
こんにちは、薬剤師のしぐです。
「太っているのは、食べ過ぎだから」
「本気になれば、体重は減らせるはず」
こうした言葉を、耳にしたことはありませんか。
生活習慣の見直しは、肥満症治療の大切な柱です。ただ、体重には体質、食欲を調節する仕組み、病気、薬、生活環境など、さまざまな要素が関係しています。
本人の努力だけで説明すると、困っている人が相談しにくくなり、治療につながる機会を失うこともあります。
そこで知っておきたいのが「スティグマ」という言葉です。
今回は、スティグマの意味から、肥満と肥満症の違い、現在の治療の考え方、薬局でできる支援まで整理します。
スティグマとは?病気や体格への「決めつけ」が生む不利益
スティグマとは、ある特徴や病気を持つ人に対して、否定的なイメージや社会的な烙印を押しつけることです。偏見や差別、不利益につながることが問題になります。
肥満に関するスティグマでは、例えば次のような決めつけが挙げられます。
・体格だけを見て「自己管理ができない」と判断する
・体重が減らない理由を「意志が弱いから」と考える
・治療薬や手術を選ぶことを、努力不足と結びつける
こうした見方は、周囲の人だけでなく、医療者の中にも入り込む可能性があります。
また、周囲の価値観を自分に向けてしまうのが「セルフスティグマ」です。
「全部、自分が悪い」
「相談しても、どうせ怒られる」
「薬を使うなんて、甘えているのでは」
このような思いが強くなると、受診や相談をためらう理由にもなります。
肥満症治療では、食事や運動の内容とともに、安心して困りごとを話せる関係づくりも大切です。
肥満と肥満症は、どう違う?
日本では、BMIが25以上の場合を「肥満」に分類します。
BMIは、次の式で求めます。
BMI=体重〔kg〕÷身長〔m〕÷身長〔m〕
例えば、身長160cm・体重70kgなら、BMIは約27.3です。
ただし、BMIだけで治療の必要性がすべて決まるわけではありません。
| 用語 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 肥満 | BMIが25以上で、脂肪が過剰に蓄積した状態 |
| 肥満症 | 肥満に関連する健康障害や内臓脂肪蓄積があり、医学的に減量が必要な疾患 |
| 高度肥満 | BMIが35以上の肥満 |
| 高度肥満症 | 高度肥満に、肥満症の診断要件が重なる状態 |
肥満症は、肥満に関連する所定の健康障害が1つ以上ある場合や、内臓脂肪型肥満が確認された場合に診断されます。
「体格が大きい人は、全員同じ治療を受ける」という考え方ではありません。体重とともに、健康への影響を評価することが出発点です。

肥満症で確認する健康障害は?
診断に関わる健康障害には、次の11項目があります。
| 健康障害 | 主な内容 |
|---|---|
| 耐糖能障害 | 2型糖尿病、耐糖能異常など |
| 脂質異常症 | コレステロールや中性脂肪の異常 |
| 高血圧 | 血圧の上昇 |
| 高尿酸血症・痛風 | 尿酸値の上昇、痛風発作 |
| 冠動脈疾患 | 狭心症、心筋梗塞など |
| 脳梗塞・一過性脳虚血発作 | 脳の血流に関わる病気 |
| 非アルコール性脂肪性肝疾患 | 脂肪肝に関わる健康障害 |
| 月経異常・女性不妊 | 月経や生殖機能への影響 |
| 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群 | 睡眠中の呼吸や換気の問題 |
| 運動器疾患 | 変形性関節症、変形性脊椎症など |
| 肥満関連腎臓病 | 肥満に関連する腎障害 |
脂肪肝については、現在、MASLDなどの新しい名称も使われています。上の表は、肥満症診療ガイドライン2022の診断項目に沿った表記です。
また、肥満症とメタボリックシンドロームは診断基準が異なります。
健診で「メタボではない」と言われたことだけで、肥満症の可能性まで否定できるわけではありません。
なぜ「食べ過ぎ」「運動不足」だけでは説明できない?
体重には、食事や身体活動に加えて、複数の要素が関わります。
・遺伝的な体質
・空腹感や満腹感を調節する仕組み
・睡眠やストレス
・仕事、家事、介護などによる時間の制約
・食事を選べる環境や経済的な事情
・体重増加に関係する病気や薬
食事を整えようとしても、夜勤で食事時間が不規則になる人がいます。膝の痛みで、歩くことが難しい人もいます。
治療では、こうした背景を確かめながら、実行できる方法を一緒に探します。
病気や薬が体重増加に関わっている可能性があれば、その評価も必要です。薬が気になっても、自己判断で中止せず、医師や薬剤師に相談してください。

現在の肥満症治療は、どのように進む?
