
こんにちは、薬剤師のしぐです。
学校薬剤師というと、教室の空気や明るさ、プールの水を調べる人。そんなイメージが強いかもしれません。
でも、子どもたちに薬や健康について伝えることも、大切な活動のひとつです。今回は、その中でも「薬物乱用防止教室」について。
薬物の名前や怖さを説明するだけで、授業が終わってしまっていいのかな?
ここは、学校薬剤師として考えておきたいところですよね。薬の正しい使い方を知り、誘われたときに自分を守り、つらいときには誰かに相談できる。そんな力につながる教室を、学校の先生方と一緒につくっていきたいと思います。
学校薬剤師が行う薬物乱用防止教室とは?
薬物乱用防止教室は、子どもたちが薬物の心身への影響を学び、乱用を防ぐための判断や行動を考える学習の機会です。
学校薬剤師が講師を務める場合は、薬の作用や副作用、正しい使い方という専門性を活かして、違法薬物の問題と身近な医薬品の問題をつなげて伝えられます。
「大麻や覚醒剤の話だから、自分には関係ない」
そう思っていた子どもにも、市販の薬や家にある薬の話から入ると、自分の生活と結びつけて考えてもらいやすくなります。
教室で持ち帰ってほしいのは、次の3つです。
- 薬物や薬について、正しい知識をもつこと。
- 誘いや不確かな情報に流されず、自分を守る行動を考えること。
- 困ったときに、一人で抱えず相談すること。
学校薬剤師の仕事全体は、コチラでもまとめています。

講師は学校薬剤師だけではない
薬物乱用防止教室には、警察職員、麻薬取締官、保健所職員など、さまざまな専門家が関わります。学校薬剤師だけが担当する教室ではありません。
学校の先生方は、日々の子どもたちの様子や、すでに授業で学んだ内容を知っています。そこに薬剤師の専門知識を重ねることで、その学校に合った教室になります。
「今年も去年のスライドを使おう」で済ませず、今の子どもたちに何を伝える必要があるか。打ち合わせから授業づくりは始まっているんですよね。
中学校・高校では年1回の開催が推進されている
国は、すべての中学校・高等学校で年1回は薬物乱用防止教室を開催し、地域の実情に応じて小学校でも開催に努めるよう周知しています。
ここは、学校薬剤師個人に「年1回の講演義務」があるという意味ではありません。学校の保健教育の中に位置づけ、学校と関係機関が連携して取り組むものです。
また、年1回開催できたらそれで完了、というものでもありません。保健体育の授業や保健室での相談、家庭への情報提供などとつながってこそ、その日に学んだことが生活に活きてきます。

薬物乱用防止教室で伝えたい4つの内容
① 薬は、目的・量・使い方を守って使う
薬は、病気の治療や症状をやわらげるために使うものです。一方で、目的や用法・用量を外れた使い方をすると、心身を傷つけることがあります。
「多く飲めば、早く効く」
「市販薬だから、多少増やしても大丈夫」
「友達に効いた薬なら、自分にも使える」
こうした思い込みを、身近な例として考えてもらいます。
決められた量と間隔を守ること。自分に処方された薬を他の人に渡さないこと。効かないからと自己判断で増量せず、薬剤師や医師に相談すること。
薬局では普段から説明している内容ですが、子どもたちには初めて聞くこともあります。大人にとっての「当たり前」を、丁寧に言葉にすることが大切ですね。
そして、治療のために適切に使う薬と、乱用は区別して伝えます。通院や服薬をしている子どもが、自分の治療を悪いことのように感じない配慮も必要です。
② 大麻などの違法薬物と、SNSの情報
大麻などの薬物については、健康への影響や依存の問題に加えて、SNS上の情報の受け止め方も扱いたいところです。
「自然由来だから安全」
「みんな使っている」
「海外では認められているから問題ない」
そんな言葉を見かけても、それだけで安全性を判断することはできません。海外の制度についての情報が、そのまま日本での合法性を示すわけでもありません。
授業では、薬物の名称をたくさん覚えることよりも、「誰が、どんな根拠で伝えているのか」を確かめる視点を持ってもらいたいですね。
友達の投稿や有名人の発信も、正しさの保証にはなりません。公的な情報を確認し、わからないことは大人や専門家に聞く。この習慣は、薬物以外の健康情報にも役立ちます。
③ 市販薬のオーバードーズ(OD)
オーバードーズは、薬を過剰に摂取することです。市販薬であっても、過量服用によって意識や呼吸に異常が起き、命に関わることがあります。
「お店で買える薬だから安全」という理解のままにしないことが重要です。
ただ、ODの話では危険性と同時に、苦しさや孤独を抱えたときの相談先も伝えたいと思います。
「やってしまったら、もう相談できない」
「怒られるから、言えない」
そんな気持ちにさせてしまうと、助けを求める道が遠くなります。すでに困っている人も、支援につながっていい。そのメッセージを添えたいですね。
授業で、乱用される製品の具体的な組み合わせや量を詳しく紹介する必要はありません。薬の使い方、危険性、相談と救急対応を中心に伝えます。
④ 誘われたとき・困ったときの行動
「断りましょう」と言われても、実際に友達や先輩から誘われる場面では、すぐに言葉が出ないこともあるはずです。
そこで、短い言い方を考える活動を取り入れます。
「いらない」
「やらない」
「帰るね」
長い説明や説得をしなくても、自分を守るために断っていい。断りにくいときは、その場を離れ、信頼できる大人に相談していい。
友達のことが心配な場合も、自分だけで解決しようとせず、先生や養護教諭などにつなぐことを伝えます。友達の秘密を守るために、危険な状態まで二人で抱える必要はありません。
すでに薬を多く飲んだ、意識がおかしい、呼吸がおかしい場合などは、相談窓口の案内だけで済ませず、すぐに大人に知らせ、119番などの救急対応を優先します。

