
こんばんは、薬剤師のしぐです。
ニプロの再生医療等製品「ステミラック注」について、2026年10月15日、厚生労働省の薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会が本承認を了承しました。
条件・期限付き承認を受けた再生医療等製品が、その後のデータに基づいて本承認へ進む初めての事例となる、注目すべき動きです。
ただし、今回のニュースは「部会で本承認が了承された」という段階です。正式な製造販売承認の取得とは区別して受け止める必要があります。
ステミラックは、患者さん自身の骨髄から採取した細胞を利用する、外傷性脊髄損傷に対する治療です。
「再生医療で何ができるのか」「本承認になると何が変わるのか」。薬局で患者さんから相談を受けたときにも説明できるよう、今回のポイントを整理します。
ステミラック注の本承認を了承、何が注目されている?
今回の大きなポイントは、ステミラックが新しく登場した治療ということではありません。
2018年に条件・期限付き承認を受け、実際の診療で使われながら有効性と安全性の評価を進め、その結果を踏まえて本承認の審査に進んだことです。
これまでの経過を整理すると、次のようになります。
| 時期 | 主な出来事 |
|---|---|
| 2018年12月28日 | 条件・期限付き承認を取得。期限は7年間 |
| 承認後 | 使用成績比較調査などを通じ、有効性と安全性を評価 |
| 2025年11月14日 | ニプロが本承認を申請 |
| 2026年10月15日 | 再生医療等製品・生物由来技術部会が本承認を了承 |
再生医療を必要とする患者さんへ早く届けることと、その後の評価をしっかり行うこと。その両方をどう実現するかは、再生医療の大きな課題です。
今回の了承は、早期に届けた後の検証を、本承認の判断につなげるという制度の流れにおいても、大きな節目といえます。

そもそもステミラック注とは?
ステミラック注は、ニプロと札幌医科大学が共同開発した再生医療等製品です。
一般的名称は「ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞」です。
少し難しい名前ですが、ポイントは「患者さん自身の骨髄に含まれる細胞を、体の外で増やして使う」ということです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | ステミラック注 |
| 製造販売元 | ニプロ |
| 製品の分類 | 再生医療等製品 |
| 使用する細胞 | 患者さん自身の骨髄由来間葉系幹細胞 |
| 主な治療対象 | 外傷性脊髄損傷に伴う神経症候・機能障害 |
| 投与方法 | 点滴静注 |
iPS細胞を使う治療ではありません。また、他の人の細胞をそのまま使う製品でもありません。
患者さんごとに原料となる骨髄液などを採取し、製造する点も、一般的な医薬品との大きな違いです。
脊髄損傷は、どのような状態?
脊髄は、脳と体の間で運動や感覚などの情報を伝える重要な通り道です。
事故や転落などで脊髄が傷つくと、損傷した場所や程度に応じて、手足の動かしにくさ、感覚の障害、排尿・排便の問題などが生じます。
ステミラックは、こうした脊髄損傷に伴う神経症候や機能障害の改善を目的とする治療です。
ただし、「脊髄損傷なら誰でも対象になる」というわけではありません。
対象となる患者さんは?慢性期の後遺症にも使える?
従来の承認内容では、対象は次のように定められています。
外傷性脊髄損傷で、ASIA機能障害尺度がA、BまたはCの患者さん。
ASIA機能障害尺度は、感覚や運動機能がどの程度保たれているかを評価する尺度です。治療対象に当てはまるかどうかは、専門医による診察と評価が必要です。
また、従来の用法では、患者さんの全身状態などを考慮し、受傷後31日以内を目安に骨髄液を採取することとされています。製品が製造され次第、できる限り速やかに投与します。
ここは、ニュースを読むときにも注意したい点です。
「31日以内」は骨髄液採取の目安であり、「31日以内に点滴を終えなければならない」という意味ではありません。
一方、受傷から長い期間が経過した慢性期の後遺症に、今回の本承認了承によって広く使えるようになると考えるのも適切ではありません。
正式承認後の対象や使用条件については、改訂される電子添文などで確認する必要があります。
再生医療等製品では、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺を対象とする「アクーゴ」も注目されています。同じ再生医療でも、対象となる病気や治療時期、投与方法は製品ごとに異なります。詳しくは「アクーゴとは?北海道大学病院で市販後初投与|効果・対象・薬局の役割」でも解説しています。

