとって、方針が変わった理由が十分に伝わらないまま「今は勧めています」と言われても、気持ちが追いつかないのは自然なことです。
だからこそ、前へ進むために必要なのは、声の大きさより、説明を重ねることではないでしょうか。期待できる効果、起こりうる副反応、現在の評価、相談先を、一つずつ確認できるようにする。そのうえで、本人の理解と納得を支えたいと思います。
「心配なことを聞いてもいいんだ」と感じてもらえる関係は、接種前にも接種後にも役立ちます。不安を口にした途端に否定されると、次の相談が遠くなってしまうからです。
同時に、受けなかった人や、制度の谷間で機会を逃した人を責める説明にもしたくありません。今から何を確認できるか、どんな予防につながれるかを、一緒に考えることが大切です。
学校と薬局で、今日からできる情報提供
学校で伝えるなら、最初から制度や数字を詰め込むより、「がんには、感染への対策で減らせるものがある」という話から始めると、予防の意味が伝わりやすくなります。
次に、HPVは性別を問わず関係すること、ワクチンには利益と副反応の両方があること、判断に迷ったら家族や医療者と相談してよいことを伝えます。本人の将来の健康についての話なので、保護者だけでなく、子ども本人にも理解できる言葉が必要です。
薬局では、ニュースをきっかけに「うちの子も対象ですか」と聞かれるかもしれません。そのとき、定期接種、任意接種、自治体助成を整理して案内できるようにしておきたいですね。
| 相談の場面 | 一緒に確認したいこと |
|---|---|
| 男の子も受けられる? | 年齢、製品、接種できる医療機関 |
| 無料になると聞いた | 国の正式決定の有無、現在の自治体助成 |
| 何回必要? | 初回接種時の年齢、過去の接種歴、製品と接種間隔 |
| 副反応が怖い | 心配の内容、起こりうる症状、接種後の相談先 |
| 接種済みなら検診不要? | 接種後も子宮頸がん検診が必要なこと |
「2027年度に始まるかもしれないから、それまで待てばいい」と一律に案内することも避けます。将来の制度は未確定で、年齢や助成の条件もそれぞれ異なります。いま選べる方法を確認しながら、接種医と相談することが大切です。
まとめ|男女で予防を考え、安心して相談できる社会へ
今回のニュースは、男性のHPVワクチン定期接種化に向けた働きかけです。2027年度からの開始が正式に決定したという意味ではありません。
男性自身をHPV関連疾患から守り、社会全体の予防にもつなげる。海外では、その取り組みに検診と治療を重ね、子宮頸がんの排除を目指しています。
日本でも、予防を進める方向を大切にしたいと思います。そして、過去の経緯から生まれた不安にも、丁寧に向き合いたいところです。
予防の大切さを伝えることと、接種後の症状に困る方を支えること。その両方を続けながら、子どもたちが自分の健康について学び、納得して選び、困ったときに相談できる環境を育てていきたいですね。


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