厚労省の薬物乱用防止特設サイトも、授業づくりの参考になる
教室の準備に役立つ情報のひとつが、厚生労働省の「大麻に頼らない選択を」特設サイトです。
2025年11月14日に公開され、厚生労働省の案内では、次のコンテンツが紹介されています。
| コンテンツ | 紹介されている内容 | 教室での活用案 |
|---|---|---|
| クイズで学ぶ薬物のこと | 薬物についての○×クイズ | 導入で考え、授業後に理由を説明する |
| 薬物にまつわるデータ集 | 薬物に関するデータ | 薬物問題を身近な社会の課題として考える |
| 大麻と距離を取るために | 誘われたときの対処法など | 断る言葉や、その場を離れる行動を考える |
活用案は、このブログで提案する授業づくりの例です。サイトを使えば必ず教育効果が出る、という意味ではありません。
例えば、最初にクイズをひとつ取り上げ、正解をすぐ伝えずに「そう思った理由」を考えてもらう。そして授業の最後にもう一度戻り、どの情報をもとに判断すればよいかを振り返る。
こうすると、正解を覚えるだけでなく、判断の根拠まで考える時間にできます。
一方、この特設サイトは大麻を中心にした啓発コンテンツです。市販薬のODや薬の正しい使い方、相談先については、別の資料や学校の支援体制と組み合わせる必要があります。
大麻の情報はこのサイト、医薬品の適正使用は薬剤師の説明、困ったときの相談は学校と地域の窓口。役割を組み合わせると、教室の内容にまとまりが出ますね。

ぜひ、今後の活動の参考にしましょう!!
学校薬剤師が教室を準備するときのポイント
まず、学校の先生と「何を持ち帰ってほしいか」を決める
準備では、対象学年、授業時間、人数、既習内容、学校が重視したいテーマを確認します。
小学生なら、薬を自分の判断で使わず大人に確認することや、知らないものを口にしないこと。中学生なら、友人関係やSNSの情報、誘われたときの行動。高校生なら、生活場面を広げて自分や友人の健康を守る判断。
同じ薬物乱用防止でも、伝え方は変わります。学年だけでなく、子どもたちの理解や支援の必要性に合わせて調整したいですね。
個別の心配事がある場合は、全体授業で特定の児童生徒がわかる形にしないことも大切です。
45分なら、伝えることを絞って組み立てる
次は、中学生を想定した45分授業の一例です。全国共通の指定プログラムではなく、学校と相談するためのたたき台として考えてください。
| 時間 | 内容 | 子どもたちの活動 |
|---|---|---|
| 5分 | 導入・クイズ | 自分の考えを選ぶ |
| 10分 | 薬の正しい使い方とOD | 身近な思い込みを考える |
| 10分 | 違法薬物・SNS情報 | 情報の根拠を考える |
| 10分 | 誘われたときの対処 | 断る言葉や離れる方法を考える |
| 5分 | 相談先・助けの求め方 | 相談できる先を確認する |
| 5分 | 振り返り | 覚えておきたい行動を書く |
説明したいことは山ほどあります。でも、45分で全部を盛り込むと、何が大事だったのかがぼやけてしまいます。
「量を守る」「その場を離れる」「相談する」など、最後に残したい行動を先に決めておく。スライドを減らす勇気も、授業づくりでは大事なんですよね。
公的教材を活用し、内容を更新する
日本学校保健会には、小学校版と中学校・高等学校版の薬物乱用防止教育のスライド、授業案、ワークシートなどが公開されています。中学校・高等学校版には、市販薬乱用の害を扱う内容もあります。
日本薬剤師会学校薬剤師部会も、ODの防止・啓発に関する資材を公開しています。
こうした教材を土台に、学校の学習内容とつながる説明を加えると、準備を進めやすくなります。
資料の使用条件を確認し、古い統計や制度をそのまま使わないことも忘れずに。授業用の利用と、ブログへの画像転載は別に考え、記事には自作の説明を使うのが安心です。