治療では、健康障害や生活への影響を確認し、目標を共有したうえで、必要な方法を組み合わせます。
| 段階 | 主に確認・実施すること |
|---|---|
| 評価 | BMI、体重の経過、健康障害、内臓脂肪、生活背景、病気や薬の影響 |
| 目標の共有 | 改善したい検査値、症状、生活上の困りごと |
| 基本治療 | 食事療法、運動療法、行動療法 |
| 治療の追加 | 効果や病状に応じた薬物療法、減量・代謝改善手術の検討 |
| 継続支援 | 健康障害の改善、副作用、栄養、筋力、再増量などの確認 |
食事・運動・行動療法が土台
食事療法では、食べる量だけでなく、栄養バランス、食事時間、間食や飲料なども確認します。
運動療法も、最初から激しい運動を求めるものではありません。関節の状態や心肺機能に合わせ、取り入れられる活動を選びます。
行動療法では、記録などを使って「どんなときに食べやすいか」「何が続けにくさにつながっているか」を整理します。
記録は、できなかったことを責めるためではなく、改善の手がかりを探すために使いたいですね。
必要に応じて、薬や手術を組み合わせる
基本治療で十分な効果が得られない場合には、病状や適応に応じて薬物療法を検討します。
高度肥満症などでは、減量・代謝改善手術も選択肢になります。手術の適応はBMIだけでは決まらず、健康障害や治療歴などを踏まえた専門的な判断が必要です。
薬や手術を選ぶことも、医学的な治療の一つです。本人の希望や負担も共有しながら選択します。
目標は、いきなり「標準体重」?
肥満症治療では、最初から標準体重まで減らすことを全員に求めるわけではありません。
高度肥満症に該当しない肥満症では、初期目標として現在の体重の3%以上の減量が目安になります。
例えば、80kgの3%は2.4kgです。
高度肥満症では、健康障害に応じて、まず5~10%程度の減量を目指します。
その後は、検査値や症状、生活の変化を確かめながら目標を見直します。
「何kg減ったか」に加えて、血圧や血糖、睡眠、動きやすさなどがどう変わったかを確認することが大切です。高齢者では、筋肉や体力を保つ視点も欠かせません。
ウゴービ・ゼップバウンドで、治療の選択肢が広がった
肥満症に用いる薬として、ウゴービやゼップバウンドがあります。
| 製品 | 成分 | 主な作用の分類 | 投与方法 |
|---|---|---|---|
| ウゴービ | セマグルチド | GLP-1受容体作動薬 | 週1回の皮下注射 |
| ゼップバウンド | チルゼパチド | GIP/GLP-1受容体作動薬 | 週1回の皮下注射 |
食欲や満腹感などに関わる仕組みに作用し、食事療法・運動療法と組み合わせて治療します。
ただし、肥満症と診断されれば、誰でもこの2剤を使えるわけではありません。
肥満症に対する基本的な適応では、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかがあり、食事療法・運動療法で十分な効果が得られず、さらに次のいずれかを満たす必要があります。
・BMIが27以上で、肥満に関連する健康障害が2つ以上ある
・BMIが35以上である
保険診療では、最適使用推進ガイドラインに沿った施設・医師・患者などの要件も確認します。
なお、これは「肥満症に対する使用条件」の説明です。同じ製品でも別の疾患に対する適応は分けて確認する必要があります。
また、マンジャロとゼップバウンドは同じチルゼパチドを含みますが、製品ごとの適応や使い方を区別します。薬の名前や成分が似ていても、自己判断で置き換えることはできません。

2026年10月の注意喚起|体重が減っていても、食べられている?
