
薬剤師のしぐです。
肥満症治療薬の開発、次々と新しい結果が出てきますね。
今回取り上げるのは、ベーリンガーインゲルハイムが開発中のスルボデュチド(survodutide、BI 456906)。過体重または肥満に加え、2型糖尿病を有する成人を対象とした国際第Ⅲ相試験「SYNCHRONIZE-2」で、2つの主要評価項目を達成しました。
注目したいのは、体重だけでなく、HbA1cにも改善がみられたこと。ただし、「最大13.1%の体重減少」という数字には解析上の前提があります。
今回の結果は有望ですが、効果の大きさと同じくらい、無理なく治療を続けられるかも大切。 薬局の立場からは、この両方を押さえておきたいニュースです。
※2026年10月15日時点の情報です。スルボデュチドは開発中の薬剤で、今回の試験結果は国内承認・発売の決定を意味しません。
スルボデュチドとは?GLP-1とグルカゴンの両受容体に作用する開発薬
スルボデュチドは、GLP-1受容体とグルカゴン受容体の両方を刺激する「デュアルアゴニスト」です。
GLP-1関連薬というと、セマグルチドやチルゼパチドを思い浮かべる方も多いと思います。ただ、2つの受容体に作用する薬でも、組み合わせは同じではありません。
| 一般名 | 標的となる受容体 | 押さえたい違い |
|---|---|---|
| セマグルチド | GLP-1 | GLP-1受容体作動薬 |
| チルゼパチド | GIP・GLP-1 | GIPとGLP-1への二重作用 |
| スルボデュチド | グルカゴン・GLP-1 | グルカゴンとGLP-1への二重作用。開発中 |
「どれも似た名前の注射薬」でまとめてしまうと、違いが見えにくくなってしまいますね。スルボデュチドは、チルゼパチドと同じ組み合わせの薬ではない、という点がまず大事です。
GLP-1関連薬の実務的な話題としては、トルリシティの保管方法もまとめています。なお、既存薬の保存条件を、開発中のスルボデュチドへそのまま当てはめることはできません。
グルカゴンは血糖を上げるのに、なぜ糖尿病患者さんに使うの?
ここ、薬剤師としては気になるところではないでしょうか。
グルカゴンは、一般に血糖を上げるホルモンとして知られています。一方で、代謝に関わる作用はそれだけではありません。スルボデュチドは、GLP-1受容体への作用と組み合わせることで、体重や肝脂肪なども含めた代謝改善を目指して開発されています。
大切なのは、作用機序だけから「血糖が上がるはず」「必ず下がるはず」と決めつけないこと。今回の試験では、実際にHbA1cの改善が確認されています。

SYNCHRONIZE-2試験は、どんな患者さんを対象にした?
SYNCHRONIZE-2は、2型糖尿病があり、BMIが27以上の成人を対象とした国際共同・二重盲検・プラセボ対照の第Ⅲ相試験です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 過体重または肥満と2型糖尿病を有する成人 |
| BMI | 27以上 |
| 無作為化人数 | 755人。少なくとも1回投与された752人を解析 |
| 治療群 | スルボデュチド3.6mg群、6.0mg群、プラセボ群 |
| 投与方法 | 週1回の皮下注射。目標用量まで増量 |
| 評価期間 | 76週間 |
| 主要評価項目① | ベースラインから76週時点までの体重変化率 |
| 主要評価項目② | 76週時点で5%以上の体重減少を達成した割合 |
食事・身体活動への指導も組み合わせた試験です。「注射だけをして、生活面への支援は行わなかった」という試験ではありません。
また、このBMI条件は臨床試験への参加条件です。将来、日本で承認される場合の効能・効果や保険適用条件が、このまま決まるわけではない点も区別したいところです。
主要評価項目を達成!まずは治療中止なども考慮した結果から
論文で示された、治療中止・中断や他の肥満治療薬の使用にかかわらず効果を評価する「treatment-regimen estimand」による結果は、次のとおりです。
| 76週時点の評価 | 3.6mg群 | 6.0mg群 | プラセボ群 |
|---|---|---|---|
| 平均体重変化率 | −8.2% | −9.8% | −3.9% |
| 5%以上の体重減少を達成した割合 | 57.6% | 64.5% | 35.1% |
| HbA1cの平均変化 | −0.9ポイント | −0.8ポイント | −0.2ポイント |
両用量群とも、2つの主要評価項目でプラセボに対して有意な改善が示されました。HbA1cは副次評価項目で、開始時の平均値は7.4%でした。
「−9.8%」は、体重100kgであれば約9.8kgに相当する割合です。ただし、これは割合をイメージするための計算であり、個々の患者さんの減量幅を予測する数字ではありません。
「最大13.1%減」と「9.8%減」は、なぜ違う?
企業発表では、76週間の体重減少が平均で最大13.1%、プラセボ群では3.1%と紹介されています。
こちらは、患者さんが試験期間を通じて治療を継続したと仮定する「efficacy estimand」による推定値です。
| 解析の考え方 | 結果を読むときのポイント |
|---|---|
| treatment-regimen estimand | 中止・中断などがある状況も考慮して、治療方針としての効果を推定 |
| efficacy estimand | 治療を継続したと仮定した場合の効果を推定 |
どちらかが間違いということではなく、答えている問いが違います。
見出しの数字だけを見ると「13%も減るんだ!」となりますが、薬を始めた後の現実には、副作用や継続の難しさもあります。だからこそ、この記事では中止なども考慮した結果を先に載せました。