自分の細胞を増やして点滴する、治療の流れ
治療は、おおむね次のように進みます。
- 専門医療機関で、対象となる患者さんかを評価する
- 患者さんから末梢血や骨髄液を採取する
- 製造施設で骨髄由来の間葉系幹細胞を培養・増殖させる
- 品質を確認した製品を、医療機関で点滴静注する
- 投与後の安全性や神経機能などを評価する
ステミラックは、脊髄へ直接注射する製品ではなく、静脈内に点滴する製品です。
ただし、「点滴だから簡単に受けられる治療」ということではありません。細胞の採取から製造、投与、経過観察まで、専門的な管理が必要です。
また、細胞が十分に増殖しないなどの理由で品質規格を満たさず、投与に至らない可能性もあります。
患者さん自身の細胞を原料にすることは、製造の確実性まで保証するものではないのです。
どのような働きで改善を目指す?
ステミラックでは、骨髄由来間葉系幹細胞が分泌する神経栄養因子などを介した神経保護作用や、免疫調節など、複数の働きが考えられています。
こうした作用を通じ、損傷後に広がる二次的な障害を抑え、神経機能の回復を促すことが示唆されています。
「細胞を入れたら、切れた神経がそのままつながる」といった単純な説明では、治療の実態を十分に伝えられません。
また、期待される治療であっても、すべての患者さんで同じような改善が得られるわけではありません。
本承認の了承は、「誰でも歩けるようになる」「完全に元どおりになる」といった効果を保証するものではないことも、押さえておきたいところです。

条件・期限付き承認と本承認は、どう違う?
再生医療等製品は、細胞の性質や対象となる病気の特徴などから、従来の医薬品と同じようにデータを集めることが難しい場合があります。
条件・期限付き承認は、一定の要件のもとで、安全性の確認と有効性の推定に基づき、条件と期限を付けて承認する仕組みです。
承認後も情報を集め、期限内に必要な資料を整えて、改めて承認申請を行います。
| 項目 | 条件・期限付き承認 | 本承認 |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 一定の要件のもと、条件と期限を付けて早期に提供する | 追加の評価資料などを踏まえて承認を判断する |
| 承認後の評価 | 有効性・安全性の検証を進める | 承認後も必要な安全性監視などを続ける |
| 患者さんへの説明 | 評価が継続していることを含めた説明が必要 | 対象や期待できる効果、リスクの説明は引き続き必要 |
ニプロは、ステミラックを使用した患者さんと使用していない患者さんの情報を比較する「使用成績比較調査」を実施し、有効性と安全性を社内で検証したうえで、本承認を申請したと公表しています。
ただし、今回の了承だけから、比較調査での具体的な改善率や効果の大きさまで断定することはできません。
今後公表される審査報告書などで、対象患者、比較方法、評価項目、結果を確認することが大切です。
自分の細胞なら副作用はない?安全性の注意点
患者さん自身の細胞を使うと聞くと、「自分の細胞だから安全なのでは」と感じるかもしれません。
しかし、細胞の採取や投与、製造に使う原料などに関係するリスクはあります。
従来の製品情報では、次のような点に注意が必要とされています。
- 細胞製剤の静脈内投与に伴う肺塞栓や血栓形成などのリスク
- アレルギー反応やアナフィラキシーなどへの注意
- ヒト・動物由来原料に関連する感染症の可能性
- 骨髄液や末梢血の採取に伴う負担
- 異所性組織形成の可能性を完全には否定できないこと
これらは、すべての事象がステミラックで高頻度に起きるという意味ではありません。既知のリスクと、可能性を否定できず観察が必要なリスクを含む注意点です。
そのため、投与中や投与後は、呼吸状態やバイタルサインなどを観察できる体制が求められます。
「自己細胞だから副作用がない」と説明しないことも、医療者として大切です。