「相談先を知る」ことも、教室の大切な成果
2026年に公開された研究では、中学校3年生142名を対象に、学校薬剤師の授業前後で、薬や薬物乱用、孤独・孤立への理解の変化が調べられました。
授業後には、市販薬なども乱用の対象になりうるという理解や、電話・SNS・チャットの相談窓口を知っている割合が高まったと報告されています。
もちろん、授業前後の質問紙評価だけで、将来のODや薬物乱用が減るとまでは判断できません。それでも、相談先の認知を授業の目標に含める意義を考える材料になります。
「危険だとわかった?」だけでなく、「困ったとき、誰に話せる?」まで確認する。ここは、教室の振り返りにも取り入れたいところです。
相談先は、具体的に伝える
先生、養護教諭、スクールカウンセラー、保護者、学校薬剤師など、相談できる人を紹介します。身近な人に話しにくい場合に備え、地域の精神保健福祉センターなどの専門窓口も示します。
ただし、学校薬剤師はいつも学校にいるとは限りません。学校薬剤師への質問をどう届けるかも、養護教諭の先生などと決めておく必要があります。
最後のスライドに窓口名を並べるだけでは、実際の相談につながりにくいこともあります。学校で誰に声をかけるか、電話以外の方法があるかを具体的に説明したいですね。
ODについて打ち明けられたときは、安全を確認し、責めずに話を聴き、必要な医療や支援につなぎます。対応は学校の体制に沿って関係者と相談し、「誰にも言わない」と約束して一人で抱え込まないことも大切です。
しぐの学校薬剤師メモ|薬局での説明が、学校でも活きる
薬局では、飲み方を説明するときに「なぜこの量なのか」「困ったらどこに連絡するか」まで考えます。
学校でも、その視点は活きると思うんですよね。
薬が危険になりうる使い方を知る。自分だけで判断しきれないときは確認する。困ったら相談する。
これは、薬物乱用防止だけでなく、健康に関する情報を受け取り、自分の行動を選ぶ力にもつながります。
そして、薬を飲んでいる人や依存の問題を抱えている人を、ひとまとめに否定する教室にはしたくありません。乱用を防ぐことと、すでに困っている人を支えること。その両方を伝えられるのが、学校薬剤師の役割のひとつだと思います。
薬物乱用防止教室についてよくある質問
学校薬剤師は必ず講師をするのですか?
学校薬剤師だけが講師を担当するものではありません。学校の計画に合わせて、警察職員、麻薬取締官、保健所職員などと連携します。学校薬剤師は薬の適正使用や心身への作用を説明する専門性を活かせます。
小学校でも実施できますか?
はい。発達段階に応じて、薬の正しい使い方、大人への確認、誘われたときの対処などを扱えます。難しい用語を並べるより、生活の場面に結びつけて伝えることが大切です。
市販薬のODも薬物乱用防止教室で扱いますか?
扱いたい重要なテーマです。市販薬でも過量服用は危険であることに加え、つらいときの相談先や助けの求め方を伝えます。
厚労省の特設サイトだけで授業を組み立てられますか?
大麻の啓発や誘われたときの対処を考える参考になりますが、教室全体を補う資料のひとつとして使うのがおすすめです。薬の適正使用、OD、相談先などは別途組み合わせます。
講演形式だけでもよいですか?
学校の状況に応じて組み立てられます。短いクイズや振り返り、断る言葉を考える活動を加えると、子どもたちの理解を確認しやすくなります。個人の服薬や薬物使用の経験を、全員の前で答えさせる必要はありません。
まとめ|自分の健康を守り、助けを求められる教室へ
学校薬剤師が行う薬物乱用防止教室では、薬の正しい使い方、違法薬物やODの危険性、誘われたときの対処、困ったときの相談をつなげて伝えます。
厚労省の特設サイトも、子どもたちと一緒に考える材料のひとつとして活用できます。
教室が終わったとき、「薬物は怖い」だけでなく、「自分を守るためにこうする」「困ったらこの人に話していい」が残るといいですよね。
学校の先生方と一緒に、その先の行動まで考える。そんな薬物乱用防止教室をつくっていきたいと思います。
しぐでしたっ


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