血糖も改善。ただし、心血管イベントの予防まで証明したわけではない
今回の結果は、2型糖尿病を伴う患者さんにおいて、体重管理と血糖管理の両面から期待できる内容です。
ただ、体重やHbA1cが改善したことと、心筋梗塞・脳卒中などの発症が減ったことは、別の評価です。この試験の主要評価項目は体重に関するものであり、今回の結果だけで心血管イベント抑制効果を結論づけることはできません。
新しい薬のニュースを見るときには、「何が改善したのか」と「まだ何が分からないのか」を一緒に整理しておきたいですね。

副作用で注目したいのは、消化器症状と治療継続
主な有害事象は、悪心、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状でした。多くは軽度から中等度ですが、軽度・中等度という分類だけで「続けやすい薬」と判断することはできません。
企業発表では、消化器有害事象による治療中止はスルボデュチド群で18%、プラセボ群で1.2%とされています。中止は主に増量期にみられ、試験では有害事象に応じた調整の柔軟性に制限があったと説明されています。
効果が期待できるからこそ、「気持ち悪いけれど我慢してください」で終わらせたくない。 この部分は、薬局としても強く意識したいところです。
なお、今後の試験で増量方法を工夫することと、その方法で実際に中止率が改善したと証明することは別です。現段階で「増量をゆっくりすれば問題ない」と言い切ることはできません。
薬局で考えておきたいのは、体重の先にある生活
スルボデュチドは未承認なので、現時点で患者さん向けの具体的な投与・休薬手順を示せる段階ではありません。ここからは今回の結果を踏まえた、将来の薬局実務への考察です。
「何kg減りましたか?」に、もう一言を添える
体重が減ったと聞くと、つい良い変化として受け止めたくなります。でも、食事がほとんど取れず、吐き気で日常生活がつらいのであれば、数字だけで喜べません。
「食事は取れていますか」「水分は飲めていますか」「仕事や外出に支障はありませんか」。こうした問いかけを添えることで、体重計には出ない困りごとが見えてくると思います。
血糖が改善したときこそ、併用薬も確認したい
体重や食事量、血糖が変われば、併用中の糖尿病薬も含めて治療全体を見直す必要が生じる可能性があります。
将来実用化された際には、承認された添付文書を確認したうえで、低血糖を起こしやすい薬の併用、食事摂取状況、低血糖を疑う症状などを確認し、必要に応じて処方医へ情報を返すことが大切になりそうです。患者さんが自己判断で薬を減らす方向にはつなげたくありません。
栄養と活動を含めて、治療を続ける力を支える
「食べる量が減った」で話を終えず、何をどれくらい食べられているのか、普段どおりに動けているのかも確認したいところ。
薬の効果を生活の中で生かしていくには、医師や管理栄養士などとの連携も欠かせないと感じます。
GLP-1関連の新薬であっても、薬局の仕事は製品説明だけでは終わりません。相談しやすい窓口があること自体が、治療を支える一つの力になるはずです。

日本での発売は?国内試験の結果とは分けて考えよう
2026年10月には、日本人の肥満症患者を対象とした「SYNCHRONIZE-JP」の結果も公表されています。ただし、今回取り上げた国際試験SYNCHRONIZE-2とは別の試験です。対象集団や結果を混ぜて読まないことが大切です。
2026年10月15日時点で、スルボデュチドは開発中です。国内での発売日、薬価、保険適用条件が決まったという発表ではありません。
今後は、承認申請・承認の動きに加え、長期の安全性や、どのように治療継続を支えるかに注目していきたいと思います。

まとめ|新しい作用機序への期待と、続けられる治療への視点
スルボデュチドは、GLP-1とグルカゴンの両受容体に作用する開発中の薬剤です。国際第Ⅲ相試験SYNCHRONIZE-2では、過体重・肥満と2型糖尿病を有する成人で、体重に関する2つの主要評価項目を達成しました。
体重とHbA1cの両方に改善がみられたのは、今後の治療の選択肢を考えるうえで注目したい結果です。一方、消化器症状による治療中止もあり、「どれくらい効くか」と「続けられるか」を一緒に見ていく必要があります。
新薬の登場を待つ間にも、薬局でできる準備はあります。作用機序を整理し、解析の前提を確認し、患者さんの暮らしに置き換えて考えること。
体重が減った、その先で患者さんがどう生活できているか。 新しい肥満症治療薬のニュースでも、その視点を大事にしていきたいですね。

よくある質問
Q. スルボデュチドは日本で処方できますか?
2026年10月15日時点では開発中の薬剤です。今回の主要評価項目達成は、国内承認や発売が決まったという意味ではありません。
Q. マンジャロと同じ作用機序ですか?
同じではありません。マンジャロの成分チルゼパチドはGIP・GLP-1受容体、スルボデュチドはグルカゴン・GLP-1受容体に作用します。
Q. 体重が13.1%減る薬という理解でよいですか?
13.1%は、治療を継続したと仮定する解析での最大の群平均値です。中止なども考慮した解析では、6.0mg群の平均体重変化率は−9.8%でした。個人の効果を保証する数字ではありません。
Q. 今回の試験でHbA1cも改善しましたか?
はい。中止なども考慮した解析では、平均HbA1c変化は3.6mg群で−0.9ポイント、6.0mg群で−0.8ポイント、プラセボ群で−0.2ポイントでした。
Q. 主な副作用は何ですか?
主に悪心、嘔吐、下痢、便秘などの消化器有害事象が報告されています。消化器症状による治療中止もあり、効果と継続性の両方を確認する必要があります。
Q. 既存の肥満症治療薬より効果が高いのですか?
今回の比較対象はプラセボです。対象患者や試験条件が異なる別の試験の減量率を並べただけでは、既存薬より優れているとは判断できません。


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