日本肥満学会は2026年10月3日、「安全な減量に関するステートメント」を公表しました。
GLP-1受容体作動薬などの使用と、過度な食事制限や急速な減量が重なることで、ケトーシスやケトアシドーシスなどの健康障害につながる可能性に注意を促しています。
悪心・嘔吐が、薬のよくある副作用と受け止められ、対応が遅れることも懸念されています。
治療中は、体重とともに次の点を確認したいところです。
・食事や水分が十分にとれているか
・極端な食事制限を重ねていないか
・嘔吐が続いていないか
・強いだるさや腹痛などがないか
食べられない、飲めない、嘔吐が続く場合は、早めに医療機関へ連絡してください。強い腹痛、呼吸の異常、意識の変化などがあれば、速やかな受診・救急対応が必要です。
糖尿病治療中の方は、食事量の変化に伴う低血糖や、併用薬の扱いにも注意します。特にインスリンは、自己判断で一律に中止しないことが大切です。
体重減少を喜ぶときにも、「無理なく食べられていますか」という確認を添えたいですね。
健診から治療へ、切れ目なくつなぐという考え方
肥満症対策では、健診や保健指導で見つかった健康課題を、かかりつけ医や専門医療につなぐことが重要になります。
血圧や血糖、脂質の治療を受けている方でも、肥満症そのものについて相談する機会が十分でない場合があります。
「もう少し体重を減らしましょう」という助言から、具体的な評価や支援につながる仕組みが必要です。
2026年10月の政策議論では、健診と医療の連携や、薬物療法へのアクセスのあり方なども論点になっています。
ただし、制度見直しを求める提案と、現在利用できる制度は区別する必要があります。例えば、治療薬開始前の生活習慣改善期間の柔軟化が議論されていても、それだけで現行の使用要件が変更されたことにはなりません。
実際の治療では、その時点の通知や最適使用推進ガイドラインを確認します。
薬局でできること|体重の話を、安心してできる場所に
薬局は、継続的に薬を受け取る中で、体調や生活の変化を相談できる場所です。
肥満症に関わる場面では、声のかけ方も工夫したいと思います。
| 声かけの例 | 確認したいこと |
|---|---|
| 「体重や食事のことも、少し伺ってよいですか?」 | 本人の意向を確かめる |
| 「これまでに試したことはありますか?」 | 取り組みと困りごとを知る |
| 「続けにくかったのは、どんなところでしたか?」 | 生活上の障壁を探す |
| 「食事や水分は、とれていますか?」 | 治療中の安全性を確認する |
| 「日常生活で、変わったことはありますか?」 | 体重以外の変化を拾う |
体格や治療についての話は、周囲に聞こえないよう配慮することも大切です。
また、注射薬を使用する方では、使用方法、増量の経過、消化器症状、食事量、併用薬などを確認し、必要に応じて処方医へ情報をつなぎます。
「薬をきちんと使えているか」と「治療を無理なく続けられているか」の両方を見ていきたいですね。
しぐの+α|「やせましたね」の前に、体調を聞きたい
薬局でも、体重が減ったという話を聞くことがあります。
そのとき、すぐに「よかったですね」と返す前に、少し確認したいことがあります。
食べられているか。
だるさやふらつきがないか。
体力が落ちていないか。
本人が目指していた変化なのか。
体重減少には、治療によるよい変化もあれば、食事がとれないことや別の病気が関わる場合もあります。
だからこそ、「最近、体調はいかがですか?」から始めたい。
肥満症治療を身近にするには、治療薬の知識とともに、相談しやすい言葉や関係を増やすことも必要だと感じます。
よくある質問
Q.スティグマとは、単なる悪口のことですか?
悪口だけではありません。体格や病気から性格・能力を決めつけたり、治療を受けることを否定したりする見方も問題になります。本人がその価値観を自分に向けてしまうセルフスティグマもあります。
Q.BMIが25以上なら、肥満症ですか?
BMI25以上は肥満の目安ですが、肥満症の診断には、所定の健康障害や内臓脂肪蓄積などの評価が必要です。BMIだけでは決まりません。
Q.肥満症と診断されたら、すぐ注射薬を使いますか?
食事療法・運動療法・行動療法を基本に、病状や治療効果を評価します。薬ごとの適応条件や保険診療の要件もあり、全員がすぐ使用するわけではありません。
Q.少ししか体重が減らなくても、意味がありますか?
高度肥満症に該当しない肥満症では、初期目標として3%以上の減量が目安になります。体重だけでなく、健康障害や生活がどう変わったかを評価します。
Q.薬を使っていると食欲がありません。食べないほうが効果的ですか?
過度な食事制限は、脱水や低栄養、ケトーシスなどのリスクにつながります。食べられない・飲めない状態を我慢せず、医療機関へ相談してください。
Q.どこに相談すればよいですか?
まずは、かかりつけ医や内科で、体重の経過、健診結果、生活上の困りごとを相談できます。必要に応じて専門医療機関へ紹介されます。薬局でも相談内容の整理をお手伝いできます。
まとめ|安心して相談できることも、肥満症治療の土台
肥満症は、健康障害を評価し、医学的に治療する疾患です。
その治療には、食事・運動・行動への支援に加えて、適応に応じた薬や手術、多職種による継続的な関わりがあります。
そして、治療につながる前から影響するのがスティグマです。
本人を責めず、困っていることを聞き、必要な医療につなぐ。治療が始まったら、体重とともに、栄養や体調、生活の変化まで確認する。
薬局でも、この積み重ねを大切にしていきたいですね。
※本記事は主に成人の肥満症を扱っています。小児、妊娠中、高齢者などでは個別の評価が必要です。


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