薬局ではどう受け止める?治療への期待を相談につなげる
保険薬局では、ステミラックそのものを通常の処方箋調剤でお渡しする場面は基本的にありません。
それでも、患者さんやご家族がニュースを見て、「家族も受けられるのでは」「昔のけがの後遺症にも使えるのでは」と相談されることは考えられます。
そのときに役立つのは、治療名を知っていることに加えて、対象と時期を整理して伝えられることです。
確認したいのは、けがによる脊髄損傷なのか、受傷からどのくらい経過しているのか、現在どの医療機関で治療を受けているのか、といった情報です。
薬局で適応を判断するのではなく、主治医や専門医療機関への相談につなげます。
また、退院後の生活では、痛み、筋緊張、排尿・排便などに対する薬物療法を継続している場合もあります。眠気や便秘、服薬の負担などを確認し、生活を支えることも薬局の役割です。
再生医療という大きなニュースの一方で、患者さんの毎日は続いています。新しい治療への関心と、目の前の困りごとの両方を受け止められる薬局でありたいですね。
しぐの視点|「早く届けた後」を評価することに意味がある
今回のニュースで注目したいのは、本承認へ進むまでに、承認後の評価が積み重ねられてきたことです。
新しい治療のニュースでは、「初」「画期的」「再生」といった言葉が先に目に入ります。患者さんやご家族にとって、その言葉が大きな希望になることもあるでしょう。
だからこそ、医療者が伝えるときには、誰に、いつ、どのような改善を目指して使う治療なのかまで、一緒に説明したいところです。
早く届けることには意味があります。そして、届けた後に確かめ続けることにも、同じように意味があります。
今回のステミラックの動きは、再生医療の可能性とともに、その治療を評価し続ける大切さを考える機会になると感じます。
まとめ
ステミラック注は、患者さん自身の骨髄由来間葉系幹細胞を使う、外傷性脊髄損傷に対する再生医療等製品です。
2026年10月15日、再生医療部会が本承認を了承しました。条件・期限付き承認後のデータに基づき、本承認へ進む初めての事例として注目されています。
ただし、本承認了承によって、すべての脊髄損傷や慢性期の後遺症に使用できるようになるわけではありません。
正式承認後の対象や使用条件を確認しながら、患者さんの期待を適切な相談先につなげることが大切です。
※本記事は2026年10月15日時点の情報です。対象・使用方法の説明は従来の承認内容に基づきます。正式承認後の電子添文等に変更がある場合は、最新情報を優先してください。
よくある質問
Q.ステミラック注は、正式に本承認されたのですか?
2026年10月15日時点で確認できたのは、専門部会が本承認を了承したという段階です。正式な製造販売承認の取得とは区別が必要です。
Q.ステミラックはiPS細胞を使う治療ですか?
いいえ。患者さん自身の骨髄から採取した間葉系幹細胞を、体外で培養・増殖させて使います。
Q.受傷後31日以内に点滴する必要がありますか?
従来の用法では、受傷後31日以内を目安とするのは骨髄液の採取です。製品が製造され次第、できる限り速やかに投与します。
Q.何年も前の脊髄損傷の後遺症にも使えますか?
従来の承認内容は、受傷後早期の骨髄採取を想定したものです。今回の了承によって、慢性期の後遺症全般に対象が広がったと考えることはできません。
Q.自分の細胞なら、副作用の心配はありませんか?
自己細胞でも、採取や投与に伴うリスク、アレルギーや感染症などへの注意が必要です。専門的な管理のもとで行う治療です。
Q.治療を受ければ、必ず歩けるようになりますか?
回復を保証する治療ではありません。損傷の程度や状態によって経過は異なります。期待される効果と限界について、専門医から説明を受けることが大切です。


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